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暗殺者


「―――戦闘音?」



隠れ家の森を抜けるべく、木々を掻き分け散策気味に進んでいると、離れた場所で何かが争う音が聞こえた。


糸川之巡理で探ると、人と3メートル程はありそうな巨体の何かが戦っている姿が見えた。


どうやら人の方が押されているみたいだ。



「押されてるな…加勢するか」



助けられるなら助けておくべきだろう。


後になって後悔するのが俺の悪いところだ。



「ここからなら大体…2秒くらいか?」



グッと姿勢を沈め、地面を蹴る様にして走る。


それから2秒…いや、1.7秒か―――2秒足らずのうちに目的地へ到達してしまった。


フードを被った白いローブの少女と、やはり3メートル程の両手が剣状の所謂ゴーレムの間に割って入る様に現れた俺は何となく気不味い雰囲気を肌で感じながら取り敢えずグーパンでゴーレムを殴り抜いた。



『ビゴービガガガッビビビビボボボボブゥーンデュオォォォォン……』



思ったより柔らかい装甲をまるで豆腐の様に貫いてしまった。


間髪入れずに謎の機械音声の様な鳴き声を発しながら機能停止したゴーレムに現状を招いた俺ですら唖然としてしまう。


俺が強くなり過ぎたのか、このゴーレムが弱過ぎたのか。どちらにせよ。



「思ったより肩透かしだな」



ゴーレムが爆発した。


後ろでは少女が開いた口が塞がらないを体現している…気がする。


まだ少女の安否を確認していない為、実際のところは分からないんだが。



「…大丈夫か?」


「え、あ…大丈夫、です……?」


「そりゃよかっ……た…?」



背中越しに安否を問い、大丈夫と言うから安堵しつつ振り返る。


そこには今の爆発による爆風でフードが脱げたのか、露になった赤い髪を靡かせた少女が居た。


直後に師匠の言葉が脳裏に過ぎる。



『燃える様な…赤い、髪の女に、は…気を付けるんだ―――――』



一致する特徴。燃える様な、赤い髪。


サァッと血の気が引き、徐々に動悸が激しくなり、無意識に剣の柄に手が伸びた。


なんとか我に返り、右手を咄嗟に抑えつける。


殺してはいけない。自分は復讐の為に旅に出たのではない。


ましてや無刀情心は抜刀してはいけない剣術。抜刀すると言う事は即ち死。


自分にそう言い聞かせて、気持ちを落ち着かせる。


だが、瞬間的に漏れた俺の殺意に警戒して身構える赤い髪の少女からは目を離さない。



「…まさか、ムトウ・ムネヒラの関係者…!!」


「そう、だが……安心してくれ、危害を加えるつもりはない」


「…信用出来ません。もし、本当に危害を加えないと言うならその剣を捨てて下さい」


「これでいいか」



俺は躊躇せずに腰に提げていた刀を床に置く。


失くなっては困るが、あっても役には立たない飾りだからな。


今さっきゴーレムを素手で殴り殺した事に関しては目を瞑って欲しい。手はどうしようもない。



「―――――フッ!」



常人では捉え切れない高速移動により、俺の懐へ潜り込んだ少女。


何をするのかと思えば刃物と見間違う程に鋭く研ぎ澄まされた手刀で俺の腹部を貫かんと刺突を繰り出してきた。


だが、それでは進化した俺の肉体に傷を付ける事は出来ない。



「…それがアンタの答えって事でいいんだな?」


「え……」


「俺はアンタを敵とみなすぞ」


「あ、あっ…と、その……」



瞬間、最早俺のアイデンティティとなった6枚の翼を力強く羽ばたかせる。


風が吹き荒れ、木々が悲鳴を上げ、粉々になったゴーレムの破片や土に石、その他諸々が巻き上げられていく。


そんな暴風に至近距離で巻き込まれた少女は真っ先に吹き飛び、空高く舞い上がった。


追う様に飛翔した俺は高高度で少女の足首を掴んで留まる。所謂宙ぶらりん状態だ。


飛べない者からしたらたまったもんじゃない。


しれっと風で飛ばされてきた【絶命剣ホソルニウ】を片手でキャッチして腰に提げつつ、視線を少女へ落とす。



「わ、わっ……たかっ…!?」


「なあ、どうしたらいい?どうしたらアンタとまともに話せる?」


「……ます」


「鱒?状況が分かってるのか?魚なんてこの辺にはいないだろ」


「はな、します…!!話しますから!お願いです!降ろしてください!高い所は、その…苦手なんです!!」


「分かった」



パッと手を離してあげる。



「きゃああああああーーーーーー!!?」


「なんちゃって」



先回りして既のとこで少女を受け止めてあげる。


地面まで2メートル程の距離だ。これ飛べなかったら俺でも死を覚悟するぞ。


これで戦意も粉々に砕け散っただろうと少女を見るとなんと失神してしまっていた。



「………肩透かしぃ」



俺の巻き起こした風で辺りは随分と荒れてしまった。


少女も目を覚まさないし、近くの倒れてる木にでも巻き付けて待つとしよう。



「―――――心機一転。今の気分をどうぞ」


「ぶち殺していいですか?」



完全に怒ってらっしゃる。これは俺が悪いのか?


そもそもは俺を殺そうとしたこの少女こそが元々の原因ではないだろうか。


少女は俺を殺そうとして、本当なら殺されても可笑しくないのに弄ばされただけで済んだ。


この構図の何処に俺が悪い要素があるのか。


あれか?屈辱を受けるくらいなら死んだ方がマシだ!ってやつか?くっ殺か?くっ殺なのか?



「ぶち殺すって言ったって、アンタじゃ俺を傷付けられないってのは身をもって体験しただろ?」


「そ、それはそうですが…と、とにかく殺すんですっ!」


「あーはいはい。気持ち気持ち。大事だよなー」


「そうやって馬鹿にしてっ…!」


「もういいだろ、この話。そろそろ俺は師匠暗殺の件の方を聞きたいんだが?」


「っ!……そう、でしたね」



どんどんヒートアップしていって収拾がつかなくなりそうだったので、ここでひとつ、凄みを加えた話題転換。


効果は抜群で師匠の話題を出された少女はシュンと縮こまってしまった。



「何から話せばいいのやら…」



そう言って、彼女の口から語られたのはあまりにも予想通りで、かつ色々驚きの復讐譚だった。

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