第13話 リリーナ様。詐欺男と対決する。
「うーん……ふっかけすぎたかな~とは思ってんだよ」
「いくらだ」
「5000万ライド」
「ぶっ!」
「1000万ライドだったら、もっと早く金貰えたかもしれない」
「ふっかけすぎじゃん! いくらシュバインフルト伯爵でも、いきなりそんな大金を右から左へ動かさないだろ」
その通り。
「いや、でも結婚をちらつかせたから、もしかしてあるかなと」
「結婚する気か?」
「怖いもの知らずだな」
その通り。
「えーだって、あの女、縁談二十件ぐらい断られて焦ってるだろう? それにシュバインフルト伯爵家だぜ? 黙ってれば美人だし」
「それは否定しないけど」
「いやいやいや、先代からの支持を受け継いで、権限も財布もがっつり握ってる女だぞ?」
その通り。
あと、縁談を断られたのは十四件だ、二十件とか盛るんじゃない! というか、この会話の最後にわりと事実を言ってる令息はベンジャミンの友人のようだが、更生の余地はありそうだ。友人は選んだ方がいいと思う。
「楽しそうな、お話ね」
わたしがそう言って、ベンジャミンの前に出ると、令息の一人が、慌てたように、テラスから広間へと出ていく。多分出て行ったのが先ほどの会話で事実を言ってた令息のようだ。
自己保身もできるとは……。
「リリーナ……」
「名前で呼んでいいと、誰が言った? ビュッセル伯爵令息」
「そんな、他人行儀な!」
「他人だろう?」
「僕は君と結婚したいと言ったじゃないか! 信じてくれないのか!?」
うん。信じられないな。
こんな、ぺらっぺらの薄い言葉で、わたしはどれだけ舞い上がったのだろう。
さっきのクレアール公爵閣下のパートナー申し込みの方が、ビジュアルの良さでインパクトがあったな。
「もちろん、信じてるとも。ビュッセル伯爵令息がシュバインフルトの財産と結婚したい気持ちはな。だが、わたしはシュバインフルト伯爵家当主。財産という名の娘をおいそれとお前にくれてやるわけにはいかない。ビュッセル卿にも5000万ライドの事業融資の件は伝えてみたら大層驚いていたわ」
あの生意気な義弟が「その喋り方、めっちゃ偉そうだよ」っていう言葉遣いをわざと使う。
偉そうで結構。
年齢は奴が上だけど伯爵家令息の次男坊。
こっちは年下で女でも伯爵家当主。
わたしの方が地位はある。
「な! 父上に言ったのか!?」」
「当たり前だろう。5000万ライドの融資だ。ビュッセル卿の事業と関連してると確認もとらないとな」
「そんな必要ないだろう! 俺が結婚してやるって言ってるんだぞ!」
上から目線だな。
「お前と結婚してもなんらメリットがないな。わたしが結婚を望んだのは先代を安心させる為だけだ。先代が亡くなった今、慌てて結婚する意味もない」
「くそ!」
逃げるとかと思ったら、奴はわたしに近づいて手首をひっつかむ。
「こうなったら、力ずくで既成事実を作ってやる! どうせ、誰とも結婚もできないだろうから、俺が情けをかけてやると言ってるんだ! 言うことをきけ」
うわー! なんて奴だ!
貴族の伯爵家次男坊のくせに、場末のジゴロ真っ青だな!
「おい、お前たちも手伝え!」
ここでこいつに加勢したら、お前達を絶対に許さないとばかりに、わたしは奴の取り巻きを睨みつけると取り巻き立ちはおろおろと立ち尽くす。
ふん。育ちがいいのかな。そこまで悪辣ではないようだ。
わたしは折り畳んだ扇子で、左手で奴の肘を打ち付ける。
利き手ではないから、力は弱いかもしれない。
でも、本日手にしているのは金細工の扇子だ。結構重たい。そして値段も重たい。
だが、シュバインフルト伯爵が持つのはそれなりの品でなければならい。
そして奴の肘――わたしは尺骨神経を狙ったので、手にしびれが走ったのだろう。力が弱まる。
奴の手を振りほどき、間合いをとった。
が、逆上した奴はわたしに掴みかかり平手打ちをする。その瞬間それを咎める声があがった。
「何をしている!!」
テラスにつながる庭園の方から、クレアール公爵の私兵と今回、警備を担当している憲兵が駆けつける。
明らかに、わたしが殴られた瞬間を見ていたので、どう見ても被害者と加害者。
しかも、男に掴みかかられ頬を腫らした令嬢だ。
「大丈夫ですか! おい、そのご令嬢から離れろ!」
「逃がすな!」
立場が危うくなって、逃げ出そうとしたベンジャミンを捕らえる。
「なんだよ、痴話喧嘩に決まってるだろ! おい! 離せ!」
この期に及んで恋人同士の痴話喧嘩という設定を貫き通そうとするなんて、本当に屑だな!
「この男に暴力を振るわれた」
わたしはクレアール公爵の私兵と警備の憲兵に向かって、堂々と告げる。
「こいつのポケットにはイヤリングが入ってる。シュナース伯爵令嬢のものだ。口先三寸でだまし取った現場をわたしは見た」
「なるほど! それでご令嬢が注意したのですな!?」
「勇敢ではあるが、そこは我々にお知らせください」
警備担当の憲兵がベンジャミンを捕縛しながら、わたしに言う。
いやー前世も今世も憲兵って、あんまり頼りにならない印象なのよね。とはいえ、今一生懸命捕縛してくれてるけど。そしてクレアール公爵家の私兵も応援を呼んで、はっとしたように、敬礼をする。
上官でも来たのかと振り返ると、わたしの顔を驚いたように見つめているクレアール公爵閣下がいた。




