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12話 デート

「ハルト―! 見て見て!! 服屋さんがあるよ!!」


 シュリは繋いだ手をグイグイと引っ張りながら僕を服屋さんへと急かす。


 村の服屋さんはデザイン性もクソも無い無地の物か、ワンポイントの刺繡が入った質素な物しか置いてなかったからね。

 シュリはこれでオシャレさんだから、こうして都会で服屋さんを巡る日をとても心待ちにしていたに違いない。


「わぁー! 服がこんなにいっぱい!! ねぇ、全部買っちゃおうか!?」

「あはは、それはいくらなんでもお金が足りないよ」


 シュリは店に入るなり目に付いた服をいくつも手に取り、その度に感嘆の声を上げていた。


 沢山の服に囲まれてテンションが上がりきっているシュリを見ているとなんだかこっちまで嬉しくなってくる。


「ハルトはこれとこれ、どっちが良いと思う?」


 まるでおもちゃ屋さんに来た子供のように、はしゃいでいるシュリを保護者気分で優しく見守っているとシュリが右手と左手に持つ服を掲げて見せる。


 右側は胸元が大きく開いた、裾がくるぶしの辺りまであるセクシーな黒いワンピース。左側は肩が見えるが決して下品では無い、膝丈くらいの白いワンピースだ。


「うーん、この二つなら僕は白い奴の方がシュリに似合うと思うな。君の白い髪色に合ってるし、なによりシュリは足が綺麗だから……」


 そして胸が壊滅的に無いから胸元が開いたワンピースなんてとても着こなせないと思うから……。


「キャー! やっぱそうだよねー!! アタシもこっちが良いかなって思ってたんだー!!」 


 どうやら僕の選んだ選択は間違いでは無かったらしい。

 シュリは最高潮であったテンションをさらにもう一段階上げ、鼻歌まで歌いながら店員に白いワンピースを渡す。


「じゃあ次はハルトの服を選ぼ? アタシがハルトをコーディネートしてあげる!」

「い、いやぁ、僕は良いよ。あんまりオシャレとか分からないし」


 なにせ僕ほどのイケメンにもなれば、なにを着ても中身の僕自身が醸し出すカッコよさが滲み出てしまうからね。

 つまり、死ぬほどダサい服でも僕が着るだけで最高にイケてる服に早変わりする。


 まさに究極のエコ。


 試したことは無いが、きっとふんどし一丁でも街ゆく女の子にキャーキャー言われるに違いない。


 それにせっかくのお金を服なんかに使わず、僕はもっとお金を有意義に使いたいのだ。

 例えば、美味しい物を買うとか、勇者ちゃんへの貢ぎ物(プレゼント)だとか、金運がアップする大きい壺だとか、噂で聞いたカジノだとか。


「だーめ! ここで服を買ってオシャレな姿でデートをするんだから。ほら、こんなのがハルトには似合うと思うんだけど……」


 自分の身体に恥ずべき部分など何処にも無い僕はハッキリ言って全裸でも何ら問題は無いのだが、シュリがとても楽しそうにしていたので、されるがまま一時間ほどファッションショーに付き合った。



~~~~~~



「占い?」

「うん、昨日ヨウに聞いたの。なんでも凄い的中率の占い師が居るんだって!」


 服屋を見た後、小物屋さん、カフェ、公園を訪れた僕達は、宿に帰る前に占いをしてもらおうという話になっていた。


 翌日の天気を予測する事すら可能となった現代において、占いなんて馬鹿馬鹿しいと正直思うものの、シュリはそういった話が大好き。

 今日の朝も新聞に載っていた占いコーナーを見てマリルと大変な盛り上がりをみせていた。


「あ! あそこみたい。ほら、フードを被った人が水晶玉の前に座ってる」


 シュリが指さす方を見ると、確かにTHE占い師とでも言うようなとてもそれっぽい人がいる。

 どうやら僕ら以外にお客さんもいないようだし、サッサと占ってもらおうじゃないか。


「ふむ、お二人さん。ラブラブのカップルじゃな」

「あ、分かるー? そうなの! ハルトハルト! やっぱこの占い師本物よ!!」


 いや早速外してるじゃないか!

 確かに僕らはお互いに信頼も親愛も抱いていてラブラブとも言えない事は無いが、カップルでは間違いなく無い!

 ますます占いなんて信用ならないな。


「それで? 何を占って欲しいんじゃ? 儂は占いならば一通り出来るぞ」


 占い師はフードを被っているせいでその姿は見えないが、声は女だ。それもかなり若い。

 喋り方がババ臭いのは少しでも雰囲気を出すためかな?


「じゃあ、アタシ達二人の未来で!!」

「……良かろう。では二人共、こちらに顔を近付けるのじゃ」


 顔を?


 てっきり目の前に置かれている水晶玉で占うものだと思っていたが、まさか顔とはね。

 僕は聞いたこと無いが、結構有名なのかな顔面占い。


 僕らは占い師の言葉に従い、二人して顔を占い師に近付ける。

 そして占い師は僕らの目をそれぞれじいーっと見詰め続け、三十秒ほど経つと「もうよいぞ」と言った。


「まず先に言っておこう。占いとは確実なものではない。そうなる可能性が高いというだけで、これからの行動次第で結果はどうとでも変わる」


 占い師は結果を言う前に、まるで当たらなかった時の言い訳でもするように前置きを話す。


「うんうん! それで!? アタシとハルトの将来は!?」

「儂が見えたのはほんの一瞬の光景じゃ。じゃから何故そんな状況になっているのか、前後の因果関係はまるで分からん」 


 一瞬の光景か。


 どうしよう、世界制覇を成し遂げた瞬間の僕達とかだったら。

 きっと僕達は最高に喜んでるんだろうなぁ。そして周りには多分死体の山だよね。


 そ、それとも僕と勇者ちゃんとの結婚式の瞬間だったらどうしよう。

 シュリには申し訳ないけど、きっとその時僕は幸せいっぱいなんだろうなぁ。


 そんな事を考えていると、占い師が一つ深呼吸をして絞り出すような声で言った。


「お主ら二人と、他に三人の仲間がいた。そしてその五人で、あるものを取り囲んでおった……」


 僕とシュリ。そして他の三人と言うと間違いなくアイン、シュカ、マリルの事だろう。


 でもあるものって何だ……?


 そんな僕が抱いた疑問はすぐに氷解することになる。



「お主らが取り囲んでいたもの。それは――――勇者の死体じゃ」

意味深な終わり方ですがシリアス一色にする気はサラサラないのでご安心を。

これからもくすりと笑えるようなお話作りを目指して頑張っていきます。

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