表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の孤狼  作者: 蜂蜜
序章 雪と氷と樹木と
2/6

転生は理不尽なものである

観察結果1 転生直後の魂は酷い混乱に襲われる

 目を覚ました時最初に見たのは、自分の何倍もの体躯を持つ、白い毛を生やした狼だった。

 ぱちぱちと瞬きをした後、ぐるぐると周りを見渡す。見えたのは雪に埋まる地面と、雪の積もった低めの木々であった。


 ボケっとそれらを眺めていると、突然目の前の狼に頭を舐められる。

 何か不思議な感触が頭部を襲う。

 直ぐに舐めるのを止めたが、やはり生暖かい感触が残っている。だが一切の不快感はなく、今いる場所が雪が積もるほどの低気温だった為、寧ろ暖かく気持ちいい。


 舐められた体勢のままボーっとしている自分を眺めていた狼は、突然くるりと背を向けると何処かへ歩き去ってしまう。自分も後を追おうと立ち上がろうとするが、足を立てた辺りで力が抜け、どてっと尻もちをついてしまった。

 その後も数回繰り返すが、やはり足に力が入らない。


「……」


 ……は?


 他人事のように見ていた景色が、急に鮮明に見えてくる。

 今まで自分が住んでいた筈の地域、そこでは有り得ない量の雪。木々もそうだ、こんな森はなかった。

 狼なんざいる訳がないし、そもそもこんなに寒くない。


 というかこうやって見えているのがおかしい。五感があるのも思考出来るのも何もかもがおかしい。


 夢?そんな筈はない。確かに俺は()()()()()。あの高さで助かるわけがないし、眠る眠らない以前の問題だ。

 つまりこれは現実。やっと()()()筈の俺は何故か生きていて、多分狼になっていて、めちゃくちゃ寒いよく分からない場所にいる。


 これが現実とは笑える話しだが、当人としては全く笑えない話だ。

 生まれ変わったら虫とか動物になりたいとは言ったが、記憶を持ち越すなんて聞いていない。前世が認識出来るなんて異常にも程がある。

 人じゃなかっただけマシだと思うべきなのか。


 理解出来ないことを考えるのは無駄では無いが、それも時と場合と内容による。今はこの考えは当てはまらない。人智を超えた事象を理解しようとしても無駄でしかないだろう。


 我ながら冷めているとは思うが、()()()()()()()()に熱を持つのはおかしいことだ。


 やるべき事も分からないしもう生きる気力も無いが、死んでしまえばあの狼を悲しませることになるだろう。

 だから死ねない。記憶があろうがなんだろうが俺はあの狼の子供なのだろうし、親より先に死ぬ子供など、一人も居ない方がいいに決まっている。


 ──それをお前が言うのか


「……」


 冷静とは言い難い精神状態ではあるが、例え冷静になったところで現状はなにも変わらない。不安定な思考回路で気にするだけ精神力の無駄だ。


 そう、無駄。精神力だけでない、何もかも全て。役に立つことなどありはしない。

 だからきっと、今世もきっと、


「グルル……」

「!」


 狼が帰ってきた、しかも何かを咥えている。

 あれはなんだ、リスか?それにしては大きいが。冬眠から目覚めたのか?そうだったのなら運のない。

 …ん?まさかとは思うが食うのか?え、ホントに?いや、それはちょっとなんというか、罪悪感というかなんというか。


「……」

「……」


 仕方ない、食べよう。見てたらお腹が空いてきた。それに狼──母さんかな、が心配そうに見てるし。

 しかしコレどこから食べるんだ?頭?それともお腹?まあなんでもいいか。


「……!」


 美味しい。生肉に美味しさを感じる日が来るとは思わなかった。味覚は完全に獣のものということか。良かった。

 完食には時間がかかりそうだが、問題はないだろう。人と違って時間に追われたりしないのだから。


 ああ、そんな顔しないで母さん、もっと死ねなくなってしまう。悲しむところも泣くところも見たくなくなってしまう。意地でも生きなければならなくなる。


 そんなのあまりにも辛い。人としての生活すら苦痛だったと言うのに、唐突に始まった狼生、元人間には苦行すぎると言うのに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ