83.灼熱
俺達は馬車を降りてオークとの戦闘の準備を始めた。
「馬車はこのままで良いのね?」
「ああ。近づいて巻き込むわけにはいかないからな。念のため、シルフィー」
「うん」
「上から見張っておいてくれ。それと、何かあったらすぐに伝えてくれ」
「わかった。僕に任せて! 馬車は僕が守るよ!」
そう言うと、シルフィーは少し高い位置へと飛んで行った。
「ロンド達、任せたぞ」
「任せろ。万が一の時は体を張ってでも止める」
俺の言葉にロンドがそう答えた。
「決めて見せるわ!」
「わ、私も頑張る!」
今回の要は、ロンド、アイラ、リリー、この3人だ。この3人が上手くやってくれれば戦闘もスムーズに行えるだろう。
「お兄ちゃんも気を付けてね」
「モモもな。無理はするなよ。時間を稼ぐことだけ考えてくれ」
「わかった!」
俺達は最後の確認をしてからオークへと近づいた。
俺とモモはロンド達よりも更に前に出る。
今回は、オークの集団にこちらから突っ込むよりも、向かってきてもらった方が都合が良いので、初めはロンドに弓で攻撃をしてもらい、オーク達をこちらにおびき寄せることにした。
「やってくれ」
俺がそう言うと、ロンドは静かに弓を構え、オークに攻撃をする。
「タン!」
ロンドの放った矢が一番手前にいるオークに刺さる。まだ遠くの方に見えるオークに正確に矢を当てていくロンドの腕は大したものだ。
「グゥー」
矢に当たったオークの声が聞こえる。ゴブリンとは違いその声は低いものだった。周りのオークもその声に合わせてゆっくりと動き出す。
矢の当たったオークを先頭にして、オーク達はロンドの方を見ながらこちらに近づいて来る。
「ズン。ズン。ズン。ズン」
オークは身長が2メートルほどで、決して大き過ぎるモンスターというわけではないのだが、その姿は筋肉の塊のように見え、体重は人の数倍はあるだろうと思えた。その巨体の一歩ずつの足音が辺りに鳴り響く。
俺とモモは先頭で向かってくるオークをそのまま見送り、後から来るオーク達を相手にする。
モモは向かってくるオーク達の一番後ろへと回り攻撃を仕掛ける。すると、後ろ側にいたオークの3匹がそれに反応をした。
ここで俺はすかさずスキルを使う。
【挑発】
モモの方へ向かおうとしていた3匹のオークのうち、1匹をこちらに引き付ける。それと同時に、その手前の2匹オーク達も挑発のスキルで足止めする。
やはり知能が低いせいだろう。オーク達は俺とモモがオークから一番近いのに、俺達を素通りしてロンドの方へ向かおうとしていたが、モモの攻撃と俺の挑発によって、みごとに分断された。
モモがオーク2匹を相手にし、俺は3匹、ロンド達は1匹を相手にする形が出来た。
ここまでは狙い通りだ。あとはロンド達、上手くやってくれよ。
俺はそう思いながらオーク達との戦闘を始めた。
俺は3匹のオークが視界に収まるように、少し距離を置いて様子を見る。
「グゥー」
「グゥ―」
「グゥ―」
………寝るのか?
いかん。またアホなことを考えてしまった。集中せねば!
オークの言葉なのか、グゥーグゥーグゥーと言っているので、つい余計なことを考えてしまった。
俺が気持ちを切り替えようと考えていると、正面のオークがこちらに殴りかかってきた。
このオーク達は棍棒を手に持っているのだが、その大きさは人の持つ棍棒とは比べ物にならず、サイズが遥かに大きかった。この前戦ったトレントの腕とぐらいの大きさの棍棒をこちらに叩きつけてきた。
【シールドバッシュ】
「ガン!」
俺は盾で受け流すようにしてその攻撃をいなす。すると、オークはその場でクルリと左を向く。
流石レベル30のモンスターか。盾でスキルを使って受けても、こちらにダメージが入るな。
ただ棍棒を振っただけ。オークにとってはその程度のことなのかもしれないが、その破壊力はトレントを遥かに上回るものだった。そして、俺は今の一撃で手首を少し痛めてしまった。
続いて右側のオークも攻撃を仕掛けてきた。
盾で受け続けるのは危険だな。
俺はそう判断をして、そのオークにはタックルを食らわせる。そのまま距離を詰め腕を振れないようにするのだが、すぐに他の2匹の攻撃が続く。
俺は慌ててそこから抜け出した。
「ブゥン!」
「ドン!」
一つの棍棒は空を切ったのだが、もう一つの棍棒は俺がタックルをしたオークへと命中した。
よほどタフなのか、棍棒が当たったにもかかわらず、そのオークはびくともしなかった。
こいつらやばいな。だが面白い!
俺はこんな時なのだが、テンションが徐々に上がっていくのを感じた。
少し距離を取ったので、俺はモモの方を確認した。
すると、モモはヒット&ウェイで攻撃をかわしながら、徐々にだが、オークに攻撃を与えているようだった。オークの体に剣で切った痕が所々に見えた。
流石モモだ。こちらも負けてはいられないな。
そんな時、ロンド達の方からも声が聞こえた。
今回のロンド達の作戦はこうだった。
まずは、アイラのスロウでオークの動きを遅くさせ、更に、リリーのブラインで視界を奪う。おまけに、ロンドのパララサスで麻痺をさせ、動きを封じる。
パララサスは赤魔法の魔法で相手を麻痺させることが出来る。この魔法はロンドは前から使えたのだが、今までが火力のごり押しといった感じの戦い方だったので、すっかり忘れていたものだ。
俺が盾役をやっていたので使うタイミングが無かったということもあるのかもしれないが、こういった場面でモンスターの動きを封じるにはピッタリな魔法だ。
どうやら、動きを封じるところまではうまくいっているようだな。
俺がロンドの方に向かったオークを確認すると、オークはしびれているようで、棒立ちになり、体を少しけいれんさせていた。
そして、今からロンド達がやろうとしていること、それが今回の要になる。
「いくぞ!」
ロンドが俺達にも聞こえる声で叫ぶ。そして、続けざまにスキルを放つ。
【ファイアショット】
ファイアショットは弓のスキルで、火属性の攻撃だ。炎をまとった矢がオークに突き刺さる。
「ボワ!」
矢が突き刺さると、そこから炎が立ち上る。
矢が突き刺さるのとほぼ同時ぐらいに、アイラが魔法を放つ。
【サイクロン】
オークにサイクロンの魔法が直撃する。
「ゴォ!」
立ち上っていた炎が火柱へと変化する。
これは連携魔法の時と同じ原理で、今回は魔法ではないのだが、属性を持つ攻撃スキルに対して、適した属性をタイミングよく加えてやると、連携魔法の時のように、その威力が数段跳ね上がる。
そして、今回はここで終わらない。更にリリーが魔法を放つ。
【ストーンショット・灼熱】
先の尖った複数の石の塊が、オークに直撃する。
「グゴォォォォォ!!!」
火柱となっていた炎が更に燃え広がり、その炎の色も白みがかった色に変化する。先ほどよりも高温になった炎は、オークとその周辺を焼き尽くす。
しばらく炎が立ち上り、やがて、その炎がおさまると、そこには炭となったオークが立ち尽くしていた。
一撃か! やはり凄いな!
俺達の周りにいたオーク達は、今の光景に目を奪われていた。
悪いが、見とれているなら倒させてもらおう。
俺はスキルを使う。
【チャージドスラッシュ】
棒立ちになっているオークの喉を俺の剣が切り裂く。
「シュンッ!」
「グアー!」
喉を切り裂かれたオークは、叫びながらそのまま後ろへと倒れる。
俺の攻撃はきれいに決まった。クリティカルヒットだ。いくらタフなオークとはいえ、急所の部分にクリティカルヒットさせれば一撃で倒すことが出来る。
モモも同じ考えだったようで、ほぼ、俺と同時にオークの喉を切り裂いていた。
残りのオークは後3匹。ロンド達は作戦通りにモモの援護へと回った。
俺は2匹を相手に、後は時間を稼ぐだけで良い。
モモの方のオークが倒され、皆が俺のところへ集まってきた。
「あとは楽勝ね!」
アイラがそう話しかけてきた。
「戦闘中なんだが」
「良いじゃない」
「手首を痛めているのだが」
「はい」
【ヒール】
ヒールで俺の怪我は癒されたが、俺の心は癒されなかった。
「それよりも、あれもやってみましょうよ」
「あれか?」
「そう。あれよ!」
そう話をしながら、俺達は更に1匹、オークを倒した。残りは1匹だ。
俺は皆の顔をうかがった。皆はやる気のようだ。
せっかくだ。練習もしないといけないし、やってみるか。
俺はそう考えて、あれをやってみることにした。
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