78.馬車の旅 スタート!
「ガラガラガラガラ」
「パカパカパカパカ」
「良い天気だね~」
「出発日よりだな」
俺達は馬車を手に入れたのでエルフヘイムを出発した。今は俺が馬車を操縦し、隣にはモモが座っている。
10月ということで馬車では少し寒く感じるかと思っていたのだが、刻印のおかけで馬車の周りの風は穏やかで、それほど寒さを感じることはなかった。
他の皆も後ろの荷台から外の景色を眺めていた。普段とは違った目線で見る景色が楽しいのだろう。リリー達のはしゃいだ声が御者台まで届いていた。
「スライムがいるよ!」
「木の精霊と縄張り争いをやっているわね」
リリーとアイラがそんな話をしていた。
「スライムって怖いね」
そう言ったのはシルフィーだ。
「むやみに近づくなよ。お前なら取り込まれたらすぐに溶かされてしまうぞ」
それに対してロンドが答えた。
「そんな迂闊なことはしないよ~♪」
シルフィーはそう言いながら馬車の中を飛び回っていた。
街を離れてまだすぐのところだったので、この辺りは以前にトレント狩りで来たことのある場所だ。俺達は当時のことを話しながら馬車をゆっくりと走らせた。
「それにしても、この馬車、全然揺れないね」
モモが俺にそう話しかけた。
「ああ。思っていた以上に静かだな」
まだスピードをあまり出していないのもあるが、馬車の揺れは自動車と同じぐらいの揺れしかなく、乗りごちはなかなかのものだった。
「これならお尻も痛くならないね」
そう言ってリリーが御者台の方へ顔を出した。
「座布団は快適か?」
「うん。ふかふかしてて座り心地も良いよ」
今回の旅用に、俺達は一人一つずつ座布団を用意した。いくら馬車の揺れが小さいとはいえ座る場所は気の上だ。なので、座布団のような物は欲しかった。それとクッションも用意をした。座布団とクッションがあれば荷台で寝転がってゴロゴロできる。自動車の様に座席があるわけではないので好きな場所で寝転がることが出来て、これもなかなかの物だった。
「そろそろ運転を変わろうか?」
リリーが少しそわそわしながら俺にそう話しかけた。
「運転をしてみたいんだろ?」
「う、うん」
リリーは少し恥ずかしそうにしてもじもじとしている。新車を買ったようなものだから運転は誰でもやってみたくなるだろう。
時間的にはまだ1時間ぐらいしか運転をしていなかったが、俺も初めてのことで少し疲れを感じたのでリリーと交代をすることにした。
俺が荷台の方へ移ろうとすると、
「それなら私もー」
と言って、モモも荷台へと入っていった。
「えー--。モモちゃんも行っちゃうの?」
「モモ。リリーが一人になっちゃうだろ」
「えー--。私も荷台に乗ってみたい」
モモは荷台に乗ってみたいようだ。荷台に乗ることも初めてのことなのでこれは仕方がない。すると、
「しょうがないわね。私が前に移るわ」
そう言って、今度はモモの代わりにアイラが御者台に乗ることになった。
何だかんだはあるが、皆はそれを楽しんでいるように見えた。
荷台に移った俺達は飲み物を取り出した。とはいえ、ストレージから取り出したのではなく、荷台に取り付けておいた冷蔵用のマジックバッグからだ。
これも旅のために新しく買い足したものだ。ストレージでは飲み物を冷やすことが出来ず、今まで使っていた冷凍用のマジックバッグでは凍ってしまうので、いつでも冷たいものが飲めるように冷蔵用のマジックバッグを買っておいた。
冷蔵用のマジックバッグは市販で普通に売っていた。だが、買う人は主に料理屋関係の人が多いということだった。これは日本のように保存を前提とした食品作りをしていないからであろう。食材は腐る前に使い切れる量だけ買う。この世界ではそういう考え方のようで、一般の家庭には冷蔵用のマジックバッグはあまりおいていないそうだ。
「ロンドも何か飲むか?」
「いや、今はいい」
俺がロンドに話しかけるとそう返事が返ってきた。そして今、ロンドは弓矢を作っていた。
俺達は馬車での移動は時間が余るので、その間に何か生産系のスキルを上げることにしていた。
ロンドは弓を使うので消耗品の矢を作ることにした。とはいえ、馬車の中なので大きな火は使えず、鏃と矢羽根を組み立てる作業を行っている。鏃は使いまわしが出来るが、矢羽根は折れたり曲がったりするので修理をしなければならない。長期間の旅ともなれば矢の補充は頻繁には出来ないので、自分で作れるようにしておくということだった。
俺は相変わらずの錬金術を行うことにした。今までも空いた時間にコツコツと何かを作っていたので、レベルも以前よりは少し上がり、作れる物も色々と増えていた。
リリーは裁縫系のスキルを上げることにしている。これは布製品と革製品の両方を修理できるようになるスキルだ。普段の戦闘でのちょっとしたほころびを直したりと、これも長期の旅には向いているスキルといえるだろう。特に俺は壁役なのでリリーにはこれからいろいろとお世話になるだろう。壁役は味方を信用できるかどうかで、その力の発揮具合が大きく変わる。安心してボロボロになることが出来るのなら、これからはもっと頑張れるだろう。
それから、モモとアイラとシルフィーだが、3人は見守る係りをするそうだ。要は生産をやらないということだ。生産系のスキルは向き不向きがあるのでこれは仕方がない。その代わり、素材集めなどは行ってくれるそうだ。
何か静かだな?
そう思って周りを見ると、シルフィーがハンモッグで眠っていた。ハンモッグにはちゃんとベッドのように、布団が付いている。羽毛布団の特注品だ。ただ、市販のものではサイズがなかっただけだが、こちらも作ったばかりなのでふかふかとしていて見ているこちらまで眠くなってしまう。
それにつられてか、モモもクッションで寝息を立てていた。クッションも羽毛で作ったもので柔らかくとても暖かい。
二人を見ていると眠くなってしまうのだが、まだ出発して間もないのだ。
俺はせっかくなので外の景色を眺めつつ、ゆっくりと馬車の乗り心地を楽しむことにした。
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