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第20話 リリーナ様。イケメン公爵様からお見舞いの品を受け取る。

 

 クレアール公爵――元王子様からいただいたお見舞いの品は扇子だった。

 プレゼントの包装を解いた専属メイド達は扇子を見ると「はわわ~」と見入っている。


「ご当主様、ご覧ください。素晴らしいです……!!」


 たしかに素晴らしい。

 わたしが奴を打ち据えて壊した金細工の扇子――けっこう気に入ってたのだ。

 その代わりとなるような同様の金細工の扇子なんだけど違う。

 いや、意匠がまたオシャレ。

 扇面が透かし金細工なんだけどユリの花。

 親骨と中骨にエメラルドが散らしてある。要部分にサファイアの留め。

 房部分の糸は白、緑、蒼のグラデーションになっている。

 驚くことに、壊れた金細工扇子は重量があったのに、宝石をはめ込んでいるこの扇子は軽い!! フリッツ曰く、軽量化の付与魔法が施されてるらしい。天部分は硬質強化もされてるとか。

 なんてこと!

 壊れた扇子の値段もそれなりだったけど、これはそれ以上のものだろう。


「素敵ー! お気に入りの扇子が壊れてしまったようですが、似たようなものをお見舞いの品に贈ってくださるなんて!」

「宝石も嵌め込まれてて、色彩と意匠がマッチしてます!」

「王妃様だって、こんな扇子持ってないかもしれませんよ!」


 ほんとだよ、どこの国の王女様が持つ品だよって感じだわ。


「あの……思ったんですけど」


 メイドちゃんズの一人がおずおずと挙手する。他の子達も彼女に注目した。


「今までその、ご当主様に婿がこなかった理由に、『私ではもったいない』って必ず前口上がございましたよね? それを踏まえて思ったのですが、ご当主様……上の方を狙った方がよかったのでは?」


 メイドちゃんズが『それだー!!』と声に出さずともアイコンタクトで全員が頷いている。


「フリッツをはじめ、ほかの男爵家子爵家の次男三男とかばかりに打診してらしたでしょ?」


 メイドちゃんズはわたしに視線を向ける。


「やっぱりうちのご当主様にはクレアール公爵レベルじゃないと!」

「つり合いがとれないと!」

「断った方々はそれをわきまえてるのですよ!」


 ううーん……そうかなぁ?

 それは君達のご当主様が一番っていう身びいきのフィルターが入ってるのでは?

 でもなあ選別は確かに、婿をとるなら大人しめでわたしの施策に口出ししないで、でも補佐はできそうなタイプを選んでいたのはあるんだよね。

 爵位同等、もしくは爵位以上は、やっぱり実家の威光も強いし、シュバインフルト伯爵家の領地経営や施策に口を出して、これまでのパイプを実家寄りに舵を切ろうと口出しそうでめんどくさいなって除外対象だった。


「お爺様が亡くなったことで、急いで結婚することもなくなったから、焦ってない」


 実際、今回問題起こした輩は伯爵家次男坊だったし。


「今回の社交シーズンが終わったら、二、三年は領地にいようかと思っている」


 なんなら、もう今回のことで社交は懲りたし、すぐに領地に戻りたい。

 メイドちゃんズはしょぼんとしてる。

 あーまーそうよね。この子達も実家は子爵家男爵家の子達だし、社交シーズンに王都にくるのは、実家のタウンハウスを訪れたいって気持ちもあるだろうし。

 この里帰りはシュバインフルト家が割と寛容だからであって、通常の伯爵家ではあまりない。

 仕方ない。この件が片付いても、領地にとんぼ返りは止めておこうか。

 ベンジャミン被害者の会のお茶会も開かないとだし。

 そういや公爵閣下から今シーズンのパートナーにとか言われたっけ。


「それよりも、これはお返しをしなければならないな」


 わたしがそう言うと、メイドちゃん達の表情は明るくなる。

 クラウドとフリッツに要相談だけどこの子達にもあとで意見を聞いてみよう。



 そしてわたしの発熱がひいて、ドクトルの許可を得ると、フリッツに代筆を頼み、ビュッセル家との賠償について話し合える旨をクレアール公爵に手紙を送った。

 ビュッセル伯爵も、生きた心地がしなかっただろう。

 なんせ、延び延びになった話し合いの場の日程が決まったのだ。

 わたしはフリッツを従者として付き従わせて、クレアール公爵の城に入った。

 夜会の時とは別の、また景観のいい庭が望める一室に案内される。

 立ち合いと会場をセッティングしてくれたクレアール公爵と、ビュッセル卿はすでに室内にいて、遅参した旨を伝えた。


「従者も付き従わせるが、この状態なので悪く思わないでほしいビュッセル卿」


 もし――わたしがあの時、書類ミスを醜聞だと思って、社交デビューの時期をずらしていたらどこの小娘だと、侮られていたに違いない。

 養子縁組と婚姻届けの書類ミスや、縁談を十四回も断られたなんて、この国の社交界で知らない者はいないお笑いゴシップ満載で社交デビューしたシュバインフルト伯爵令嬢は、そのシーズンの終盤で伯爵位を継いだ。

 どんな形であれ、名前を売ったものが勝ちっていうところがある。

 貴族社会で「いたっけそんな人?」よりも、「あいつやべーよ」ぐらいがいいのかもしれない。


「先代が亡くなって爵位を継承したが、まさか喪明けにこういう事態となるとは思いませんでした」

「先日は家門から除籍したとはいえ、うちの息子が大変もうしわけないことをした。謝罪として、シュバインフルト伯爵への賠償を行う」

「賠償について、こちらで書類にまとめてある。よく検討してほしい」


 ビュッセル伯爵領での通行税関税の割引、鉱山を一つと、シュバインフルト伯爵領とアーベライン子爵領をつなぐ河川工事の技術者と人夫。その他被害があった令嬢に被害額の弁償。

 鉱山の件はやっぱり少しごねられた。


「ふむ。被害を受けたわたしが譲歩するのか?」


 と一言漏らすと、涙目で、肩を落として頷く。


「魔鋼、魔石鉱山は――勘弁してください。その代り、金山でご容赦いただけないだろうか?」


 クラウドも言っていたけど、やっぱり屋台骨だからな。

 一つでも手放したくないんだろう。

 ましてや今回の一件で、ビュッセル家は被害を受けた家から風当りも強い。

 魔鋼や魔石の流通で、立て直したいという気持ちもわかる。

 クレアール公爵は、立ち合いで口は挟まなかったが、さすがにこの値引きには眉間に皺を寄せていた。


「現金での他家の賠償の件――当家が用立てるので、その代わり、ダイヤモンド鉱山を当家の賠償に加えてほしいな」


 クレアール公爵が「え? まじで? 値引きを許しちゃうの?」って顔をしてるけど、掘ればもしかたら魔石の少量ぐらいは出てくるかもしれない。

 魔石、魔鋼の大規模運用とかもロマンがあるけど。当面、うちの領地の工事の手と関税緩和、手っ取り早く金になりそうな鉱山二つで手を打つことにした。



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