4.初対面の人には丁寧に。
「ほんと、怖い目に遭っちゃった。これが異世界の洗礼かーって感じ」
「あ、ああ、そうか……?」
目の前の小っちゃいおっちゃんが厳めしい顔を困惑に染めてこちらを見上げている。
今僕がいるのは武器屋だ。
武器屋はイメージしてたよりも小さく、中は工房って感じ。
店先には剣や槍や斧が二本ずつくらいしか並んでいなくて、もしかしたら飾ってある武器は種類を見るだけの見本品で基本はフルオーダーなのかもしれない。
たしかに武器なんて一人一人サイズが違うだろうしこんな世界じゃ命を預けるものだもんね。
そして今僕が話しかけているのは店主っぽい堅物そうなおっちゃんだ。
僕の半分くらいしか身長が無い小さなおっちゃんは、たっぷりと髭を蓄えていて小さくて柄が悪いサンタさんって感じだ。そしてムキムキ。
子犬な魔物がツボに吸い込まれてなんとか助かった僕は、その後とりあえず無手じゃ駄目だと武器屋に来ていた。
それはいいんだけど、どうやら僕は子犬魔物との戦闘でアドレナリンが出まくっているらしく、珍しく興奮してしまってるみたい。
店に入るやいなや、初対面の店主らしきおっちゃんに話しかけまくっていた。
入店、アズスーンアズ、早口お喋りだ。
「命からがら帰ってきたのに、薄緑のお姉さんには怒られたんですよ。全然万力草じゃないって。めっちゃ怒るんです」
「そ、そうか。大変? じゃったな?」
そう、ここに来る前に冒険者ギルドへ報告へ寄ったんだ。
一、二時間しか経っていないからか受付の薄緑のお姉さんは僕の事を覚えていたけど、集めた万力草にも文句を言われたし、武器無しで森に入ったことに関しては顔を赤と緑に点滅させながらすごく怒られた。
冒険者ギルドはそそくさと出てくるしかなくなってしまったので、僕は初めての戦闘の恐怖や高ぶりを誰にもぶつけられずにいたんだ。
そしてやってきた武器屋さん。
小さな店舗に入って正面、ままごとみたいに低い会計カウンターのところにいたおっちゃんと目が合った僕はまくしたてるように今日あったことを話し始めた。
工具を手に製品の調整をしていたらしいおっちゃんは頭の上に『???』を乗せて、半ば呆然と僕の話に相槌を打っている。
「それで、無手で森に入るなんて馬鹿だとかまで言われて、そんなこと僕だって知ってますよーって言ってやったんです」
「はぁ」
「ツボじゃ、この先流石にまずいですもんねー」
「つ、つぼ? てかお主、ずっと無表情でまくし立てて怖いんじゃが、てか客なんじゃよな?」
「あ、そうだ、武器買いに来たんだ」
状況把握がやっと出来てきたらしい店主のおっちゃんがやっと相槌以外に言葉を発したことで僕も気づく。
僕らしくなく、たくさんお話しちゃったよ。
普段無口なほうだからお喋りも下手だし、感情を表情や声に乗せるのも下手だ。
幼馴染にはちっちゃな頃から無表情で何考えてんのか分かんないってよく言われたな。
おっちゃんの仕事の邪魔するのも悪いよねってすぐに武器の購入について聞いてみる。
「武器や防具って僕でも買える?」
「ああ、定型のナイフなんかで良ければ4000Gぐらいからあるぞ。剣を作るなら10万Gからじゃな」
「え、高」
「お主……」
素直な感想が出た僕におっちゃんは顔を引きつらせた。
お城で偉い人にもらったのは30万Gで、値段的にもこれで武器防具一式を揃えて生きていけってことだったみたいだ。
僕はあんまり危険なことをするつもりはないから、何か食べていけるだけの仕事が見つかるまではこの30万Gで生活していくつもりだったから、続けるかも分からない冒険者稼業のために無駄遣いしたくない気持ちが勝って高いと思っちゃった。
そんな事情や、レベルが1なことなんかを僕が独り言でぼやいていると、意外と親切らしいおっちゃんは剣や槍を買っても経験が無いなら使いこなせるはずないだろってナイフだけ買うよう勧めてくれた。
たしかにナイフなら他に使い道もあるし無駄になることはないよね。
それから、武器よりも大事なのは身を守る防具だろって革のプロテクターを見繕ってくれる。
おっちゃんにお礼を言ってナイフと防具を購入することにして、合計で3万Gで済んだ。
おっちゃんにはレベルが上がるまでは近場で薬草採取だけをするようにって何度も言い含められちゃった。