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フォローアス  作者: 竹芦
5/7

練習?

 月曜日の放課後、駅伝部一同はグラウンドに集合していた。これから本格的に練習が始まる。

 ツムギはこの2日間で練習メニューを考えており、スケジュール表を皆に配った。

「1ヶ月の練習メニューを考えてきたんだけど、ちょっと自信ないからみんなのこと見ながら、その都度調整しようと思います。最初は体力作りが基本で、ジョグを多めにしてるよ」

「朝練もあるね」アメは朝からみんなで走れると意気込んでいる。

「みんな成長期なんだから、早寝早起き頑張ってね。私も来るから」ツムギは生活リズムや1日の走行距離も考慮して練習メニューを組んだようだ。


「さて、今日は普通にジョギングします。みんな縦に並んで2キロ走ったあとは、一回休憩して、各自好きなペースで30分走るように。準備体操してから始めようか」ツムギが手を叩いて指示を出すとみんな動き出した。


 各々準備体操を始めるが、マキとフウは何をしていいかわからなかったので、ユキの動きに合わせて体を動かしている。ヒナタもそれなりに運動ができるので、ストレッチなど慣れた様子だ。アメはラジオ体操を口ずさみながら大きく動いている。

 ツムギは連帯感がないなと思ったが、個性があるのもいいことかもしれないと、口は出さなかった。

 しばらくするとヒナタが3人のそろった体操を見て、「うちも混ぜてよ」と加わった。

 さすがにアメも一人違う動きをしていることに気付き、今まで同じ体操をしていたかのようにぬるっと合わせた。

「ラジオ体操はいいの?」ユキがつつく。

「ばれたかー。いつもはあれなんだけど。体もあったまるし。でもユキちゃんの体操の方が陸上部っぽいなと思って」アメが頭を掻く。

「筋肉の伸び縮みを意識したり、関節の可動域を広げるイメージで準備運動するのがいいわ」とユキは腕を後頭部に回しながら引っ張る動作を強調している。


 いつの間にかそろって体操している様子を見たツムギは少し安心した。彼女たちは自分たちで考えて行動できる子たちだ。考えの押し付けは逆に成長を妨げるかもしれない。最初のうちは見守ることにしよう。


「ツムギ先生!走りまーす」アメが走り始めることを告げる。

「あ、私が先生か!」ツムギは先生と呼ばれたことなどない。「はぁーい」と返事するまでに変な間ができてしまった。


 まず2キロ。ウォーミングアップだ。その後10分休憩をとり、各自自由に走り出した。

 ツムギは机を用意してストップウォッチを5つ並べている。それぞれの力量と性格、フォームを見極めようというのだ。


 先頭を走るのはアメだ。好きなペースとは言ったがジョギングのスピードなのかと疑ってしまう。ストライド(歩幅)が大きいが、地面を蹴ってからの上下運動も大きい。

 次を行くのはユキだ。落ち着いた走りでキロ5分で周っている。歩幅は小さく、ピッチ走法といえるだろう。

 そのすぐ後ろにヒナタがついて行く。初心者にしては体力があるようだが、少し呼吸が苦しそうだ。とにかくユキについて行ってみようと、前傾の姿勢になっている。

 マキとフウは余裕を持ってゆっくり走っている。マキは堂々と胸を張って走っている。どこにそんな自信があるのかと思ってしまうほどだ。フウも割と姿勢が良く、マキにピッタリくっついて走っている。

 2人とも新品のシューズでどことなく嬉しそうだ。

 ツムギはそれぞれの走りを確認しつつ、私もこんな時代があったなぁと微笑ましく思っていた。


 アメは気持ち良さそうに走っており、他の子をぐんぐん抜いていく。残り5分程のところで再度ユキを追い抜きにかかろうとした。

 しかし、ユキはそうはさせなかった。

 一度アメに追い抜かれたが、ジョギングであろうと追い抜かれるのは好きではなかったのだ。

「あと5分ならペース上げてもいいかな」と腕時計を確認する。

 アメの足音が近づいてくるのに合わせてペースを上げていった。


 アメは目の前の背中までの距離が縮まらないことに気付いた。

 前を行く彼女の後姿は、確かに走ってはいるが、上下にも左右にもブレず、目の前で止まっているようだ。

「ユキちゃん走り方きれいだなー」

 アメが呑気にそう思っていると、2人の距離は縮まらないどころか離れ始めた。

「あれ?あの日の朝は追いつけたのに?!」

 アメもペースを上げたが、結局追いつくことなく終了した。


「2人とも速いよぉ」ヒナタがヨロヨロしながら膝を着いた。


「はーい、みんなお疲れ様」ツムギが元気よく声を出して招集をかけた。

「今日はフォームとかを見させてもらったんだけど、みんな個性的だねー」

「個性的なのはいいことなんですか?」アメが手を挙げながら言った。

「もちろん!良い事だよ。でも、その個性にブレーキをかけてる動きもあるから、私はそれを取り除けるようにアドバイスしていくね。アドバイスは追々するとして、もう1つ君たちの力を試してみる計画があるんだ」

 ツムギはひと呼吸おいて言った。

「来月、記録会に参加してもらいます」


「キロクカイ?」

 ユキ以外の4人は首を傾げていた。

「自分がどれだけのタイムで走れるか、公認の場所で測ってくれるのよ」ユキが補足した。

「そう、来月までの練習でどれだけ力がつけられるか、様子を見たいのと、君たち自身で自分のレベルを確認してもらうのが目的。ちなみに1500mで申し込もうと思います。じゃあ今日はここまでにして、明日からまた頑張りましょう!」

 ツムギが締めて解散となった。


 帰る支度の最中、フウが口を開いた。

「ユキちゃん記録会出たことあるの?」少し不安そうな表情だ。

「そう言われてみると記録会はないわね。私も自分のタイムを確認する良い機会になりそう」ユキが答える。

「そんな心配しなくても、フウはあたしの後ろについてくれば怖くないわ」マキがタオルをカバンに突っ込みながら言った。

 フウが片方の頬を少しだけ膨らませたのを見て、

「みんな一緒に走るんやから大丈夫でしょ」とヒナタも励ました。


 そんな会話の中、アメがいつもより大人しいことにみんな気付いていた。

「アメちゃん、体調悪いの?」ユキが顔をのぞきこんだ。

 するとアメはふっと顔を上げて「わあ、考え事してた!」と元気そうに言ったので、ユキは安堵した。

「アメも記録会とか緊張するタイプだったりして」ヒナタが言う。

「どうかな、記録会は楽しみなんだけど、考えてたのはさっきの練習のことで、なんだかわかんないけど、モヤッとする感じなんだ」

「モヤよりフワッとした考え事ね」マキはなかなか閉まらないカバンと格闘している。

「うん、自分でもよくわかんないから、話せる時が来たら話すね」

 その後、少し談笑してみな帰宅した。

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