第3話〜序盤の強敵って、普通一体ずつ出てくるのが定番なのでは?〜
「勝った…」
俺の周りに横たわる3体の死体を見やりつつ、ようやく脅威が排除されたことを理解する。
しかしまさかゴブリンを素手で倒せるとは思わなかった。
日々筋トレしてきた成果を実感し、俺はなんとも言えぬ達成感を感じていた。
だが、いつまでもここに留まっているわけにはいかない…
こういった追放系の話では、グリズリーやらシルバーウルフやら、冒頭から規格外の魔物に遭遇して殺されかけるのが王道展開だ。
まぁこんな森で伝説級の魔物に出くわすことなど無いとは思うが、念の為早めに離脱するに越したことはないに決まって…
「は?」
ふと背後に強烈な殺意を感じ慌てて振り返る…
【グルルルゥッ】
【ガァァッウ】
そこにいたのは全長5メートルはあるだろうと言う大きさの黒い熊と、闇夜の中でもまばゆい輝きを放つ白銀の狼だった。
「いやいや…こういうのは普通出て来ても一体だけだろ…?」
確かにフラグを立てた俺も悪いかもしれない。
だがそれにしたってだ。
始まりの王国からほど近い森にこんな伝説級の化け物が、
しかも2体も同時に現れるなど、どう考えてもあり得ないだろう。
いや、もしかしたら見た目だけで実際はそんなに強くないのかもしれな…
ズドンッッッ
軽く威嚇をするように、グリズリーが近くの木を攻撃する。
4,5本まとめて消し飛んでいく木々。
その様子を見て確信する、これは紛う事なく追放系ファンタジーのお約束、伝説の魔物だ。
「あぁ…俺死んだわ」
せっかく迫りくるゴブリンを倒したというのに、その結末がこれとは…
だが、それでも無抵抗のまま殺されるのはやり切れなので、最低限出来ることだけやってから死のう。
そう思い立った俺は、深々とため息をつきながら大きな拳を握り込み、黒い熊と白銀の狼に向かっていた。
ー
ーー
ーーー
「あれ…?」
戦闘を初めておよそ30分。
無我夢中で戦い続けた俺の足元には、大きな熊と狼が横たわっていた。
大きな熊の腹には大きな風穴が空き、白銀の狼の美しい毛は自らの血で赤黒く染まっている。
当然俺も何度も攻撃を受け血塗れだが、まだなんとか動く事ができる。
そこまで状況を理解したところで、初めて俺が勝ったのだと理解した。
「まさか…素手で勝てるとは思わなかったが…」
意外とこの世界の生物は耐久性がないのだろうか?
何にせよ、生き残れたのは僥倖というよりほかはない。
とりあえず、いったん体力を回復してすぐにこの森を抜けてしまおう。そう思った矢先、、
「動かないで」
首に冷たい何かを当てられた状態で、後ろから声をかけられる。
相手は声からして女性のようだが、首筋に当てられているものから察するに敵意があるのは明確だった。
「…心配しなくても連戦続きで、もう抵抗する気力なんてないさ。殺したいなら殺せばいい」
「…」
後ろの女性はしばらく迷った様子だったが、俺の言葉に偽りがないことを判断したのか剣を下ろす。
「…抵抗しないなら殺す気はないわ。ただ少し話を聞きたいだけ」
彼女の言葉に安堵して振り返る。
するとそこには黄金の長い髪と、宝石のような透き通った碧い目が特徴的な同い年くらいの少女が立っていた。
「殺さないってのは助かるが…話せることなんて何もないぞ?」
「いいえ、あるわよ。だってあなたは転移者でしょ?」
「そうだけど…なんでそんな事知ってるんだ?」
彼女は見た目こそ貴族のような気品や美しさがあるが、来ている衣服などを見る限り王族の関係者というわけでは無さそうだ。
そんな彼女が異世界からの転移者についての情報を知っているのは少し不自然に感じる。
「あの国が聖王候補を探してるって話は前から耳にしてたからね。それで見慣れない衣服を来ているあなたを見て、もしかしてって思ったのよ」
「なるほど…」
それでコンタクトを取ってきたということは、王族に関して何かしらの情報を知りたいということだろうか?
「そんな構えなくてもいいわ、聞きたいのは単純な話。あなた達は多分グループで転移してきたんでしょ?そしたらその人数を教えてほしいの」
「転移したのは俺を含めて30人だが…それだけか?」
「30人か、結構多いわね…ええ、聞きたいのはそれだけよ、ありがとう」
「あ、おい!ちょっと待ってくれ!」
少女は軽く会釈すると、そのまま歩いて行ってしまいそうになったので、慌てて呼び止める。
「まだ何かあるの?」
「近くに町か村はないか?長い時間森でさまよってるから、そろそろ安全な場所で休みたいんだ」
「えっと…それなら国に戻ればいいんじゃないの?」
「出来るならそうしたいんだけどな…あいにくスキルに恵まれなかったせいで追放されちまったんだよ」
「あぁ…なるほどね…」
それだけで状況を理解してくれたらしく、少女は少し呆れたようにため息をつく。
「いいわ、じゃあ安全な場所まで連れて行ってあげる」
「本当か?助かる!」
「いいわよ、私もちょうど村に戻ろうと思っていたから」
そう言って彼女は再び歩きはじめる。
そんな彼女の様子を見て、俺も慌ててその後ろに続いた。