表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルマスター  作者: とわ
第一章 ムーン・ブル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/191

28.ボボンと農村


 翌朝。


 俺達が朝一番で賑わうギルドのカウンターに訪れると、マリーは既に奥の方で忙しく働いている。呼んでもらうために、カウンターに居る別の女性に声を掛ける。


「おはよう」


「おはよー」


「おはようございます」


「マリーを呼んでくれるか?」


 俺とモモが挨拶し、女性が応えた。俺が頼んでいると、視界の中のマリーがピクリと反応する。


「あっ! ルーティ、モモちゃん、おはよー! 悪いけど、外でもうポーターの人が待ってるから、行ってもらえるかしらー!?」


 こちらを見つけたマリーが、張った声を飛ばしてきた。


「わかったー!」


「ポーターの人はいい人だからー、気を付けて行ってきてねー!」


「うん! わかったよー!」


 俺も張った声で返事を戻し、マリーとモモも張った声で言葉を交わした。


 このあと、マリーがカウンターの奥から手を振りながら見送ってくれる。俺とモモも手を振り、それに応える。そのまま、俺達が表に出ようと出入り口に足を運んでいると、


「ルーティさんと、モモさんですかな?」


 手前で一人の老人に声を掛けられた。不意だったが俺は直ちに察しが付き、


「ああ、そうだが」


 返事を戻した。


「はじめまして。私はポーターをやっているボボンと言います。今日はよろしくお願いします」


(この人がポーターか…。結構、年寄りだな)


 ボボンは軽く頭を下げながら話をし、俺はそう考えた。ボボンは古びた布の服を着ていて、体格は少し痩せ気味だ。表情の皺の感じから、歳は恐らく六十歳を過ぎている。


「こちらこそ、よろしく」


「よろしくね」


 俺はボボンに合わせて軽く頭を下げ、モモは可愛らしく頭を傾けて応えた。俺が姿勢を戻しているとボボンと視線が合い、その瞳の奥に鋭さを覚える。


(なんかこの爺さん、迫力があるな…)


「早速ですが、馬車で移動するので表に向かいましょう」


 俺が興味深さと共に戸惑っていると、ボボンは表情を緩めて朗らかに話をした。


 このあと、俺達はボボンに馬車のところまで案内される。





 馬車は出入り口の脇に横付けされていて、二頭立ての四輪馬車だ。荷台には幌が被せてあるが、側面が巻き上げられていて景色を眺められる。


「荷台に乗ってください」


 ボボンがこちらにそう話した。俺達はそこへ、ボボンは御者台に乗り込む。ゆっくり動き始めた馬車はそのまま南門に向かい、ボボンが門兵に挨拶を交わして俺達もそれに続く。


 門を潜り抜けると、普段目にしている土色の街道が地平線まで伸びている。それを左右から生命力豊かな黄緑色が彩り、上空からは雲一つないグラデーションブルーが包み込む。早朝なため、俺達の前方を遮るものはない。


 街を出発した馬車は徐々に加速し、今は景色がゆったり流れるほどのスピードだ。馬車のスピードは、前の世界では積荷を積んだ際は人が歩く程度と言われているが、この世界ではそうではないようだ。


「凄いね! 馬車って早いんだね!」


 俺に背を向けているモモが、景色を眺めながら声を上げてはしゃいでいる。


「申し訳ありませんね。現地までは少し時間が掛かるので、先を急がせてもらっています」


「構わないさ」


 ボボンは言葉とは裏腹に、落ち着いた様子で話をした。俺は生まれて初めて乗る馬車に夢中で、そんなことは全く気にせずに返事を戻した。モモも背中を揺らしながら景色を眺めるため、恐らくそんなことは気にしていない。風達も少し強く吹きながら俺とモモの周囲を舞い躍っていて、恐らくそんなことは気にせずに楽しんでいる。俺は、このまま永遠に揺られていたい、そんな気分になった。


 俺はモモの隣に移動し、しばし続き行く草原を2人で眺めながら景色を楽しむ。しかし、流石にこのままではあれだと思い、御者台に近寄りボボンとコミュニケーションを図ることにする。


「ボボンさんは、冒険者だったのか?」


「ええ。十年前はそうでした。その時引退して、ポーターを始めました」


(やっぱり、冒険者だったか。さっきの鋭さといい。どおりで、こんなに落ち着いてるわけだ)


 俺が尋ねると、ボボンは悠々と返事を戻した。俺は今朝の様子と、モンスターが群がる世界でのこの態度からそうではないかと予想していたが、これで得心を得た。


「歳は、いくつなんだ?」


「今年で六十になります」


(六十か…。思ってたより、少し若かったな。それなら、五十で冒険者を引退したってことか…。それが早い引退なのか、遅い引退なのか…。う~ん。まだ、わからないな…)


 再び俺が尋ねると、ボボンはさらりと返事を戻した。その回答に、俺はまだまだこの世界での情報が不足していると頭を悩ませた。


「この仕事は、儲かるのか?」


「いいえ。儲かりはしませんね~。なんとか食い扶持を繋げている、そんな感じですよ」


(ん? 言葉の割には、気楽だな。まあ、タクシーみたいなものだと思うし、儲かる時もあるんだろうな。さて、次は何を聞こうか…)


 更に俺が尋ねると、ボボンはどこか楽し気に返事を戻した。俺は考えを纏め、次の話題を探し始める。ポーターは、マリーの話によると小金貨1枚で一日雇うことができる。この金額は、他の街でも然程変動しないそうだ。馬車が自前なために経費が嵩むそうだ。


「ねえねえ。帰りは、ここにビッグフロッグを積んでくの?」


「いえ。ストレージに収納するので、帰りもきっとこんな感じになりますよ」


 俺が次の話題に頭を悩ませていると、景色を眺めていたモモが不意にボボンに振り向き尋ねた。ボボンが応えると、モモは再び楽し気な様子で景色を眺め始める。恐らく、安心したのであろう。


(それなら、いいな。帰りも、ゆったりして居られそうだ。ヌルヌルな荷台で生臭い臭いを嗅ぎ続けるのは、結構嫌だと思ってたからな)


 俺は考えを纏めたあと、ボボンと雑談を交わし続ける。この世界の分からないことは、まだまだ沢山あるためだ。





 小一時間ほど話を弾ませていると、周囲の景色が徐々に畑のものに変わり始める。所々に風車の付いた石造りの建物と、農作業を行う人々が見られる。遠方には数件の民家が見え始め、ボボンの話によるとあそこが依頼主の住処とのことだ。俺達はこのまま、そこに向かうことにする。


 馬車のまま、左右に民家や倉庫などが建ち並ぶ広い土の道を進む。それら建物の間隔は広く、その間からは広い中庭が見える。農機具などが見えるため、恐らくそこで農作業を行うのであろう。


 道沿いでは、子供達がボールのようなもので遊んでいる。そんな中、ボボンが周囲の建物よりも少し立派な民家の前で馬車を停める。俺達が馬車から降りていると、家の中から杖を手にした老爺が現れる。


「おはようございます、冒険者様。お待ちしておりました」


 よぼついた体を杖で支えている老爺は、頭を下げながら挨拶した。


「おはようございます。あなたが、依頼主か?」


「おはよー。おじいちゃん」


「はい。私がこの農村の代表として、依頼を出しました。こんな若い方に来て頂けるとは、ありがたいことです」


 俺は挨拶と共に尋ね、モモは挨拶のみした。老爺は返事を戻したが高齢なため表情に皺が多く、それが世辞なのかは読み取れない。


「状況を、聞かせてもらえるか? 特に、被害は出てないように見えるが…」


 尋ねた俺は、続けて周辺を見渡しながらそう伝えた。建物や農村を囲む畑に、荒らされた痕跡は見られない。


「ビッグフロッグ達は、まだこの辺りには現れておりません。今はあの畑の向こう側に、大量に群がっていまして…。あの憎たらしい奴らが、いつこちらに向かって来るのか…」


 老爺は俺達の背後の畑を指差しながら話し始めたが、途中から感情を抑えきれなくなったのであろう。怒りをぶつけるかのように話しながら、体を小刻みに震わせた。


(こんな世界だ。想像はしたくないが、子供でも襲われたのか…?)


「わかった。それなら、あの畑の向こう側に居る奴らを、倒せばいいんだな?」


「はい。お願いできますか?」


「勿論だ。そのために、来たんだからな」


 悲惨な結末を想像した俺は老爺を元気付けようと、その肩に手を置きながら話をした。体を震わせている老爺は先程よりは心を静めてこちらに返事を戻し、俺は固い決意を込めてそう伝えた。そして、クエストを受けて遥々ここまで訪れて事情まで確認したため今さら断る道理は一切ないが一応、俺はモモとボボンに視線を移す。モモは表情に影を落とし、切なく老爺を見つめている。ボボンは神妙な面持ちで、何やら思うところがある様子だった。





 現状を把握した俺達は老爺の案内で馬車を移動させたあと、装備を整えて現地に向かう。しかし、畑のあぜ道を進む俺の足取りは重かった。何故なら、先程の老爺に同情していたためだ。そんな中。


「ボボンさん。ビッグフロッグ達と戦う時に、何か気を付けることはある?」


「そうじゃのう…。普通の冒険者からしてみれば奴らは大したことはないが、新人じゃと打ち所が悪ければ骨折ぐらいはするのう。じゃから、気を付けることは油断せずにしっかりと戦うことかのう」


(そうだった。ビッグフロッグ達は弱いモンスター。そう言われてたからすっかり忘れてたが、俺達も弱い冒険者だった。骨折には、気を付けよう)


 先頭を行くモモが、振り向きながら俺の背後のボボンに尋ねた。ボボンは考えながら返事を戻し、俺はそれにハッとした。そして、昔折ったあばら骨の事を思い出し、思わずそこを摩ってしまう。


「それとじゃ。奴らはここの子供達からしてみれば、恐ろしいモンスターじゃ。倒し損ねて一匹でも残してしまえば、大事になるやもしれん。今回は、奴らを全滅させることも重要になるじゃろうのう」


 ボボンは出だしの言葉の語気を強め、分かり易く丁寧に話をした。俺はモモと顔を見合わせ、互いに小さく頷きながら気を引き締め直した。




初心者です。

☆を付けていただけると嬉しいです。

ブックマーク登録もして頂きたいです。

アルファポリスで読んでもらえると非常に助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ