第10話 リリーナ様。イケメン公爵様からプロポーズされる?
当初の予定では、喪中明けにクリストフのアホが結婚しなければ、4年ぐらいは領地に引っ込んでいようと思ったのに、結婚祝いに社交シーズンに王都にきたばっかりに、変なの(ロマンス詐欺)にひっかかってしまった。
ここはアホのクリストフが提案するように、大人数の夜会に出席し、噂の鎮火及び、あのクソ野郎をへこまさないと気が済まない。
今回の主催は公爵家――しかも、臣籍降下してまだ数年のレオナルト・エルヴィン・フォン・クレアール公爵が主催する夜会。男爵家から公爵家までやってくる王家主催の夜会に準ずる規模だ。
パートナー不在で堂々と夜会会場に乗り込む姿は、注目を浴びる。
シュバインフルト伯爵家がケチだと言われない為にもドレスメーカーのマダムには珍しくあれこれと注文つけただけあって、ドレスはいい。ミントグリーンの色調のドレスを注文した。わたしにしては可愛らしい淡色のドレスだが差し色の白も悪くない。レースとドレープ具合もさすがマダム。わたしの好みをわかっている。
宝飾品も、わたしの瞳に合わせ、メインをエメラルドにダイヤのパヴェを品よくあしらったパリュールだ。
黄金を溶かしたと言われる金髪を結い上げてのフル装備。
出発前のドレスルームの姿見でチェックしたけれど、どうしてこれでモテないのか、前世のわたしだったら、一目で惚れてる。
ベンジャミン・フォン・ビュッセルとは鉢合わせないように、とりあえず、ビュッセル伯爵夫妻の姿を探し声をかけた。
お互い爵位は同じ、向こうの方が年配だが、年配相手のお愛想笑いは任せてほしい。
そつない時候の挨拶のあと、切り出した。
「時に、ビュッセル卿のご次男の事業、一体何をされているのか知りたいのですが」
「は? 長男ではなく?」
「ええ、先日ご次男から、融資をお願いしたいと言われまして、喪中明けで、義弟の結婚式がなければしばらく領地に引きこもっていようとしたのですが、まだお若いのにそれなりの金額の融資をと言われまして……世間では、わたしと卿のご次男がその、お付き合いをしているような噂もあるようなので、ちょっと訂正したくて、ご次男からはそういったお話のご相談を受けているだけで、お付き合いはしておりませんのでご安心くださいな」
ビュッセル伯爵夫妻はアイコンタクトを始める。
次男は放蕩息子だとビュッセル伯爵夫婦はきっとわかってる。
「わたしも――まだ若いので、事業については慎重に進めたいと思っております。ビュッセル卿の事業のお手伝いでしょうか? 5000万ライドの融資というからには相当大がかりな事業をご次男にお任せしてるのですよね?」
さあ、これはわたしの話に合わせて自分の事業だと言う?
「ごせっっ5000万ライドッ!?」
「ええ。ビュッセル卿の事業のお手伝いでは?」
わたしがそう言うと、ビュッセル伯爵夫人はふらあっと身体を揺らす。
そりゃ気も失いたくなるわよね。
これなら、社交デビュー開始とともに、しゃかりきになって婿探しをしていたわたしが、ビュッセル伯爵家次男を見染めたと言われた方がどんなによかったかと思っているだろう。
でもお爺様が亡きあと、無理に婚活しなくていいのよ。
そんな不良債権に手を出すか。
「す、す、すまない、シュバインフルト伯爵! 妻の調子が崩れたようなので、失礼してもいいだろうか!?」
「まあ大変! お休みになられてください」
わたしは白々しくそう言うと、ビュッセル卿は奥方を抱えるようにして、わたしの前からすばやく消えた。
さあこの後は、ベンジャミンがつるんでる友人の親御さんに狙いを定めて、同じ文句で切り出すか――といったところで背後から声をかけられた。
「シュバインフルト伯爵」
振り返り、わたしを呼んだ人物を視界に入れると、慌ててカーテシーをする。
大物キター!
今回の夜会の主催者、レオナルト・エルヴィン・フォン・クレアール公爵!!
王族特有の青みがかった銀髪に、金色の瞳。
学園では公爵が最終学年の時に、わたしが入学した。
そりゃもう同学年も下級生も教師も男も女も大注目で人気者。
もちろんわたしがお声をかける機会なんてありませんでしたよ。
国王陛下の年の離れた王弟殿下。
わたしが十歳の頃ならば、第二王子と呼ばれた――そう元王子様だった方だもの。
そんな元王子様は卒業後に臣籍降下して公爵になり、隣国の第三王女と結婚した。
でもそんな幸せな結婚して一か月後、奥方を事故で亡くされたのよね……。
なのでクレアール公爵閣下は一度結婚したものの、現在独身で婚活市場ではハイクラス物件。
ご令嬢達からの視線がすごい。
元王子様に集中してる。
はー見た目も悪くないのに婚活全敗だったわたしとは違う。
比較しても仕方がない。
ステージが違うのだ。
「シュバインフルト伯爵、貴女とお話がしたかった」
……わたしにですか。
クレアール公爵はわたしを二階の回廊に設置したテーブル席に案内してくれた。
ここは普段洒落た花台なんかを置いてるスペースなんだろうけど、こういうパーティーだと、今回の主催者クラスのお方が落ち着いて軽食を楽しめるようにテーブルと椅子を設置してる。
この場所は、大広間の招待客が一望できる。
これはいい。
バルコニーのテラス席よりもいい。目当ての人物を探すにはもってこいだ。
「先代の葬儀には出席できなくてすまなかったね」
お爺様……公爵閣下とお知り合いだったの!?
そういえば弔電をいただいていたわ!
あの時はお爺様が亡くなった事と通算十四回の婚活失敗のお断りの手紙と、葬儀の準備とで余裕がなかった。
給仕がわたしと公爵閣下のテーブルに、フルートグラスを置いて、シャンパンを給仕して下がっていく。
「とんでもない事でございます。亡き先代も公爵閣下からお心を寄せていただいたことは感謝していることでしょう」
「そう言ってくれると、こちらも気が軽くなる。それでシュバインフルト伯爵、貴女にお願いがあってね」
「はい」
「わたしと結婚してくれないだろうか?」
……は?
よかった、シャンパンがっついて飲まなくて。
口にしてたら絶対吹き出したよ。
何、今、この人なんて仰いました?
なんでこの人、そんなにっこりロイヤルスマイル浮かべてらっしゃる?
「けっこん?」
思わず子供のような口調で尋ね返してしまった。
聞きなれない外国語の単語を聞いた感じにも似ている。
「だめかな?」
だめだろ。
貴方、何を仰ってる? 「結婚」って意味わかって言ってるの!?
「もう一度、言おうか、シュバインフルト伯爵。私と結婚してほしい」
ちょっとまってよ、元王子様!
普段のわたしどこに行った……それぐらい動揺している。
普段の――若く爵位を継いだ尊大で生意気なシュバインフルト伯爵のガワ思いっきりくずれまくった顔芸を披露しているに違いない。
頭でわかってても、この衝撃に顔面の表情は戻らないよ?
そんなわたしの動揺を見て、クレアール公爵はくすくす笑って、仕方ないなと呟く。
「いきなりそう言われても、戸惑うだけだろうから、お試しということで、とりあえず、今期社交シーズンのパートナーになって欲しいな。どうだろうか?」
金色の瞳をすがめて笑うイケメンに、一瞬見惚れたけど、いやいや、落ち着こうか、わたし!
11話10:20に公開。
もうわかってるね。
全40話! 本日中にオールアップするんで! みんな!
ここまで読んでくれたみんな! 引き続き楽しんでくれ! 最後までよろしく!
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