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76話 ただいま

「で、アンタは何してんのハル―?」


 ダルそうに寝転がりながら、五席はアインの背中にいる少女に話し掛ける。

 少女はその声を聞き、渋々アインの首筋から顔を離して返答。


「久し振りにハルのお気に入りに出会っちゃったの。この野蛮人の血がね、もう超美味しいの。で、ナナ姉こそ一体何してんの?」

「へー珍しく理性あると思ったらそういう事か。偏食家のアンタがそこまで言うとは珍しいねー。うちの方も最高な血に出会っちゃってノックアウトされてたー」

「クンクン、確かに美味しそうな匂いなの。でもハルはこの野蛮人の血の方が好きかな。そっちはナナ姉にあげるの」

「あげるってか最初っからうちのだっつーの。という事で少年、今日から姉妹で世話になるよー!」


 どうやらアインの背中にいる少女は五席――ナナ――の妹であったらしく、姉と同じ吸血鬼の因子を埋め込まれた者としてアインの血を貪っていたようだ。

 そして先程までローズの誘いを断り、断固拒否していたニナケーゼ一家(ファミリー)入りをこうもアッサリ決断するとは。


 肉に釣られたサティと血に釣られたナナ、ハル姉妹。君達、行動を食欲に縛られ過ぎじゃない? 

 吸血衝動を食欲と言って良いものか知らないけど。


「ハルト、このガキマジで強えーからうちに入れてやろうぜ。シュリも模擬戦相手が見付かって喜ぶぞ!」


 アインもいつになく乗り気だ。彼がそこまで手放しで褒めるとは珍しい。

 もしかしてこの子がアインと戦ってたという【最終決戦兵器(ハルマゲドン)】?

 【最終決戦兵器(ハルマゲドン)】だからハルとは安直な名前である。


「あむあむ……。毎日血を吸わせてくれるならいくらでも蛮族共の相手してやるの。でも二度と眠っている時に首を切断したりしないで欲しいの」

「よっぽどその男の血が気に入ったんだねーハルったら。まぁうちも少年の血ならいくらでも吸えちゃうけど」


 僕は血を吸わせてやるなんて一言も言ってないよ!?

 僕は痛い事、辛い事、苦しい事が大嫌いな現代っ子。なにが悲しくて毎日餌やりならぬ血やりをしなくちゃいけないのか。


 繊細な僕が貧血で倒れちゃったらどうしてくれる。


「ちなみにうちは一週間、ハルは十二時間満足に血を吸えないと暴走するから気を付けてねー!」

「ハルもナナ姉も食のこだわりにはうるさいの。気に入った血しか飲まないからそのつもりでいて欲しいの」

「なんて面倒な新人なんだ……」


 姉妹共にSランク冒険者に匹敵する戦闘力を持ちながら、常に暴走のリスクも抱えているとか【混沌の牙】はよくもまぁ彼女達の面倒を見ていたものだと感心する。

 もし二人が暴走したらその対応はアイン達に任せてしまおう。


「アイン様はともかく(あるじ)はそろそろ女を引っかけるのはやめておいた方が良いのではないか? シュリ様やマリル様に刺されるぞ」

「いや二人になに言われたか知らないけど僕はリセア一筋だからね。あと女を引っかけてるんじゃない。勝手に変なのが引っ付いてくるんだ」


 そもそも、その理屈でいくとローズだってその一人だ。

 初対面で全裸だったり、血を吸いたがったり、殺しに来たりと僕の周囲にいるのはどこかおかしい人間ばかり。まともな女はどこにいるのだろう。


 あぁやっぱり僕の希望の星はリセアただ一人だよ。早くリセアに会いたい。そして結婚したい。


「あ、よく見れば六番目(シックス)なの。久し振り、相変わらず胸無いね」

「貴様ら姉妹は人の胸の成長具合でしか会話できんのか。貴様らだって大してデカくないくせに」

「残念だったね六番目(シックス)ー! うちら姉妹は吸血鬼の力を使って今では容姿も自在に変えられるんだよー。ほら、胸だってこの通り」


 ナナがそう言って胸を張ると、小ぶりな胸がグングン大きくなるではないか。

 それと同時に身長も伸び、あれよあれよという間に高身長巨乳お姉さんが誕生してしまった。

 なにこれ凄い! 


「ま、顔までは変えられないんだけどねー。ふぅ疲れた。ねぇ少年。もっかい傷口舐めて良い?」

「はい喜んで!」

「なんかさっきと反応違くない? まぁ良いけど―」


 そんな風に和やかな(?)雰囲気で会話に花を咲かせていると、『大声器』を使って国民に声明を出していたララが帰って来た。

 二の腕に付いた傷口をぺろぺろと舐められている僕を見て、そしてもう一方ではおんぶしながら首筋をちゅーちゅーされているアインを見て表情を硬くする。


「……一応その子達国家転覆を図ったテロリストなんだけど?」


 それに答えるのはナナ、ハル姉妹。


「まーまー落ち着きなよ聖王様。うちらも晴れて少年の仲間になったんだしー、国を狙った罪と国を救った徳。相殺されてチャラって事で!」

「聖王様は運が良かったの。もしこの蛮族共がいなかったらハル達を誰も止められなかったの。国中吸血鬼だらけにされなかった事を感謝して欲しいの」  


 姉妹が言葉を重ねるごとにより険しくなっていくララの表情。

 引きつった頬とこめかみをピキピクさせながらキッと僕に視線を向けてくる。


「テロリストを仲間にぃ~?  本当なのハルト!」

「まぁね。向こうの七席と八席はそっちにあげるからこの二人は僕らが貰うよ。そのくらいの仕事はしたつもりだ」


 大柄な羽男と小柄なツノ女。どっちが七席でどっちが八席か知らないが、それでも【混沌の牙】幹部であることは間違いない。

 ちゃんとどちらの相手にもヴィリアンとココという聖国のメンバーをあてがったのだし、片方死んでるなんて苦情は受け付けない。


「…………大量に捕えた下っ端連中は?」

「いらない。そもそもそいつら倒したのララだし、君にあげるよ」

「うがーー!! うちはテイのいい在庫処分施設じゃないってーの!! この二人も処刑間違いなしなんだけど!?」

「死んだ事にしといて。ナナもハルもほとんど顔見られてないし問題無いでしょ?」


 あっけらかんとした僕の言葉を聞き、ララが頭を抱えながらぶつぶつ呟く。


「宰相が捕まったこの状況でそんな面倒な処理を一体誰がするの? ふふふ、私だよね。ニナケーゼ一家(ファミリー)と結ぶ関係についてもまとめなくちゃいけないしどうしたら……。そうだヴィリアンを巻き込もう、頼ってくれって言ってたもんこれくらいやってくれるよねそれとココも道連れに――――」


 なんだか地下で軟禁されていた時よりも顔色の悪いララ。

 僕はそんな彼女をそっとしておく事にしてアイン達に向けて話し出す。


「さて、という訳でこの国での用事は大体終わった。元凶である【混沌の牙】は後々気が向いたら潰すとして、まずはジリマハに帰ろう。シュリ達が待ってる」


 なにやら帝都が【混沌の牙】に襲われて大変な状況になっているらしいが、僕達には関係ない。

 まだ帝都は征服してないし特に思い入れも無いからだ。


 帝都を皇帝や貴族から奪うのか、それとも【混沌の牙】から奪うのか。それは些細な違いでしかない。

 加えてしばらくはジリマハで、今ある地盤を固め直す作業に従事したいのが正直な所。


「いやー最高に楽しかったな初めての海外旅行! まさかこんなに殺し合いが出来るとは思ってもみなかったぜ。きっと皆泣いて悔しがるぞ」 


 それ程までに殺し合いを望んでるのはたぶん君だけだよアイン……。


「しかしこの僕としたことが……どうにも大切ななにかを忘れている気がする」

(あるじ)もか? あたしもどこか引っ掛かっている部分があるのだ」

「綺麗な熟女探しじゃねーのか? 俺もここ最近熟女成分を補充してねぇから困ってんだ」

「これだから蛮族は野蛮で困るの。レディーであるハルの前でそんな真似したら干からびるまで吸い取ってやるの」


 あとは豪華な料理をご馳走になって、美人さん達のお酌でお酒を飲んで帰るだけ。そのはずなのだが何故こうも胸騒ぎがするのか。


「は? おいガキ、テメェまさかずっと俺に引っ付いてるつもりじゃねぇだろうな? ガキのお守りなんてご免だぞ」

「ガキじゃないの、ハルなの。いつでも血を吸えるようにしておかなきゃダメに決まってるでしょ。ほんと蛮族は馬鹿で困るの」


「おいおい冗談じゃねぇぞ。俺はガキが好きじゃねんだ。俺の隣りにいたかったらあと四十年、歳取ってから出直して来な」

「ふーん、そんなにババアが好きなら仕方ないからババアの姿になってやるの」


「テメェみたいな内面クソガキが熟女になれると思うなよ! 熟女は外面と内面が揃って成熟してこその熟女なんだ殺すぞ!」

「ババアガチ勢すぎて怖いの……」


 なんだか気の抜けるようなアホな会話を繰り広げているアインとハル。

 僕とローズはそれを無視して違和感の正体を探り合っていると、僕の血を舐めた事で再び気絶したナナが目を覚ました。


 ナナは起き上がるなりキョロキョロと辺りを見回し呟く。



「――……そういや十三番目(サーティーン)は?」



「「「「あ、忘れてた」」」」



~~~~~~



「ぷんぷん! ご主人様ったら美少女メイドを放置プレイとは偉くなったものですね! ご主人様(しゅじんさま)からご主神様(しゅじんさま)にでも出世されたのですか? 罰として暫く美少女メイドパンツはお預けです!!」 

「いい加減機嫌直してよサティ。君がパンツをくれなきゃ僕はこれから先どうやって生きていったらいいんだ」

「普通に生きていったら良いだろ(あるじ)よ……」 


 ラトナ聖国を出発して二日が経った。

 僕とアイン、ローズは救国の英雄としてそれはもうチヤホヤされ、美味しい料理に美人さんの歓待とこの世の春を見た。


 しかし僕の近くに寄って来る美人さんは次第に美少女に変わり、最終的には何故か女児しかいなくなる不具合が発生。


 ここは幼稚園かなにかかな?と思った僕を誰が責められようか。


 そうして丸一日かけて保母さんの気持ちを味わった所で原因が判明した。

 ララだ――――。


 膨大な仕事に追われ、寝る間もなく働いていたララは美人さんと仲良くお話ししている僕を見てプッツンときたらしい。


『うふふふふ、私以外の女と仲良くするなんて認めない~♪ 私といる時以外に笑顔をみせるなんてありえない~♪』


 と楽しそうに踊っていたから間違いない。


 アインの場合は美人さんが次第に美熟女に、ローズの場合はイケメンから話しやすい同世代の女の子に変わっていったというのに、なんだろうこの差別は。 


 もしかしたら僕は大変な女にファーストキスを奪われたのかもしれない。

 ラトナを出国する時も毎日手紙と一緒に髪の毛を送るとか意味不明な事を泣きながら言ってたし、ちょっとあの美人巨乳お姉さんは依存度高めな危険人物かも。


 まぁそんな事をいつまでも考えていても仕方がない。気分を変えてジリマハでの行動について考えよう。


 ローズによる幾度かの転移魔法を経て、ようやく辺境都市ジリマハに戻って来た僕達は完成したばかりの屋敷に間もなく到着する。

 既にシュリ達は屋敷に住み始めていると聞くし、弟子連中も新たな環境に慣れて修行を再開したようだ。


 ならばまず手を付けるべきは学校か。

 ジリマハにおける形骸化した義務教育を立て直すため、僕らは半ば強引に領主である子爵からその仕事をぶんどった。


 校舎も完成し、教師も既に見つけ、あとは僕の判断次第でいつでも運営可能。


 ぐっへっへ、いたいけな幼子(おさなご)共に高等教育を施して立派な人間にしてやるぜ。

 そしてついでに校長である僕らの名前も頻繁にテストに出して、僕らという存在を身体に刻み込んでやる。


 なんて事を頭で考えながら歩いていたら目的地である屋敷に到着した。


「うおおおお! でけええええ!!」

「やっと帰って来れました我が家。一般メイド共は元気に掃除しているでしょうか?」

「全く(あるじ)よ。一体どれだけ金を掛けたのだこの家は」

「おー良いね良いねー! うちの住む家に相応しい佇まいだよー!」

「ハルは別に寝られりゃどこでもいいの。問題はご飯の美味しさなの!」


 二メートルはある高い塀にぐるりと囲まれた屋敷は、ジリマハで最も高い建築物である子爵邸を超える七階建て。

 一面真っ白の清潔感溢れる装いは新築だからか、それとも雇っている一般メイドの仕事振りゆえか。恐らくはその両者だろう。


 既に屋敷で暫く暮していた経験のあるサティがあれこれ説明をしながら案内してくれるが、興奮からまるで頭に入ってこない。

 こんな豪華な屋敷が自分達の住居になっちゃったらこれまで以上にモテてしまうよ。


 どうでもいいと興味なさげにしているハルだってキョロキョロと視線を動かしてして、テンションが上がっているのが丸分かりだ。

 不安視している料理の方は安心して欲しい。あのヨランの料理が気に入らない訳が無い。

 美味しすぎて屋敷から外へ出たくなくなるよ。


「それでは早速屋敷に入りましょう。今はまだ人手が足りませんが、後々は門番メイドや警備メイドを雇って敷地内に配置するつもりです」

「それは果たして本当にメイドと言えるの?」


 確かにこれだけデカい屋敷なら警備も必要だろうけど、メイドの仕事ではないよね?

 サティの中のメイドの職務範囲が幅広過ぎて怖い。


 屋敷の正面玄関に着いた。


 先導していたサティが端に立って扉をゆっくりと開ける。


 そして美しいカーテシーを決めるなりこう言い放った。



「お帰りなさいませご主人様、アイン様。不肖のメイドを救っていただきありがとうございました」



 僕とアインは一度顔を見合わせ、声を揃えて笑顔で言う。



「「ただいま!」」



~~~~~~



 ガチャン


 屋敷に入ったその瞬間、僕の両腕はなにかに拘束された。

 背中側で両手首を固い輪っかのようなもので固定されてまるで身動きが取れない。抵抗しようにもビクともしない頑丈さだ。


 まるで手錠だな。


 そう頭の中で考えた瞬間、背後から耳元に甘い吐息を吹きかけられた。


「……おかえりハルト。久し振りに会えて嬉しい」


 すぐさま振り向くと、そこにいたのは神に選ばれし勇者にして我が最愛の女リセア。


 リセアが心底嬉しそうな百万ドルの笑顔ではにかんで見せると自然に僕の心はドキンと高揚する。

 そして僕の方も思いもよらないリセアとの再会に笑顔が零れた。


「やぁリセア久し振り! 僕も会えて嬉しいよ。今日も可愛いね結婚しよう」

「ふふ、結婚は駄目」


 何度目になるか分からないプロポーズと断りの文句。僕とリセアの会話の始まりはいつもこうだ。

 しかし今日はなんだかいつもよりも笑顔に圧を感じる気がする。一体どうしたというのだろう。


「残念。まぁ諦めないけどね! それでこれは何? 愛する君を抱き締めたいのに両腕が固定されてて叶わないんだけど」


 背後で行われた拘束と背後から話し掛けて来たリセア。両者に関連性がある事は子供にだってわかる。

 そんな僕の至極当然な疑問にリセアは可愛らしく首をコテンと傾けて不思議そうに返答。


「なにって……手錠型聖剣?」

「……何故そんなものを僕に?」


 いきなり得意の創造魔法により創り出した世界最強の拘束具で動きを封じられる原因に身に覚えがない。……いやあるにはあるけど、ラトナでファーストキスを奪われた事なんてリセアが知ってるハズないし、とは言え他に原因も思い当たらない。


 リセアはその美しい黒い瞳で僕の目を真っ直ぐ見詰めながら僕の周囲を歩く。


「ハルト、私になにか言う事はない?」

「うーん…………結婚しよ?」


 ガチャン


「……嬉しいから手錠型聖剣一個追加」

「僕は嬉しくないんだけどそれ」


 てか嬉しいなら結婚してくれよ!


 リセアはスカートのポケットからくしゃくしゃの紙を取り出すとそれを丁寧に広げていく。


「……これは私が送った手紙。寮の部屋のゴミ箱に捨ててあった」

「…………まさか本当にリセアが書いていたとは」


 あまりにも不気味な内容だったからリセアの名を騙った脅迫文かと思ったわ! 


 でもリセアが怒ってる原因がそれならまだ良かったかな。

 もしあの脅迫文の愛情が本物なら他所(よそ)でファーストキス済ませたなんて事がバレたら殺されそうである。セーフ。


「……ちなみにハルトの初ちゅうを奪った女はあとで殺す」

「それはやめてあげて!? てか何で知ってるの!?」


 ヤバいやっぱバレてた。どういうからくりかは知らないが最悪の展開だ。

 ララ逃げて! 勇者が君を殺しに行くよ!!


「……ハルトに贈った私のパンツ。あれ実はパンツ型聖剣type盗聴器」

「type盗聴器ってなに!? パンツという枠組みから逸脱し過ぎだよねそれ!」  


 なんでも作り出せる創造魔法とは言え、そんなの無茶苦茶だ!

 おまけにパンツが好きという僕の純真な少年心を利用して罠を仕掛けるなんて卑怯だぞ。


「いやあたしには理解出来ないのだが、盗聴機能を持ったパンツを貰った所でそれは機能しないだろう。まさか常にパンツを持ち運んでいる訳ではあるまいし」


 黙って状況を見守っていたローズがもっともな疑問を口にする。

 僕はそれに対し、首に下げたネックレスを取り出す事で返答。


「……実はパンツに紐を通してネックレスにしてたんだよね」

「流石はご主人様。パンツに対する愛情が重いです」

「流石って言うか普通にドン引きだぞ……。ラトナの激戦の中、首からパンツを提げていたのか(あるじ)は」


 だって仕方ないよね。

 大好きなリセアのパンツである可能性が一パーセントでもあるのなら、肌身離さずに持ち運ばざるをえない。


「ふふん、安心して。ちゃんと自分で穿いてからプレゼントしたから……正真正銘私の使用済みパンツ」

「ほっ、良かった」

「いや良くはないだろう! 知らず知らずの内に監視されてるのだぞ!?」


 いやー、まさか盗聴器によってキスがバレちゃうとはね。

 盗聴器なんて超高級魔道具、持ってるのは王族ぐらいだと思って完全に油断してたよ。流石は勇者恐るべし。



 リセアはますます笑みを深くして慈愛すら感じさせる表情を僕に向ける。



「昔、お母様が言っていた」



 ガチャ ガチャ



 僕の足首に手錠を、そして首に首輪を付けると、愛おしそうに両手で僕の頬をそっと撫でていく。




「浮気をしちゃうどうしようもない(ひと)は――――監禁するに限る、と」




 こうして僕は勇者リセアによって屋敷の一室に閉じ込められた。





ラトナ聖国編 完




という事で第三章おしまいです。

ラトナでの英雄扱いや歓待は書いてて面白いものにならなかったので飛ばして一気に終わらせました。

いつか機会があればちゃんと書くかも。

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