17
以下の物語と連動しております。
宿禰凛一編「only one」
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宿禰慧一編「GLORIA」
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藤宮紫乃編「早春散歩」
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17、
長い正月が終わった。
名残惜しそうな母親の姿にも振り返ることもなく、そそくさと鎌倉の寮へ帰った。
翌日にはリンと初詣に行く約束をしている。
年末に別れて一週間程しか経っていないのに、一刻も早くリンに会いたい。
リンの顔を見たくてたまらない。
キスしたい。それ以上のことも…
禁断症状ってこんな感じなのかな。
それとも本当に色きちがいになってしまったのかな…
なんだっていい。
リンが傍に居てくれれば、おれは生きている喜びを味わうことが出来る。
翌日、初詣に出かける。
リンと会った途端、「ミナの顔を見たらしたくなった」と、言われ、おれは自分の欲望を見透かされたんじゃないかとしどろもどろになってしまった。
すぐに良く二人が使うホテルでわけがわからなくなるほどやった。
リンはいつもと違って乱暴におれを抱く。
普段はもっと気を使ってくれるのにと、少し不安になった。
病み上がりの所為か体力の消耗はリンの方が酷くて、終わった途端、おれの身体に突っ伏して言葉も出てこないほどに呼吸を乱す。そのくせ少し元気になると、「ね、やろう?」と俺に笑いかける。
おれが断れるわけがないことを知っているから癪にさわるけど、こっちだって負けないくらい欲しがっているから伏せ目がちになりながらも嬉しくて堪らない。
今日のリンはおれを抱きながら何かに耐えているような顔を見せる。
おれを見つめていても、本当はおれを素通りして見えないものと対峙している…そんな気がしてならない。
おれはリンに対して何か崇高なものを感じてしまうことが稀にある。
背中の羽は見えないけれど、リンは少しだけ人間離れしている。それがいいか悪いかは別にして、やはり彼は特別な者なのだろう…(彼の外見を見て判断する多くの奴等をおれはバカにしているが、実は彼の真実を見ぬいているのかもしれない)
一体全体何故リンみたいな奴がおれのような平凡を絵に描いた男を選んだのかは、未だにわからない。
リンは「俺がミナを選んだんだ。ミナだって俺を受け入れてくれた。それは奇跡とも言えるし必然とも言える。だけど恋はロマンチックの方がいい。ならば深く味わって酔ってしまおうよ。よりファンタステックに…」
その顔じゃなきゃとても言えない台詞だ。
口からでまかせのところもあるお調子者のリンだから、おれも全部が全部信じてはいないけど、彼のおれへの愛情は本物だと…そう信じることが出来るから、おれも繋いだ手を離したくない。
恋は期間限定と誰しもが言う。
もし、リンの愛情が冷めたら、おれはどうしたらいいのだろう。
泣き言を言って困らせるのか、一生恨んでやると罵るのか、かっこつけてお互いに楽しんだよなと握手をして別れるのか…
別れの場面などおれには見当もつかない。
ベッドの中、裸のまま寄り添っている。
ついこの間まで酷い高熱で大変だったんだと愚痴るから、てっきり家族と一緒だと思っていたが、ご両親は居なくて、慧一さんがずっと看病してくれていたのだと言う。
それを聞いた途端、今まで感じていたリンへの愛情が変な気持ちへ変わってしまった。
無論愛ゆえの嫉妬に他ならない。
おれにとって慧一さんは鬼門だ。
体育祭の時のあの人のリンを見つめる横顔を見たときから、おれにはあの人がリンをただの弟としての愛情ではなく、恋人として…リンを欲しているのではないかとの疑念が、時間が経つにつれ確信となりつつある。
おれは慧一さんを近くで見たことも話したこともないけれど、あの人が心の底からリンがおれと付き合っていることを祝福しているとは、到底思えないんだ。
どう考えてみてもあの人にとってリンは特別な存在であるはずだ。
リン自身がそれを言う。
いつだって慧一さんに対する恩や愛情を恋人のおれに余す事無くなく見せつける。
それほどまでに兄弟の愛情というものが厚いものなのかと、兄弟のいないおれは初めは珍しがっては見たものの、どう考えてもリンと慧一さんの間には、兄弟以上の絆が見えてしまうんだ。
リンと慧一さんの間に身体の関係があるとしても、それはそう驚く事でもない気がする。ありえると思わせてしまう。あの兄弟にはそれが違和感ともまた悪行とも感じさせない力がある。
リンが真実欲しいものは慧一さんじゃないだろうか…
おれは時折思ってしまう。
だけどそれを問いただす勇気などあるはずがないじゃないか。
もしそれを肯定され、おまえなんかいらないと言い出されたら、おれはどうすればいい。
本来の目的の八幡さまに御参りした後、帰り道を並んで歩く。
リンは一緒にT大学を目指そうとおれに言う。
おれは突然のリンの申し出に言葉を失う。
本当に?…本当におれと一緒に受験してくれるのか?
心の底から舞い上がる気持ちは抑えきれない。
さっきまでの不安な気持ちはいとも簡単に霧散する。
それがおれへの形ばかりの優しさであったとしても…
悲しみも喜びもいつだって、おまえがおれに与えてくれる。
おれはね、リン…
もうおまえから逃れられない囚人になってしまったんだ。
だから、もう…
おれはただおまえの一部分であり続けたいだけなのかもしれない。
離さないでくれ。
繋がれた手錠の鍵は失くしたままでいてくれ。
ねえ、リン、お願いだから…
「焦点」は終わりです。
次のミナ編は「フラクタル」です。
よろしくお願いします。