75.次の目的地
「6層に着いたわね」
アイラが腰に手を当てる。
「ひ、広いな。それにここは草原なんだな」
「おっきいね~」
6層は1層と同じような草原になっていた。ロンドとシルフィーは驚いた様子だったが、二人はゴールド・ダンジョンダンジョンは途中参加だったので草原地帯は初めてだ。なので俺はロンドに声を掛ける。
「1層もこんな感じだったんだ」
「そうなのか?」
ロンドが振り向く。
「あの時はアイラのレベル上げをしたんだよね!」
「そうね~。まだそんなに経ってないのに、懐かしいわね~」
アイラが少し遠い目をする。あの頃はアイラもまだこちらの世界に訪れたばかりだったので、恐らく色々と記憶が甦ったのであろう。俺も以前のことを少し思い出していたが、
「ここのモンスターは何が出るの?」
リリーが俺に尋ねた。
「悪い。詳しくは調べてないんだ。そこまで強いモンスターが出るような場所じゃないらしいんだが。次は馬車のことをやる予定だったしな」
5層のボスを倒したら馬車の旅に出る予定だったので、6層のことは詳しくは調べていなかった。
「そっか~。ちょっと知りたかったな~」
「今度来た時の楽しみに取っておいてくれ」
「うん。わかったよ~」
リリーは納得した様子でニコニコとほほ笑んでいる。そしてロンドがまた話をする。
「それじゃあ、ここにはもう用はないんだな?」
「そうだな。少しぐらいは見て回っても良いが、どうする?」
俺は皆の顔色を窺う。
「これ以上下の階層に行かないなら、私はこれで街へ帰っても良いわよ?」
「そうだな。俺も先に進まないなら、戻って良いと思うぞ」
アイラと俺の顔色を窺い、ロンドは視線を落とした。
「私も帰りたいかな~。なんかちょっと、色々あって疲れたし」
「ゆっくり休みたいよね!」
「僕は打ち上げがしたーい!」
モモとリリーは顔を見合わせて頷いている。そしてシルフィーは飛び回った。皆、このまま帰ると言うことで賛成のようだ。俺も少し飲みたい気分となる。
「まだ昼前だが、たまには昼から飲むの良いか?」
「良いわね!」
「「賛成ー!」」
「たまには良いか」
「やったー! 打ち上げ~♪」
アイラを始めモモとリリーも手を叩いて喜んだ。ロンドの表情も少し緩み、その顔にシルフィーが抱き着く。そしてロンドがあたふたとした。
「そんなこと言ってたら、腹も減ってきたな」
「そうね」
「私も~。お腹すいたよ~」
「じゃ、帰るか!」
「うん!」
ロンドとシルフィーが何かをやっているのを他所眼に、俺の言葉にアイラが頷きリリーがお腹を摩る。そしてモモが大きく頷いて、皆はボス戦以上にテンションが高かった。
◇
俺達は街へと戻り、何処か良い店はないかと話し合いをする。が、特に思いつかなかったのでこの街に初めて訪れた時に入った、ダンに紹介してもらった店に行くことにした。
「開いてて良かったな」
「昼間からお酒を飲める店って、結構多いよね」
俺とモモが顔を見合わせると、ロンドが口を開く。
「そうなのか? 別に普通だと思うが?」
「俺達の世界じゃ、昼間から酒を飲むと色々うるさかったんだよ」
「そうか。別に、飲みたい時に飲めば良いと思うが…」
ロンドは俺達の世界の事を知らないので、少し遠慮気味に話をした。
これは冒険者という職業のある世界だからなのかもしれない。何だかんだ言っても、常に死と隣り合わせの世界だ。好きな時に好きな事をやることに対して、誰も文句を言わないのであろう。
そんな会話をしながら、俺達は店に入って行く。
「いらっしゃいませ~。お好きな席にどうぞ~」
店員が緩く俺達を迎える。店内は昼前だったので席がいくつか空いているが、それでも数組、俺達と同じように飲みに訪れている人達が居る。俺達は以前に訪れた時には外にある席に座ったのだが、最近は少し寒くなってきたので店中の席に座ることにした。
「ご注文は?」
「とりあえずビールで。皆もそれで良いか?」
「良いよ」
「良いわよ」
モモとアイラがこちらを見て、ロンド達は頷く。なので、人数分のビールをもらうことにした。
ビールはすぐに運ばれてきたので、そのついでに適当につまめるものを注文をする。そして、
「ルーティ。一言お願いね」
アイラが突然、そんなことを言い出した。
「ひ、一言!?」
俺は普段に無いシチュエーションとなったので少し戸惑うが、皆の顔を見て諦めた。
「そ、そうだな。それじゃあ皆、ジョッキを持ってくれ」
俺がそう話しながらジョッキを片手に立ち上がると、皆もそれに合わせた。
「今回はサンドゴーレムのボスの討伐にお疲れ様。長い話は嫌いだから話はこれで終わりだ。それじゃいくぞ!」
俺は手に持ったジョッキを前に突き出す。
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
『『『『『ガチャン!』』』』』
皆のジョッキがぶつかり合う。そしてシルフィーもしっかり乾杯をした。
シルフィーのグラスはジョッキではなく、おちょこのような感じの物だ。重くて持ち上げることはできなかったが、それでもそれを重ねて楽しそうにしている。
「サンドゴーレムの討伐が、無事に終わって良かったな」
俺は一口飲んだ後、椅子に座った。
「楽勝だったね!」
「ルーティが暴走したけどね」
モモとアイラが座りながら話をする。アイラの言葉がチクリと痛かった。
「あれは、悪かったって」
この後、しばらくの間はサンドゴーレム戦の話が続く。が、俺が直ぐに倒してしまったため話のネタはすぐに尽きてしまった。そして次の話題へとなる。
「これでまた、エルフヘイムに戻るんだな?」
普段は無口な感じのロンドが、今は酒が入ったせいか少し饒舌になっている。
「ああ、その予定だ」
「その後はどうするんだ?」
ロンドの2度目の問いに対して、皆の視線が俺へと集まる。
「獣人の国に行こうと思ってるよ」
モモがピクリと反応した。
「獣人の国! 行ってみたい!」
やはり、元猫のせいなのか、食いつきがよかった。続けてアイラが話しをする。
「どんな国なの?」
「さあ? わからない」
俺は首を捻った。
「わからないって、調べてないの?」
「場所は調べたんだがな、どんな感じの国なのかはまだ調べてないよ」
そう話をしながら、ジョッキに口を付ける。
俺は初めからエルフの国の次は獣人の国に向かおうと決めていた。地理的には獣人の国は、エルフヘイムの南西の位置に当たる。
「獣人の国か…」
ロンドが小さく呟いた。
「ん? 何か知ってるのか?」
「いや…」
ロンドは俺から顔をそむけた。
「そこで止まるのはダメだろ~。最後まで言ってくれ」
俺は軽い気持ちでロンドに尋ねた。
「詳しくは知らないんだがな、獣人は人族に対して警戒心がとても強いと聞いたことがある」
「へ!?」
俺は驚きのあまり変な声が出た。そして、かなりのショックを受ける。
(ど、どういうことだ? せっかくここまで楽しみにしてきたのに、獣人とは仲良くできないのか?)
俺が肘を突いて考え込んでいると、ロンドがまた話し掛けてきた。
「今はたぶん…、大丈夫だと思う…」
微妙な間が会話の中に挟まれた。
「エ、エルフの時だって、初めは問題があったけど…。何とかなったし、そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。きっと…」
リリーの話にも何とも言えない間が挟まれた。
(リリーも何か知ってるのか?)
俺は二人に疑りの視線を送る。
「そうだよ、お兄ちゃん。まずは行ってみてから考えようよ!」
「獣人の国。楽しみ~♪」
モモは俺を励ましてくれた。シルフィーは少し酔ったのか、ふらふらとテーブルの上を飛んでいる。
「そうだな。まずは行ってみて、問題があれば帰ってこれば良いか」
俺は少し元気を取り戻す。そして続きの話をする。
「それじゃ、獣人の国に向かうってことで良いか?」
「ここまで話が出たなら、今更ダメだとは言えないでしょ」
アイラが最後にそんなことを言った。なし崩しのような話の流れになったが、俺達の次の目的地は獣人の国に決まった。
(この世界は種族間の問題が色々あるみたいだな。だが、何としてでも獣人達と仲良くなってみせるぞ!)
「おかわり!」
俺はビールを飲み干し、追加の注文をした。
次の目的地が決まり、話は馬車ことに変わった。
「でも、獣人の国には、馬車で行くのよね?」
アイラが尋ねる。
「そりゃあ、せっかく馬車を造るんだから、馬車で行くぞ」
「どれくらいで着けるの?」
「2か月ぐらいだそうだぞ」
「に、2か月! そんなに掛かるの!?」
アイラは驚愕していた。
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
「2か月もずっと馬車で移動なんて、その間の食糧とかどうするのよ!?」
「何だ、そう言うことか。それなら」
と、俺が次の言葉を発しようとした時、ロンドが上にかぶせて話を始める。
「それなら大丈夫だ。獣人の国に行く道中には、いくつか村や町があるからな。そういうところへ寄りながら進めば、食料などの問題はないだろう」
酔っぱらってきたのか、ロンドの顔が少し赤かい。
「そう。それなら良いけど…。準備はしっかりとしないといけないわね」
「それと、道中には温泉があるぞ!」
「「温泉!?」」
アイラの他にモモも温泉という言葉に反応した。
「どんな温泉なの?」
「エルフの国で有名な、美肌の湯だ!」
「「「美肌の湯!?」」」
「僕も美肌になりたい!」
更に、リリーが目を丸くし、シルフィーと一緒に話に加わる。
「エルフだけじゃなく、隣の獣人の国からも人が集まって来る場所だ。恐らく効果も期待できるぞ」
「「「「おおー-!」」」」
「ルーティ! 温泉には絶対に寄るわよ!」
「「「うん、うん」」」
アイラが俺の手を握り、モモ達3人も何やら頷いている。
「お、おう。わかった」
俺はその勢いに押されて、そのまま頷いた。
(皆、盛り上がってるな~。ロンドがやけに饒舌だが、一体どうしたんだ?)
俺はそう思ってテーブルの上を見渡す。すると、リリーの前に見たことのない徳利が置いてあった。
「リリー、それは何だ?」
「ん、これ? なんか、火酒て言うお酒みたい。甘くてとても美味しいよ」
リリーは天にも昇るような顔付で、おちょこでちびちびと火酒を呑んでいる。
(火酒って、ドワーフが飲むとか、そんな感じの酒のことか?)
俺はそれが気になったので、隣に置いてあったおちょこで少し飲んでみることにした。
(おお! これは美味いな!)
それは甘くてとても飲みやすい酒だった。
(だが、こういう甘い酒は結構アルコールが高いんだよな…)
リリーの隣に座っているロンドを窺う。何やら席を立って踊っている。
「それをロンドに飲ませたのか?」
「うん。美味しいって言って、一緒に飲んでくれてるの」
「そ、そうか…」
(あれのせいでロンドがあんなになったのか。リリーが酒豪なところは、ロンドは見てなかったか…。後が心配だが、たまには良いか)
酔いつぶれた人の扱いはよく知っているので、そのまま見守ることにした。
その後、ロンドは服を脱ぎだし、何かスキルを撃つようなポーズをとりながらはしゃいでいた。それにつられて周囲の他の客も集まり始め、まだ昼の時間だったのだが誰も文句を言うこともなく、店の中は大いに盛り上がった。
(この辺のノリの良さは、この世界の独特なものなのだろうな~)
俺も少しほろ酔いになりながら、その光景を見て楽しむことにした。
店中は後から訪れた客もこの盛り上がりに加わり、更に賑やかなものになった。
俺達もそれに参加して盛り上がっていたのだが遂にロンドが酔いつぶれたので、俺はモモ達に声を掛ける。
「そろそろ帰るか?」
「そうね。ちょっと飲み過ぎたわ」
「私も、もういいかも」
「美味しかったよ~」
アイラとモモが少しふらふらとしているが、リリーはまだまだいけるといった感じだった。
(今後の話はしたし、今日は楽しかったということで良いか。皆、今日の話を覚えててくれるよな…?)
俺はそこが心配になったが、つぶれたロンドを背負いながら宿へと向かった。
少し間が空きましたが、またボチボチと再会をしていきたいと思います。
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