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ハガキ 風の物語  作者: 伊諾 愛彩
9/13

風の物語 8.金曜日



 金曜日は、織原睦美の講演会の日だった。珊瑚は研究室に籠ったきりで帰ってこないから心配だったけれども、珊瑚の研究室に繋がる屋上の扉は施錠されていて、様子を見に行くことが出来なかった。椥紗よりも珊瑚との付き合いが長い百舌陽一郎が、学校と珊瑚の保護者に連絡してくれて、「こういうことはたまにあるから心配するな」となだめてくれたので、大丈夫だと思っているけれども、どうも落ち着かない。

 その上、朝六時半に起きてキッチンに出てきたのに、もう既に双葉も家を出てしまっている。約束をしているわけではないが、二人ともいないのであれば寂しいし、学校までの道程、といっても10分もかからないが、つまらない。そんなに遠くもないので、わざわざ違う専攻の龍野理真美と待ち合わせることもないし、誘って断られたら、ダメージがありそうなので、一人で学校に行くことにした。

「学校、楽しいな」

椥紗は自然に出てきた気持ちを録音して、地元にいる保護者みたいな春日伊織に送った。それを聞いて、どういう反応をしているか見れないのはちょっと残念だけれども、多分、喜んでくれているはずだ。


 椥紗とは違って、ちゃんと学校に行っていない生徒も居た。島田蒼佑は、金曜日の朝、札幌に居た。朝からギュフの店舗でのアルバイトで、商品を整えていた。学校が嫌いというわけではないが、働くのが楽しくて、止められないのだ。特にたくさんの人がやってくる札幌の店舗での接客が気に入っていて、バイトの応援要請があると、授業とか関係なしに、シフトを入れてしまう。バイト先は学校の関連施設だから、学生の蒼佑のニーズに合わせて働かせてくれる。社員も、バイトリーダーもそういうことを理解して、はたかせてくれた。

「島田君、上にあげておく荷物あるから、鳥居君と一緒に上行ってくれる?」

「はい、じゃあその仕事終わったら、休憩というか、授業のオンライン行きます」

「じゃあ、研修室1使ってね」

「了解でーす」

鳥居風太は、蒼佑と同い年くらいの学生アルバイトである。どうやら、雁湖学院の生徒らしいのだが、学校で見たことはない。ここでは50代くらいのパートのおばちゃんに話しかけられる事が多く、風太と絡むことはあまりなかった。

「これ」

風太は、段ボールに入れて店からの在庫を運んできた。新しいフェアに向けてのスペースを作るために一時的に奥に戻す商品で、それを仕分けて整理するのは意外と骨だったりする。パートリーダーが優秀で、倉庫を使いやすいようにしてくれているから、難しいことはないが面倒くさい。風太は静かで、眠たいのか何度もあくびをしていた。

 全ての作業を終えた後、蒼佑はシフトカードを押してロッカーに向かい、タブレットとノートを持って研修室に入った。

「隣」

オンラインで繋がるアプリを起動して、授業を受ける準備をしていると、面倒くさそうな顔で、風太がやってきて、蒼佑が荷物をおいていた場所をどけるように促してきた。

「あ、すまん」

風太は、バイト中と同じようにあくびをして、面倒くさそうにタブレットをおいた。そしてヘッドフォンを着けて授業に臨んだ。蒼佑の画面と、風太の画面は同じだったので、蒼佑は呟いた。

「なんだ、お前も同じか」

風太は面倒くさそうにジロと睨んできた。

「睨むことないだろ」

また風太は大きなあくびをした。研修室を使うのは二人だから、離れたところも空いているのに隣に座ってくる。しかし、話しかけるなという敵意を向けてくるのはどういうことなのかよくわからないので、蒼佑はあまり気にせずに勉強することにした。


 オンライン併用の数学の授業のライブストリーミングで、発言することも可能だが、基本は教室で受けている生徒が優先となっている。そのためオンラインは視聴のみでその内容を習得できているかが不明瞭になってしまうので、ノートの提出とメンターとの話し合いが求められる。メンターに話をしなければならないので、手を抜くと、学校で授業を受けているよりも鋭い指摘が来る。

 仕事が勉強よりも好きなだけで、数学は嫌いじゃない。計算が速いと仕事も効率的に勧めることができるので、計算問題は得意だった。授業の視聴が終わった後、復習をしながら書き直しなどをしていると、風太が顔の前にパンとおにぎりを差し出してきた。

「これ、もらった。食べる」

風太はコミュニケーションを取ることが苦手なのだろうか。口数が少ない。

「俺は、あと2時間くらいバイトしてから、外行こうと思うんだけど、お前は?」

札幌の4月は結構寒いのだけれども、その日はまぁ外で食べられないこともない位の気温だった。もう雪は殆ど消えてしまったし、札幌の町の真ん中を通る大通公園に行けば座れるベンチもある。

 昼食の後も働くので、店の制服が見えないように二人はオーバーオールを着て外に出た。オーバーオールは店の商品と同じもので、二人が全く同じオーバーオールを着ているから、二人がギュフのアルバイトだということは勘のいい人には分かるとは思うのだが、その二人に近付いてくる外人がいた。

「僕も一緒にご飯食べていいかな」

突然日本語で話しかけてきたのと、ポニーテールでサングラスだったから、外人女性だと思ったのに予想外の低い声で、二人は驚いた。

「知らないわけないでしょ? ね。僕だよ、僕」

サングラスをずらしたその男性に、二人が誰なのかに気付いて大声を上げようとしたときに、二人の口を抑えてささやいた。

「はーい。そこから先はダメだよ。僕、有名人だから、注目浴びたくないの」

椎野真生である。注目を浴びたくない人が大通公園を堂々と歩かないでほしいと思いつつも、働いているギュフのCEOであり、雁湖学院の理事長という立場の人が近くに居ることに蒼佑はビビっていたが、風太は冷静な素振りでいた。

「二人とも、何で札幌に居るの?」

「アルバイトのためです」

「あ、そっか。働くのオッケにしてたか。ま、どういう風に学校生活を過ごすのかはそれぞれ次第だけど、鳥居君は、やっちゃいけないバイトしてるでしょ」

風太はしばらく黙った後、真生に突っかかるように言った。

「やっちゃいけないバイトって何?」

「すすきののアルバイト。まだ君、18歳になってないよね? 全然雁湖に来てない聞いてるんだけど。まだ入寮手続きもしてないでしょ」

詰め寄られて風太は下を向いてしばらく黙った後、堰を切ったように話し始めた。

「ちょっと待って、何で全部知ってんの。僕、何も話してないでしょ? なのに何で学校の理事長が僕のこと知ってるわけ? 意味ないじゃん。余計なことを話さないように、無口にやってたのにさ」

「これで、ちゃんとお話しできるようになったね。本当は、色々話したかったんだよね、風太君」

ニコニコ笑う真生を、風太は睨んで言った。

「アンタ、どれだけ知ってんだよ」

「僕の行きつけのお店のうわさ。風太君のバイト先のこと知ってたから、聞いただけだよ。僕、遊び人だからね。結構色んなお店と繋がりがあるんだ。これ、学校運営で役に立つと思わなかったよ。もともと若い男の子と女の子が好きだったので、色んな情報が入ってくるんだよ」

「それってさ、即ち、僕が可愛いって噂になってるってこと?」

「そういうことになるね。それで客持っていかれてるっていう反感も買ってるみたいだけど。気を付けなよ?」

「ま、仕方ないじゃない。僕可愛いもん。そう思うでしょ、蒼佑君」

突然名前を呼ばれて、蒼佑は目の前で可愛いポーズを取る風太を咄嗟に否定した。

「自分で言うな」

「ね、可愛いでしょ、僕」

「引っ付くな、近い、近い」

少し嫌がられる程度であれば、臆さず続ける。風太は、場に入れていない人間をカバーするのが得意だ。その空気についていっていない人間を置いていく、排他的な雰囲気が風太はあまり好きではなくて、それは接客の点でも役に立っている。

「っていうか、終わりじゃん。僕、すすきのナンバーワンホストの右腕になるつもりだったのに」

「お前がナンバーワンじゃないんだ」

「一番なんてメンドクサイでしょ。それに、僕、可愛い系だし、男性らしいカッコよさを目指すの無理だし」

「面倒くさがりだからか。まだ入寮手続きさえしてないの。そういう面倒くさいことを後に回すのは良くない。じゃさ、今から学校行くんだけど、一緒に行こ? 柊さんの運転だといつもより速く着くよ」

「は、仕事中なんですけど?」

「CEO命令ってことで、早退してもらう。シフト予定分の対価は払うよ。問題ないだろ」

柔らかい口調で話しているけれども、蒼佑と風太の意見を聞く気は全くない。風太は抵抗する気だったようだが、蒼佑は諦めて従うように言った。労働者としてギュフに雇われているのだとすれば、文句を言うことも出来るかもしれないが、あくまで二人は雁湖学院の生徒だ。仕事をするのは教育に支障のない程度でなければならない。教育者として真生が指導しているのであれば、言っていることには逆らえないし、蒼佑と風太に利はない。


 カバンなどの荷物を持って再集合の時間と場所を指定され、時間通りに行くことになる。これに逆らおうとしても、二人の居場所は簡単に特定できるようになっていた。それは、学校から配布されたタブレットである。これを使わなければ、オンラインの授業を受けられないようになっているが、そのタブレットにはGPSが入っている。

 風太や蒼佑も気付いていなかったが、それを元に真生は二人の居場所を推定していた。風太は、学校に一度も行っていないけれども、授業は受けていた。そのタブレットのGPSの座標から、彼が何をしているのか、大体は想定出来た。すすきのの雑居ビルに居る事。どの階なのかの正確な位置は分からなくても、ビルまで特定できればそんなに難しいことではない。札幌にいるギュフの社員に客として訪問してもらって、風太の居所を突き止め、どのような様子だったかを報告してもらう。すすきのに行きつけのお店があるというのは、嘘ではないし、真生自身夜の街を出歩くのは嫌いじゃないから、それもハッタリというわけではない。教育者と生徒の間にそういう駆け引きがあるのも悪くない。

再集合の場所は、創成川の東側で町の中心部に比べて人が少ない。真生と柊が乗っていたのは、北国ではよくある国産の4WDのワゴン車で、大会社のCEOらしくなかった。3列シートで、真生は後部座席に乗っていて、ドアから手招きをして二人を呼んだ。後ろの座席は対面にしてあって、進行方向とは逆向きになっていた2列目のシートに真生はどっかりと座っていた。横には、ファイルが幾つか積まれている。そのうちから一つを手に取って、話を始めた。

「僕、車酔いしないから、後ろに二人並んで座って。やるべきことの確認もするから、ちょっと話聞いてもらうよ」

確かにここから雁湖まで、2時間ほどの時間があるが、その間も何らかの仕事をする。バイタリティのあふれる経営者として、1秒も無駄にしないという真生の姿勢が表れていた。

「まずは、風太君は入寮手続きね。あらかたのことはこちらで終わらせているから、生活に必要そうなものは、今ここで選んで」

真生は息つく間もが殆どなく話し続ける。

「今日中に手配するのは難しそうだから、蒼佑君……」

真生が蒼佑の方を見た時、蒼佑が殆ど話に付いてきていないようだったので、真生は言葉を止めた。

「何で、下の名前で呼ぶんですか?」

「あ、ごめん。日本だから名字で呼ぶのか。それに学校だからね」

「別に、どっちでもいいですよ。何か、ちょっと変わってるなって思っただけで」

真生は少しでも先に進めようと考えて用意をしていたのだが、それは無理そうだと悟り、開いていたファイルを閉じて脇に置いた。教育する側が一人で走っても仕方がない。生徒が付いてくるように仕向ける、寧ろ後ろから押すくらいの余裕がないと何も変わらない。

「一応僕、学校の偉い人だからさ。学校の問題について一番取り組む人であろうとしているわけ。学校のことと会社のこと、両方の役職についているわけだけど、どっちも肩書だけの人間ではいたくないのね。だから、問題児について、ちゃんと指導にきたんだけど」

問題児という言葉が自分に向けられていることはすぐに察し、蒼佑は不満気な表情を浮かべた。確かに蒼佑自身、学校に入学したものの殆どの授業をオンライン受講にしているから、「真面目」な生徒とは言い難いかもしれない。ただ、問題児として見なされるのは、不満だ。入学式やほぼ全員が受けるはずの異文化理解の授業といった授業に行った時に、思ったよりも生徒の数が少なかった。学校に着ていない生徒が結構な数居るということは分かっていた。同じ島から雁湖学院に入学した妹みたいな生徒は両親の都合で一度も学校に来られていない。そういう例も知っていたから、札幌でアルバイトをしている数を増やしているだけの蒼佑がどうして問題児扱いされなければならないのかと憤慨した。

 真生はすぐにそのことを察した。そして、その蒼佑の怒りを無視した。

「とりあえず、問題なのは、鳥居風太君、君だよ」

「どうして、僕がそんな風に言われないといけないの?」

目をキラキラとさせて、可愛い表情で真生を見るが、それで態度を変えるようなことはない。風太の処世術なのか、表情をくるくる変える様子をみて、蒼佑はあっけにとられて、怒りがいつの間にか消えていった。真生は、風太の頭を撫でて言った。

「はいはい、可愛い可愛い。その可愛さは武器だと思うけど、学校ではもう少し違うことに力を入れてほしいな」

「それだけ、面白い学校なら、がんばりまーす」

風太は、ふざけた調子で話しながら、真生に摺り寄った。

「年齢をごまかして夜の街で働いていることは、反省してもらわないとね。状況次第では、警察に突き出すし、更生施設への収容も考えるつもりだから。学校は、君の志望動機を信じて、君に合格を出したんだ。学びたいという意志、それが消えてしまったのであれば、それに対応しなければならない、よね」

厳しい顔をしていたが、最後にはいつも通りの穏やかな調子で話を終えた。

「君が変わろうとしないなら、探し出して更生させる。教育者として当然だろ」

真生の怖いところは、その言葉に実現性があることだ。彼には仕事を通じたネットワークもあるし、交友関係も広い。たとえ逃げたとしても、あらゆる手段を使って風太を探し出して、更生させるだろう。たかだか一生徒にそんなことをする必要はないのに、本当にやりそうなところが、真生の『頭の線が一本切れている』、クレイジーなところである。

「それで、蒼佑君」

蒼佑は名前を呼ばれて居住まいを正した。先ほどまでの怒りは、真生と風太のやり取りを見ているうちに消えてしまっていて、真生の言葉をそのまま受け入れられるような心持になっていた。

「問題って程ではないけど、君は、ちょっと働きすぎだ。日本の高校生の生活というのを考えた時に、これだけ働いていると勉強に集中できないんじゃないかって思う。僕は日本の高等教育を経験してないんだけど、普通は学校以外に塾に行くらしい。そういうのを考えると、こんなに働くのは勉学に支障が出るんじゃないかって思うけど、君はどう思う?」

自分に発言する機会が与えられると思っていなかったから、蒼佑は尋ねられて驚いた。

「要するに、日本の一般的な高校生は、1日24時間のうち6時間学校で勉強して、更に3時間ほど塾で勉強するらしい。高校に通うために、毎日往復2時間かけて学校に通う生徒もいるらしくて、11時間は拘束されているわけだ。そこから、食事、入浴、睡眠などを諸々考えると、殆ど自由になる時間がない。どう思う?」

「普通みたいっすよ。これに更に部活動とかやってるやつとか居ます。まぁ、そういうのは塾には行ってないと思いますけど。って言っても、俺は島生まれだし、ちゃんと都会の教育を受けたわけじゃないですけどね」

「部活動ね。それは、学校でやるの? 地域のクラブとかではなくて? 学校の先生って、部活動の専門家じゃないでしょ?」

真生は更に興味津々に尋ねてきたけれども、蒼佑も詳しく知っている話ではない。とはいっても、運転手の柊と、歓楽街でアルバイトをするような風太の中で答えることができるのは自分だと思い、考えながら答えた。

「俺の話はそんなに当てにならないですよ。まぁ、話せることといえば、島の部活動は、島の得意な人とかが来てくれて、教えてくれていました。集団競技をするには人数が足りてなくて、男女混合だったりで、大会とか出られるような感じではなかったし、大会とかに出るためには、島から出なければいけない。そこまで金を掛けられるような家は殆どなかったし、島で低いレベルでやってるような部活でした。それはそれで楽しい部活動でした。まぁ、あんまり高校にいってないからわかんないですけど、札幌の高校は、全国大会に行くクラブがあって、野球部だったかな。その部活の先生は、その競技を社会人になるまでやっていたらしいとかあって、甲子園とか言ってるやつも居ましたね。高い目標があって、良いとは思ってましたけど、でも、『野球を仕事にしたいとか、本気でしたい』奴にしか入れないような部活になっていて、俺みたいな普通の生徒が楽しく部活したいみたいなことは出来なかったですね」

「同じ日本のケースだけど、前のと後のは全然話が違うね」

「まぁ、島のことは島のことですからね。普通とは違うんじゃないですか」

「どうだろうね。『よくある村社会』、村社会は微妙だな。偏見のない言い方をした方がいいか。……『よくある集落コミュニティ』と言ったらいいのかな。それも何だか違うな。『よくある』って本当に『よくある』ものなのかな。都会の方が一般的な社会になってしまったから、それを基礎に考えるのが当たり前になってるけど、別にそうでもないからね。それに何より、蒼佑君、君にとっての当たり前は、島の生活だろ。それ、大切にするべきだよ。都会が当たり前、この感覚は変だと、僕は思う。都会が基準ていうのは、『植え付けられたもの』だからね。教育が悪いのか、メディアが悪いのかよくわからないけど。君も、そういう基準おかしい思わない?」

「俺には、難しくて、分かりません」

「そうだね。矢継ぎ早に話してしまったね」

不思議なことを考えている人だ。蒼佑は、まず驚いた。グローバル展開を始めているギュフという大企業のトップに居る人が、田舎の小さな島の世界のことを考えているというのは、奇妙だった。そして、真生の発言には、納得できるところがあった。部活動というトピックだったけれども、蒼佑にとって、当たり前の部活動、理想的な部活動像は、全国大会を目指す部活動というイメージになっていた。自分が中にいて楽しいと思える部活動は、札幌の部活動ではなく、島の部活動だったのに。楽しいことを大切に自分であったりチームが強くなることを目指して頑張った。正しいものは、より良い成績を残せるものだった。それが高みだった。そんなものを自分は欲しているんだろうか。それが札幌の高校に行った時に覚えた違和感だった。

「なぜ、自分はこのように考えているのか。思考の根底にあるものを考えるのが、教育の場であるべきだと思うんだ。『植え付けること』が教育じゃない。『考える力』をつけるのが、大事なんだ。詰め込み教育なんて、クソだよね。まぁ、その原因は世の中にあふれかえる情報なんかにあると僕は思っているけどね。勿論、知識を詰め込むことも大事だ。とはいっても、やみくもに知識を詰め込んでも、意味がないんだよ。どう使うのかが分からなければ、知識は寧ろ重たい荷物にだってなる」

「よく分かんないスけど、その『考える力』っての、学校なんていう守られたところで手に入れられるものなんスか? すすきのでどうやって稼ぐのか考えながら働いてる方が絶対に役に立つでしょ」

口を出してきた風太を引っ張った。

「君は、お金が好きだね。でもね、お金が全てじゃないからね」

CEOとして財産を持っている人の言葉の重みは違う。

「お金は稼ぎ方よりも、使い方じゃないのかな」

黙った風太に対して、追い打ちをかけるよう強い口調ではなく、穏やかな口調を選んで真生は言った。

「歓楽街でシャンパンタワーを立てるよりも、田舎に家を建てる方が楽しいと僕は思う。歓楽街は稼ぐことはできる場所だと思うよ。稼ぐことができる出来る反面、お金は流れるように消えていく。ただそれだけなら良いんだけど、流れていくお金がなかなか厄介なんだ。それに慣れてしまうと、それだけのお金が必要だと思うようになってしまう。その必要を満たすために働く。そしてそのお金を流していく。消えていくもののために君は時間や労力を費やしていくことになる。断言できるね」

「そうなる前に脚を洗うに決まってるだろ」

「言うのは簡単だけど、本当に可能かな」

風太は表情が豊かでコロコロと変化して、見ているだけで気分が高揚する。そして、その表情や口調は、真生の様子に合わせて変化するのだ。飽きさせないエンターテイナーとしての素質が風太にはある。

「風太君、君には芯がない。誰かの懐に入ることは得意だろうけど、その誰かを見極める力を欠くと、君自身がうまくいかないどころか、君は悪い人間にもなりえる」

「芯ねぇ。それを僕につけろと?」

「いいや、君にはその素養はない。君が芯ある人間として他の人を引っ張っていくというのはまず考えられないし、それに関してはお手上げだ」

「は? じゃあ、学校に行く意味ないじゃないっスか」

「僕はリーダーになれるような人間じゃない。どちらかというと日和見の君のような人間で、僕に似てるんだよ」

「大企業のCEOである御方が何を言ってんだか……」

「真面目に言ってるんだよ。僕はリーダーになれるような器じゃないし、たまたまCEOをやっているに過ぎない。ギュフが軌道に乗っているのは、僕以外の人間の芯に乗っかっているからだ」

「芯ねぇ。って言っても、鉛筆とかリンゴとかそういうのの芯ってわけじゃないでしょ」

「そうだね。芯は、信念とか哲学とかそういう言葉で表すのがいいかもしれない」

「信念とか哲学、お金にならないやつですね」

風太は即物的で、お金になるかならないかで物事を判断する。彼にとって、芯と呼ばれるものは最も興味のないものだった。

「まぁ、そうかもね。ただ、お金の種ではあったかもしれないな。僕たちの仲間が作った哲学、信じているもの、それに基いて、作ったビジネスが全ての始まりだった。ビジネスは、お金を作り出す方法であると同時に、その芯、信念や哲学を広める手段でもある。結果的にギュフという形の会社になって、うまく回っていくビジネスを成立させられるようになった。お金があって凄いから、風太君のような子にとって魅力的な組織になった点は否定しないけど、お金は副産物に過ぎない。芯になる哲学が堅固なものだったから、仲間たちが協力的になれた。だから継続的なビジネスが続けられた。ただ、残念ながら、僕以外の仲間たちは、ほとんど消えてしまったけどね」

蒼佑は二人の話を聞きながら、凄い話を聞いているのかもしれないと思った。

「じゃあ、その哲学ってのを教えてくれます? 出来れば手短に」

風太は興味がないみたいで、めんどうくさそうな顔をしていた。それを見て、真生は笑った。

「簡単に説明できれば、苦労しないよ。彼が残したものはウェブにアップロードしたものとか、パソコンに残っていたデータだとか、ノートに書かれている言葉だとかそういうものでしかないからね。」

「残した?」

「鬼籍に入ってしまった。だから、本人がどういう意図でその言葉を残したのか、分からないんだ」

鬼籍に入る、即ち死んでしまったと言っている。感傷に浸っているのか窓の外に目線を向けた真生に車内は無言になった。

「好きな言葉の一つにこういうのがあったな。『汎用性のあるものを疑え。汎用性の届かないものは、見るべきものだ』。この言葉は、僕の君の島での生活は、そういうものだろ、蒼佑君」

「え、あ」

突然会話が振られて、蒼佑はうまく答えることができなかった。

「汎用性は、普通と同じような意味で使えると思うんだ。普通が届かない蒼佑君の島での生活。それは、見るべきものなんだよ。そこに何らかのチャンスがある」

「それはビジネスってことですか」

「さぁ、どうだろう。本当に君はお金が好きだね、風太君」

回りくどい言い方をしているが、真生は蒼佑の今までの経験を理解しようとしている。札幌の高校では、田舎からやってきた変わり者として、扱いにくい生徒のように思われていた。島には高校はないから、一人暮らしをしなければならなかった。高校に通えるように、親が生活費を送ってくれていた。だから、多少しんどいことがあっても頑張らなければならないと考えていた。

 札幌の高校を辞めようと思ったきっかけは、島の妹のような存在が雁湖学院の受験を考えたことだった。田舎の高校に行けば、異分子のような自分を変えることができるかもしれないとも思った。決意できなかったのは、親が蒼佑に対して払ってくれたコストだった。入学金や授業料といった学費は元より、下宿を借りる賃料、生活に必要なものをそろえるための費用、島で生活していくのに必要のないお金が瞬く間に消えていった。親は、大した金額ではないと言っていた。でも、特別なお金だった。札幌に家がある同級生が必要としない費用だった。

「俺は、アンタについていったら、成長できるんですよね?」

すがるような目で見た蒼佑の気持ちをかわすように真生は笑った。

「ま、分からないから、学ぶんだよ。生きるために必要な資源のあるところで。物理的には、衣食住だろ、そして精神的には、居場所を感じられるところで。それがまず満たされること。居場所は大事だからね。蒼佑君、君が札幌の高校に行かなくなった理由って、周りと考えていることが違いすぎて合わないと思ったからだっていうのは想像つく。だけど、本当にそれで学校に行かなくなるというのは、どうなんだろう。周りと考え方が違っただけで学校環境の居心地が悪いなんていうのはちょっと不快感を拡大させすぎじゃないかってさ。納得できないことをどこかで止めることができた。そうしなくて、問題をそのまま放置して君が学校に行かなくなったというのは、学校の怠慢だ。ありえないと思うんだ。決定的な理由って違っていることを『認めてもらえない。理解してもらえない』、悪く言えば、周りの人たちが違っているということを見る態度にが君を『蔑むようなもの』で、君が、『劣等感を覚えた』から」

蒼佑のことを冷静に、そして、あまり触れられたくないような部分まで暴くような感じで真生は話し続けた。それに、蒼佑は驚く以上に苛立ちを覚えた。

「アンタは、何が言いたいんですか。じゃあ、変えれたって言うんですか?」

「いや、ただの分析、学校の教育者として、生徒のことを知ろうとしているだけ。原因が推測できれば、最悪が起こりそうな時の回避のヒントになる。穏やかに過ごせるならそれに越したことはないけれども、何か起こったときの役に立つ」

「それを自覚しろと?」

「いや、何か起こったら、皆で解決するんだ。君を一人にさせない。それも教育だ」

「教育」

「学校って社会だろ。先生から生徒に教えることだけが学校の役割じゃない。学校という社会の中でどう問題を解決するか。それが社会に出た時の模擬になる。生徒たちにとっては、模擬じゃなくて、リアルだけどね」

真生は自分のことをリーダーではないと言っていたけれども、彼の発言は頼りがいがあったし、統率出来る力が十分にあった。真面目な雰囲気がしんどかったのか、風太が二人の間に割り入ってきた。

「ねぇ、CEOさん、アンタ、ホストやらない? 隣で聞いてて、これ、ちょっと落ち込んでるマダムとかに言ったらさ、何度も通っちまうようになるわ。アンタ、奇麗だし、色気あるし。俺、ホストで働くアンタの右腕になるのが、野望への近道のような気がしてきた」

興奮気味に話す風太の言葉に、真生はしばらく考えたあと、吹き出して笑った。

「うーん。良いお誘いだけど、残念だなぁ。歓楽街は僕には小さすぎてね。それに僕は自分自身がちやほやされることに興味がないんだ。本当に、君は夜の街が好きなんだね。お灸を据えているのに。あははは」

運転をしている柊が、大きな咳払いをした。蒼佑と風太が、柊に目を向けている間に真生の笑いが止まり、緊張感が走った。空気が変わった。


 椥紗は、学校で時間割に沿って対面での授業を受けていたが、一人ぼっちだった。同じ女子普通科の中には双葉と珊瑚以外には知っている人がいないので、二人が学校に来ないとなると、一緒に過ごす人がいない。オンラインで授業を受けるという選択肢もあったが、学校に行かない理由もないので、とりあえず校舎にやってきた。

 不登校だったから、オンラインで勉強することに関しては、椥紗は他の生徒よりも慣れていると言えるかもしれない。不登校向けのオンラインサービスに登録していたから、中学校の内容に関する授業を受けることができた。椥紗は勉強が嫌いだというわけではなかったし、春日伊織が勉強する大切さをいつも口にしていたから、授業を受ける習慣があった。

 伊織の仕事場である事務所が同じ建物にあったから、トラブルがあるとすぐに相談に行けたし、昼食は伊織が椥紗の部屋までやってきてくれて一緒に食べた。外に昼食を食べに行くこともあった。学校に行っているはずの時間に中学生が外をうろうろしているのは、要らない噂を立てることになる可能性もあったから、大学生のような服を着てみたり、移動は極力伊織の車で行うといった配慮をしたりと、不登校であるということは世間体という点からも不利益の多いことだった。

 伊織は気配りの出来る人であると同時に、行動を起こすときには堂々としていた。平日の午前中に椥紗を外に連れ出してくれる時も、悪びれる様子はなく、そういうものだという風に振舞う。エクササイズとしてジムに連れて行ってくれることもあったし、博物館で勉強になる展示があれば、迷わず連れて行ってくれた。

 頼りがいのある伊織のことを椥紗は尊敬していて、その彼女が「オンラインではなく、対面授業を積極的に受けて、学べることを吸収するように」と言っていたから、学校にはいくべきだと思っていた。

「えらい、ちゃんと学校に来ているじゃない」

席に荷物を置いたあと、教室を出ようとするときに担任の佐伯杏子から声をかけられた。

「あ、先生。いや……」

「杏子でいいわよ。先生って呼ばれるような人間じゃないし」

とは言われても呼び捨てにするというのはきまりが悪い。

「杏子さん。あの、小湊店で働いていた人が、普通科女子の担任っていうの、びっくりしちゃって。凄い偶然ですね」

「偶然というか、希望は出していたからね。担任を任せてもらえるとは思わなかったけど、ま、それが篠塚椥紗ちゃんの担任というのは凄い偶然……かなぁ? まぁ先生になるなら確率的にはあり得るくらいかなぁ」

先生なのにカジュアルな雰囲気を出しているが、それゆえに杏子がただものではないことがよくわかる。

「どうして、小湊店の副店長なのに、こんな田舎の先生になろうと思ったんですか?」

「ん~。先生はやってみたい職業ではあったし、雁湖には行きたいと思っていた。それだけだよ。ここはギュフの生産拠点でもあるし、ちゃんと知っておきたかった。どうやってギュフの製品が作られているのか、その様子をここで暮らしながら知ることは、また販売の現場に戻っても役に立つだろうと思っていたの」

「じゃあ、ずっとここの先生ではないってことですか?」

「どうかなぁ。まぁ、気に入ったらここでの生活を続けるかもしれないから、分からないなぁ」

「じゃあ、もしも戻るとしたら、小湊店に戻るんですよね」

懇願するような椥紗の眼差しを受けて、杏子は困った表情を浮かべて言った。

「そんなに、私のこと好き? 駄目よ。学校の先生とは一時的な関係で良いのよ。1年は居ると思うけど、それ以上は何とも言えないわね。でも、その方が良いと思うの。ずっと一緒に居られないから、一緒に居られる今を大事にする。こういう考え方もできるでしょ?」

「それが学校の方針なんですか?」

「方針は、うーん、そんな感じかもしれないけど、それよりも、私の性質が自由だからね。ずっと先の約束なんてできないの」

こういう自由な考え方をする人間を椥紗は知っている。捕えようと手を伸ばしても、届かないんだ。手に入れたくて何度も走って、覆いかぶさるように飛び上がる。だけど、着地した時、地面と腹の間には何もなくて、その間にあるものを確認している間にその人間はいつの間にか消えてしまっている。

「でも、1年は居てくれるんですよね」

杏子の腕を掴んで、椥紗は不敵に笑った。

「1年で杏子さんから得られるものは全部得てみせます。私、貴女をカッコいいと思っちゃったんで、そのカッコいいところ、全部」

中学校でいじめられるようになり、引きこもっていた生徒とは思えないような言葉だった。椥紗の眼光は、キラキラとしていたし、小湊店で初めて出会った時よりも更にその自信が増している。環境が人を変えるというのはこういうことなのかと杏子は身震いした。


 椎野真生と島田蒼佑、鳥居風太そして柊が乗る車が雁湖の寮の前に着いたとき、真生は1枚のチラシを渡した。

「手続きが終わって落ち着いたら、このイベントに来てほしいんだ」

蒼佑の友人、織原謙人(レオン)の母親である織原睦美の講演会のチラシで、今日の夕方から行われるものだった。4月末に行われる統一地方選挙の一つである北大屋町の町長候補として選挙に出ることから、その選挙活動の一環だと理解して蒼佑は言った。

「選挙権ないですよ、俺たち」

「有権者に向けてのイベントだったら、うちの学校にわざわざ呼ばないよ。睦美さんには、高校生向けの話をしてもらうつもりなんだ。北大屋町の話とか、睦美さん自身の話とか」

「おばさんの身の上話なんてつまらないよ」

「そうかなぁ、風太君。睦美さんは、北大屋町の町議会議員を務めている人だし、ワイナリーの創業者の一人でもある。君よりも、すすきのでつるんでいる人たちよりも地位もお金も持っている人だよ」

「講演会なんてたくさんの人がいる中で話を聞かなきゃいけないんだろ。偉い人の一方的な話を聞かされるだけじゃないか」

「おんやぁ、馬鹿だね。知り合いになれるように、ReGでアルバイト募集したんだけどなぁ。講演会のお手伝いのアルバイト。勿論アルバイトの人は、睦美さんと直接話ができてるはずだよ。残念だねぇ」

アプリのReGで募集されるアルバイトには、給料がもらえるという利点だけではなく、仕事をすることで得られるものがあるものも含まれていると真生は言いたいのだろう。真生がカジュアルな格好しているせいか、会社の代表という高いところにいる人という感じが全くなくて、それゆえに風太は自由に発言できているのだと思う。そして、反抗的になった風太の態度を真生は楽しそうにうまく扱う。柊が少し遠くで手持無沙汰になっているのに気付き、真生は彼に向かって言った。

「ごめん柊。先に会場で準備始めてて。この子たちをドミトリーオフィスに連れていくから」

長期休暇が終わって、授業はもう開始している。このような時期に入寮手続きをする人はほとんどいない。だから、オフィスの窓口は閉じられている。寮内で起こるトラブルなどは警備員が対応し、必要に応じて雁湖学院の教員であったり、近くにあるギュフの事業所に勤める社員がやってきて対処してくれる。頼めばやってくれる職員が来てくれるだろうが、CEOである椎野真生が、鳥居風太の入寮手続きの仕事を直々に行うという。

「まぁ、一応この組織の責任者だから。別に偉くなることは、あまり興味ないんだけど、色んな鍵とか開けられるようになってるのは便利で、良いことの一つだよね」

鼻歌のような音を出しながら、楽しそうに真生はスマホを確認して、手順を踏んでいく。受付窓口の後ろの関係者以外立ち入り禁止と思われる扉を当たり前のように開けて、中に入っていく。二人が窓口の外側で突っ立っていると、大きな声で話しかけてきた。

「もう、何でこっちこないの? こっち来てよ」

強い調子で促してくるから、入っていいのか迷うような時間を与えてくれなかった。

「あの、こんなとこ入っていいんすか」

「何でダメだって思うのさ? 君たちは、ギュフの中の人だから、必要だと思ったことをやればいいじゃない。僕が気に入ったから、合格させたんだ。触ってはいけないものにはロックをかけてる。別に触られて困るものなんて殆どないけどね」

風太は好奇心旺盛で、真生の隣に置いてあるパソコンに触れようとしたが、ロックがかかっていて、エラーの表示が出た。真生は、そのパソコンのセンサーに触れてそのロックを解除して風太が使えるようにした。

「使いたかったら使えばいいけど、手続きが終わったらすぐ部屋にいくよ」

「あ、今、何で」

「何で? ああ、生体認証だよ」

「そうじゃなくて。どうして、僕がパソコンを使えるようにしてくれたのかって」

「使いたいんだろ? その好奇心に応えただけだよ」

事務作業を進めながら、適当に答える真生に風太は苛立ちを覚えたようだった。

「余計なことするなとか、そういうの言うでしょ、普通は」

その風太を牽制するように、わざと大きな音でキーパッドを叩いた後に真生は口を開いた。

「普通だと思った? この僕が?」

「まぁ、普通じゃないですよね。偉い人が末端の職員でも出来そうな仕事してるなんて」

「嫌いじゃないんだよね。こういう仕事。事務作業をしている方が気持ちが落ち着くから」思った以上に、手続きに手間取って、時間がかかっていた。真生は、それでも自分で終わらせようとして、画面に集中していた。砂時計のマークが出て、彼はフッと息をつくと、愚痴を吐露した。

「大体東京に居たら気を張ることばかりだよ。下世話なパパラッチがいたらしくってさ、ちょっとたくさんで飲みに行っただけで、乱交だのなんだのってくだんない記事にするわけ。確かにいったよ。謎のパーティー。人が集まってるから、是非って言われたしね。人って言うよりは、女かな。まぁ必要以上に化粧をして、露出の高い服を着た頭の悪そうな女性がたくさんいたかな。半分くらいは品がなかったよね。可愛かったのは、数合わせで連れてこられたみたいな子。その女性たちの間には力関係があるんだろうね。途中でくだらなくなってスッと退室させていただいたらその後、色々盛り上がったみたいで、若い男女が欲望のままにいたしてたんだってさ」

18歳に達していない二人に際どい話をし始めて、引き出しからタグを取り出してそのタグに電子ロックの情報をインストールする。

「はい。これが風太君の鍵ね。212-Cだから。即ち、蒼佑君、君と同じブロックね。君にはさ、少し生活指導を手伝ってもらおうと思ってさ。風太君と蒼佑君って気が合いそうだなって思って、そういうことにしたから」

「はぁ⁉」

驚いて同時に声を上げる風太と蒼佑の二人に、真生は気にせず自分の話をつづけた。

「そういやぁ、さっき言ってたパーティーに行った時、結構たくさんの女性が、胸の谷間がわざと見える服を着ていたけど。谷間ってさ、本物だと思う? 普通にできるものなの?」

「いや、俺に聞かないでください。その場に居なかったんですから」

「色々あるらしいっすよ。俺、胸とかどうでもいいですけど」

真生はポンと手を叩いて、閃いたことを示した。

「そっか。パパラッチの写真見た時に、胸が強調されているように見えたんだよね。そういう風に撮ったってことはさ。よっぽど女の子と遊べてないんだろうね。その可哀そうなパパラッチは」

何でこんな際どい話に付き合わせらなければならないんだと蒼佑は居心地の悪さを感じていた。この場を抜けられたらいいのにと思ったその時、真生のスマホが鳴った。

「はい。ピクシー君、どうしたの?」

電話越しで相手が何を言っているのかはわからなかったが、その相手の口調が早口であることは分かった。

「えぇー、マジで、めんどくさーい」

真生の子供が駄々をこねるような口調に対して、相手の口調がは更に早口になっているのが分かった。

「はーい。わかりましたー。え、普通で。うん。はい。普通で。うん。慣れてる人なので問題ないです。はい。うん。はい……」

何でもできる余裕のある大人である椎野真生ではなく、親に指示されてしぶしぶ頷いているような感じの口調だった。普通というのを疑えと言っているような人の態度では全然なくて、電話を切った後大きなため息をついて肩を落とした。

「さっき渡したチラシの講演会に色んな人が来るから挨拶回りしろって言われた」

挨拶回りと言っているが、その嫌がり方から察するに、煩わしい仕事のようである。

「普通って言ってましたけど、さっきまで散々普通を貶してましたよね?」

蒼佑が同情するように声をかけると、真生は蒼佑の腕にしがみついた。

「本当に嫌なんだよ。普通。ごく一般的な青年実業家のスーツを着て、髪も整えて、ちょっと目を引くけど、目立ちすぎない格好をするという意味の普通。『……にしなさい』とピクシー君に言われたんだよ」

「アンタは、CEOでそのピクシーっていう奴より偉いんだから、好きなようにすればいいんじゃないの?」

風太がそそのかす様な言葉を掛けたが、真生は大きく首を振った。

「それは、ダメなんだ。ピクシー君は、TPOとかそういうことに対してうるさいし、実際それを考えることでその場がうまくまとまるようにするのがうまいんだ。今回は宮森っていう道議会の議員が顔を出すってわざわざうちの会社に連絡してきた。だから挨拶しに行けっていうんだけど、それに際して、スタイリングしてくれる人も全部決めておいたから、すぐに行けって言うんだ」

文句を言う真生をなだめるように風太は言った。

「それ、そういうキャラを演じるみたいな感じで楽しんだら良いんじゃないスか? 議会の人って、町端で自分の考えを話し続けるような自己主張が強い人ですよ。アンタがフルスロットルで自分らしい格好してきたら、目立てないじゃないですか。あえて普通を選択するべきなんだ、こういう時は。って思ったら、ま、いっかって思うでしょ? 僕は、ピクシーって言う人がいうことは正しいと思うけどね」

真生は、顔を上げた。

「君、賢いね」

「でしょ? コレ、現場で身につけた処世術。お客に楽しんでもらうため最適な振る舞いっていうのを計算してるんスよ」

蒼佑は風太の考え方に目から鱗が落ちるように思った。

「じゃ、ここでお別れだ。強いることはできないけど、講演会来てくれたら会えると思うけど、多分こんな風に話をすることはできない」

「アンタの普通を見に行かないといけないからいきますよ、ね、蒼佑君」

「あ、ああ」

「選挙権がなくても、君たちは北大屋町という社会の構成員だから。君たちがその場にいるかどうかで、会場の雰囲気は変わるんだ。選挙は結果が全てだ。どういう人間が治めるかでその社会の様相は大分変わる。でも、投票というプロセスの中で政治家がどのようにその社会を治めていくかが変わっている可能性がある。人間は変わりやすい生き物だから」

「ま、そですよね。町長が変わるなんて、無理でしょ。百舌大二郎の地盤は盤石。だから、北大屋町は手を出せない地域だって聞いたこともあるし」 「君は本当に物知りだね、風太君」

話は尽きないが、真生は慌てたそぶりを見せて、その場から立ち去った。小さく手を振った後、風太は振り返って蒼佑を見た。

「じゃ、案内してくれる? 同じところなんでしょ、僕たち」

風太は部屋のカギになる電子タグを振り回しながら、言った。


 その日、椥紗は一人で授業を受けて、一人で過ごした。誰かが話しかけてくれたらいいのになと思いながらも、自分から誰かに話しかけるような勇気はなくて、どうするべきか迷っているうちに時間が過ぎてしまった。

 よくわからないけれども織原謙人(レオン)の母親、織原睦美の講演会には行こうと思っていた。何の話をするのかとかではなく、母親が見てみたい。そんな気持ちだった。

 雁湖学院は場所を貸すだけで、町長候補の面白い話を提供してもらえる。学校側としては、コストがかかるわけではないが、社会貢献にもなる。今回は高校生を対象にした講演会だったが、ギュフ関係者以外も構内に入ることができるようになっていて、講演会が始まる数時間前から、普段は目にしないような年配の人たちがうろついていた。

「あの、すいません。この講堂ってどこにあるんですか?」

反対側から、チラシを持った40代くらいの女性が、小学校低学年くらいの子供と一緒に歩いてきて、椥紗に声をかけた。子供は男の子で、母親が椥紗と話していて注意が逸れたのを良いことに、手を離して走り出した。

「あ、こら」

母親が慌てて追いかけようとすると、子供は躓いて、ぺしゃっとなった。

「大丈夫?」

子供はすっくと立ちあがったが、持っていた棒状のおもちゃがこけた弾みで壊れてしまって、そのこと事実に対して子供の表情はみるみるうちに雲行きが悪くなった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁん」

「すいません、すいません。こら、そんな大きな声で泣かない。ほら、ね」

「あの、すいません。折れちゃったみたいで」

「すいません。これ、もともと壊れかけてたから気にしないで。はいはい。急に走るからこけて壊れちゃうんでしょ。ちゃんと落ち着くのは大事よ」

諫められながらも、その口調はとても優しくて穏やかだった。

「はい、あめちゃん」

椥紗の隣から、ねじった包みに入った昔ながらの飴が乗せられた大きな手がスッと伸びてきた。泣いていた男の子は、その包みを素早く手に取った。その後にはもう泣くことを忘れていた。

「大阪のおばちゃんの知恵を舐めたらあかん」

鋭い目をしたスーツの男性だったのに、決めポーズをして、天童よしみののど飴のCMみたいな調子でいうものだから、椥紗は吹き出してしまった。

「ありがとうございます」

「ああ、大した事ちゃうよ。子供は社会の皆で育てるもんやから」

怖い感じがするのに、真面目なことをいう人だ。

「講演会に来られたんですか?」

「ええ、私、睦美さんにはお世話になっていて、応援に来たくて。お話聞けたらなって思ったんです。子供がいるから邪魔になるかなって思ったんですけど、後援会の人に聞いたら、良いですよって。もしも、大変だったら途中で抜けてくださっても構いませんからって。それに、雁湖学院の中は、広くて子供が走り回れるようなところもあるから、是非って言ってくださって」

「あかんなぁ。どう考えても、格が違うわ」

「え」

「いや。何でもないですよ。その講演会の人、凄い気遣いできはるねんなって思って」

「はい。私もそう思います。えっと、ちょっと待ちなさい」

その男の子は落ち着きがなくて、隙を見てまた走り出したので、母親はそれを追いかけざるを得なくなった。椥紗もそれを手伝おうとして動き出そうとしたが、男性が椥紗の腕を掴んだので、前に進むことができなかった。

「ほっとき。子供はお母さんの気ぃひきたいだけやから」

「そういうもんなの?」

「まぁ、男の子は甘えたやからな」

「それって、男とか女とか関係あることなんですか。子供で良いじゃないですか」

椥紗が突っかかると、男性は笑った。

「君、面白いな。名前教えて。ワシは、河竹律です。よろしくね~」

椥紗はそれを見て胡散臭いと思った。そして、怪訝な顔をして答えた。

「名前、教えるの危険なんでダメです」

「危険。まぁ、確かに」

「河竹さんは何者なんですか?」

「講演会を聞きに来た人よ」

じゃあ、同じように講堂に向かうのか。時計を見た後、まだ会場に入るのには早すぎるなと思って、椥紗は辺りをきょろきょろと見回した。

「ああ、まだ時間あるね。じゃあ、お兄さんと遊ばへん?」

「遊びません」

「お堅いねぇ」

「そもそも、町の人ですか?」

「いんやぁ、ちょっと遠くから。おじさんのボディーガードみたいな感じやね」

「関西の人ですか?」

「まぁ、どうなんやろな。大分こっち長いからな。昔住んどったから、言葉遣いがそのままなだけや」

胡散臭くて、何かありそうな人だったけれども、嫌な感じはしなかった。何かありそうだということから、距離を取って、嫌な感じはしないので、何の躊躇もせずに同じベンチに座ることにした。椥紗の父親、祥悟はもっと得体が知れない人だから、椥紗の許容範囲だ。

「それで、ボディーガードなら、御主人のところにいるもんじゃないんですか?」

「ん~。その御主人は、可愛い女の子とデート中なんで、ワシは邪魔やってやつやな」

「可愛い女の子。社会人ですか?」

「高校生」

「パパ活っていうやつですか。だめじゃないですか」

「ちゃうなぁ。そういうのとはちゃう。まぁ、ワシの思う可愛い女の子は強い子。お嬢さんも強い子でしょ?」

そういって、律は椥紗の肩に腕を回してきた。椥紗が驚くと、柔らかい表情で言った。

「ごめんごめん。何か付いてるからね」

「付いてる? ゴミ?」

「いや、そういうのちゃうくて。消えてもうたわ」

「っていうか、馴れ馴れしいですよ」

「あ~そういうの慣れてへんのか」

「慣れてないとかそういうのではなくて、いや、もう、こういうのハラスメントですよ」

「了解。じゃあ、触らないようにしますわ」

触れていた手を離して、律が距離を取ると、椥紗は二度深呼吸をして気持ちを整えてから言葉を発した。

「あのね、手を回すなんて言うのは、それなりの関係にならないとダメ」

「ああ、そうなんや。ごめんな」

男の人に近付かれるのは、慣れていないから、心臓がバクバクと大きな音を立てているのがわかった。その緊張を相手に悟られるのが嫌で、椥紗は矢継ぎ早に文句を投げかけようとした。

「それから……とにかくだめなの、あかんの。それで……」

必死の形相で怒る椥紗を見て、律は何度もペコペコと謝った。

「すまんすまん。ハラスメントは仲が良くてもあるもんやしなぁ。いやや言うてるもんを、無理やりなんていうのは、夫婦でもあかんし。親子でもあかん。まぁ、線引きって微妙やけどね」

「そうだよ。夫婦間性交渉も不同意の場合はハラスメントだもん」

「どこで習ってくんねん」

「パパ」

「何や、けったいな家やな。パパがそんなこと教えはるん。まぁ、ええけど。何もせぇへんから。とりあえず落ち着いて。何もせぇへんから、深呼吸して、な」

誰かが少し呼吸を荒げているときには、律は背中をさすって落ち着かせるようにしていたが、椥紗にはハラスメントと言われたばかりだから、触れるのは良くないと思ってエアで背中をさすった。

(いや、ワシ何してんのやろ)

「ここ、毒気抜かれる場所やわ」

調子を狂わされていて、律はジャケットの内ポケットからタバコを出して、火をつけるものが必要だとライターを探し始めた。その律に腕で大きなぺけを作って、椥紗は明るい調子で言った。

「ブブー。タバコは構内禁止だよ」

「うそやん。もう落ち着かんわ」

「あめちゃん」

「せやな、あめちゃん持ってたな。お嬢ちゃんも食べる?」

「あの、さ。そのお嬢ちゃんっていうの、何か微妙」

「でも、名前、教えてくれへんねんもん。呼ばれへんやん」

こうやって名前を聞き出すのか。椥紗は得体のしれないホストのようなお兄さんの律をじっと見て、口を開いた。

「河竹さんって良い人なの?」

「良い人? それってどういう意味? 自分で良い人なんていう人に、良い人はおらへんと思うけど」

「確かに。良い人は良い人って自分のこと言わないよね。だとしたら、じゃあ、ね、良い子だねって子供にほめるときの良い子っていうのは、そういう良い子の裏の意味も込めて、良い子だねーって言ってるのかな? じゃあ、良い子だねってほめられてても腹の中では『この大人うぜぇ』とか思ってるとかいう二重性を持つようになってるねーっていう意味なのかなとかアリなのかな。いや、なしだわ」

「うん。ナシや。それはそういう意味とちゃうやろ。けったいなこと考える子やな。お嬢ちゃんは」

「椥紗。やっぱりお嬢ちゃんじゃしっくりこないから、椥紗。これは教えても良い気がする」

「なぎさ、どんな字書くん?」

「木ヘンに知恵の知って書いて椥で、紗は糸ヘンに少ない」

「珍しいな。昔住んどった場所の近くの名前で使われてる漢字やわ」

「うわぉ、余計なことまで言っちゃった」

「せやな。別に言われへんってお断りされても、ワシはそれでええかなって思とったけど」

「いや、これだめなやつじゃん。得体のしれない人に、結構自分のこと特定される情報言っちゃったよ」

「せやなー。インターネットで調べたら名字も出てくるかもしれへんな」

「しくった」

勝手に墓穴を掘って慌てている椥紗を見ながら律はポケットに手を突っ込んであめを探しながらいった。

「じゃあ、なっちゃんやな」

「なっちゃん。そんな呼び方で呼ぶの、パパくらいだよ。パパも椥紗~って呼んだり、色々のうちの一つの呼び方だけど。じゃあ、なっちゃんなら、りっちゃんだな」

「りっちゃん。お兄さん相手にか」

「だって、河竹さんよりりっちゃんの方が近い感じするでしょ」

椥紗は無邪気に笑った。それが彼女の強さだと思った。ただの高校生、子供なのに、何か特別な感じがして、その強さを意識すると律は窮屈な気分になった。

「タバコ、吸えるとこ知らんかな?」

「うーん。知らないよ。ちゃんと受付の人に聞いたらどっかあると思うけど」

「じゃあ、受付行ってくるわ。おじさん、ジャンキーなもんで、もう耐えられへんわ」

「じゃあ、バイバイ?」

「そ、バイバイ。ま、会場で会えるかもしれへんけど」

「そうだね。またね、りっちゃん」

胡散臭いお兄さん? おじさん?のような人だったけれども、悪い人じゃなかったし、話していて楽しかったと椥紗は思った。

 律が居なくなった後は、一人でしばらく座っていた。気持ちのいい場所だが、何か落ち着かない。寂しい。更に外の肌寒さが堪えたので、まだ開場まで時間があったが、温かい場所に移動することにした。


 講堂には楽屋があって、その控室には織原睦美と控室のスタッフのアルバイトをしている3人が居た。その3人とは、織原謙人、片桐双葉、百舌陽一郎だった。3人には控室が与えられていて、そこで身なりを整えたり準備を進めるように言われた。講演会の資料となるレジュメを配りやすいように整える作業をしながら自由に過ごすような仕事だった。控室には小窓があって、それを開けて換気をしていた。パソコンのスライドの調整のために陽一郎はステージ脇に居て、控室は謙人と双葉の2人だった。

 双葉の風、颯は、百舌聖に付いていた。道議会議員、宮森道夫の札幌の自宅に居候している彼女は、宮森学園を午前中で早退して道夫と一緒に車で北大屋町に向かった。その車には二人の他に河竹律がボディーガードとして乗っていた。北大屋町の瑞穂地区にある百舌聖の実家に律は同行せず、織原睦美の講演会がある雁湖学院で降ろしてもらい、そこで椥紗と律が出会ったというわけだ。

 こちらに来てからというもの、椥紗は毎日学校の通うという生活を送れていたし、颯は違うところにいたから、椥紗のところに付いていたのは、小さな風だった。律に察知されて、肩に腕を回して捕えられそうになったが、うまく逃げることができた。

「何で……」

律に気取られた後は、少し離れた場所の風からその場の雰囲気を探っていた。何か危険なことがあればと、颯を動かそうとしたが、風を動かすことで、穏やかな空気が流れているし、二人は結構長い時間近くにいた。

「札幌で、私が絡まれた人。それが椥と接触してる」

「え、マジで」

「なぜか和やかに話してた。」

「え、なんで」

「わかんない」

「どんな人だったの?」

「ホストみたいな人で、関西弁を喋る怖い雰囲気のする人。颯なら、見られないように偵察できるけど、風で探ろうとすると気付かれる」

「じゃあ、その颯っていうので、付けさせたら」

「今、大きな動きをすれば颯でもばれる。今は、颯は百舌聖のところにいるから、瑞穂地区の彼女の実家で……」

「君の風ってさ、色々複雑なんだね」

「うん、どうなんだろう。風は気まぐれだから、誰かにずっとべったり付いてるとかそういうのはないかな。そういう点で言えば、颯は特別。物心ついたころからずっと一緒。色々なことを教えてくれる風だよ」

「名前があるのも特別じゃない?」

「呼びかけるときにあったほうが便利だし。名前があることで風が得るものもあると思うんだ。何か強くなる感じがする、とかね」

「それほど特別なものなら、颯、こちらに戻ってもらった方がいいね。実家にいるなら、聖は大丈夫だと思う。百舌大二郎町長は聖の理解者だし、人格者だから」

控室の扉が開いて、百舌陽一郎が入ってきた。

「お疲れさん」

それに続いて、オフホワイトのカッターにブランドのスーツを合わせた椎野真生は入ってきた。

「やほー。どう。何かくすぐったい気分になるんだけど」

カジュアルな口調で入ってきた彼は、肩を回しながら口をへの字に曲げていた。

「動きにくい」

「まぁ、スーツですからね」

「だからやだっていったんだけど。よし、イケメン、出来るCEOの演技、頑張るぞ」

真生は、小さな声でこぶしを作って鼓舞する。

「で、もう宮森さん来てるんでしょ?」

陽一郎が尋ねると、真生は居住まいを正して答えた。

「ああ。VIP様は別室にご案内させていただいてるので、ギュフのスタッフがまず御挨拶に行ってる。宮森さんは、丁重におもてなししないとね」

「まぁ、確かに。宮森さんには世話になってますからね」

陽一郎もちゃんとスーツを着ていて、髪もセットして整っている。こうしていると、仕事のできる人に見える。

「ねぇ、挨拶に行くけど、付いてきてくれない? 僕一人だと寂しくてさ」

甘えた声を出して懇願してきたが、ギュフを大会社にするために様々なところへ飛び込んでいった人だ。寂しいだとかそういうそれがただの演技であることは分かる。

「片桐双葉君に、百舌陽一郎君に、織原謙人君。なかなかの美形ぞろいでさ、皆着てくれるなら、VIPをおもてなしするのに、良い感じだよね。嬉しくなっちゃうよね」

真生は楽しそうにしているが、宮森道夫のところに挨拶に行くということは、遭遇する可能性があるということだ。いや、多分じゃなく、絶対に。

 

 謙人(レオン)はあの日札幌に行っていなかったし、陽一郎は車を運転していただけだから、その人物からは誰なのか見えていなかったはずだ。宮森道夫の家の近くで牽制してきた関西弁の男が知っているのは双葉のことだけだ。

 双葉が深呼吸をして心を落ち着けると、真生が微笑みながら言った。

「緊張しなくても平気だよ。道議会議員さんだけど、ただの良いおじさんだから」

部屋の扉をノックをして、中からどうぞという声がすると、陽一郎が扉を開けた。

「久しぶり~道夫おじさん」

緊張した空気になるのかと思いきや、真生は、子供っぽく可愛く手を振って親しげに話しかけた。

「椎野君。全く、君は相変わらずだね。おや、一人じゃないんだね」

「雁湖学院の新入生です。アルバイトとして働いてもらって、社会経験を積んでもらおうかと」

真生はそう言って3人が前に出るように促した。ただの付き添いのつもりできたのに、そして、宮森道夫の横には、居る。

「初めまして。私は道議会議員を務めさせてもらっています、宮森道夫です。生まれはこの北大屋町の隣で、そこに拠点もありますが、生活しているのは札幌です。椎野君、君が東京中心の生活を送っているようにね」

嫌味のようなことを言うのは、揚げ足取りの多い議会で働いているせいだろう。私財をため込んでいるような狸オヤジみたいな人かと思ったら、さわやかなおじいさんとおじさんの間くらいの人だった。

「まぁ、代表として働くなら東京中心の生活になりますね。出来ればこちらに移りたいですが」

「その心がけはありがたいね。君のような若い世代にそのようなことを言ってもらえるのはなおありがたい」

「わざわざ雁湖学院まで足をお運びいただくとは、光栄ですよ。札幌でお忙しいでしょうに」

「織原睦美さんが講演するなら、拝見させて貰いたいよ。また面白いことを考えるものだ。君がけしかけたんだろ。睦美さんを町長候補に上げるなんて」

「さぁどうでしょうか」

「君の狙いは、百舌大二郎を町長の座から降ろすことじゃない。睦美さんが選挙に出るために空く町議会議員の椅子だけではなく、もう一つの椅子を手に入れることを目的としてるんだろ」

緊張感が走るような空気を壊したのは、真生だった。天井を見てふっと息をついて口を開いた。

「ま、道夫さんなら気付きますよね。僕とは全く考え方の違う保守的な人だけれども、貴方は僕のやろうとすることをちゃんと見てくれている」

「私は若者が好きなんだよ。特に問題のある子たちがね」

「確かに。お隣にいる彼は、なかなか品行方正とは言い難いような方ですね」

三人は凍り付いた、が、宮森道夫は大声で笑った。

「律、ご挨拶」

「河竹律言います。よろしゅう頼んます。で、ええんですか?」

宮森はうんうんと頷いて、また語り始めた。

「問題児というと、君もだよ、百舌陽一郎君。私は、陽一郎君が選挙に立候補すれば面白いことになると思ったのに、残念ながらつれなくてね。そのまま畑仕事でおとなしく生きているのかと思ったら、まさか、高校に入学するとはねぇ。わからないものだ」

陽一郎にとって宮森道夫は、地元の有力者で尊敬できる点を多く持っている人ではあるけれども、得体のしれない人でもあった。

「いや、まぁ。俺はそういう器じゃないですから。あの時は唐突すぎですよ。ただちょっと日本代表になって、顔が知られたから国会議員になりませんかって。ちょっとメディアに出たからって」

「あの時の人気は、凄かったじゃないか」

「俺が俺じゃなかったみたいですよ。そんなので当選したら、色々分かっている人の傀儡になるだけでしょ」

道夫は座りなおして、口調が速くなっていく陽一郎をニコニコと眺めていた。

「よくわかっているじゃないか。それで、仕事と学校との両立はうまくいってるのかい?」

「まだ始まったばかりなので、うまくいくもいかないもないですよ。畑を少し減らして、うまくやれるんじゃないかとか、ですかね。俺は、そんな人の上に立てるような人間じゃないですからね。でも勉強していれば、何か役に立つでしょ」

「君は私が見込んだ通りの人間だ。君には向上心がある。期待してるよ」

一通り話をした後、陽一郎は落ち着いた口調で切り出した。

「俺のことよりも、従妹の聖のことを気にしてほしいですね。」

「従妹? ああ、百舌聖さんのことか。残念ながら、私のところを去ると決めたようだよ」

その話を聞いて、驚いたのは謙人(レオン)と双葉だった。

「おや、君たちは聖さんの友達かい? おや、茶色い髪の君はどこかで」

「はい。織原謙人です。母、睦美がお世話になっています」

「ああ、あの」

「ええ、養子の」

相手が言いづらそうに言葉を詰まらせることを自分から積極的に話し始める。

「俺は、聖さんと同じ中学校の同級生だったので、ずっと心配していたんです。宮森さんのところを去るというのは、宮森学園を辞めるということですか?」

「ああ、そうだ。椎野君、君を支持することに決めたそうだ。宮森学園ではなく雁湖学院に進学する。陽一郎君、君との話の中で、自分がどちらに行くべきかを考えたそうだ。確実な高校卒業資格よりも、自分の故郷で学べる学校を選ぶとのことだ」

「それで、聖さんは今はどこに?」

「進学のことを、両親に正式に報告するとのことだよ。家族水入らずを邪魔するのは悪いからね。椎野君には申し訳ないが早く来させてもらった」

「お役に立てて光栄です」

真生が微笑んでそう言うと、道夫はほおを緩ませた。

「そのおかげで、話ができたのは良かったよ」

「こちらこそ」

「それで、もう一人の学生さんは?」

3人のアルバイトのうち、道夫が全く知らないのは双葉だけである。ただのアルバイトだから、自己紹介などすることはないだろうと思っていたし、絡まれた相手に自分の素性を話すのは躊躇することだった。双葉が下を向いていると、真生が代わりに紹介を切り出した。

「片桐です。織原も百舌も既にお知り合いだったようですが、3人はただのアルバイトなんです。片桐は、こういう場は初めてだと思うので、緊張しているのかと。大丈夫?」

真生は小声で双葉に気遣う言葉を掛けてくれた。そしてそれを補助するように謙人(レオン)が双葉の手を握った。

「おお、すまないね。それじゃあ、高校1年生なのか。いや、とてもしっかりとした方だと思っていたから、ギュフのスタッフかと」

「ま、俺みたいな老けた高校1年生もいるので、分からないのも当然ですよ」

陽一郎がそう続けると、道夫は楽しそうに笑った。

「確かにそうだな。こんな百舌陽一郎君のような問題児を受け入れる学校を作るとは、恐れ入ったよ、椎野君。北海道の片田舎、北大屋町のことを考えて、学校を立ててくれるのは素晴らしいことだ。少子化の中で、札幌以外のいや、札幌だって新しい生徒が集まらなくて奔走しているのに、ギュフの理念に沿った自分らしい学校を作ろうだなんて、恐れ入ったよ。最初は、『よくもまぁ。自分の理想ばかり語るものだ』とバカにしていたよ。しかし、形にするとはね。だがね、君がここにいないのなら意味がない。君がここに生活の拠点を動かすべきだ。宮森学園の理事長としては、そうアドバイスさせていただきたいね。ギュフの理念は君の存在をもってより力を持つのだから」

「あはは、激励ありがとうございます。相変わらず、精力的ですね、道夫おじさん」

「東京とここを往復している君ほどではないよ、椎野君」

二人の会話の熱量が大きくて、聞いているだけで疲れてしまいそうな感じだった。宮森の付き人である律は、黙って聞いていたが、テーブルの上のお菓子を何度もちらちらと見ていて、話に退屈をしているようだった。

「では、我々は失礼させていただきます。この3人は隣の部屋におりますので、何かあれば」

「おお、ありがとう。ではまた後ほど」

パタンと宮森の控室の扉を閉めた後、4人は無言でアルバイト用の控室に向かった。途中で、柊がやってきて、真生に話しかけて、何らかの打ち合わせを始めた。この時に、双葉は他の人たちから離れて、女性用の化粧室に向かった。


 双葉が化粧室から出てくると、河竹律が居た。

(まぁ、接触してくるよね。やっぱり)

双葉は冷静に、何も知らないかのような顔で律に話しかけた。

「あれ、河竹さん」

「お久しぶり、片桐双葉ちゃん」

さっき、下の名前まで告げなかったのに、知っているということは、何らかの方法で双葉のことを突き止めていたということになる。

「別に、そんな気ぃ張らんといて。あの時は見張っとけ言われてたもんで、たまたまおった双葉ちゃんに声かけただけや。けどまぁ、悪くない。そういう怖い顔してると、無茶苦茶美人やね、双葉ちゃん」

律は饒舌に話すが、双葉は相手にしなかった。だからといって、ここで引き下がるわけがない。ターゲットとして選んだ対象をおいそれと逃すというのは、律にとってはありえないことである。律は牽制ではなく、何か求めて話しかけてきているようである。

「正直、君らはどうでもええねん。けったいなのがおるとは思ってるけど。ただ何か起こる。ちょっとやばいことが」

「どういうこと?」

「この講演会、よおないことが起こる。だから、手伝ってほしいねん。ワシね、ボディーガードやねんけど、まぁ、ちょっと変わったことが分かるボディーガードやねん。こういうの、虫の知らせっちゅうの。双葉ちゃんは、自分で自分の力、ちゃんと認識して使えるんやろ。助けて欲しいねん。何か起こるから」

双葉はその言葉に足を止めた。

「今日は、下手に出るんですね。どうしてですか?」

「あのさ、君。君は、風使って、百舌聖ちゃんの同行探ってたわけやろ。しかも、かなり正確に。自分がどれだけ変わった力持ってるか、分かっとるよね。何かオカルトなもん分かる言うてるのんおるやんは結構おるけど、そんなんと比べたら、頭一つ以上抜けて、えら色んな事できはるみたいやん。だから、こちらからお願いさせていただこうかなと」

即ち、律は双葉が百舌聖の様子を探るために仕掛けたもののことを全部分かっている。そして、その上で、双葉に協力を依頼しているということだ。

「断ったら、無理やり手伝わそうとします?」

「うーん。断られるのは、考えてへんかったな」

自信満々の笑顔を律は、双葉に向けた。

「じゃあ、協力じゃなくて、おどし、ですね」

双葉は整った顔を律に向けて満面の笑みを浮かべた。

「怖がってくれへんの分かってて言ってるから、おどしにならんでしょう」

律は改めて双葉を敵に回したくない存在として認識した。そして、双葉は強い口調で言った。

「私、そういう風に頼んでくる人と一緒に何かしようって気持ちにならないんです」

その口調が、振る舞いが、姿勢が堂々としていて奇麗だった。律はそれに目を奪われた。

「情報、ありがとうございます。では、また」

双葉から見て、律は得体のしれない相手で、怖くないわけじゃない。でも、その怖いを現すことは、良くないことだ。双葉の風の力がどういうものなのかは、自分でも分からない。風の力は、そこにあったもので、どのように扱うべきとかを考えたことはない。双葉が望めばその通りに応えてくれるのが風の力だ。それはどういうことなのか。力を使える人を知らないからわからない。その力のことについての律の考えを聞いてみたいとも思う。

 でも、そんなものがタダで手に入るわけがない。情報を得るということは、何らかの対価を律に差し出す手筈が必要だ。風の声を聞き、その声に合わせたことを望むのと、双葉が思った通りに動かそうそするのでは、双葉にかかる負担が違う。だから、複雑なことを求めるときは颯に頼む。颯という風は、双葉の望む通りのことを叶えてくれるから。

 そもそも、ここに来るまでに、こんなに風の力に頼ったことはあっただろうか。風の力には気付いていたけれども、積極的に使い始めたのは、椥紗が中学校で不登校になりはじめた頃からだ。

(どうして、私はこんなに風の力に頼るようになったんだろう)

謙人(レオン)がその力に気が付いていること、寮の同じ区画になった岩下珊瑚がその力を使った道具の研究をしていること。そして、律が協力を求めてきたこと。使える力だとは思っているけれども、風の力がどういうものなのかを更に踏み込んで知りたいとは思わなかった。双葉は警戒心が高く、好奇心に対して慎重だった。


 雁湖学院のアルバイトの控室に戻ると、まだ椎野真生がいて、机に寝そべりながら、愚痴をこぼしていた。

「はぁ、もう分かる? あの宮森さん、色んな事に気付く人でしょ。だから、すごく気を張るの。まじで疲れるー」

アイロンをかけたはずのジャケットは、ほっぽり出しているし、これから主催者として登場する人間として、自覚がなさすぎる。そして、なぜ周りにいる陽一郎と謙人(レオン)は、何もせずにただ座って待っているのだろう。

 双葉がジャケットを手に取り、せめてハンガーにかけようとすると、真生は手のひら同志を合わせて、「ありがとう」をあらわすような仕草をした。それから、数分、真生はそのままだったが、突然上半身を起こし、機敏に動き出した。

「さて、そろそろ準備に取り掛かりますか。ま、うちの学校を見て、北大屋町の人たちがどんな反応をするかも楽しみだし。陽一郎君、こんなに凄い施設、今まで町内になかっただろう?」

「確かにそうですね。それで、それは嫌味ですか。今まで何にもしてこなかった町長一家に対する」

陽一郎は適当に返答すると、真生はいつも通りさらっと言葉を紡いだ。

「嫌味は違うな。事実を言っただけだよ。さっき、宮森さんが御指摘くださったように、今回の織原睦美の立候補は、現町長の百舌大二郎を降ろすためではない。小森梓(あずさ)栂尾(つがお)幾夜(いくや)の二人を町議会議員に出来ればいいんだよ。君がさ、町議会選挙に出てくれれば、もっと面白くなるのにさ、何で出てくれないの? 百舌陽一郎君」

「残念ながら、俺は政治には疎いし、興味がないんすよ」

「君の意志は正直どうでもよくて、今の状況に胡坐をかいている町の年寄り政治家たちがどうも僕は苦手でね。スポーツの国際大会で活躍したという実績と北大屋町の政治家一家に生まれたというブランドを持った君に一蹴してもらいたいんだけど」

「仮にそれができたとしても、次の選挙で、俺は落とされるだろうし、アンタは俺が落ちるように対立候補という刺客を送ってくるでしょ。そんな面倒くさいことに巻き込まれたくないんで」

「別に誰が勝とうがどうでもいいんだよ。選挙で議論を争わせる事ができることで、その社会にとって必要なものは何かを考える機会になるんだから」

「それはちょっと議会に対する偏見が強すぎやしませんか。別に選挙が無投票で町議会議員が決まろうと、議員たちは議会でちゃんと議論していますからね」

「議会をちゃんと開いているかどうかという形式の問題じゃない。中身の問題だ。議論が活発に行われているか、しっかりとした働きをしなければ選挙で選んでもらえないかもしれない。そういう危機感があるかないかでは全然違うからね」

「とか言いながら、織原さんのところの人を議員にさせようっていうんだから、我田引水と言わざるを得ないですよね」

「勿論。僕はビジネスマンだからね」

織原謙人(レオン)は、二人の話を、特に百舌陽一郎の話を聞きながら、よく考えている人だと感心していた。

「ま、とりあえず百舌陽一郎君、君が僕の学校を選んでくれたことがとても嬉しいよ。そして、僕が欲しいもう一人の人間も、ここにやってくる。陽一郎君、君が、百舌聖君に連絡していてくれたなんて。協力に感謝するよ」

「百舌聖さんって、どういう人なんですか?」

控室に戻ってきた双葉は、いいタイミングだと思い、質問をぶつけた。

「ああ、そっか。君は知らないのか」

「あ、コイツから聞いてんじゃないのか?」

「僕のことが好きな子に、他の女の子の話をするような野暮な男に見える?」

(この発言こそが野暮だけど)

双葉は、いけしゃあしゃあと自信ありげに話す謙人を恨めしそうに見た。

「まぁいいや。百舌聖君は、直前で宮森学園に入学するなんて言い出したちょっと問題のある生徒だよ」

真生は、淡々と話始めた。

「僕の勉強不足だったんだ。僕は日本の高等教育を経験していないから、あまりよくわかってなかった。ザルでびっくりしたし、無気力な教育になるだろうなとも思った。日本の高校って、落第、殆どないんだね。どんなに授業についていけなくても、落第しない。出席点で補ったり、補講や再テストで出来るようになるように学校側が『なんとかする』。そんな馬鹿なだよ。付いていけないなら、それ相応の成績をつけて落とすべきだ。だからこそ高校卒業という資格には意味があるのに。そういう気遣いを知らなかった。だから、百舌聖君は、確実に高校卒業が手に入る宮森学園を選ぼうとした。だけど、雁湖に戻ってくるってさ。彼女は意欲的な子だったし、卒業のための忖度なんて必要ないと思うんだ」

「聖は、大学に行こうとしている。そのために実績のある宮森さんの高校を選ぼうとした。今年開校した学校には、そんなものないからね」

「ただ、彼女の決断したタイミングは良くなかったね」

真生は、そう言い残して、控室を出ていった。入学直前で進路を変えることは色々な手続きから考えても、良くないタイミングである。もう、開場は始まっていて、講演会が始まるまで10分ほどしかなかった。幕は開いた。



 

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