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白銀の孤狼  作者: 蜂蜜
序章 雪と氷と樹木と
4/6

いただきます

 転生というのは迷惑極まりないものだが、その中で最も精神に苦痛を与えたのは、狩りであった。本当に最初だけではあったのだが。


「……」


 現在目の前ではリスとおぼしき小動物が踏みつけられ、身動きが取れない状態となっている。じたばたともがいてはいるのだが、体格差により全く意味をなしていない。

 もがく腕の先には木の実が散乱しており、食事か或いは備蓄にでもしようとしていたのだろう。


 状況確認もほどほどにして、現実を見る。

 可及的速やかに解決すべき問題は、これを行っているのが自分であり、罪悪感が凄まじいものになっているという事だ。


 人という生き物は、犬や猫、兎に鼠にインコといった所謂ペットを家族の一員とすることがある。それらにかける感情は「可愛い」というものであり、今足の下にいるリスらしきものにもそれは適用される。


 可哀想という感情から始まり、次に起こるのは同情そして連想。「この子にも家族が居るんじゃないか」「今日の食事を楽しみにしていたんじゃないか」「この子の帰りを待つ子供が居るんじゃないか」等など考え始めてしまい、手を掛けるなど出来なくなってしまう。


 ここで更に空腹という要素が追加され、罪悪感と欲求の板挟みとなる。気分も胃袋も酷いものとなっているが、躊躇なく殺せるほど心は獣になっていない。


 結果、空腹の狼と捕食の恐怖に晒されるリスが残り、誰も得しない状況が生まれているのである。


「……」


 一応狩りということもあり、母さんとは別行動だ。二人で獲物を探すより分担した方が効率が良い。良いのだが、狼に生まれてから初めての狩りなので正直助けが欲しくはあった。


 目の前でキューキュー鳴くリスを見る。

 美味しそうという感想が最初に来るあたり、獣として順当に育っているのだろう。

 喜ぶべきかは分からないが、まあ悪いことではないだろう。気にする必要もない。


 ああ、そんな目で見ないでくれ。

 確かに躊躇ってはいるが、逃がす気はないんだ。お腹は空いているし、慣れておくのも大事なことなのだ。

 だから、ごめんね。


「キュッ」


 頭を噛み砕く。断末魔と言うやつだろう、短く小さな鳴き声が聞こえた。

 肉食動物とは難儀なものだ。雑食である人間がどれほど便利な生物だったのかを認識させられる。草や木の実が食べられないとは実に不便、不満であると。

 いや、木の実はいけるのか?でも届かないから関係ないか。そもそも手に入らない。


 血肉の味が口に広がる。骨を噛み砕くというのは人間の頃は出来なかったことだ、実に面白い。

 命を頂くとはこういう事なのだろう。感謝するのも頷ける。

 誰かの命を糧とし、生き延びる。自然の摂理、現代の人々が体験することはないであろう食物連鎖の理不尽。こうやって世界は回っている。


 明らかに上位に位置するであろう自分が思っていい事なのかは、分からないけれども。

 少なくとも、喰らう側にいる幸運には感謝をするべきであろうと、そう思うのである。

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