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リンの部屋は、シンプルなものだった。

 ベッドの大きさには驚いたものの、他には揃いの木目の際立った勉強机と本棚ぐらい。テレビで似たようなものを見たことがあるが、どちらも高価な指物だろう。吹き付けの漆塗りが美しい。

 落ち着いた色調の中にひとつだけ目を惹かれたものがあった。

 本棚に飾られているかなり大きめのフォトフレームだ。

 近づいてよく見ると、コルク製のマットにコラージュのように沢山の写真が貼り付けられている。

 

 おれはそれを近寄って覗き込んだ。

 

 かわいらしい赤ん坊はリンだろう。両親と兄弟揃っての写真は七五三らしく、リンは千歳飴を持っている。リンに良く似た面差しの母親に抱きしめられているリン。ある時期からはお兄さんとお姉さんの三人だけの写真が多くなる。

 リンはいつも真ん中で、ふたりの兄と姉に見守られるようにあどけない笑い顔を見せている。どれもこれもリンは際立って美しく、その両脇を占める兄姉も、リンに相応しい容貌だ。

 

「リンは子供の頃からかわいいね」

「ああ、天使だって言われ続けてきたんだぜ。慧も梓も俺の背中に6枚の羽があるって言い張るんだよ。俺もその気になっていたけどね」

 俺はそれを聞いてリンの姿をまじまじと眺めた。

「…おれには羽なんか見えない」と、言うと、リンは嬉しそうに「だからミナが好きなんだよ」と、言う。

 

 意味がわからなくて、肩を竦めて、また写真の方に目をやる。

「お姉さんって綺麗だったんだね」

「うん、交通事故であっけなく逝ってね。二十歳になったばかりだったんだ。…俺は瀕死の梓を病院でひとりで看取った…悲しかったよ…」

「ひとりで?」

「ああ、その時は俺の他に誰も居なかった。姉貴が死んで俺は酷く落ち込んで、学校にも行けなくなってしまったんだ。梓は母親でもあり、ある意味恋人でもあったから…すごく愛し合っていた。だから、梓が死んだ時、俺も後を追いたかった…死にたがったんだよ。餓死して死のうとしたら、周りは必死で食べさせるしさあ…」

「…」

「俺はたぶん結婚はしない。それに、この先女の人と恋をすることは無いと思う。梓以上に愛せる女が現れるとは思えないからだよ」

「そんなに…愛していたの?」

「慧がいなかったら、自殺でもして死んでいただろうね。慧が居たから…置いていかれたもうひとりの半身である慧をひとりにしてしまいたくなかった。梓を失ってしまった俺達はもうお互いを失うわけにはいかなかったからね」

「…」

「ミナ…俺はおまえが思うほど強くもないし、綺麗でもない。甘ったれで我がままでどうしようもない人間だよ。それでもいい?」

「リンは前に言ったよね。好きなら相手のすべてを知りたいって。それは相手のすべてを受け入れることを覚悟した時だと思う。おれにとって今がその時だと思うんだ。リンがどんな奴でも構わない。おれの前にいる宿禰凛一がおれの好きな奴で、おれはおまえの全部を受け入れたい」


 リンは笑わなかった。伏せ目がちにおれに差しだす右手を、おれは握り締め、指を絡めた。

「リンが好きだ」


 おれとリンは立ったまま抱き合いキスをした。

 今までとは少しだけ違って、甘さに混じった感傷を感じたのは、それはおれがリンの本当の心に少し触れたからだと思った。





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