秘密
翌日、さっそく交流を図ろうと思ったのに、アーヴィングは休暇を願い出ていた。
「んもうっ、せっかく遊びに誘おうと思ってたのに!」
出鼻をくじかれ意気消沈するものの、落ち込んでばかりもいられない。何度も言うけど時間は有効に使わなくちゃ。
当人がいないのなら、むしろ状況を逆手にとって彼についての情報を集めればいいのよ。
そう決めて、あたしはアーヴィングの代わりに護衛についている傭兵を呼び、おしゃべりに誘う。
「アーヴィングってときどきこうして急にお休みをとることがあるのだけれど、なにか家で困っていたりするのかしら?」
使用人を気遣う優しい雇用主を装い、アーヴィングの周辺環境に探りを入れる。
あたしの下心など知らぬ青年はのんきそうに、
「あいつ、正義感が強くて街の青年自警団の団長もやってるんです。多分、捜索隊に参加してるんじゃないですかね」
「捜索隊?」
「なんか、昨晩からお貴族さまが帰ってこないらしくって、今朝から森を捜すらしいです。名前なんてったか……レナだったかリジーだかそんな名前のロビー家のお嬢さまでした」
帰ってこないだなんて家出かしら。簡単にはなれない貴族の血に生まれついて、何の不満があるというのだろう。あたしには到底理解できない。
あたしが黙り込んだのを不安に思っていると勘違いしたのだろう。彼は慌てて、
「多分、駆け落ちだと思いますよ。結構多いんですよね。ほら、ずっと西の大きな街まで出たら船があるじゃないですか。そこへ行くには森を抜けるのが追っ手もまけるし一番手っ取り早いんですよ」
「まぁ、そうなの」
アーヴィングが青年団に所属していたことも、そこの責任者をやっていたことも初めて知った。
改めて本当に今まで彼のことは一切気にかけていなかったと思い知る。人生をあれほど繰り返していたというのに。
あたしは更に質問を重ねる。
「ところでアーヴィングは、交際している女性はいるのかしら?」
直球すぎたかしら。
彼は一瞬ぎょっとしたものの、勤め人らしくなにも気づかなかったのを装って思案顔をみせる。
答えが「はい」でも「いいえ」であってもアーヴィングをあきらめるつもりは毛頭ない。こっちとしては人生がかかっている。遠慮するつもりはなかった。
ただ、存在の有無によって攻め方を変える必要はあるかもしれないと思ってのことだった。
「そういや、聞きませんね。あいつ、外見の割に真面目ですから」
「いるんだと思ってたわ」
「騎士だし、あの見た目なんで、モテるんですけどね……」
はっきりと確証はなくても片鱗はないのか。そう尋ね直すも返ってくる答えは同じだった。
「……興味の対象が女性ではないってことは、ないわよね?」
嫌な予感にかられて質問をかえると、しばらく考え込んだ後、彼はこう答えた。
「それはないと思いますよ。あいつ、ペンダントに女の絵をいれてますから。なんか、すごく大事にしてるみたいで見せてくれないんですけどね」