表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/56

8

「誕生日まで待って欲しい」

 言わなくちゃいけないと思って、口を開こうとすると、リンはおれの顎を掴み、自分の方に向けさせ、口を合わせた。

 互いの舌を舐めあいながら貪るキスはおれも嫌いじゃない。だけど、今はもっと大事な話があって…

 背後からしっかりと腰を捕まえられて身動きの出来ないおれは、身体を這うリンの指先にも刺激を受けて次第に息が上がる。


「リ、リン…おれ…あの…」声が裏返ってうまく言葉が紡げない。

「いやなの?」

 リンの甘い囁きにおれは、力なく首を横に振る。

 嫌じゃない…そうじゃないけれど…

「いつまでもじらさないでおくれよ。俺も気の長い方じゃないんだ。ねえ、いいだろう?」

 リンの唇が、おれの耳の後ろから首筋を伝わっていくのがわかる。

 ぞくりとする。

 リンはおれの感じる場所を知り尽くしているのかもしれない。

 抵抗なんてひとつも出来ない。


 カチャリと音がして朦朧となりかけたおれの意識が引き戻された。

 下を向くと自分の足元がぼんやりと見える。気が付かないうちに眼鏡を取り外されたらしい。

 リンは全く躊躇いもせずに、ベルトを外した俺のズボンに中に手を滑り込ませ、下着の上からではなく、直接おれのものに触り始めた。

 「あ…」

 おれは息を飲み込んだ。そして急いで右左と辺りを見渡した。勿論裸眼で0,1もない視力では誰かが居たとしても、はっきりと見えるわけではない。

 だけど、まだ宵の口で、しかも外からでも見ようと思えば丸見えの温室の中だ。

 リンは本気でこんなところでおれを抱こうとしているんだろうか…

 それともこれくらいで動揺するおれの方が、ガキなのか…


 おれはリンの恋人で、俺はリンを好きで、リンは俺を好きで…お互いに欲しいと思っていて…セックスしたいと望んでいて…それから…

 おれは居たたまれず、目を強く閉じた。

 

 リンの触り方は巧みだった。おれが自分でするよりも遥かに要領を得、快感を与えてくれる。

 だけどおれはそれが怖かった。

 リンに一方的に与えられ、翻弄されまくっている自分は嫌だ。


 セックスってそういうものなのか?

 おれがまだ何も知らないガキだとしても、おまえに抱かれる側であっても、こんなに惨めな気分でおまえに好きなようにいかされて…

 リン、おれはおまえと分かち合いたいんだよ。互いの気持ちを確認しあって、見つめ合って、ゆっくりとひとつずつ繋ぎ合わせて、快楽に委ね、与え合い、一緒に辿り着く。

 おれはおまえとそういう風に抱き合いたいと思っている。

 それはくだらない勝手な妄想でしかないのか?


「うっ…っ…」

 おれはいつの間にか泣いていた。

 自分の嗚咽に自分で驚いたが、止まらなかった。

 両手で顔を覆い、「無理だよ」と、しゃくりあげながら掠れた声をだした。

 リンは動きを止め、きつく抱きしめていた片方の手の力を弛めた。

 力の抜けたおれはその場にしゃがみこみ、泣き続けた。


「ミナ…ごめん。ごめんな。そんなに嫌がるなんて…思わなかった…」

 リンの心配そうな声が、おれの胸を更に締め付けた。

「もうしないから…泣かないで…」

 頭を撫でてくれるリンの優しさが、酷く無神経に思えた。


 …ちがう、宿禰が悪いんじゃない。おれがバカみたいに夢を見ていたのがいけなかったんだ。

 おまえが欲しいのにおまえにやる勇気もない…

 おれは…なにも、おまえに応える事なんかできやしない、くだらない男なんだ。


 おれは机に置いてあった眼鏡とカバンを持つと、宿禰の姿を一瞥もすることもなく、逃げるように温室から走り去った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ