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5.いのちだいじに。


 ゴトゴトゴト


 翌日、僕は馬車の荷台に乗っていた。


 ぽかぽかとした日差しが簡易な日よけの隙間から差している。


 街道はさすがに森と違って獣の気配など無く、街と街の中間地点に来た頃には僕の乗った馬車以外には他に行き交う人や馬車の姿は見えない。


 のんびりと続く風景に思わず眠気が。


「ふああ」

「おい兄ちゃん気が抜ける欠伸だな、ハハ」


 僕と同じく馬車の荷台の淵に腰かけていた男の人に笑われちゃった。


 男の人は僕を乗せてくれているこの馬車の持ち主、若くして行商人をやっているゴウショウさんだ。


 たぶん三十歳にもなってないんじゃないかな。


 今は御者をやっている物静かで大柄なホサさんと二人、大きな街の間を商売をしながら移動しているらしい。






 昨日森で子犬と死闘を繰り広げ、しばらく街から離れず薬草採取をするよう言い含められた僕がなぜ荷馬車に乗っているかと言うと、それは簡単。


 宿がめちゃ高かった。


 昨日武器屋に行って装備を買った後、格安だという宿に行った。


 雑魚寝な上に他数組と同室、シャワーなんかあるわけなくて体を拭くためのお湯も別料金だった。


 なのに、一泊4000G。


 ナイフ買えるじゃんって。


 毎晩ナイフ買えちゃうじゃんって。


 えー、高いなあってげんなりしながらも他に泊まれる場所もないから泊まった。


 それで、今朝改めて冒険者ギルドで薄緑のお姉さんにそのことを愚痴ったら、「王都は物価高いものね」って苦笑いされちゃった。


 聞くに、僕がいた街は王都っていって国の首都みたいな街で、物価もピカイチで高いんだって。


 もうね、すぐ決めた。出ようって。


 安全に出来ると思ってた薬草探しの仕事も結構危なかったし、何より順調に集めたつもりだった万年草は薄緑のお姉さんに見せたところ一本も万年草は無かったらしい。


 装備無しで森に入ったこともあって薄緑のお姉さんは顔が点滅するくらい怒ってたから、薬草探しは僕には向いてないんだなって実感したし。


 身元不明な僕じゃ都会じゃ職探しも難しそうだし、お金のあるうちに郊外へ行こうって即決めたよ。


 で、街の出口近くでヒッチハイクよろしく手を上げてアピールしてたら、ちょうどそこを通りかかったゴウショウさんの馬車に拾ってもらえたってわけ。


「まったく。街の出口で無表情な子どもが両手上げてブンブン手ぇ振ってるの見た時は何かと思ったよ」


 ゴウショウさんにクククって笑われちゃった。


 ゴウショウさんは王都っていう僕がいた街ともう一つ離れた場所にある街をシャトルバスみたいに荷馬車で往復して商売をしているらしい。


 道中の集落での仕入れや販売がメインらしく、王都で仕入れた生活物資を各集落で売ってはその土地の作物なんかを買い付けてそれを目的地の街で売るってスタイルらしい。


 で、目的地の街でも同じように仕入れて今度はもう一つある別の道を通って集落で売り買いしつつ、王都に引き返すんだとか。


「もう何年も決まった道を決まった間隔でぐるぐる回ってるだけだからな。たまには刺激になるだろうって坊ちゃんみたいな善良そうな旅人は運んでやってるんだ」

「そうなんだ」


 偶然の出会いだったけど、ゴウショウさんもホサさんも良い人だし良い縁だったなと思う。


 もちろんお礼というか運賃は渡してある。


 目的地までお願いするには荷馬車のスペースもとって迷惑をかけるだろうから、1万Gを渡して集落の仕入れ品で荷台が一杯になるまでって感じでお願いをした。


 実は道中の野営や携帯食にと王都では食べ物や簡単なテントや寝具を買い付けてからヒッチハイクに臨んだんだけど、今のところ寝泊まりは荷台で、食事もゴウショウさんたちがついでだって僕の分も用意してくれるからアイテムボックスに眠ったままだ。


 命には代えられないと思って買った一本1万2000Gもする回復ポーションやドーピングポーションももちろん出番無しだ。


 ポーション類は"魔法薬"のスキル持ちの人が万力草なんかを材料にして作るらしい。


 体力や怪我を直すマジックアイテムである回復ポーションも、同じく飲んだ人の能力値を一時的に跳ね上げるドーピングポーションも王都じゃないと手に入り辛いと聞いて買ったけど、もしかしていらなかったかなあ。


 まあ、あのツボ型のアイテムボックスは時間停止で容量無制限だろうし、いつかは必要になるだろうし入ってることさえ忘れなければ無駄遣いじゃないよね。


 そうして馬車の運転方法を教えてもらったりしながら三日ほど進んだ頃だった。


 そろそろ日が落ちて来たし野営地をと話していた時、馬車の馬がむずがって進むのをやめちゃった。


「どうしたんですか」

「ん、ちとまずいかもしんねえな。静かにしてな」


 御者席にいるホサさんが馬を落ち着かせようとする中、荷台にいたゴウショウさんは同じく荷台にいた僕にそう言った。


 そして小声で「馬を食う動物が近くにいそうだ」と続ける。


 なるほど、肉食獣の気配に馬が怖がってるのか。


 って、それ僕らも危ないよね。


 そう思っていると、御者台のホサさんが内窓越しに声を上げた。


「四足。狼か犬。群れ。十体以上。レアもいる」

「チッ、レアに進化した個体までいんのか。坊ちゃんは戦え……んよな」

「はい、すみません」


 ホサさんが端的に情報を挙げれば、その言葉に舌打ちしたゴウショウさんは一瞬こちらへ声をかけたが僕の返事を聞く前に荷台にあった短刀を手に取って鞘から抜いた。


「戦えるんですか?」

「いや、スキルも算術系だし剣はただの手習いだ。ホサ、馬一頭置いてどうにかなりそうか」

「無理」

「あー、クソッ! じゃあ目隠しして落ち着かせろ」


 ゴウショウさんたちも戦えるわけじゃなさそうだ。


 そこで、僕はあることを思い出した。


「……ゴウショウさん、僕を守ってくれますか」

「そりゃできることなら守るがそんな余裕は、坊ちゃん───」


 僕を見損なったとでも言いたげに見たゴウショウさんだったけど、僕の顔を見て言葉を止める。


「違います。僕が先頭で行くので、フォローを頼みたいんです。僕に考えがあります」

「っ! わかった、どうせ他に案もねえ。おい、ホサも補助しろ!」

「分かった」


 馬の目を塞いでいたらしいホサさんも荷台に回って来て、僕は二人に作戦を伝えた。


 半信半疑な二人に荷台の荷物を使って実践してみせると、二人は駄目元でもやる価値はあると乗ってくれた。


 そして────。



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