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以下の物語と連動しております。
宿禰凛一編「only one」
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宿禰慧一編「GLORIA」
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藤宮紫乃編「早春散歩」
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5、
高校二度目の夏季休暇が始まった。
去年と同じように、学院の特別講習の受講の為、おれは実家へは帰らず寮から学校に通う毎日だ。
去年と違うのは授業の選択だ。
国立大学希望者は文理に関係なく全科目の講習を受ける事になる。
今年は午前も午後も拘束されるわけだ。
温室でリンと会う回数は少なくなるが、仕方がない。
どっちみち…
毎週末ではないが、月に二回はリンのマンションへのお泊りコースを選んでいる。
同室の根本先輩は恨めしそうに、
「君たちはいいなあ~恰好のラブホテルがあってさ。時間もお金も気にしなくてもいい。何より親がいないなんてさ。これ以上の環境はないじゃない。真に羨ましい限りだよ」
「先輩は寮全室がラブホテルじゃないですか。節操がないんだから。それに…ケンカでもしたんですか?保井先生、近頃機嫌悪いみたい。とばっちりが来る前に早く仲直りしてください」
「保井は僕を縛り付けたいだけなのさ。僕は敬虔な使徒じゃないもの。移ろいやすいカナリヤさ」
「…カナリヤって、籠の鳥の比喩ですよ。むしろ自由の象徴はカモメでしょう」
「やだよ。みなっち、チェーホフのかもめ知ってる?剥製になるんだよ。自由のために羽ばたいた一羽のかもめが男のために剥製にされる悲しさよ…いつだってか弱く美しい者は虐げられれる運命なんだ」
「…」誰がか弱く美しい…だよ。
確かに根本先輩はそこらへんのアイドルよりかわいいって言われてるけれど。それに「かもめ」ってそんな話だったか?
ベッドに突っ伏して泣きまねをする先輩の背中を見ながら、ストーリーを追いかけてみるが思い出せない。いいや、後でリンに聞こう。
おれはいつものように勉強道具だけを持って部屋を出る。
「じゃあ、行ってきます。届けには実家に帰りますって書いてますのでよろしくお願いします」
「かわいそうなぼくを見捨てていくの~」
先輩はオーバーにうつ伏せて泣き叫びながら、手を振ってくれた。
…実にイイヒトだ。
リンのマンションには何度も出向いているけれど、どうしても慣れない。
いつの整然としててキレイだし、なんだか人が住んでいると滲み出る汚れというものが極端に少ない。それを問うとリンは「こう見えてもおれは案外神経質でね。見えるところに余計なものを置きたくないんだよね。それにひとりだから使う空間も少ないじゃない。俺、家では煙草も極力吸わないしね。だから綺麗なんじゃないかな」
その言葉の裏に存在するリンの孤独が悲しい。
晴れた真夜中、広いベランダでふたり寄り添ってよく夜景を見た。
現実の世界、勉強や受験や家族に縛られている自分自身を解放できる気がする。生きているしがらみにも寄せ付けない別空間にいるようだ。
それを言うとリンは笑って「縛られていると思っているうちが花。何かに縛られている方が…本当は楽なのかもしれない…」
そういうリンの横顔は孤独だ。
おれはいつだってリンの中に孤高ともいえる他の者とはかけ離れた感受性、情感、思考、思想に惹き付けられている。
誰に対しても物怖じしない天性の人懐っこさは、おれみたいな内気で臆病な人間には輝ける存在だし、それでなくてもあの容貌だ。すれ違う半分の人はリンをもう一度見るために振り返る。
表情豊かに雄弁に想像と空想世界を語りつくすリンに、おれも同時に飛翔している気分にさせられる。
それとは逆に、自分の決めた範囲内に決して近づけない距離感。気に入らない者への無慈悲なまでの冷淡さ。
おれにさえ見せようとしないリンの本当の心の内には一体何があるのだろう。
「8月には兄貴が帰ってくるから、ミナを家には呼べないけど、我慢してくれよな」
終わった後、リンのベッドで身体をくっつけ合いながらリンは言う。
「わかった。良かったね、お兄さんが一緒ならリンも寂しくないだろう」
「…」
「なに?」
「もっと、寂しがって欲しいっていうか…残念って顔するのかと思ったら、意外だった。本音は解放されて嬉しい?」
「そんなこと、あるわけがなかろう。たださ…」
「なに?」
「…なんでもない」
「言えよ」
「もう眠たいからさ。眠ろうよ。ここに来なくたって、おれ達はいつだって温室で会えるじゃないか」
「見事にはぐらかされた…まあ、いいけどね」
リンはおれの頭をぽんぽんと叩きながら、サイドテーブルの灯りを消した。
本当は…嫌だった。
ここに来れなくなるのも、このままセックスを続けてその果てを見るのも…リンのお兄さんがリンと一緒に過ごすのも、そういう嫉妬を感じる自分も…全部、全部おれは…
怖くて仕方なかった…
リンの傍から離れたくない。だけど…しつこくして五月蝿がられる、ちょっとでもおれを煙たがる、そういう素振りをリンがしたらと思うと…とても恐ろしい。
本当にこんなものを抱えて、おれは一生を過ごさなきゃならないのか?
こんなに恋焦がれる奴の…おれを抱き締めるこの腕がいとおしくて、いとおしくて怖いんだ…
お盆休みで一週間ほど実家に帰省した。
相変わらずの親バカの愛情はほどほど頂いておき、昼間は図書館や街をぶらついた。
隣町のCDショップでリンに勧められたジャズの曲を探していたところ、後ろから女の声で名前を呼ばれた。
「水川くん?」
振り向くと、どこかで見た顔。
「?」
おれは頭を捻った。
「もしかして忘れちゃったの?」
女は訝るようにおれを睨んだ。…あ、そうだ。
「原田?」
「そう、やっと思い出した?中学卒業してまだ二年も経っていないのに、つれないね」
「…」
「ね、ちょっとお茶でもしようよ。私、青弥のこと、気になっていたんだ」
「…」
面倒臭いと思いつつも、断る正当な理由も思いつかないおれは、中学時代惹かれていた原田理香子の後ろを付いていく。




