3.うっかり
――現在――
「何が起きた?」
異常な俺は、停止している脳を無理やりに働かせて疑問に呟いた。停止している呼吸にも気付いて息を強引に吸い込む。酸素が脳に届き始める。
「まっ、真っ白な世界」
酸欠な俺は、あるがままの景色を言葉に変換して呟いた。両腕を視界を遮らないようにと慎重に下ろし始めるが心拍数はそれを阻止するかのように更に上昇する。
「違う! 地面が白くて、空も白いんだ!」
驚愕な俺は、思わず目を見開くと同時に全身を力ませながら両腕の下ろす動きを中止して声を強く上げていた。景色を早急に見渡す。
景色は、地平線のような一本の線が遥か彼方へと果てしなく続く。線の上部に筆で塗り潰したかのような真っ白な空、線の下部に一枚板かのような真っ白な大地も果てしなく続く。それらの景色の中に、先程の若干の装飾が施されている白色の扉がポツリと存在する。
「はっ」
真っ白な俺は、思わず不安が過ると同時に声を短く漏らしていた。直ちに視線と力む上半身を背後に振り向ける。視線は、背後に存在するはずの帰路を捉えられない。視線は、果てしなく続く真っ白な景色を捉える。力む下半身も背後に向ける。
「おかしい! 俺は家に帰る途中で、ただ路地に入っただけのはずだ!」
錯乱な俺は、首を俯き加減で左右に激しく振り、両拳をきつく固めて日常を切望すると声を強く上げた。恐怖が津波のように押し寄せる。
(いったい…、どうなってるんだ………)
絶望な俺は、思わず足元の真っ白な大地を見つめて脱力しながら唯々漠然と思考していた。絶望が大地を岸壁に変化させる。
「やっと出会えました」
ぐちゃぐちゃな俺は、唐突に右耳で得も言われぬ澄んだ音を捉えた。澄んだ音は、直ちに全てを正常に戻す。
「100人目の人間様を、お待ちしておりました」
正常な俺は、音を声と認識すると同時に全身から冷や汗を噴き出してぎょっとする。
(そこには、誰も居なかったはずだ!)
冷静な俺は、視線と体を右側に勢い良く振り向けながら身構えつつ強く思考した。身構える視線は、神々しく輝いて見える人のような姿を捉える。直ちに姿の全てに目を奪われる。
輝いて見える長く純白な髪、同様に見える潤しく純白かのような肌、整う顔立ちの中にプリンとする濡れた唇、女性のような温もりを覚える体型に纏う露出が高くシルクかのような純白なドレス。優しい微笑みを浮かべて両手を下腹部の前で軽く結ぶ姿は、神々しくも艶めかしくもある。真に、この世のものとは思えぬ絶世。
(これは…、人? 女性…、なのか?)
呆然な俺は、思わず心までも奪われて漠然と思考していた。脳に違和感を覚えて頭痛を起こす。
「ぐっ」
苦痛な俺は、思わず頭部を右手で押さえて声を漏らしていた。体を左前方に崩す。
「ごめんなさい…。負荷を掛け過ぎました」
(ふ、負荷? 何を言って…って、あれ? 痛みが消えた)
絶世は、僅かに俯いて輝く瞳を右側に逸らして話した。困惑な俺は、絶世の薄れ始める全身の輝きを横目にし、横目を戻して正常に戸惑うように思考した。
(どっ、どうなってる?! それに…、こいつはいったいなんだ?!)
混乱な俺は、先程からの事態と感情を正常ではないと理解しながらも正常に判断して正常に疑問に思考した。再び横目を絶世に向ける。俺を見つめる絶世は、非常に美しいながらも諭すような微笑みを見せる。
(まさか俺は?!)
再び正常な俺は、思わず絶世を見つめながら体を勢いよく起こすと同時に目を大きく見開いて疑問に強く思考していた。大きく見開いた目を弱々しく細めつつ足下に落す。絶世の微笑みと路地の閃光を思い出す。言葉では表現が不可能なほどの恐怖と絶望と混乱に支配される。しかし、直ちに正常に戻る。
(懐中電灯の光って思ったのは、実は暴走トラックか暴走自転車だったのか? それで、俺は命を落としたのか? う~ん…、分からないな~。だが、呆気ないものだな。頭の中がやけにスッキリしてるから、そう思うのか?)
三度の正常な俺は、拍子抜けと思考した。
(それにしても、普通に混乱してるって分かるからそれを普通に理解してそれはおかしいって普通に気付いて判断して、また普通に混乱してるって分かってそれを普通に混乱して普通に混乱して普通に………、あ~やめだやめだ! 頭がおかしくなる!)
おかしな俺は、眉間に皺を刻々と寄せながら堂々巡りを断念し、首を左右に激しく振りつつ苛立ちの声を上げるかのように強く思考した。
(はあ~。それより、たぶんこれは現実だ。俺は大人なんだから、この現実を素直に受け入れよう)
素直な俺は、肩を少し落としながらも日頃より大人とはどのような存在なのかを自問自答してある程度の結論を持つために唯々現実を直視して許容しようと思考した。
(問題は、この場所とこいつだ)
冷静な俺は、体をゆっくり戻しながら視線を絶世の足元に移して問題点を見極めようと思考した。
(確かめないといけない)
決意な俺は、表情を固めて思考した。恐る恐る顔を上げ始め、視線を絶世の頭部に移す。
(うぬ? ………、なんであんな顔してるんだ?)
怪訝な俺は、思わず絶世のひくつく表情を捉えて疑問に思考していた。
(まあいい)
「あっ、あなたは、誰ですか?」
不満な俺は、視線をずらして目的はずらさないようにと思考した。続けて、視線を戻して言葉を詰まらせながらも疑問に尋ねた。
「わっ、…こほん。私はアウラと申します。あなた達の世界で言うところの、女神と呼ばれる存在です」
(めっ、女神?! かっ、神ということか?! 神…、なんて、本当に居たのか?!)
ひくつく女神は、声を上擦らせて咳払いをし、直ちに表情を整えて非常に優しい微笑みを見せて返事を戻した。驚愕な俺は、思わず目を大きく見開いて後方に数歩たじろぎながら思考していた。全身の血の気が失せ始める。
(落ち着け! 分からないことは考えるな! 神という存在が、どういうものなのかは分からないが!)
危機な俺は、思わず咄嗟に自分の精神を守ろうと体を左側に素早く背けると同時に縮こまるようにして思考していた。
(………、ううん?)
正常な俺は、首を右側に傾けて違和感が残ると疑問に思考した。そして、
(あっ、これじゃあ分からないことを考えてるや)
うっかりした。
(いや、分からないことは考えるな!)
迂闊な俺は、直ちに首を左右に激しく振りながらうっかりするなと強く思考した。
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