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「おれは…リンが好きだ。リンがこのままおれから離れてしまうのはどうしても嫌だ。リンが他の誰かを好きになったり、誰かとセックスしたりするのもおれは…いやなんだ。こんなに誰かに執着したり、独占したいって気持ちになったのは初めてなんだ。おれは、リンと繋がりたい」
「…それをリン君に言えばいいんだ」
「だけど、リンはおれに失望しないだろうか。リンを好くさせてあげれるだろうか。おれはそれに嫌悪感を抱かないだろうか。うまくイクことができるだろうか…どれもこれも不安ばかりだ…」
「誰だって初めはそうだよ。宿禰だってね…勿論経験は豊富だろうけれど…考えてみれば、ボク達とだいして変わらない時間を生きてきたんだよ。内容は違っても生きてきた歳は同じ。そう考えるだけで大分楽になるんじゃない?」
「…」
そうなんだ。宿禰は歳のいった分別のある大人でも、すべてをわかりきった博学者でもない。おれと同級生の男子なんだ。
「まあね、みなっちは3月、宿禰の誕生日は4月だから一年の差はあるだろうけれどね」
「え?先輩、リンの誕生日を知っているの?」
「ちょいと調べればわかるよ。4月14日が彼の誕生日。ちょうどみなっちのひと月後だね」
「…」
「宿禰がアメリカから帰ってきたら、さっきみたいにみなっちの気持ちを正直に話したらいいんじゃない。まあ、アメリカでいい男を捕まえていなければの話だけどね」
と、意地悪そうに笑う先輩におれは眉を顰め、海外にメールが届くかは判らないが、とりあえず、誕生日のことを知らせようと携帯を手に取った。
メールで連絡を一応してはみたが、あれから一向に連絡はない。とにかくリンが帰国するまでこの件は一旦置いておこうと自分に言い聞かせる事にした。
おれは春休み期間を補修授業を受けるためと理由を付け、寮に残り、極力家には戻らなかった。
春休みにも関わらず毎日学校に登校し、授業が終わると温室でひとりで過した。
花に水をやったり、絵を描いたりと、宿禰を知り合う以前と同じような毎日だ。だけど、おれにはもうリンが必要で、傍にいることが当たり前になってしまっていて、居ないのはわかっているのに、思わず振り向いて「ねえ、リン」と、呼んでしまうのだ。
リンが恋しい。
リンのことを思うと胸が痛い。
会えないと寂しい…
寂しくてたまらない…
これが恋という感情なのか?
なにものにも替えがたい尊いと思える想い。
おれはどうしても手放したくない。
リン…おれは、…おまえが欲しいんだよ。
新学期が始まり、朝礼が済むとおれはクラス替えの前に、隣の宿禰のクラスに向かった。宿禰に会うためだ。
きょろきょろと教室の中を伺うが、宿禰の姿は見当たらない。三上がおれに気が付いて、宿禰がまだ来ていないと教えてくれた。
「様子がわかったら教えるから」と、言われ、おれは肩を落として自分の教室へ帰った。
二年になり、おれは4階の教室に宿禰は…多分理系のおれとは離れた3階の文系クラスだろう。
一階だけだとはいえ、休み時間にちらりと見るリンの姿が見られなくなるのは寂しい気がした。
考えてみればおかしい話だ。
一年前この学校に入学したばかりの頃は、おれは恋どころが誰かを好きになる事さえ自ら拒んでいたのに。誰かをこんなにも好きで好きでたまらなくなるなんて…
おれは初めて誰かを必要と思い、そして相手におれを必要としてもらいたいと感じている。
リンが…リンがおれを変えてくれた。
おれはなんだか前を、上を向いて歩きたくて仕方ない気分なんだ。
始業式早々に進学校であるヨハネでは6時間までみっちりと授業がある。それが終わると三上はおれの教室にやってきて、宿禰の事を教えてくれた。
なんでも高熱で寝込んでいるとのことで、見舞いがてらプリントを渡して欲しいと頼まれた。
「ありがたい事に二年も宿禰とクラスが一緒なんだ。あいつはいい奴だから離れがたいよ。でも水川はあいつの特別だから仕方が無い。この役を譲ってやるよ。宿禰のマンションは知ってる?」
「知ってる」
「明日は土曜で休みだし、月曜は校内の実力テストだから、良かったら勉強でも宿禰に水川が教えてやってくれよ」
「うん」
おれは思わず顔を綻ばせた。すると三上は小声で「ああ、宿禰が惚れるのも判る気がする。水川って案外かわいいんだな」と、笑った。
おれは三上の言葉にさえ、もう下を向くこともなく、素直に笑って応えた。
寮に帰り着くと、おれは宿禰に会うために服を着替えた。ついでに下着も新しいものに代えた。明日は土曜で休みだから、うまくいけば宿禰とできるかもしれない。
机に入れておいたスキンの箱から一個取り出し、お守りがわりに財布に入れた。
こんなにセックスの事ばかり考えていると知ったら、リンはきっと苦笑いするだろう。
色狂いだと軽蔑するかも知れない。それでも…
それでも、おれはリンが欲しい…




