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3.きちんと準備しましょう。


 そうしてそろそろ街へ引き返そうかという頃、僕がいた獣道の前方に小さな影が飛び出してきた。


「わっ、犬?」


 現れたのは、ペットショップで見たことがあるような豆柴っぽい可愛くて茶色い犬。


 丸々としていてまだ子犬って感じの外見だ。


 とはいえさすが異世界、小学一年生サイズのちびっ子な僕と同じくらいの大きさがあった。


 次の瞬間、 飛び出してきた子犬は僕の存在に気付いて歯を剥き出しに臨戦態勢になる。


「ギャウン!」

「わ! どうしよう、すごい牙だ」


 姿勢を低くしこちらへ今にも飛び掛かってきそうな体勢になった子犬は鋭い牙が並んだ凶悪な口元を剥き出しにしていた。


 一見可愛い子犬だったけど、額に小さな角まで見つけてどうやら危険な魔物らしいと気付く。


 そういえば薄緑のお姉さんも森にはコモンランクって言われる低ランクの魔物が出ることがあるとか言ってたような。


 それより上のレアランクやエクストラランク、果てはレジェンドランクなんていうのにまで進化する個体も世の中にはいるらしいけど、お姉さんはこの森には居ないって言ってたから甘く考えてたかも。


 子犬の牙は鋭くて、咬まれたらただでは済まないだろうと分かった。


 コモンランクなんてゲームの世界じゃ雑魚扱いだけど、現実になったら魔物ってだけで滅茶苦茶怖いや。


 ていうかこれがただの野犬でも僕勝てないんじゃないかな。


 実際野生の犬なんて肉食だろうし、魔物は同種の動物の数倍はステータスが高くて狂暴らしいから、この状況シャレにならないかも。


 何か対抗手段が無いかとポケットを叩いてみるけど放逐される時に偉い人に持たされた財布くらいしかない。


 あと僕が今持ってるものといえば万力草らしき葉っぱがたくさん入った麻袋だけだ。


「あちゃー、何か武器になる物くらい用意すればよかった」

「グルルルル……」


 うっかりしてたな。


 僕は完全に無手で森へやってきていることに今頃気が付いた。


 そういえば薄緑(途中から濃い緑)のお姉さんがしきりに武器屋さんへの道順を教えてくれたのは何か用意していけってことだったのかな。


「来るなよー、えい、ファイアー、アイスストーム」


 適当に口にしてみるけどファンタジー世界だからといってそう都合よく魔法が飛び出すようなことはない。


 バッと飛び掛かってきた牙剥き出しの子犬に、咄嗟に頭を抱えてしゃがみ込むことで避けた。


 空ぶった子犬がスタントマンのようにゴロゴロ転がって少し離れた位置で止まりすぐさままた臨戦体勢に戻る。


 なんとか避けられたけど、今のは完全にまぐれだ。


「えっと、あとはなんだっけ、"ステータスオープン"?」


 この世界に来て教えられたことを思い出しながら何か攻撃に使えないかと口にしていると、ステータスオープンと言ったところでステータスウインドウがぶおんと出現した。


 ああ、今ステータスを見たって仕方ないのに僕ってば馬鹿。


 こちらを睨んでいた子犬が出現したウインドウに一瞬ビクッとしたけどすぐ気を取り直したように姿勢を下げて飛び掛かりそうな体勢に戻った。


「まずいまずい。えーっと、ヒルネ、は、ただの名前だし、体力、魔力は使い方分かんない……」


 咬まれたり痛い思いはしたくないし、軽いパニック状態でステータスに表示された項目を口に出していた僕は最下部に書かれたスキルの存在を思い出して、初めてそれを使ってみた。


「"アイテムボックス"」


 言った途端、手にズシッと重みが加わる感覚がした。


 思いがけない力が加わったことで持ち切れず、ゴトンと地面に落とした。


 見れば大きなツボだ。


 現れたのはちびっ子な僕が抱えるくらいの大きな陶器のツボ。


 けれど、不思議なことに透けている。


 スキルなんてゲームぽい能力なだけはあり、ステータスウインドウみたいな魔法っぽい存在らしい。


「ええー、なんか出たんだけど。どうやって使うのこれ。んん、よっこいしょっと」


 そもそもラノベでよく見るアイテムボックスといえば攻撃系の力じゃなくて便利な収納の力だもんな。


 子犬はもうこちらを敵に認定してしまっていてまた襲い掛かってきそうだ。


 僕、ダメかも。


 そう思いながらも何かないかと大きなツボを抱え上げて覗き込んでいた僕に、いよいよ我慢ならなくなったらしい子犬が再び飛び掛かってきた。


「グググ、ギャワン!」

「わ!」


 ツボが重くて一歩も動けず、犬を避ける術は無い。


 お願い、食べるにしたってどこか一口だけで勘弁してとギュッと目を瞑りかけた時、僕は信じられないものを見た。


「キャウン!?」


 驚いたように空中で目を剥いた子犬が甲高い声を上げる。


 そして瞬きの間に、


「吸い込まれちゃった……」


 子犬はすごい勢いでずるんとツボに吸い込まれ、すっかり消えてしまったのだった。



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