人類の観測者
純文学とは?
疑問を調べたら芸術と出てきた。
初挑戦のきりしまです。
此度は音信不通だった賢者が記録を持ち帰った。
賢者の服装は何処も彼処も擦り切れ、今にも破れそうなローブで身を纏い表情は見えない。
対称的に綺麗なローブで身を包んだ観測者が集まり大勢で内容を閲覧する。
背丈は170前後とこの生物は特出して大きい訳では無い。身体能力に関しても他の生命体と比較して優れているとは思えない。
記録の中には数十倍も筋力があり、俊足な生命も例を挙げれば、数えられない程に溢れている。
記録を持ち帰った賢者は観測者達に注目する点を伝えた。この生命体は数が比べ物にならない、これほど大きな体で総数を数えるのが億劫になるほど溢れている。
賢者の言葉に観測者は素直な感想を述べた。数が多いだけならば記録の片隅に記載されている小さな生命体の方が圧倒的に多い、だから現状の情報だと気に留める生命体では無い。
賢者は観測者達の表情を見て笑みを溢した。これから伝える記録の内容で興味を失い始めた観測者達がどう変化するのか楽しみで仕方が無い様子で続ける。
記録を広げ一つのテーマである『夢』という言葉を披露した。この夢という物を知らない観測者達に賢者は説明する。
賢者が調査した結果、夢という物は生命体が得た情報を、睡眠中に行う記憶の整理だと伝えた。記憶の整理だけあって内容は真実とはすれ違い殆どが意味をなさない。つまり、観測対象の生命体が記録を保管する為に起きる現象だ。
賢者の言葉を聴いた観測者達は呆れた様子で口を開き、他の生命体も睡眠中に夢を見ていると指摘した。
観測者の指摘は正しい。
賢者が注視している生命以外も多くが記憶の整理に夢を見る。そこで、賢者は他の生命と圧倒的に違う点を告げたが観測者達は理解が追いつかなかった。
他の生命との差異――この生命体は起きて活動している状態にも関わらず夢を見る。
賢者を嘲笑い観測者は意味のない情報を考えている生命など今後は観測する必要が無いと声を大きく叫ぶ。
此処ぞとばかりに賢者は核心を観測者へ伝える。この生命が起きている時に見る夢は性質が変化する、考えでしかない情報を現実に実現する力を秘めていると語った。
理解を始めた観測者から興味の熱を賢者は感じる。脳内で思い浮かべる事象を現実に引き起こすとなれば数千年という長い月日を掛けて探し求めていた『存在』が観測者達の脳裏をよぎる。
賢者は己の目で見てきた生命体の活動を饒舌に語った。空を飛びたいと思った個体が既に飛行能力を得ている生命を遥かに超える速度と高度で空を駆けている事を……圧倒的に筋力の差がある生命体をいとも簡単に凌駕する能力を聴いた観測者達は次々に質問を始めた。
暫くの間は記録に記載されている他の生命体との比較に関する内容を賢者は丁寧に説明する。最速で移動できる生命体の何倍もの速度で移動する事も、陸上で生きる生命体にも関わらず水中でも活動できる内容に可能性を感じる観測者は、何故この生命体が空想を実現する事が可能なのか訪ねた。
賢者の返答は至極単純に一言で済ます。
それは『技術』という言葉だった。
資源を加工し別の物質を作る事が可能で、他の生命体との差を技術で埋める。それどころか他の生命体から特徴を抽出し、更に良い能力を得て生きている。事故により欠損した部位も技術で補強し生命活動に影響がほぼ無い、他の生命体には見られない程に丈夫な体を持ち長く生命を維持する点も素晴らしく、未知の病気でも対応して抗体を瞬時に作り出す。
ましてや、他の生命体に手を加えて新たな特徴を持った生命を誕生させると聴いた観測者達は大手を振り喜んだ。探し求めていた存在を遥かに超える生命体がとうとう現れた。
賢者を称える声が鳴り響く中で一人の観測者が記録を凝視して確認している。一つ気付きがあり、観測者は賢者に質問した。
質問の内容は一定期間から総数の増加が著しく伸び悩んでいる点だ。観測者達が求めていた以上の力を持つ生命体ならば、生命を脅かす外敵も無くのびのびと繁殖していくはずだ。しかし、賢者の持ち帰った記録は緩やかに増加している。近年では数が減る傾向さえ見えた。
賢者は観測者に対して考えをゆっくりと説明する。この観測した生命体は夢を実現する能力を持つが全ての個体が同じ能力値で実現出来る訳では無い。そこには個体差があり、実現に失敗する者も存在する。
それに加えて特に異質な情報を補足した。他の生命体が争う例を観測してみると主に2点の理由が存在する。まず、1つ目は生命の維持をする為に他生命と争う。次に、生命の危機に陥った時だ。
しかし、この生命体は自らの生命を脅かす存在では無い場合でも争う傾向にあった。むしろ、対象の個体を目で認識する必要が無い場合も存在する。
観測者は賢者の言葉に返答した。では、この生命体は生きる為に夢を実現する能力があるにも関わらず夢によって生命を断つと?
その通りだと賢者は観測者に伝えた。その瞬間、湧き上がっていた熱がすーっと醒めて沈黙が続く。賢者は観測者の疑問を解決する鍵を思い出し提案する。
『心』という複雑な物があるんだ。
これ以上、深掘りする事も無く観測者は賢者に別の依頼をして儚く散った。