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離別と旅立ち


目が覚める。


そこは見知らぬ天井だった。


何となく視線を漂わせてみると、ここはどこかの部屋の中で窓は無く、扉が1つだけある真っ白な空間である事が分かった。



「ここ、は…」


「ようやく目を覚ましおったか」


「え…?」



老いぼれの声が聞こえ、ようやく頭を動かして右側を見ると声の主に相応しい白髪オールバックが特徴的な老人が椅子に膝を組んで座っていた。



「誰だ…?」


「名乗らせるならまずは自分から名乗れ」



御尤もな事を言われて確かにと納得した俺は体を起こす。

身体はあれだけ痛かったのに今はもう何ともないし、よく見れば手足も何も問題無いくらいに回復していた。


この老人が助けてくれたんだろうか?


記憶が朧気だが、侍みたいな人に助けられた気もするがあれは夢だったのか?



「悪い。俺は帰島 平平だ」


「キジマ・ヘイベイ……東の生まれか」


「東の…?」


「いや、気にせんでいい。ワシの名前はヤクモ・タケルだ。知人からはゴッドハンド・タケルと呼ばれておる」



ゴッドハンド・タケル。何とも大層な名前だ。


ヤクモ・タケルも強そうな名前ではあるけど。



「それより、手と足の方はどうだ」


「問題は無いな…これはアンタが?」


「ああ…これでも医者でな。ムネヒラの奴が治せと煩く言うもんだから仕方なく治しておいた」


「ありがとう、助かった」


「例には及ばん。例は…奴に言う事だ」



それきり言葉を話さなくなったゴッドハンド・タケルはおもむろに立ち上がるとそのまま部屋を出て行ってしまった。


そして交代する様に三つ編みの髭を携えたサムライヘアの男が入って来た。



「おお、目が覚めたのか」


「アンタは…確か俺を助けてくれた……」


「ムネヒラだ。ムトウ・ムネヒラ」


「俺は帰島 平平。ありがとう、ムネヒラ…さんのお陰で俺は助かったみたいだ」


「いやあ、無事に復活してくれて良かったぜ。お前さんを拾った時は助かるかどうかも怪しい状態だったもんでヒヤヒヤしたもんだ!」



愉快そうに笑う男、ムネヒラ。どうやら中々フレンドリーなおっさんらしい。


少しは肩の力を抜けそうだ。



「聞いてもいいか?」


「おう、何でも聞いてくれ!」


「どうして俺を助けたんだ?アンタとは面識がないし、助ける理由もなかったと思うんだけど」


「それはだな…お前さんに素質を見出したからだ」


「素質…?」



素質は何の素質なのか。


俺は魔術が得意な訳でもないし、特別強い訳でもない。ごく普通の一般人だと自負しているのだが。


この男は俺にも分からない何かを見ていると言うのか。



無刀情心流(むとうじょうしんりゅう)の素質だ」



無刀情心流。聞いた事もないしそもそも名前が物騒過ぎる。



「無刀…情心流…?」


「そうだ。こいつは剣術なんだが、剣を使わずして敵を滅する流派だ。その素質がお前さんにあるってわけよ」


「まさか、その為に…?」


「そうとも!そろそろ継承していかないとせっかく創り上げた流派が廃れちまうと思ってな?そこで見つけたのがお前さんと言うわけだ!」



いきなり何を言っているんだこの人は。


出会って間もない奴にそんな物騒な流派教えようとしているなんて正気ではない。


やばい人に絡まれたんじゃないかと内心焦りつつ、しかしこの人達が俺の命の恩人である事に変わりない為、ここで突っぱねてお別れなんて恩を仇で返す様な真似は出来ない。


では、受け入れるしかないのか。


それはそれで先急ぎ過ぎだと思った俺は、少し間を空けて。



「…少しだけ考えさせてくれないか?」


「いいぜ。せっかくだ、1年も寝たまんまじゃ身体が鈍っちまうだろ。外で散歩でもしてこいよ!」



何気に聞き捨てならない事を吐かした気がするが、この際いいだろう。


お言葉に甘えて外の空気でも吸いに行かせてもらおう。


寝台から降りて部屋から出るとそこからムネヒラさんが家の玄関まで案内してくれたが、着いてくるつもりはないらしく、俺が外に出たのを確認するとそのまま家の中へと姿を消した。



「ヴッ…眩しぃ……」



ずっと室内に居たせいか、外に出ると日差しが目に優しくなかった。


眼球が痛む様な感覚を噛み締める様に堪能しつつ、その辺を適当に散策する。


どうやらここは大きな洞窟、と言うより洞穴に建てられた隠れ家的な場所らしく、ムネヒラさんとゴッドハンド・タケルが住む家と倉庫以外の建築物は存在していなかった。


洞穴の外は深い森が続いていて、1人で行くには些か危険に感じられた。と言うより素人目線でも分かるくらい危険な香りがプンプンした。



「一体ここは何処なんだ…?」



そもそも俺は一体どうしてしまったのか。


かわい子ちゃんがいて、声を掛ける機会を手に入れたから思わず車道に飛び出たはいいが、強い衝撃に襲われて―――――。



「光に包まれて、ここに飛ばされた…?転移魔術…いや転移魔術は他人には掛けられない…となると、これは噂に聞く異世界転生、と言うやつか?」



にわかには信じられないが、そうとしか考えられない。


ムネヒラさんに拾われた当時の事を考えると明らかに俺は致命傷だった筈だし、光に包まれたかと思えば意識が暗転して気付けば戦場で倒れ伏していた。


そして鮮明には見えなかったが、皆が皆、魔法陣を介さず魔術を行使していた。


普通、魔術を使うには複雑な術式が織り込まれた魔法陣の生成が必要となる。なのに関わらず、掌に火球を出現させて投げたりしていたのだから吃驚だ。


魔法陣が無ければ魔術を制御出来ずに魔爆発を起こして自滅してしまうと言うのに、恐れもせず、さも当然かの様に魔法陣未使用の魔術行使。


これの説明がつくとすれば、やはり異世界説だろう。


ここまでの思考が出来るのに何で第一種魔術技士免許取れなかったのか、と一瞬嫌な言葉が脳裏を過ぎったが、雑念を振り払い深呼吸をする。



「ここが異世界だと仮定して。これからどうするか、だな」



やはり身寄りがない分、ここで面倒を見てもらうのが1番いいのかもしれない。


正直、俺に無刀情心流とやらの素質が本当にあるのか些か疑問ではあるが、この際弟子入りして鍛えてもらえればいざ元の世界に帰れた時に役立つかもしれない。


そうだ。実家に帰って、近くの魔大学に通おう。


無刀情心流の皆伝に至って強くなれる事を前提にして考えれば魔大学だけじゃなく、色々な仕事に就く事も出来る。



「無刀情心流…賭けてみるか。俺の人生を昇華させるモノだと信じて」



思い立ったが吉日。俺は来た道を引き返してムネヒラさんの居るであろう家まで戻る。


すると、家を出てすぐの広場にムネヒラさんは居た。広場の中央で仁王立ちをしてまるで俺の事を待っていたかのようだ。



「…ムネヒラさん」


「よお、その様子だと決まったみたいだな?」


「ああ…その、なんだ。無刀情心流、俺に教えてくれ」


「勿論だ。断ってたとしても強引に教えるつもりだったしな!」


「強引にって…勘弁してくれよ」



苦笑しつつ、飄々としたものから真剣そのものの表情になったムネヒラさんに少し息を飲む。


その鋭い眼光は、正しく刃物。


全てを切り裂かんと俺の眼をジッと見つめてくる。


俺も負けじと睨む攻撃を繰り出すが、ダメだ勝てない。そう悟らされた。



「俺から言い始めてなんだが、無刀情心流の道のりは険しいぞ。その覚悟は出来てるんだろうな」


「肩透かし、だろうな」


「…ほー?言うじゃねえか。だったらミッチリ鍛えてやるから、早々に根を上げてくれるなよ?」


「誰が。そっちこそ途中で投げ出したりしてくれるなよな」



お互いに軽口を叩きながら、俺はムネヒラさんに弟子入りする事になったのだが、病み上がりと言う事でその日は何もせず、ムネヒラさん…否、師匠の友人であると言うゴッドハンド・タケル特製の料理をいただき、安らかな休息を取った。


そして、翌日からはとても初日とは思えない程のハードスケジュールな身体作りが待ち構えていて、俺は全身の筋肉を痛める事に。


それからは休みのない過酷な日々の連続だった。


無理なトレーニング等に元々身体が強くなかった俺の肉体は悲鳴を上げ、何度か壊れてしまった事もあったが、ゴッドハンド・タケルの神医療のお陰で後遺症も、残る痛みもなく、修行に専念出来た。


しかし、良い事ばかりではなかった。


いや、悪い事かどうかすら最早分からないのだが、壊れては修復、壊れては修復…これを繰り返す度に俺の肉体は嫌でも変化していったのだ。


ゴッドハンド・タケルによると普通ではありえないらしく、神医療は治すだけのものであって、人の身体に変化を齎したりはしない…と言っていた。


だが実際俺の身体には変化があり、身長が2メートルに伸びただけでなく、まず俺は傷付かなくなった。


師匠の如何なる攻撃であろうと、痛みもなく怪我もしなくなった。


そして何より大きな変化があったとすれば、それは翼が生えてきた事だろう。


二対六枚の1.5メートル近くある黄金の翼が背中―――と言うより腰辺りから生え揃っている。


これには師匠もゴッドハンド・タケルも吃驚仰天で開いた口が塞がらなかったみたいだ。


とにかく俺は飛行能力を手に入れて尚且つ絶対的な防御力も手に入れた。


無刀情心流とは何も関係無い力だが、やってみるものだ。


この変化があったのが弟子入りしてから凡そ半年経った頃だった。


どんなに飛ぼうが傷付かなかろうが、それでもまだ師匠には一撃も攻撃を与えれていなかった。


そこで、師匠は俺に言った。



『ヘイベイは頭で考えて動き過ぎだ』


『考え過ぎって、考えないと戦いを有利に持っていけないだろ』


『それで有利になった事あったか?』


『それは…』


『なかったろ?当たり前だ。無刀情心流は頭で考えて動くもんじゃねえ。感じて動くんだ』


『つまりフィーリングに身を任せろと?』


『そう言うこった!』



その日から俺はあまり深く考える事を辞めた。



『……確かに感じて動いた方がいいとは言ったけどよ…?』


『どうした?』


『まさかここまで上達するとは思わなかったぜ』


『俺も、まさか直感のみの戦いがこんなに楽だとは思わなかったよ』


『こいつは無刀情心流を極める日もそう遠くねぇかもしれないな!』



そう言ってわはは!と笑う師匠とのこのやり取りが、凡そ無刀情心流を学びだしてから1年経った日の事。


この時点で俺と師匠の実力は拮抗するに至っており、最早無刀情心流無しでも生きていけるレベルだと師匠から言い渡された。


だが、俺は師匠の下で師事を続けてもらった。なんだかんだ師匠やゴッドハンド・タケルとの生活に馴染み、最早彼らは第2の家族となりつつあったからだ。


そして2年目。


俺は師匠にいよいよ剣術を習い始める。無刀情心流の流儀は「剣を取れば必ず殺し、最後に己も殺す」であり、そもそも剣術でありながら剣を使ってはならないと言う矛盾を孕んだ究極の剣術モドキなのである。


今までの修行でも剣こそ使ってはいたが、ちゃんとした剣術は1つも教えてはくれなかった。


恐らくそれ程危険な技であり、土台である身体が出来ていなければ扱えないものなんだろう。


2年目はただひたすら、無刀情心流の型等を叩き込まれる日々が続き、そして3年目。


俺はついに師匠から全ての技を授かった。とは言っても使ってはいけない技である。


おかしな流儀のせいでせっかく習った剣技も使えないとは不服ここに極まれり。



『まさかたったの3年でマスターしちまうとは…』


『やっぱり肩透かしだったな』


『お前さんも言うようになったな。ま、それ相応の実力が備わってるんで文句は言えねえけどよ』


『それは免許皆伝って事でいいのか?』


『当然よ!これ以上何を教えるってんだ!』


『もう知りたい事が無いくらい色々教えてもらったかな』


『いやー、それにしてもお前さんがこことは違う世界から来たかもしれないって聞いた時は俺も流石にビックリしたなー。そりゃこの世界に関して無知なハズだぜ』


『疑わずに信じてくれて助かったよ師匠』


『弟子を疑ってちゃあ師匠の名折れよ!俺はお前さんの魂を見て弟子にするって決めたんだからな!』


『あん時はそんな事出来る筈がないって思ってたんだけどな。いつの間にか俺にも解る様になってた。人生何が起こるか分からないよ、全く』



―――こうして、俺は見事無刀情心流を修める事に成功し、完璧な異世界デビューを果たした。


そして現在、まだこの隠れ家からは1度も出た事がないからそろそろ旅にでも出ようかと考えている。


元々異世界にはそれなりに興味を持っていたが、師匠やゴッドハンド・タケルからこの世界の話を聞いてからは一段とこの目で見て回ってみたいと思う様になった。



「師匠、もう起きてるかな」



早朝。旅に出たいと伝える為に俺は珍しく早起きしてリビングに向かう。


反対するかな?それとも二つ返事で送り出してくれるかな?


どちらかと言えば後者な気がするが、反対されないとも断言出来ない。


無刀情心流を習得したからとは言え、まだ外に出るのは危険かもしれない。



「師匠?」



リビングに着くと、そこには誰もいなかった。


流石にまだ起きて来てはいないか―――そう思い、部屋に戻ろうと踵を返した時、不意に俺の鼻を掠める臭いに気付く。



「この臭いは…」



人生で一度は嗅いだ経験がある臭い。


俺がこの世界に来てから散々嗅いだ、苦い記憶ばかりが蘇る臭い。


そう、これは。血液の臭いだ。



「―――師匠!?」



慌てて辺りに視線を巡らせると、テーブルの死角に誰かが伏しているのが分かった。


駆け寄るとそこに倒れていたのは紛れもない、師匠その人だった。


うつ伏せになっている師匠の背中には丁度腕が入るくらいの風穴が開けられている。


傷口から流れ出す血を見る限りやられたのはかなり最近だろう。


そもそも、師匠に傷を負わせられる者がいるだなんて吃驚仰天だ。



「師匠!おい、師匠!!どうしたんだよ!?」


「………ぁ、ヘィ…ベイ……か…?」


「ああ、そうだ!アンタの弟子のへいべいだ!!」


「ぁあ………聞いてく、れ……」


「なんだ!?」


「さい、ごに……竜の肉が、食べたかっ…た……」


「言ってる場合か!?アンタこれから死ぬんだぞ!?」


「それもそう、か……じゃあ、忠告…だ」



最後の最後までふざけようとする師匠を一喝。すると師匠は観念したかの様に目を閉じ、言った。



「燃える様な…赤い、髪の女に、は…気を付けるんだ……おれは、油断…して、臓物、全部を……引き抜かれ、ちまったぁ…」



震える指で師匠が指した先に、元々は白色だったであろう布の袋が赤く染まって置かれていた。


まさか、あの中にあるのが師匠の臓物だって言うのか?



「馬鹿な…師匠からそんな芸当を出来る奴が存在しているのか!?」


「気配を、かんぜん、に…殺してやがっ、た……暗殺者の、類だろうな……背後から、一突きだった……」



それにしても臓物根こそぎ奪われて背中から腹にかけて風穴が開いていると言うのにしぶとい男だ。


流石は無刀情心流の開祖であり俺の師匠を名乗るだけある。



「奴はまだ、近辺に……いるかも、しれねえ…気を、つけ、うぐぁ…!?」



ようやく吐血した師匠が途端に苦しみ始め、息も絶え絶えに空を指差した。


外じゃないから必然的に天井を見る事になるのだが、俺はそれを口にせず黙ってただ天井を見上げた。


師匠は、既に視力を失っている。


それだけ危ない状態なんだ。



「ヘイベイ……俺ぁ、お前さん、みたいな…弟子、を迎えられ、て…心底、嬉しく思う、ぜ……」


「師匠…」


「あぁ…ぁ……本当、なら…直接、手渡して…やりたかった、んだけどよぉ……」



師匠は目が見えないながらも指を迷わせ、壁に立て掛けた刀を指す。


それは師匠が普段から常備していた愛刀だった。使用した痕跡が無いから恐らく一度も抜刀された事がないんだろう。



「そぃ、つを、くれてやる……俺の、【絶命剣ホソルニウ】だ……」


「そんな…!アンタの、大事な物だろ!?」


「黙って、受け取っとけ。昔、遺跡で手に、入れた…魔剣だ……いずれ、無刀情心流を…極めた弟子にやる、つもりだった……それに、俺はもう…使えねえ、からな……」


「そんな事言うなよ…まだ、まだ助かるかもしれないだろ?…そうだ、ゴッドハンド・タケルなら…!」


「奴は、もうここには、いねえよ……もう、分かってんだろ…?」



無刀情心流・観之型。糸川之巡理(しせんのめぐり)


全てが己と繋がる糸と仮定し、数多と繋がる糸の川に意識を巡らせ周囲のモノを探る無刀情心流の基本の型だ。


確かに、俺は師匠が倒れている時点でそれを使い、周辺に誰も居ない事を確認している。



「なんで……ぁ、まさかアンタ…?」


「…バレち、まったか…?」


「わざとか!?暗殺者が来てると分かった上で、ゴッドハンド・タケルを逃がして死を受け入れたのか!?」


「………あぁ」


「なんでそんな無意味な事を!アンタレベルの腕なら暗殺者なんて返り討ちに出来た筈だ!!」


「なんでかねぇ……俺も、多くを殺しちまった…から、かな……もうどこかで、生きるのを…諦めてたのかもしんねえ……いや、諦め、てた…」


「もしかして、暗殺者ってのは…」


「…連合国軍の、刺客…だろうな……そう言ゃ…あの、暗殺者も、連合国の、父の仇、だかなんだか…言ってたな……」



何故師匠が殺されたのか見えてきた。


師匠は先の戦争で金の為、共和国軍に手を貸していたって話だった。


そしてその相手は連合国軍。戦力差からして負けていた共和国は絶大な力を誇るムトウ・ムネヒラと言う男を雇い、見事連合国軍を討った。


連合国はそのまま共和国と合併すると言った形で吸収され、事実的に解体されてしまった。


勿論反対する者も居たが、当時まだ契約状態にあった師匠が共和国の命により駆り出され、抵抗する者は尽く始末されたと言う。


逃れた元連合国民も居るらしいが、行方は知れず、師匠も既に契約を終えた身である為、それ以上の事は知らないらしい。


もし、その元連合国の残党が共和国ではなく、主力として多くの連合国の人間を殺した師匠に憎悪の矛先を向けていたのだとすれば、今回の件は納得がいく。


受け入れられない部分もあるが、因果応報と言うやつだった。



「最初から、死ぬつもりで…」


「そう言うこった……ははっ、ガラでもねえな……ゴハァッ!!?」


「師匠!?」


「あぁ…もう、時間がねえな……最後に、これだけは…伝えとくぜ……」


「…なんだ?」


「旅に出ろ…お前さんは、こんな狭いとこで燻ってる人間じゃ、ねえ……もっと、この広い世界を、生きろ。そんで、幸せになって、死ね。ぁあ、死ぬ時ぁ、もっと寂しいもんかと、思ってたが……弟子に、見守られながら死ぬってのも、悪くねえ……は、ははっ…思ったより、肩透かし…だ……な…――――――」


「ば、馬鹿野郎…!!最後がそんなんで、ありかよ…!!師匠…!!師匠ーーーーー!!!!」



―――師匠は死んだ。最後は安らかな顔をしていたと思う。


そのすぐ後、取り敢えず師匠を土に埋めた俺はその辺で詰んだ花を師匠の墓に捧げ、旅に出た。


復讐の旅ではない。


師匠が生きて、師匠が語ったこの広い世界を、この目で確かめる為の旅だ。


俺は、森に足を踏み入れる。

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