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第19話 リリーナ様。詐欺被害者を諭す。

 


 さて、どうしようか。


「シュナース伯爵家のご令嬢ともあろう方が、当家に先ぶれもなしに、しかも来客中に押しかけるとは……、いかなる用件なのだろうか? わたしも大概、まだ若い小娘の癖に生意気だと影で囁かれてはいるものの、礼儀は守っているが?」


 いつもの偉そう~って義弟にいわれてるシュバインフルト伯爵然として、彼女に言ってみた。


「無礼は承知です! でもお願いがあってまいりました! シュバインフルト伯爵!!」


 身を投げ出すようにわたしに跪く。


「お願いです。どうか、どうかベンジャミン様をお助けください!」


 はああ、いるとは思った。

 一人や二人はこんなのが。


「助ける? この私の夜会でシュバインフルト伯爵を殴打し骨を折ってなおかつ、金をせびり取ろうとした男をか?」


 クレアール公爵の言葉に、シュナース伯爵令嬢イルメラ様がびくりと肩を揺らし、涙を流す。


「お願いでございます!」


「聞けないな……あの男は貴女を騙した」


 わたしは静かに答えた。


「知ってるわ! そんなこと知ってます! でも! でも! あの方はわたしを好きだと仰ってくださったのです!」

「それが嘘だとわかっていてもか?」

「あ、あ、貴女にはわからないのです! その嘘がどんなにわたしを救ったか!」


 わかるよ、それは。

 うっかりふらふらその気になりそうだったもの。

 でもあれは嘘なのだ。


「その嘘が、一時、貴女を救っても――それはほんの少しの間だけだ。いまここで奴の身柄を貴女に引き渡したとしよう。命を救ってくれた貴女に感謝するし、甘い言葉も並べるだろう。貴女が夢を見るのはそこまでだ。まず、貴女はシュナース伯爵家から追放される。

 持参金もない貴女を一度は慰める言葉をかけるだろうが、貴女から金をせびり取れないと思ったら、あの男はすぐに貴女の前から姿を消して他の女を口説き、金をせびり、享楽的な生活を再び始めるだろう。間違いない。これは――わたしが奴にせびり取られそうになった5000万ライドをかけてもいいぞ?」


 身も世もないほどに嘆いていたシュナース伯爵令嬢はわたしを見上げる。

 5000万ライドをせびり取られそうになったことに驚いてるのだろうか。


「奴は言っていた。結婚できなさそうな女に粉をかけて金をせびる――シュナース伯爵令嬢は300万ライドだったが他の令嬢は500万ライド……もちろん100万ライドや200万ライドを奴の口車に乗せられて、渡してしまったご令嬢もいる。それを知った当主が娘を修道院に送ったところもあるそうだ」


 貴族だからって財産ある家ばかりじゃないんだ。

 わたしは、シュナース伯爵令嬢に近づいて彼女の目線までしゃがみこむ。


「わたしは密かに、自分が十四回の縁談を断られたというのはこの国有史以来の記録だと思っているのだが、シュナース伯爵令嬢がわたしだったとして、十四回以上縁談の打診をし、断られ、奴の甘い言葉に乗せられて、5000万ライドを用意して渡す? さんざんあちこちに貴女に言った言葉と同様の甘い嘘をつくとわかってる男相手に」


「……シュバインフルト伯爵……」


「結婚してほしいと言った男を信じられない冷たい女だからだと、貴女はわたしをなじるだろうか? でも、あの男の嘘を信じるよりも、わたしを愛してくれた先代シュバインフルト伯爵が築いてきた全てを守りたい気持ちが強かった。お爺様の愛の方がわたしが目にした真実だし正義だった。貴女ももう少しであの嘘つきで下劣な男のために、両親の全てを投げ出させるところだったんだ。わかってほしい」


 ハンカチで彼女の顔を拭いて、彼女を見つめる。


「もう帰りなさい。全てを片付けたら連絡する」

「はい……申し訳ございませんでした」


 彼女はうちのメイド達に囲まれて、応接室を出ていく。

 仕方ない、ベンジャミン被害者の会のお茶会でも近々開こうか。

 幸い被害者リストは入手してるし。

 あの卑劣な男をさんざんこき下ろしたら、きっと彼女たちも前を向いていけるだろう。

 クラウドが横に来てわたしに手を差し伸べる。

 幾分ふらふらしながらも、立ち上がると立ち眩みがした。

 クラウドに支えられているかと思ったら、クレアール公爵がわたしを支えていた。


「無理をさせてすまない」


 公爵様はそういうと、わたしをひょいと抱き上げるじゃないですか!

 これは世にいうお姫様抱っこ!

 プリンセスホールド!

 しかも相手が元とはいえ、王子様!

 はー前世結婚できなかったことも、今世婚活十四連敗も、ロマンス詐欺未遂も、王子様からのお姫様抱っこで相殺しようって運命の神様の計らいなのか。


「クラウド、無礼は承知だが、リリーナを休ませたい」

「こちらです」


 クラウドが案内するし、廊下に出たら出たで控えていたメイドちゃんたちは伯爵家使用人らしく一礼するけれど、ちょっと距離が離れたら、「はわー! 恋愛小説の挿絵みたいいいい」な夢見る乙女顔でなんか小さくきゃっきゃしてるし。

 そこは否定しませんが。

 そしてやっぱり疲れが出てるのも本当なんだけど。

 あとドクトルも、やっぱり安静にしてほしいって表情で頷いてるし。

 クレアール公爵はベッドにわたしを腰掛けさせると、おつきの従僕に頷いて、なんか受け取ってる。


「おしかけるように、面会したが……賠償の打合せは口実で、直接見舞いとして渡したかったんだ」


 お見舞いの品……。

 質のいい包装紙に綺麗にリボンがかけられた箱……。

 なんだろう。

 お爺様以来だな……お見舞いの品だろうが、男性からのプレゼントなんて……。


「ありがとうございます」


「リリーナに会えてよかった。本当に体調がよくなったら連絡してくれ。今日はこれで失礼する」


 はっ! クラウド!! 元王子様のお帰りなのよ! ちゃんと見送って! 当主がこんなざまではかっこつかないかもだけど!

 そこはシュバインフルト伯爵家がちゃんとしてますって! わたしの代わりに!

 わかってるよね!?



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