25.5話 名前の由来
ハルトとアインがニナケーゼ一家に加入してすぐのお話です。
「ねぇニナ。前から思ってたんだけどさ、ニナケーゼ一家ってどうしてこの名前なの? ニナは分かるとして、ケーゼってどこから出て来たのさ」
ある日の昼下がり。
草原に寝転がりながら皆でゴロゴロしている中、僕は以前から感じていた疑問をニナにぶつける。
するとニナが答えるより先に、シュリが寝ころんでいた身体をバッと起こして答える。
「はぁ~、新参者はこんな事も知らないのね! アタシが教えてあげるわ、ハルト! えーっとね……ケーゼの意味は…………シュカ、なんだっけ?」
あれ程自信満々だった癖に、シュリも覚えていないらしい。
そして最近ようやく、実は男だったという衝撃の事実が判明した弟のシュカが困ったように頬を掻く。
「ぼ、ぼくも知らないよ……。そもそも聞いたこと無いと思う」
組織の中では創始者であるニナに次ぐ最古参の二人が知らないとなると、これはもうニナ本人しか知らないに違いない。
しかし次に僕の疑問に答えたのはマリルだった。
マリルはゴロゴロと転がりながら僕の隣りにやって来て笑顔で言う。
「名前というものには必ず意味があります。ニナケーゼのニナは当然ニナちゃんの名前だとして、ケーゼとはきっとアレです!」
「アレ……?」
生憎と僕の脳内辞書にケーゼなんて単語は登録されていない。
だからマリルの指すアレが何なのかまるっきり見当もつかないが、僕は神に選ばれた天才として分からないとは言えなかった。
「あー! アレねアレ! 実は僕もそうかなーって思ってたんだよ! いやー、やっぱアレだったかー!!」
「そうです、アレです。アレしかありません! やはりハルト君は話が早いですね」
いやだからアレって何なのさ。
話が早いと思われるのはちょっぴり嬉しいが、肝心の僕が全く話に付いていけていない。
誰か、僕の代わりにアレとは何なのかマリルに聞いてくれ!
「ちょっと、アンタ達二人で納得してないでアタシ達にも分かるように言いなさいよ」
ナイスだシュリ!
「そうだね。皆にも分かるように説明してもらっても良いかなマリル」
「任せて下さいハルト君!」
僕はあたかもちゃんと分かってますよというテイを取り繕いながらマリルに全て丸投げした。
するとマリルは、花が咲いたようなパァッとした笑顔を浮かべてアレの正体を説明する。……僕の隣りで仰向けに寝転んだままで。
「ケーゼ……これは恐らくKZを簡略化した言い方でしょう。つまりニナケーゼとは、ニナちゃんがKZな一家。もしくはニナちゃんとKZの一家という意味に他なりません」
なるほど、流石はマリルだ。
情報が少ないにも拘わらず、かなりもっともらしい答えの導びき方である。
「んで、KZはどういう意味なんだよ?」
先程までは興味無さそうに雲を眺めていたアインも、やはり真相が気になるのか。
ゴロゴロとこちらに転がって来てマリルに尋ねる。
……どうでも良いけどその移動法流行ってるの? 僕もやった方が良い?
「ズバリ! それはクズです! 私がKZという単語から連想できる言葉はこれしかありませんでした! ニナちゃんとクズの一家という線も考えられますが、私がクズであるハズはありません。すると必然的に正解はニナちゃんがクズな一家という意味に決定します!!」
「決定しないわよ! 何が悲しくて自分で自分を罵倒する名前を組織の名前にするってのよ!!」
凄い自信に満ち溢れたドヤ顔を見せるマリルだったが、ニナがすぐさまツッコミを入れつつ否定。
さっきまでは当てて見なさいとでも言わんばかりに、ニコニコと状況を見守っていたのにこの反応とは。
どうやらニナはマリルの推測を気に入らなかったらしい。
「って、もしかしてハルトもそう思ってたの!? だったら殴る!!」
「どうして僕にだけ手が出るの!?」
うちのボスが野蛮過ぎて怖い。
ニナはやると言ったら本当にやる有言実行人間なので、僕は殴られないように他の推察を考える。
「そ、そんなハズ無いじゃないか。僕はてっきり――――」
「てっきり――?」
「――……黒汪弁慶乃邪縄五劫思惟阿弥陀仏だと思ったよ」
「何なのそのクソ長い名前は!?」
僕も言ってて意味分かんなくなってしまった。
取り敢えず無理やりにでもKZと結び付けたが、最後の方とか何言ってるんだよ。……いややっぱ最初っから意味不明だわ。
阿弥陀仏って事は仏像なの? ニナ仏像一家って頭大丈夫?
たまにお人形やぬいぐるみを家族と言い張る人がいるが、仏像を家族だと言う狂人には出会った事が無い。
もしこの名前が本当にニナケーゼ一家の由来なら、僕は今すぐこの組織を抜け出す所存である。
「言っておくけど、別にKZは関係無いわよ? そして勿論、阿弥陀仏も関係ない」
そう言ってニナは僕とマリルに呆れたような視線を送って来る。
なんだ、そうならそうと先に言って欲しかった。
ニナなら仏像に対して異常な愛を持っていても不思議じゃないから現実味があってちょっと怖かったよ。
「ふっふっふ。俺は分かっちまったぜ姐さん。ケーゼの意味を」
「アインが? ふーん、言ってみなさいよ」
「おう! ケーゼとはつまり――――」
「「「「「つまり――?」」」」」
アインはいつも通り謎に自信たっぷりで言う。
「傷口に貼る奴だ!」
「……それはガーゼ」
「くっ、じゃあアレだ。シュリの好きな甘ったるいやつ!」
「それはケーキ」
「村長がペットの犬をいつも閉じ込めてるやつ!」
「それはケージ」
「貴族のデブ共が得意げにやってるやつ!」
「それは政治」
「みんなー! 明けましておめでとー!」
「それは零時」
アインの言葉にすぐさま的確な返しをするニナはやはり凄い。
そしてアインは絶対途中から当てるのを諦めてふざけ始めたな……。
「はぁ、多分誰も当てられないと思うから私が答えを教えてあげる。始めは私もニナ一家にしようと思ったのよ」
「ニナお姉ちゃんにしては意外とシンプルだね」
「にしてはってどういう意味よシュカ」
持ち前の目付きの悪い眼光でじいーっとシュカを睨み付けるニナ。
シュカはそれを受けて、自身の失言に気付き「あ、あはは」と笑って誤魔化す。
「……まぁ良いわ。でもニナ一家って名前じゃちょっと味気ないと思ったのよ。個性が無いって言うか、パンチが効いていないって言うか」
ニナがいるだけで組織のパンチは充分だと思うのだが……。
「そこで私のニナという名前に、私の好きなものを付け足したの」
「ニナ姉の好きなもの? ……血、肉、闘争、酒…………」
「修羅か、私は! そんな物騒なモノじゃなくて、もっと女の子らしいものよ!」
「え? 姐さんが女の子らしいものを?」
バキッ!
ニナが女の子っぽいものを好きなイメージが湧かなかったのだろう。
つい怪訝な表情を浮かべてしまったアインを、ニナは無言で笑顔のままぶん殴った。……それもぐーで。
強制的に地面とキスをさせられ手足がピクピクと痙攣しているアイン。
一体ニナはどんな馬鹿力で殴りつけたのか。
「私って小さい頃からチーズが好きなのよね。だけどチーズをそのまま私の名前にくっ付けてもダサいから、少しだけ読み方を変えたの。それでNinaCheese一家になったって訳」
「へぇ~、ニナも頭を使う事があるんだね」
ボコッ!
口は災いの元。
僕はこの日、この言葉の意味を身体で理解した。
ゴールデンウィークで時間が取れたので久し振りの連日投稿です。
次話からはちゃんと本筋の話に戻ります。




