第1話〜そっち都合で転移させたのに不要になった瞬間追放するのさすがに理不尽〜
健全なる精神は健全なる身体に宿る
遥か昔にローマの詩人がそう詠ったそうだが、この言葉こそ俺の根幹を成す考え、
言わば座右の銘とも言える言葉である。
強い心を作るには、誰にも負けない強靭な肉体を持たなくてはならない。
逆に言えばその2つを持ち合わせた時、誰にも負けない最強の力を手に入れられるのだ。
そう信じて、俺は中学2年から筋トレを初め、高校3年の今日まで欠かさずに厳しいトレーニングを続けてきた。
それにも関わらず…
【テンマ・ヤガミ】
クラス − ファイター
スキル − 無し
クラス − D
「苦労して呼び寄せた転生者が何のスキルも持たぬゴミとは…おい!今すぐこやつをつまみ出せ!!」
異世界に転生された直後、俺は最弱のレッテルを貼られ…
「はははっ八神の野郎だっせぇ!」
「さすがに1人だけ無能力とかちょっとねぇ〜」
クラスメイトにも嘲られながら、俺はいきなり国外追放となってしまったのだった。
―
――
―――
事の発端は今から2時間前のこと。
この俺、八神天磨が所属する都立青奥高校では、創立記念の式典の準備が進められていた。
学校の取り決めで俺達2年B組の生徒は、式典の設営等の準備を行うため、通常の登校時間から1時間早く集合となっており、今学校にいるのは俺達だけの状況だ。
そういう理由で誰かに聞かれる心配もないためか、愚痴をこぼす生徒も数多くいた。
「なんで2Bだけ準備手伝わなきゃならねぇんだよ、だりー」
「その代わり撤収はA組がやるんだから平等でしょー、いいから黙ってやりなさいよ」
文句を言う男子生徒と、それをたしなめる女子生徒
アニメなんかではよく見るシチュエーションだが、実際に目にするとどこか滑稽である。
俺はそんな奴らをよそ目に、黙々と椅子や机などを体育館へと運び込み、設営を進めていく。
「ほら、八神くんはちゃんと準備してくれてるわよ?」
「アイツは他にやることねぇだけだって」
「ってか真面目ぶっていい格好したいだけじゃねぇの?」
人が黙っているのをいいことに、言いたい放題言ってくる男子生徒。
しかし、女子がいる時に限って悪ぶってるアピールする男はいったいなんなんだ…
そういうのは中学生で卒業しろと言ってやりたい。
まぁ思うだけで直接言うわけではないのだが…。
とまぁ心の中で悪態をつきながら、設営の準備を追え、あとは他のクラス、学年の生徒や教師を待つだけになったのだが、そこで事件が起きた。
体育館の中心に突然魔法陣のようなものが現れ、そこにいた人間、つまり2Bのクラスメイトを囲い込んだのである。
「え、なにこれ!!?」
「おい!早く逃げたほうがいいんじゃないか?!」
「ちょっと!みんな落ち着いてよ!」
突然の事態に阿鼻叫喚な様子のクラスメイト一同。
だがそんな俺達を無視するかのごとく魔法陣は強い光を放ち…
次の瞬間に俺達は王宮のような場所に飛ばされ、そこで宰相を名乗る人物から、事の詳細を聞かされることになったのである。
宰相から話された内容は、まぁ見事に異世界転生物のテンプレのような話だった。
この世界を統治するために、次世代の聖王と呼ばれる存在を生み出す必要がある。
聖王になれるものはこの世界で最強の力を持つものに限られるが、そういった存在を生み出すためには、自然発生させるよりも、人工的に作り出したほうが効率がいいらしい。
幸い、異世界からやってきた人間には、転移に際して異能という特殊な力が付与されるらしく、
その異能者を大量に呼び込むことで、この聖王を生み出せる確率が飛躍的に向上する。
そこで今回偶然にも、俺達のクラスが転移対象に選ばれたということだった。
この話を聞いた後、俺達はどんな異能を付与されたのかを確かめるべく、宰相によるスキルチェックが行われた。
さすがは異能を授かった転移者というだけあって、
やれ時空切断だの、時間停止だの、剣聖だの聖女だの…
聞いただけで強者と分かるようなスキルが次々に判明していく。
そんな中で唯一人、この俺だけが、なんのスキルも与えられなかった無能力者であることが分かり、冒頭の追放に繋がったというわけである。
同郷であるはずのクラスメイトも、自分達が特別だと分かった瞬間、無能力の俺を見る目が変わり、誰一人として手を差し伸べるものはいなかった。
たかだか同じクラスで数ヶ月過ごしただけの人間関係がいかに希薄か、俺は我が身をもってそれを痛感することになったというわけである。
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ーー
ーーー
「普通こういうのって、最低限の装備と金くらいは持たせてから追放するもんじゃないのか?」
あの国には俺がよほど不要だったのだろう。
向こうの都合で転移させたくせに、追放した俺には最低限の荷物すら持たせようとせず、俺は学生服というなんの防御力もない衣服を着て、人気のない森を練り歩くハメになってしまった。
せめて、危険な魔物なんかに出くわす前に人気のある街などに辿り着かなければ…
追放された虚しさや、知らない異世界で一人になってしまった心細さを何とかごまかしながら、俺はただ生存本能のみを頼りに森を歩いた。
しかし…都合よく敵に遭遇せずに街につけるだけの運があるなら、最初からこんな状況には陥らないのだろう。
突然のけたたましい叫び声とともに、俺の目の前には3体のゴブリンが現れたのだった。