梅雨空と拓真くん
雨がしとしとと降り続き
家の中も髪の毛もなんだか湿気った季節になりました
あい変わらず4人はほぼ毎日イートインスペースで
ワイワイキャッキャと戯れています…
今日はどんな展開になるのか…
早くみんな来ないかな…
「これくださーい」
ましろくんが我が愛する息子瑠加が表紙を飾る
Men's向けファッション誌を片手にレジまでやってきた
そういえばましろくん先月もこの本買ってたな…
先月の表紙は瑠加じゃなかったけど
先月号は『瑠加くんの休日ファッション』とかいう
特集ページがよかったんだよねぇー
ましろくんオシャレに興味があるのかな…?
「はい!ありがとうございます!あれ?同じの2冊あるよ?」
「あ!良いんです2冊で…」
「そう?ありがとうございます」
ましろくんはイートインスペースの席に着くと
1冊は大事そうにリュックの中にしまい
もう1冊を読み始めた
まだ他の3人は来ていない
いつになく真剣なまなざしでページをめくり
時々ため息をついているようだ
雑誌と一緒に買った飲み物とオヤツには
まだ手をつけていない
ましろくん…元気ないな、どうしたのかな?
あまりにもいつもと様子が違うから
ちょっと心配になる
涼くんの話ではましろくんは
無事カフェでバイトを始めたってことだから
まだ慣れなくて疲れてるのかもな…
「うぇ~い!おまたせーましろ」
梅雨空を吹き飛ばすような勢いでに洸くんが店に入ってきた
あとから涼くん、拓真くんが続く
「なに?雑誌なんか読んで…暇だったん?」
洸くんがましろくんの頭を撫でながら言う
「ん?別に暇とかじゃなくて…コレいつも見てる雑誌だから…」
「へぇ…そうなんだ」
涼くんと洸くんが声を揃えて相槌をうつ
「冴木…」
拓真くんがつぶやいた
「え?なに?」
3人が声を揃えて拓真くんに聞き返す
「その雑誌の表紙…冴木瑠加…だな…」
ましろくんが目を見開いて拓真くんにたずねる
「瑠加くんって冴木っていう苗字なの?非公開なのに何でしってるの?」
「あ…それは…」
拓真くんが言いかけたところで涼くんが口を挟む
「拓真、瑠加くんと同じ高校だったんだろ?」
「あーうん 2年と3年で同じクラスだった…」
「え!そうなの?ホントに?」
ましろくんがキラキラと目を輝かせて拓真くんを見る
拓真くんはちょっと『しまった』という感じの顔をして
「うん、まぁそうだな…」
と言葉を濁す
ましろくんはちょっと興奮気味に質問を続ける
「瑠加くんってどんな子?やっぱりカッコイイの?
イイなぁ生瑠加くん見てたってことだよね?話したこともあるんだよね?修学旅行とか一緒に行ったんだよね?」
…ちょっと待ってましろくん
ましろくんは瑠加のファンなんですか?
ありがとうございます!
瑠加はカッコイイですよ~
親馬鹿フィルター外してもカッコイイですよ~
でもその質問は拓真くんにはキツイのでは???
と心の中で突っ込みを入れる貴腐人…
チッ
小さく舌打ちをしてから拓真くんが答える
「冴木はカッコイイし、誰にでも優しいし、みんなからの人気もすごかった…
弓道部で2年の時は全国3位
3年の時は全国優勝してたから
いろんな大学からスカウトが来てたのに
大学では弓道は趣味程度でイイやって
スカウト全部蹴って
モデルの仕事も増やしたいし
やりたい事を勉強できる学部に行くって
弓道部の無い大学選んで…」
「へー!全国優勝なのに?もったいなー」
洸くんが信じられないって感じで突っ込む
拓真くんはそのまま淡々と瑠加について話し続ける
「冴木はさ、普段は明るくて元気でさ 頭も良いし…
体育でサッカーやってもバスケやっても走っても何しても、どのスポーツでも一流なんじゃないかってくらいで…すげぇなって思ってたんだけどさ…
弓道やってるときって別格でさ…もう纏う空気が違うっていうか
弓をひくとき静寂に包まれて凛として
的を目でも射抜けるんじゃないかって眼差しで…
ゾクッとした」
「……ベタ褒めだな…」
涼くんが驚いたように言う
「俺は冴木の弓道の師範がうちの大学の弓道部の
監督をしてるから、てっきりここに来ると思ってたのに…違ったんだよな」
とそこまで言ってから拓真くんがハッと我にかえり
「だって実力あるのに辞めるとかアスリートとしてどうなんだ?」
と不服そうな風に付け加えた
ましろくんはまだ目をキラキラさせて
「そうなんだ〜
瑠加くんってすごいんだね!会ってみたいな」
と拓真くんに羨望の眼差しを向けている
拓真くんは
チッと
また小さく舌打ちをして
「まだこの辺にある実家から大学通ってるって噂だからそのうち見かけるんじゃね?」
と言いながらプイッと窓の外に目をそらした
…拓真くん
瑠加のことアスリートとして
リスペクトしてくれてたんですね!
ありがとうございます!
競技を辞めてしまってごめんね
実は私も残念なんです…
でも、今もたまに道場で弓射ってますよ!
ましろくんが瑠加に興味があるのも
ちょっと面白くない感じですか??
さっきまで小ぶりだった雨が少し強くなった
拓真くんは
梅雨空のようにスッキリとしない
瑠加に対する複雑な気持ちを
背中を向けることで皆から隠しているようだった