表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/56

8

以下の物語と連動しております。


宿禰凛一編「only one」

http://ncode.syosetu.com/n8107h/


宿禰慧一編「GLORIA」

http://ncode.syosetu.com/n8100h/


藤宮紫乃編「早春散歩」

http://ncode.syosetu.com/n2768i

8、

 …明日は会えない。どういうことだ?

 リンの言葉に戸惑ってしまった。

「…どうしたのさ」

『今、成田なんだ。今からニューヨークへ行く』

 ニューヨーク?どうして?

 そうか…慧一さん絡みに違いない。

「慧一さんに…何かあった?」

 震える声で問う。

 リンに悟られなきゃいいけれど…

『うん。どうしても行かなきゃならなくなったんだ』

 焦ったリンの声が響いた。本当に心配な状況にあるんだろう。

 だけど、おれだって…

「そう…残念だよ。…楽しみにしてた…」

『ごめん。ごめんな、ミナ。この埋め合わせはちゃんとするから…』

 切羽詰った声だった。

 これ以上リンを責めてはいけないと感じた。

「いいよ。気にしないでくれ。緊急なことなんだろうから、仕方ないよ。気をつけてね、リン。年を越したら学校で会おう」

 精一杯平気な振りをした。

 電話を切った後、少しだけ涙が溢れた。

 だって仕方が無い。本当にすごく楽しみにしていたんだ。

 リンとふたりだけで過ごせる高校最後のクリスマスを…

 楽しみたかったんだ…


 翌日の寮祭もお祭り騒ぎの皆に合わせて、はしゃいだりもするけど、やっぱり寂しい。

 同室の三上はなにかとおれを気遣ってくれるけれど…

「水川、そんな顔をするなよ。宿禰ものっぴきならない急用があったんだよ。あいつ、約束を簡単に破る奴じゃないもの」

「わかってるよ、三上。わかってる…」

 わかっているさ。

 …リンにとって慧一さんがどんなに大切な人か。

 血の繋がった兄というだけの関係じゃない。もっと深い絆であのふたりは結ばれている。

 おれが辿り着けない場所で、あの兄弟は理解し合えることができるんだ。

 慧一さんにはリンしかいない。もしそうなった時、リンはどうするのだろう。

 リンは何を差し置いてでも、慧一さんを選ぶんじゃないだろうか…


 それは確信だった。

 そう結論付けてしまったら、後に残る答えは必然的にひとつしかない。


 リンが選ぶのはおれじゃないって事だ。



 世田谷の実家に帰ってからもリンからの連絡はなかった。

 いくら思いあぐねても仕方ないから、一心に勉強に励んだ。

 勉強をしていれば、なんとかリンの事は忘れられる。

 晦日、リンからメールが届いた。

 慧一さんが不本意にリストラされたこと、何とか再就職が出来たこと。ニューヘヴンをいう街に引っ越しだこと。慧一さんが落ち着くまで、そこで一緒に暮すこと…

 最後に、「T大合格は二人の目標だから、精一杯頑張ること!」と、じられていた。

 

 ふたりの目標…リンはそう思っている。

 だったらおれも頑張らなきゃならない。

 リンの本音がどうであれ、おれに出来ることはリンを信じることだけなはずだ。

 リンを疑っている時点で、おれは慧一さんに戦いを挑む権利など持たなくなってしまうんだ。

 リンを愛している。だったら、おれは最後までリンを信じるだけだ。


 新年が明けた。

 おれは寮に戻った。

 わかっているが、リンは帰ってこない。

 去年も一昨年も一緒に行った八幡宮へ独りで初詣に行った。

 一緒に大学へ行けますようにと祈願した。

 リンの分のお守りを買って、大事にポケットに入れた。

 おみくじを二人分引いた。ふたりとも大吉だった。

 リンといつも一緒にいれる様にと、ふたつのおみくじを合わせて木に括りつけた。

 一年前も二年前も、リンはこうしてくれた。

 今はリンは居ないけれど、きっと一緒ならこうしてくれるに決まっている。

 大丈夫だ。おれはリンを信じられる…



 三年生の三学期は、基本自由登校だ。

 私立の進学校だから、遠方の生徒は帰省したまま、戻らない奴も多い。

 俺も授業は選んで、補習に力を入れた。 図書館や自習室に篭もる時間も多い。

 骨休みは温室で過ごした。

 水やりや草木のデッサンをしているだけで心にゆとりが持てる。

 無心に植物を描いていると、その隙間にどうしてもリンの影を描き込んでしまうクセがついた。

 リンと温室の植物たちは、おれの絵には当たり前に必要な題材となってしまっていたんだ。

 居ないリンの姿が温室のあちらこちらにはっきりと見えてしまう。その姿をデッサンするのは容易い。

 リンの笑った顔や真剣な顔、ちょっとひねくれたり凄んでみたり…ああ、どんな表情だって、描ける喜び。

「リン、早く帰って来いよ…」

 そう声に出して途端、涙が溢れ止まらなくなった。


「ばかだなあ…おれ…ほんと、ばかだ…」

 だって、ほんとうに、リンが、好きで…好きでたまらないんだよ。



挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ