20.俺達のスキル
初陣を勝利で飾った俺達は、次の作業の安全を確保するために引き続き周囲のスライム達を討伐する。仮に奴らを全て討伐したとしても、翌日には再び生まれているため問題ない。
「そうだ!」
「どうしたの、急に?」
「スキルを持ってることを、思い出したんだよ!」
俺は唐突に声を上げた。モモが疑問に尋ね、俺は心を躍らせながら返事を戻した。
「私も持ってるけど…」
「使ってみたくないか~?」
「う~ん…」
モモが困惑したように呟き、俺は誘惑するように尋ねた。声を漏らしながら俺から視線を外したモモは、何かを思考し始める。ちなみに、先程から周囲に人影は見えず、俺達がスキルを使用しても他者にバレる心配はない。モンスターが存在する世界なため、街の人々は不用意に郊外に訪れないようだ。
「使ってみたい! けど、どうやるの?」
「基本的には、技名を口にすればいいらしいぞ」
「ふ~ん…。わかった! やってみる!」
(先にやりたかったが…、まあいいか。モモのスキルはニュータイプだったな。どうなるんだろうな? 俺が知ってるニュータイプは、未知数だからな…)
悩み終えて元気に声を上げたモモが、使用方法を尋ねた。俺が簡潔に説明するとモモはそれとない相槌を打ったが、そのあとやる気に満ちた声を上げた。初体験を一番に成功させると気分が良い。そう思考していた俺だがそれはモモに譲り、期待と妄想を膨らませながらモモを見守る。
「使うね~。ふう~」
合図を送ったモモは、直立した状態で呼吸を整えている。次に全身に力をこめ、
【ニュータイプ】
スキル名を口にした。表情をにやけさせている俺は、鼻息荒くモモを観察する。
「…。お兄ちゃん」
「どうだ!? 力が溢れてきたか!?」
「ええっと~…」
間を置いたモモが俺を呼び、興奮状態の俺は尋ねた。モモは困惑した様子で声を漏らした。
「私、何か変わった?」
「んん!? 変わってないのか!? こう、ぐわーーー! とか、暴走しそうだーーー! とか、私は神になったのだーーー! ぐわあっははは!!!」
「うっ、ううん…。全然………。あ、あれ?」
モモが首を傾けながら尋ねた。俺はモモの両腕を掴みなが追及するように尋ね、そのあと身振り手振りを使用しながら神になった。返事を戻したモモは、あれあれと声を漏らしながら変化を探すように自分の体のあちこちを確認し始める。
「んんん!? おかしいな…。スキルの使い方は、合ってると思うんだが…」
「なんか、よくわかんない」
唸り声を上げた俺が首を捻りながら呟くと、難しい表情のモモは首を左右に振りつつそう話した。
「そうか…」
「今度は、お兄ちゃんがやってみて!」
「ん? ああ、いいぞ」
疑問に思いながら消沈した俺が呟くと、潔く諦めた様子のモモが期待の眼差しをこちらに向けて話した。俺は思考を切り替え、快く返事を戻した。
(スキルマスターは、たぶん全てのスキルを使いこなすんだろうな! なんと言っても、マスターだからな! だが、それだと俺は最強になるが…。異世界に来たんだし、それぐらいはアリだよな!)
「見てろよ~。はあ~~~!」
自分のチートを肯定した俺は声を掛けながらなんとなく気分がヤムチャになり、狼牙風風拳のように両腕を前に構えながらそれを流線形に動かす。次の瞬間に目を見開き、
【スキルマスター!】
張り切ってスキル名を口にした。俺を見ているモモは、ヒーローを見るかのような眼差しで両拳を胸の前で上下に揺らしている。
『ヒュルルン』
冷え切った風が俺の体を包み込んだ。そのまま俺の暖かい思考を上空に舞き上げ、冷やされた思考が俺の頭の中に舞い戻る。
「………。あ、あれ?」
俺は、思わず声を漏らしていた。モモを見ると未だ期待の眼差しでこちらを見ている。
「モモ。俺は、何か変わった?」
「えっ? 何も変わってないよ?」
「そうだよな…?」
普段通りの俺は尋ね、困惑したモモが返事を戻しながら首を傾げる。呟いた俺は、変化を探すように自分の体のあちこちを確認し始める。
「おかしいな~。マリーの話を、聞き間違えたか?」
「ホントに、なんともないの?」
「ああ…」
顎に手を当てた俺は呟き、モモの尋ねに弱々しく返事を戻した。
「どうするの?」
「う~ん…。今日は諦めるか…」
「もう諦めちゃうの?」
「今日はな。スキルは、図書室で色々調べられるんだ」
「図書室?」
(あっ、そうか。さっきもそうだが、スキルの前にその辺の事をモモに教えないといけないな。それに、今からクエストもやらないといけないし…)
俺が首を捻っていると、モモが尋ねた。俺は少し悩んだがそう伝え、モモが再び尋ねた。俺が理由を説明するとモモが三度尋ね、俺はそのことを思い出した。
「モモ。今日は諦めるってことでいいか?」
「お兄ちゃんがいいなら、それでもいいけど…」
「他にも、モモに話しておかないといけないことがあるんだ。それに、今日中にクエストを終わらせたいから、今はそれで納得してくれ」
「うん。いいよ。クエスト、早く終わらせないとね!」
俺が再び確認すると、モモは若干表情を曇らせて返事を戻した。俺が掻い摘みながら理由を説明すると、モモは素直に納得して明るく返事を戻した。
俺達は本来の目的に戻り、周囲のスライムを討伐する。それを終えたあと、薬草採集を開始する。薬草は見本を借りていて、それと見比べながら行う。
(スライムよりも、こっちの方がきついな…)
これは、まるで駐車場の草むしりのようで、若い体とは言えやはり足腰にきた。薬草を求めて移動しながら、少し離れた場所に居るモモと雑談を交わしつつ作業を続け、なんとか五束分を揃えた。
(ふう。新しい体でも、腰が痛くなるのは変わらないか…)
初めての薬草採集とは言え、なかなか楽はできないものだとしみじみ感じた俺は、その場で立ち上がり沈み掛けの夕日を見つめる。
(だいぶ時間が過ぎたな。そろそろ、ギルドに戻るか)
そう考え、周囲を見回してモモを探す。
「おーい。そろそろ帰るぞー」
「はーい」
見つけた俺は、若干声を張りながら呼んだ。夕日を背にしてしゃがんでいるモモは、目の前の小さなスライムを見つめながら返事を戻した。
(あんなのも居るんだな。襲ってこないみたいだし、スライムの子供みたいなものか?)
美しく可愛らしい奴を、俺は微笑ましく見つめていた。すると、モモが近くの木の枝を拾い上げ、
「つんつくつん」
掛け声と共に突き始める。奴はくすぐったいのか頭部をピクピクとさせながら体を絞るようにねじり上げ、まるでとぐろを巻いたようになる。可愛らしさを増したそこに色鮮やかな夕日が差し込み、光が内部で乱反射して体全身がピンク色に染まる。
「ほよ~」
驚きの声を上げたモモがピンク色のとぐろ状の奴を今も尚、突き続けている。それはこちら側から見ると、かなり不味い光景に見える。
(み、見なかったことにしよう…)
俺はモモのそんな現実を否定した。そんなとある漫画のような事態が発生したが、このあとの俺達は無事にギルドに辿り着いた。
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