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暗殺者の苦難


ムラヌッチョ共和国との戦争。


その話を耳にしたのは4年前。丁度、戦争が始まる直前の事でした。



『明日、ソトラルム国境平原からムラヌッチョ共和国が進軍して来る。恐らく、戦争になると思う』



当時、ワシリュミカ連合国の主力とまで呼ばれていた突撃騎士団に所属していたゴルバグルファード・セントラム―――私の父から戦争が始まるから母と共にどこか遠くの地へ逃げて欲しいと言われた時、驚きのあまり顎が外れてしまったのは今でも記憶しています。


それ程までに、目前に迫った戦争の気配は無かったのです。



『逃げて、アナタだけでも……!!』


『お母様!?そんな、お母様ーーーーー!!!』



――――戦争によって踏み躙られた命がありました。


その命は私にとって大切な、何よりも失いたくない命でした。


戦争は連合国軍総力、そして父の部隊の活躍により、優勢だったのにも関わらず多くの命が失われたのです。


そしてその原因が、共和国軍側に突如として現れた1人の男によるものだと知りました。


剣を持っているにも関わらず、決してそれを抜く事はせず、素手で軍隊を蹂躙する鬼神が如く存在。


そんなデタラメな力を持った男は連合国軍の防御網をいとも容易く崩壊させ、常に侵攻し続けたと言います。


形成が逆転したなんて生温いものではありませんでした。


男が現れた時点で、連合国軍は敗北していたのです。


そうして、防御網が機能しなくなった途端に今まで攻めあぐねていた共和国軍が総力を持って雪崩込み、戦争の舞台は国境を分かつソトラルム国境平原からワシリュミカ連合国が誇る商業都市での市街戦となりました。


その際の流れ弾で避難途中だった私と母は巻き込まれ、挙げ句に母は私を庇って死んでしまいました。


母を失い、故郷である連合国も滅びた後、私はせめてもの救いを求め、ソトラルム国境平原を彷徨って父を探しました。


焼け爛れた平原の至る所まで探し続け、やっとの事で父の遺体を遠く離れた、それも何故この様なところにと疑問すら抱く場所で見つけたのです。


顔をとてつもない力で殴られたのか、兜と共に凹んだまま戻らなくなっていましたが、それでもその人は父で間違いありませんでした。



『お父…様……?あ…ぁぁ……あぁあああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!』



全てを失い、狂った様に泣き叫ぶ私。


そんな私のところへ訪れたのは漆黒のローブに身を包んだ女性でした。



『……憎いか?』


『………』


『もし、お前に復讐心とやらがあるのなら―――来い 』



月夜に照らされた銀の髪、息を飲む程の美貌、恐ろしくも感じる紅い瞳。


絶世の美女とも言える女性から放たれた言葉は、重く、何より無機質な問答でした。


行き場を失い、失意に溺れていた私にはその言葉は甘く、蕩ける様な誘惑で、気付けば女性から差し伸べられた手を取っていました。


その日から私は、私から全てを奪うキッカケを作った男、ムトウ・ムネヒラを殺す為だけに人生を棒に振ると誓ったのです。


しかし、その道は易しいものではなく、蓋を開ければ厳しい修行の日々が待ち受けていました。


師匠である暗殺界の頂に君臨する暗殺姫、セーネ・ナギタリスはとても厳しく、如何なる失敗も許さない人でした。



『それでは容易く見つかってしまう。気配を遮断するんだ。ぶち殺すぞ』


『わ、わわ…気配を……ど、どうすればいいのか分かりません…!』


『…物音を立てるな。息を止めろ。身体機能の全てを停止させろ。敵に音を聞かせてはならない。この手の道で見つかる事は決して許されないんだ。もし失敗でもしたら即ぶち殺すから、肝に銘じておけ』


『滅茶苦茶言いますね……ですが、頑張ってみます!』



人は慣れれば何でも出来る。


そう実感したのは師匠に弟子入りしてから2年が経過した時でした。


出来る筈がなかった気配の遮断を師匠が言った通りに実現する事が出来たのです。


気配遮断の出来具合を見てもらおうと気配を消して師匠の背後に忍び寄ったところ、直前で気付かれてぶち殺されかけたのは良い思い出です。


ぶち殺そうとした理由が突然後ろに居てビックリしたからと言うのには正直肝を冷やしましたが…。


そんなこんなで残りの2年は殺しの術を全て叩き込まれ、ようやく師匠お墨付きの暗殺者として私は今ここに立つ事が出来ているのです。


そして先刻、両親の仇であるムトウ・ムネヒラの暗殺に成功しました。


あまりにも呆気ない最後で唖然としましたが、私の目的は完遂されました。


これで私―――システ・セントラムの人生の意味が、失くなったのです。



「―――――これが、事の顛末です」


「ん?…ああ、ごめん。聞いてなかった」


「え?ぶち殺しますよ??」


「はい無理」



目の前に居る男は、そう窓の外へ顔をやりながら私の殺意を受け流すのでした。

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