9.事実確認は正確に。
「さて、今日呼んだのは正式にお主の昇格をするためじゃ。ツボも見せておくれ」
「僕もそのつもりだったので、助かります」
「ほっほ。末恐ろしいスキルじゃからな。たまにお主のような者がいるからこの仕事は辞められんのじゃ」
ご機嫌らしいマッチョが大胸筋を震わせ笑うのを、僕はちょっと嬉しい気持ちで後を付いていく。
ギルドに併設された屋外訓練場でツボことアイテムボックスのスキルを確認したいらしかった。
「ほあー。では、お主はあの異世界人ってやつじゃったのか」
「浮世離れした奴だとは思っちゃいたが、なるほど驚きだ」
「おとぎ話の人」
屋外訓練場で、僕がツボが"アイテムボックス"のスキルなのだと伝えると、マッチョオジサン改めギルド長も、一緒に来てくれたゴウショウさんもホサさんもとても驚いたみたいだった。
こちらの世界の人的にはアイテムボックスのスキル持ちはイコール異世界人という事が広く知られてるみたいだ。
ホサさんがおとぎ話というので聞いてみると、子どもに読み聞かせる絵本に異世界人の出てくる有名な昔ばなしがあるらしい。
「形、ちがう」
「昔に来た異世界人な人のアイテムボックスはツボじゃなかった?」
「空間に裂け目を作ってそこから物を出し入れしてたって話だけどな」
「何それかっこいい」
ツボな見た目は特殊みたいだけど。
こうして話をしている間も、何が始まるのかと屋外訓練場には野次馬の冒険者の人たちが集まってきていた。
何人かギルド職員の制服を着た人もいるけど、仕事中じゃないのかな。
話し声は聞こえないだろう距離だけど、僕がツボの実演か何かをすると思って見に来たみたいだ。
昨日のスタンピードでは色んな人の前でツボに魔物を吸い込みまくっていたから興味を引いちゃうのは仕方ないのかな。
「それで?」
「?」
僕が周囲を見回していると、ギルド長は軽く咳払いして何かを促してきた。
マッチョがそわそわしている。
もじもじするマッチョやだなあ。
僕が何を聞かれているのか分からず首を傾げてギルド長を見返すと、彼は辛抱たまらんとでも言いたげに言葉を続けた。
「じゃーかーらー! アイテムボックスの中はどうなっておるんじゃ? 後どのくらい入る? 生きた魔物は中ではどう扱われているんじゃ? 手を入れたら噛まれるのかの?」
矢継ぎ早に言われて僕は目を丸くする。
ゴウショウさんが「お、無表情以外だ珍しい」と言うのが聞こえたけれど、僕はギルド長に返す言葉に困っていた。
「分からないですけど」
「「「はあ?」」」
「分からないです。中、確認したこと無いですし」
「「「はああ!?」」」
分かんないよ。気にしてなかったんだもん。
僕の言葉に三人は大きく声を上げた。
ホサさんまで大きくリアクションするから僕はまずかったかなと今さらちょっと心配になる。
「じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ何か。今までどういうスキルかも分からずバンバン使ってたってことか?」
「ぐっ」
ゴウショウさんがズイと顔を寄せて来て詰められ僕は喉を逸らして後ずさる。
「お主を前線に出したのはワシじゃが、まさかどんなリスクがあるかも分からずあれだけバンバン吸い込んどったのか!?」
「うぐぐっ」
ギルド長が筋肉を膨張させて怒り興奮している。
僕はおこられの気配を察して最後の頼みの綱のホサさんを見た。
「近寄る。キケン」
めっちゃ遠くに居た。
僕は孤立無援になった。
異世界に来てまさかの今ここで一番孤独を感じる事になるとは思わなかった。
「ホサ、賢いな。確かにいつ魔物の大群が溢れ出してもおかしくないって事か」
「このツボ割れたらどうなるんじゃ? スタンピードの魔物どもに、確かダンジョンボスも吸っとったはずじゃろ」
ゴウショウさんとギルド長も退避を始めた。
僕からじりじり離れる様子を見て聞こえないながらも何か察したのか、野次馬冒険者たちの輪も大きくなる。
「なんか失礼しちゃうなあ」
中に入れた物を出す機会が無かっただけなのに。
そしてふと思う。
そういえば時間停止で容量無制限だと思ってたけど、そういうのの検証もしてなかったな。
僕が読んでた小説とかだと主人公たちはなんだかんだ検証してスキル使いこなしてた気がするし、やっぱ物語の主人公ってそのへんちゃんとしてたんだなーってこんな場面だけど感心しちゃった。
小説の彼らはどうやってアイテムボックスを使っていたっけ。
ギルド長が言うみたいに手をがぶりとやられても嫌だから、いきなり手をツボに突っ込むのは無しだ。
僕はスキルを使うよう念じてみる。
例えば、王都を出発するときに大量に買い込んだ食料はどうだろう。
よし、キャベツっぽい見た目の葉野菜を出してみよう。
「うーん、キャベツキャベツ……」
目を瞑ってウンウン言うけど、何も手ごたえ無く目を開けてもツボに変化なし。
その後も「アイテムボックスオープン!」って叫んでみたり、ステータスウインドウを呼び出してスキルのアイテムボックス欄を触ってみたり、色々試したけれどキャベツは出てこない。
僕はツボを覗いてみた。
中は暗く底が見えなくて宇宙か闇って感じだ。
「おい、ヒルネ、変な事すんなよ!」
「しないけど……」
ホサさんと同様に野次馬冒険者の場所まで下がってしまっているゴウショウさんが僕に警告を飛ばすけれど、本当失礼しちゃう。
僕はツボを持ち上げ揺すってみる。
何も音はしない。
「あれ大丈夫なんかの? 中身の確認すらできておらんように見えるんじゃが……。それならギルドに"サーチ"や"看破"のスキル持ちの職員がおるし、まずはそやつらに任せたほうが安全じゃなかろうか」
「それもそうだ。おーい! ヒルネ! って、おい! ヒルネ! お前何をしようと───」
僕はツボをひっくり返した。
ギルド長に何か言われたゴウショウさんが僕を呼んだので振り向くけど、その時にはもうツボを上下に振っていたのだった。
「あ゛!!」
ゴウショウさんが、口を開けて変な声を出した。
ツボから何か出た感覚が手に伝わり、僕はツボに視線を戻す。
そこには。
「ギャワン!」