表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/56

15

以下の物語と連動しております。


宿禰凛一編「only one」

http://ncode.syosetu.com/n8107h/


宿禰慧一編「GLORIA」

http://ncode.syosetu.com/n8100h/


藤宮紫乃編「早春散歩」

http://ncode.syosetu.com/n2768i

15、

 寮祭のクリスマスパーティは二度目の事だし、おれも後輩の手前おどおどしたりはしないつもりだが、リンが傍にいると、意識をしなくてもこちらへの視線をやたら感じるから違った緊張感がある。

 最もその目線の目的はおれじゃなくてリンなのだが…

 後輩はおれに気を使ってか、おれがリンといる時は遠巻きに見ているだけだが、リンがおれから離れた途端、リンに近づいては話しかけたりしている。リンも無駄に愛想良いから後輩からのクリスマスプレゼントをもらってはニコニコしたり、頬にキスしたりと…あいつにとっては当たり前の礼儀を執り行っている。

 あいつは…そういうことを恋人のおれの目の前でやっても、おれが何とも思わないと思ってやっているのか、その逆なのかわからないが、どっちにせよ問題ありまくりだろ、バカ!


 ホールの隅のテーブルに盛られたバイキングのサンドイッチやオードブルを自棄食いしていると、寮生の三上が溜息を付きながらおれの横で同じように手持ちの皿にから揚げを取りまくっている。

「あいつは本当にモテていいよなあ~。親友の俺にも分けて欲しいよ」

「…男でいいのか?」

 このから揚げの油を口の周りにテカらせている宿禰の親友という三上はノーマルだったはずだ。

「別に男を恋人にしたいとは思わないけどさ、男でも女でも好かれるっているのは気持ちいいものじゃないか?」

「無駄な好意は疲れるだろう。おれはこっちが受け取れない好意は重荷になるだけだから、双方合意の上でって奴が気が楽だと思うけどな」

「まあ、人それぞれだろうし、その好意の種類にもよるだろうが、宿禰への好意って奴は憧れっていう部分が多いだろ?見ろよ、あの後輩どもの赤面した顔。ありゃファン集いの会だぜ」

「三上、あんまり言うと僻みを超えて自分が惨めになるだけだぞ。それじゃなくてもおれを見ろよ。一応、おれはあいつの恋人だぜ?なのに…おい、笑うとこじゃない!」

 から揚げをフォークに突き刺して笑い転げている三上の皿を取り上げた。

「いや、水川って見かけによらず面白いというか…おまえ性格変わったんじゃねえ?」

「ああ、誰かのおかげでゆりかごからたたき起こされたんだよ。行く道を迷うばかりだ」

「手を引っ張ってもらえよ、王子様から」

 先刻のロビーでの一件を見られたのだろう。さすがにあれは凍りついた。

 たまたま後ろにいた舎監の保井先生も口をぽかんと開けていたくらいだからな。

「…見てたのかよ」

「まあな」

 リンは全く動じもしないんだが、おれは顔を赤くしたり青くしたりで…正直肝の縮む思いだった。

「宿禰は見かけはああだし、色々心配だろうけどね。水川は自分が変わったって言うけど、宿禰の親友の俺から言わしてもらえばさ、宿禰も随分変わったって気がするよ。上っ面は変わらないけど、人に対する信頼感が厚くなったっていうか…優しくなった。きっと水川が宿禰を変えたんだと思う。恋愛ってお互いを感化しあうっていうじゃない。それがいい方向に育っていければ人間的に成長するんだろうね」

「三上は…成長してる?」

「俺?」

「うん、彼女とうまくいってる?」

 確かこいつが付き合っている彼女って、隣町の女子高のユミちゃんとか…リンから聞いたことがあったんだが…

「うん…あんまり会ってないかな…」

「なんで?」

「恋って沸騰してしまえばそれ以上温度が上がらないというか…話すもんがなくなったら沈黙が訪れる…水川はそんなことない?」

「おれ…たち?」

「うん」

「…」

 考えてみたが、ふたりでいる時に話のネタに詰まったことはあまりない。一緒にいたって黙って違う本を読んでいたりもするし、話が続かなくても気まずくなるなんてこともない。

 第一そういう事にお互いが気をかけていない。

「今のところは…ないかも」

「じゃあ、まだ大丈夫だな」

「まだって…」

「いつかは冷める…それが恋なのかもな」

「…」

 恋は期間限定なんて誰が決めたんだろう。

 おれとリンには期限なんてない。冷めたりしない、絶対に…


「あ、根本先輩だ」

 ホールのドアが開き、スポットライトを浴びた根本先輩がもったいぶった様子で入場する。

 余興と称して体育祭の応援団で来たドレスを身に着け、アイドルのような歓声を受けて手を振っている。

 それに合わせるように会場がリンと先輩のダンスをコールし始めた。

 リンは少し嫌がるフリをして、しょうがないなと頭を掻きながらホールの中央に立つ先輩の手を取った。

 そういえば去年は美間坂さんとリンは踊ったんだっけ…あの時は女性役だったけど、今日はネコ先輩を綺麗にリードして…そりゃ、体育祭の為に相当な練習をしてきたふたりだから息が合うのは当前だが…三ヶ月のブランクもひとつも感じさせずにふたりは一曲を完璧に踊りこなした。

 最後の口唇同士のキスも再現されて、拍手喝采の中、リンと先輩は仲良く抱き合っている。


 …いつもの事だから大目にみるけどさ…

 ああいう恋人だから諦めもするけどさ…

 リン、おれは聖人じゃねえぞっ!


 怒りが頂点に向かいつつあるおれを知ってかどうかはわからないが、能天気なリンはおれの方に駆け寄って飲み物をくれと言う。

 無視してやると「折角のパーティなんだから怒るなよ。見たくなかったら目を閉じてりゃいいんだ。どっちにしろ、これが終わったら俺はずっとミナのもんだからさ」と、耳打ちされた。

 弱いところを見破られてぐうの音もでない。


 ホールの明かりが暗くなってノスタルジーなクリスマスブルースが流れる。

 男子学生しかいないのに、何故か曲にあわせて何組かのペアが踊っている。

 頭を傾げているおれの手を取って、リンはホールの中央へおれを連れて行く。

 片手を繋ぎ見合わせて腰を軽く引き寄せる。

「リン!おれ、踊れないっ!」

 恥ずかしいのもあるけれど、本当にこんな社交ダンスみたいなのは無理だよ。

「身体を揺らしていればいいさ。俺に合わせてね」

「だけど…」

「ほら、頭を肩に乗せて…ね」

 リンに導かれるままにおれはリンの身体に寄り添うようにして、頭を擡げた。

 ゆっくりと回るミラーボールが薄暗いホールの床をキラキラさせている。

 リンに抱かれて身体を揺らせて踊っている自分が不思議でならない。

 本当にこれがあの水川青弥なのか?

 まるで水の中に漂うみたいに…時折呼吸が苦しくて…でも気持ちよくて…

 なんだか夢みたいだと笑うと「笑ったミナも怒ったミナも全部好きだよ。まさに俺たちは夢の中だ。お互いに夢中になっているんだ」

 そう笑ったリンこそ夢みたい消えてしまいそうで、おれはリンの背中を強く抱き締める。


 

 寮祭が終わった後、リンのマンションでふたりだけのクリスマスを祝う。

 お互いのプレゼントを交換しあった後、ワインで乾杯した。

 キャンドルを灯しただけの暖かいリビングでおれ達は抱き合った。

 まるで夢の続きをみているみたいに幸せで、ずっと終わらなければいいのにと思うけれどね…

 そのまま床暖房の効いた床に毛布に包まって寝ていたんだが、ふと目が覚めて抱き合って寝ていたはずのリンの姿がないことに気づいた。上半身を起こしてリンの姿を探した。

 暗闇に慣れた目がやっとリンの姿を見つけた。

 リビングの向こう…ベランダに続く硝子のドアからリンが見えた。近づいてそっと様子を伺う。

 リンはベランダの柵に凭れて空を仰いでいた。

 真冬の深夜なのに薄着のまま、じっと空を仰いだまま動かない。

 サンタクロースのプレゼントでも待っているのだろうか…

 …いいや、違う。リンが待っているのは、彼を最も愛する者達なのだろう。


 おれはリンを愛している。彼への愛は誰にも負けたくないと思っている。だけど、どうしても勝てない者がいる。

 リンの家族…亡くなっているお母さんやお姉さん、そして遠く離れてもいつもリンの事を思っているであろう慧一さん。

 愛してきた時間と重さはおれには到底敵わないものだ。だけど、おれは迷わないよ、リン。

 おまえが気づく時まで、おれはおまえを見つめ続けるんだ。

 そう決めたのだから。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ