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船出


つまり目の前の赤い暗殺者、システは師匠のせいで全部失ったから復讐心のみで伝説の暗殺者に弟子入りして現在に至るらしい。


可哀想だとは思う。多分システの親父は師匠のグーパンで殺されてるから正直師匠は復讐されても仕方が無かったと思う。


でも師匠が殺されて悲しいかと言われれば悲しいし、ショックでまだ納得出来ない部分はある。


命の恩人だからこそ、最後に何か残してやりたかったな。



「―――大体アナタは誰なんです?」


「あ、俺はキジマ・ヘイベイ。よろしく…は別にしなくていいぞ」


「ニュアンス的に、ジャピアンが生まれですか?」


「ジャピアン?」


「知らないんですか?」



そう言えば東に位置する大陸に俺の故郷、日本に似た国があるって師匠やゴッドハンド・タケルから聞いたな。


そこも確かジャピアンって名前だった筈だ。



「実は俺、名前以外思い出せなくてな。4年前に師匠に拾われて以来ここから出た事がないんだ」


「そう、だったんですね…」


「これを機にジャピアンに行ってみるのもいいか」


「やめておいた方がいいですよ」


「どうしてだ?」


「ジャピアンは、滅びました」



走る戦慄。衝撃の事実。


せめて師匠やゴッドハンド・タケルの故郷を一目見ておきたかったのに。



「既に無くなってたのか…それは残念だ…」



せっかくこれからの方針が決まりそうだったのに、出鼻をくじかれてしまった。


落胆を全身で表現しながら、俺はその場から移動し始めた。


とにかくこの森を抜けよう。そろそろこの光景も見飽きてきた頃だ。



「あの」


「参ったな…」


「あの!」


「これからどうするかな」


「あのー!聞こえてますよね!」


「取り敢えず街探すか?」


「これ!この縄解いて欲しいのですが!!」


「飛んで行くのもいいけどせっかくだから歩いて行きたいよなー」


「あー!?無視ですか!?人をこんな木に縛り付けておいて放置するって言うんですか!?」



無視だ、無視。


もう過酷な人生終わったとか言ってたし、最期くらい静かな場所で休ませてやろう。



「許しません、許しませんよ私!!」



ついにシステの怒りは爆発してしまった。



「こうなったらムトウ・ムネヒラの次はアナタを殺させてもらいます!!絶対に逃がしませんよ!!私にこんな仕打ち、いくら何でもぶち殺し確定です!!!地の果てまでだって追い掛けて必ずーーーー!!」



全く元気な娘だ。


遠くなる声を背に、俺は歩みを止めずに森を抜ける。


1時間程だろうか。ついに俺は脱森した。



「おお…さっき空飛んだ時に一瞬見えてたが、やっぱり凄いな」



アスファルトやコンクリートで塗り固められた道なんてなく、草と土で覆われた大地。


好き勝手に生を謳歌する自然の動物達。


そして澄み渡る青い空。


どれも故郷とは似ても似つかない。



「…空気が美味しい」


「ではその空気、二度と吸えなくしてさしあげましょう」


「はえーよ」



自力で縄抜けしたか、背後から気配を殺して現れたシステが俺の背中に飛び乗り、チョークスリーパーを繰り出す。


なんと言う執念深さだ。


その華奢な身体からは到底あり得ない程の怪力で首を絞められるが、当然俺には通じない。



「むむむ…!では、これなら!!」



首絞め作戦は失敗に終わった為か、今度は肘打ちとか手刀とかで打撃を与えてくる。


痛くも痒くもない。強いて感じると言えば背中越しに伝わる柔らかい感触くらいだろうか。


システが動く度に俺の幸福度は増していく。



「中々良いものをお持ちで」


「賞賛…!?なるほど、まだまだ余裕と言う事ですか!」


「やめとけよ。これ以上続けるとお前の身が持たない」


「いいえ!私は師匠に育てられた最強の暗殺者!アナタを殺すまで諦めません!」



なんと素晴らしき熱意。


最早離れると言う選択肢はないらしく俺の背中に乗ったまま適度に休憩を挟み、暗殺と呼ぶには些か大胆過ぎる暗殺を繰り返している。


俺はもう何も言うまいとされるがまま、豊かな大地を踏み締める。そよ風が肌を撫で、心地が良い。


道すがら、目的も何も定まってないが1つ気になってる事があるのを思い出す。



「なあ、システ」


「ふん!何ですか?」



背中越しに聞こえる声はすこぶる機嫌が悪い。


しかし、返事はしっかりしてくれる。 元々の育ちの良さだろうか。



「俺、魔術に興味があるんだよな」


「…まじゅつ?」


「なんか火の玉とか投げたりするやつなんだけど」


「あー、魔法の事ですか?」


「魔法って言うのか」



元の世界では魔術と呼ばれていたが、こちらでは魔法と呼ぶらしい。


あちらでも魔法の存在自体はフィクション等でよく使われる為、驚く程ではない。



「その魔法ってのを使いたいんだが、どこに行けばいい?」


「なっ!そんな力を持っててまだ力を欲するって言うんですか!?」


「俺の成長はまだ発展途上だ。色々試したいんだよ」


「べー!嫌です!これ以上強くなられると私が困りますから!」


「そうか…」



確かにシステからすると難儀な事かもしれない…けど、そんなの知ったこっちゃないね。


俺は今度こそ魔術ならぬ魔法を会得して元の世界に帰れた時に第一種魔術技師の資格を取るのだ。



「ならちょっと困らせてやろう」


「えっ」



少しずつ、ゆっくりと。俺の足は地を離れる。


翼を軽く羽ばたかせ、空へ近付いて行く。



「ちょ、ちょっと…まっ、やめっ、やめてください!!」


「聞こえなーい」


「わわっ、あああ、足を掴まないで下さい!?降りれないのでぇ!!」



優しさで落ちないようにおんぶの要領でシステの足を持ってあげる。


勿論それがシステにとって逆効果なのはよく存じ上げている。


ちょっとした脅しと言うやつだ。これでじわじわ高所への恐怖を与え、根を上げさせる。



「あーあ!魔法使いたいな!誰か教えてくれる優しい人居ないかな!」



ここでわざとらしく助け舟を出すとあからさまにシステが食いつき、身を乗り出す。



「あ、あっ!私、私知ってますよ!ここから北西にずっと向かったところにある港町から出る船に乗って、更に北部の大陸ナーナンシアにある魔法都市ヤクシマに行けばいいと思います!!」


「それは良い事を聞いた。じゃあ、行くか」


「ぴゃわっ!!」



一気に加速。上昇しながら北西にあると言う港町を目指して十数秒。


あっという間に港町に辿り着く。



「賑わってるなー」



気絶しているシステと適当なところでお別れして港町の様子を見て回る。


すれ違う人1人1人に活気が満ちており、喧騒が止まない。


そして、視線がよく突き刺さる。



「いや目立つだろうな」



身体が大きいだけじゃなく翼まで生えてるし。


4年間人里から離れた場所にいたから、完全に感覚が麻痺してた。



「さっさと船に乗ってしまうか」



慌しそうにしている船乗りを見つけた為、声を掛ける。


隠れ家から拝借してきた通貨を使えるか試す時が来たな。


確かナモルが通貨の名前だったか。



「悪い、船に乗りたいんだが」


「おお、それなら10ナモルだ!もうすぐ出港するからさっさと乗り込んでくれ!でっけーな兄ちゃん!」



船に乗り込むと、システがいた。


なんでだよ。



「待っていましたよ、ヘイベイ」


「ええ、困る」



けたたましい汽笛と共に船が出航し始める。


俺を乗せてまだ見ぬ大陸へと。



「さあ、覚悟!」


「もっと忍べよ暗殺者」



……騒がしい船旅になりそうだ。

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