15
R18です。
リンの黒まなこがおれを見ている。
でかくて吸い込まれるようなその目で見入られると、心の奥まで見透かされているようだ。
「落ち着いたようだね。始めようか」と、言うので「リンはまだ服を脱いでいないじゃないか」と、責める。
「じゃあ、脱がして」と、言うから、起き上がってシャツとズボンを脱がす。
ついでにお互いの下着も脱がせあった。
互いの身体を眺め、何故か笑いあい、そして抱き合いながら、また毛布に潜り込んだ。
エアコンは入れてないから、薄い毛布だけじゃまだ少し寒い。
「布団もいる?」と言うリンに「いや、リンのぬくもりがあればいい」と、言った。
「まあ、そのうち汗をかくから、毛布もいらなくなるよ」
そんな一言にさえドギマギしてしまう自分が恥ずかしい。
リンの手が俺の首筋を撫でる。もうひとつの手がおれのものを触ってくる。おれは息を呑んだ。
触り方が優しいのにいやらしくて…おれも慌ててリンのを触った。
頭の中ではどんな風にすれば気持ちがいいのかと試行錯誤しても、手は上手く動かない。
それなのに、リンの指はおれのを上手く扱って、リンの口唇はおれの吐き息を吸うように重ねてくるから、おれは呼吸が荒くなる。
苦しそうにすると、リンは手を緩め、おれの顔を覗く。
大丈夫?と、目で聞くから、俺も軽く頷いた。
リンは動きを再開し、開いた片方の指がおれの薄い胸や背中をゆっくりと撫でる。
「ここが僧帽筋、天使の羽の付け根だ。上腕三頭筋から順に…二頭筋と続く。脊椎、肩甲骨、そして肋骨。肋骨は何本か知ってる?」
リンの落ち着いた声が、上がった心拍数を宥めてくれるようだ。
おれの呼吸は次第に元に戻る。
「…24本」
「そう、両脇に12本ずつだ。昔3ヶ月ほど付き合った人がいて、そいつは呼吸器外科の医師だった。何の趣味か知らんが、肋骨一本一本に季節の花の名前を付けていた。上から…馬酔木、譲葉、ライラック、勿忘草…面白いだろう」
「…変わって、いるね」
「そう、そんな名前に何の意味がある。肋骨は肋骨だよ。骨でしかない。花の名をつけることがロマンチストとは俺は思えない。まあ、好き好きだがね。さて、ミナならこの意味をどう捉える?」
言ってることとやってる事がどうにも結びつかなくて、頭が朦朧となってくる。リンは巧みにあやつって、俺を翻弄する。おれも頑張っているのに…適わないや…ああ…答えなきゃ…なんだっけ…そう…
「…結局は…セックスはセックスでしかない」
「正解。ミナは頭がいい。どんなに美辞麗句を並べようが、やることは決まっている。快感を求めあい、気持ちのいい汗を掻くことだ。さて、いかに気持ち良くなるかだが…」
「リン…もう、おれイキそうだよ…手ぇ離して」
「いいよ。そのままイッて」
「嫌だよ。リンの手が汚れるじゃないか」
「じゃあ、飲んでやろうか?」
「や、やめてくれ!」かなり上ずった声でおれは拒否した。
リンは笑って「じゃあ、お好きなように」と、いい、強く擦りあげるもんだから、おれはあっさりとそのまま達してしまった。
ハアハア言って、必死に酸素を取り込んでいると、リンが目の前でおれの精液の付いた指を舐める。
「リ、リン!やめてくれよ。き、汚いじゃないか」
「汚くない。おまえに無理強いはしないから、安心しろよ」
そんなことじゃなくて…おまえがそんなことをするのが嫌なんだ。
「ミナは純粋なんだね」
「馬鹿にしてる?」
「いや、ただ、おまえとするのは…少し怖いかな」
「なんで?」
「俺が汚れすぎて、ミナを穢すのが…穢すっていうのとは違う。俺がおまえを染まらせるのが…正しいのか…この選択で間違っていないのか…すごく考える…ここに…」と、言いながらリンは塗れた指をおれの後ろに当て、ゆっくりと回す。
「…入れるわけだが、どうする?怖いのならやめる。今日じゃなくでも明日だって明後日だってできる。ミナはきつくない?」
リンの思いやりが嬉しくないわけがないが、おれは決めているんだ。
「じらさないで、最後までやって欲しい。痛くてもいいから…おれだってリンが欲しくて堪らないんだから…」
おれはリンの首に腕を巻きつけ、哀願する。
「ミナは男らしいね。俺の方がだらしないかな。じゃあ、できるだけ痛くないようにゆっくりやるよ。と、いっても俺もどれだけ理性が保てるかわからないけれど…」
おれの耳元でリンが囁く。
「実は一年以上セックスはしていないだよ。えらく清き身体だから、ミナを気持ち良くしてあげれるか心配だ」
ニヤリと笑いながら、おれの肩をベッドに押しつけ、覆いかぶさった。
灯りの影になったリンの顔がひどく大人びて見える。