JINくんの癒されない休日
俺はJIN
アイドルグループのメロウ・ライツのJINだ
トップアイドル、メロウ・ライツ不動のセンターのJINだ
なのに…
ドラマでは冴木瑠加に主役を奪われ
存在感も奪われ…
狙っていた伊吹は
ましろとか言う童顔でちんちくりんの
小動物みたいな猛獣に奪われ………
…と
いろいろあったけどそれでも
その後ちょっとだけ仲良くなった冴木の家に
度々遊びに行くようになった
……しかし俺は彼らに
毎回ぞんざいに扱われている
アイドルなのに…
トップアイドルなのに
国民的大人気アイドルなのにっ!
でも…ぞんざいに扱われるのがわかっていても
ついつい冴木家に足を運んでしまう
それは何故か…
イブに未練がある…という理由ではない
俺は子どもの頃から美しいもの(人でも物でも)が好きだ
田舎育ちの俺は
キラキラ光る宝物のラムネのビー玉も
満天の夜空の星も
草木を濡らす朝露が日を浴び輝く様も
美しい山河を抜ける心地よく澄んだ風も大好きだった
田舎を離れ出てきた都会にも美しいものはたくさんある
聳え立つビルや街並みのネオンの煌めきも美しいと思うし
ステージの上から眺めるサイリウムやペンライトの灯にも感動と高揚を覚える
作られた完璧な『美』を持つ人もたくさんいるし
何も持たない人間が努力してのし上がる姿も
そのためには何でもするといった狡猾な人々の生き様さえも
怪しい美しさと輝きをもっている
でも絢爛豪華なそこには
『瀟洒』や『高揚』はあっても
ほっとするような『自然美』や『癒し』は無い
冴木家は美しい
冴木家の人々(その周辺の人々含む)は
兎角美しい容姿を持っている
しかも皆、天然物だ
家主の美月さんと長男の理久さんは
ギリシャ神話の月の女神のようだし
次男の瑠加や三男の玲央も西洋絵画から抜け出てきた王子のような端正な顔立ちだ
彼らを見ているだけて瞳が喜ぶのを感じる
冴木家の空気も美しく澄んでいて
家主の優しさを感じる
たとえぞんざいに扱われがちだとしても
来るとホッとしてしまう
冴木家にいる他の人々もそうだ
イブは中性的で扇情的な美しさをもち見るものを魅了する
瑠加と仲の良い拓真とか言う男も
ミケランジェロの有名な彫刻のような肉体美と精悍な顔。それでいてどこか頼りなげな大型犬の子犬ような愛らしさを持ち合わせている
洸とか言うやつも一見モブっぽいのに
冴木家にいるから霞んで見えているだけで
よく見るとかなりのイケメンだ
憎きちんちくりんのましろですら『可愛い容姿』というジャンルでは天下を取りそうだ
そしてなんと言っても涼!
彼は良い
彼は王侯貴族の完璧な執事のようで
見た目の良さもさることながら
その所作は美しく
彼の手で作られる料理も菓子も絶品だ
コーヒーも紅茶も彼が淹れたものより美味いものを飲んだ事が無い
そのくらい美味いし癒される
つまり俺はここに
瞳と舌と心を癒すために来るのだ
そして今日も今日とて
超久しぶりに取れた休日に
美しい住人たちを愛で
美月さんに優しくしてもらって
涼の美味しいお菓子でティータイムという
癒しを求めて冴木家へと足を運んだのに…
のに…のに…
いつものように冴木家の呼び鈴を鳴らすと
出てきたのはヨレヨレになった玲央とその奥で蹲る洸…何故かフリフリのメイド服を着ている
「た、助けて…」
いったい何があったの?
不穏な空気に一瞬たじろぐ
「ど、どうしたの?」
玲央は涙目で俺に訴える
美月さんは仕事でいないし
瑠加と拓真は2人で出かけたらしいし
理久さんは研修で大阪
それを追って涼まで大阪に行ってしまっている
…で
イブとましろの制御が出来る人間がいない
とのこと…
「イブとましろの制御?何それ?」
イブとましろがエキセントリックなのは知っている
今思えばとてもお似合いなんだろう…魂レベルで
でも、制御って(笑)
なんだよそれ!
「涼がいないから…あの2人…制御不能で…」
「え?だから2人の制御って?なに?」
「家の…中…入って…見れば…わかる…よ」
「うん…ぜひ…中に…JIN…くん…も…来て…お、お願い」
「え?な、なんか今日はお邪魔するのやめとこっかな?」
玲央と洸のただならぬ様子に中に入るのを躊躇する
「い、いいから…い…いから…ね?来て?」
2人は俺の腕を掴み
中へと誘う
思ったより力が強く
グイグイと引っ張られる
な、なんかヤバい気がする…
2人に引き摺られるように連れていかれ
リビングへと一歩足を踏み入れた
ネチョ
何か踏んだ…
足元を見ると何かネチョネチョした液体が…
まわりを見回すと粉まみれのリビングに
あらゆる物が散乱し
所々に謎の液体(数種類)が飛び散っていて…
赤いのはケチャップ?
白いのはマヨネーズ?
黄色はマスタードソース?
茶色いのはソース?
それともチョコレートソース?
そして足元のネチョネチョの液体は
ハチミツ?
スリッパ履いてて良かった…
「え?コレ何?何があったの?」
「お!JINだ!いいとこに来てくれたな!!片付けるの手伝って♡」
イブが笑顔で言う
いつも俺には笑顔なんて向けないくせに…
「なぁんだJINかぁ〜美月ママかと思って焦っちゃったじゃん」
ちんちくりんがホッとしたように言う
相変わらずクソ憎たらしい
「で?何でこんな惨状に?」
「それは…」
玲央が言葉を詰まらせる
「イブくんとましろの提案で…
闇粉モンメイド喫茶ごっこをさせられて…
最初はちゃんとたこ焼きやお好み焼きやホットケーキなんかを作ってたんだけど…途中で…」
洸が沈んだ声で説明する
「イブが飽きちゃって遊びはじめてさ!その相手を僕がしてたらぁ」
とましろが続く
「ちょーっとエキサイトしちゃったんだよねぇ」
イブがテヘって感じで首を傾げる
「ちょーっとエキサイト?ちょっとでこんなんなる?だいたい食べ物で遊んじゃダメだろ」
部屋を見回して呆れて言うと
「なるよねぇー」
イブとちんちくりんが声を合わせる
コイツらやべぇな…
お似合いかもだけど
混ぜるな危険だったかぁ~
大変だな…冴木家
でも…涼はコレを制御出来るのか
すげぇな涼…
「頼む…JINくん手伝ってください」
洸に懇願される
「お願い!手伝って!母ちゃん帰ってくる前に片付けないと!!」
玲央に上目遣いで言われる
なるほど
この2人ではあの2人を制御出来ない…と言うことか
嗚呼…俺、涼のお茶飲みたくて来たのになぁ…
「ハァ…仕方ないなぁ…手伝うよ。雑巾どこ?」
深くため息をつき顔を上げると
4人が凍りついたように固まっていた
その視線は俺ではなく…その後ろへと向けられていた
恐る恐る振り向くと
俺の後ろには
般若のような顔をした美月さんが立っていた…
美月さんに雷を落とされた4人は
リビングの掃除を粛々としはじめた
「JINくんせっかく遊びに来てくれたのに、ごめんね」
掃除の手伝いをはじめると
美月さんが申し訳なさそうに言う
「いえ…ダイジョウブデス…」
「コレ終わったら、涼くんが作っておいてくれた
チーズケーキ食べようね!」
「はい!」
え!そんなのあるんだ!
やったー!!涼のチーズケーキ!
これで少しは癒される!
美月さんに言われ嬉しくなって雑巾を濯ぎに行こうと
立ち上がると玲央と洸が何が言いたげにこちらを見ているのに気がついた
ま、まさか…
「あの…チーズケーキ…さっきイブとましろが全部食べちゃって…」
玲央がしょんぼり顔で言う
「え!?なんですって!!!」
美月さんの美しい顔が歪み
彼女には似つかわしくない野太い声が
リビングに響き渡った…
そして
俺の超久しぶりの休日はこのようにして
幕を閉じたのでした




