68.レベルが上がらない
夕食の時間となり、俺達はビアガーデンのような、広く開放された感じの酒場に訪れていた。
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
『『『『『『ガチャン!』』』』』』
俺達はジョッキを重ねた。
何故この店に決めたかと言うと、この店にはなんとビールが置いてあったからだ。醤油があったので、ひょっとしたらビールもあるかもしれないと思い、店を選んでいたら見つけてしまった。
俺達は各々に一口目を味わう。
(くあ~。このシュワシュワ感! たまらないな~。それにジョッキも冷えてて、なんて良い店なんだ!)
「やっぱり良いわね。こういう店は」
「宿の1階も好きだけど、こういうところも良いよね」
「ぷは~」
「もう飲んだのか?」
「あ…。だって、美味しかったんだもん…」
アイラとモモの顔が緩んでいる間に、リリーが一杯目を一気に空けてしまう。リリーは相変わらず酒に強かった。ひょっとしたら近い将来、酒豪になるのかもしれない。だが少し恥ずかしかったのか、今は頬を赤く染めてもじもじとしている。
「でも今日は、どうしてこんなところで食事をしようと思ったの?」
アイラが俺に尋ねた。
「ロンドとシルフィーの歓迎も兼ねて、と思ってな。それと前祝だ」
「前祝?」
「ゴールド・ダンジョンの5層の事は知ってるか?」
突然4層を飛び越して5層の話をしたからであろう。アイラは驚いた表情をする。
「知らないわ。4層で水晶を集めたら、エルフヘイムに戻ると思ってたから、調べてないわよ」
「そうか。丁度良い。皆も聞いてくれ。実はな、ゴールド・ダンジョンの5層にはボスが居るんだ」
「ボス!? そんなの居るの?」
モモが嬉しそうに立ち上がる。
「ああ。まあ、5層に居るボスだから中ボスと言ったところだが。今回はそれに挑戦をしようと思う」
皆は手を止めて驚いた顔見せる。
「ボスなんて俺達だけで倒せるのか?」
ロンドが俺の顔を見る。
「たぶん大丈夫だ。調べたら、ボスはサンドゴーレムっていう名前でな。弱点もしっかりとあった」
「ゴーレム!?」
リリーがアワアワとし始める。
「わ、私の魔法じゃ、ゴーレムにはあまり効かないよ…」
「大丈夫だ。魔法だけで倒す訳じゃないから。それに弱点は水なんだ」
「え!? 水魔法なんて言ったら、ルーティしか使えないじゃない」
今度はアイラがそわそわし始める。
「ああ。でも、ウォーターボールが使えれば良いんだ。これなら全員いけるだろ?」
アイラが俯きながら顎に手を当てて考えている。
「サンドゴーレムは砂だから、水を吸収させるってことね?」
「その言うことだ。サンドゴーレムは水を吸収すると極端に動きが鈍くなるらしいんだ。だから、始めに皆でウォーターボールで攻撃すれば、後はどうにでもなるってことだ」
皆は納得と言った顔をし、体の力を抜いた。
「それなら良いわ。ボス戦ね! 楽しみだわ!」
「ボス。早く会って見たいね!」
アイラとモモが目を合わせて張り切っている。
「ボスは俺も初めてだ。腕が鳴るな」
「ゴーレム―♪」
ロンドの周りをシルフィーがじゃれ合うように飛び回る。
「私も頑張って殴るね」
「リリーは無理に殴らなくても良いぞ?」
「ううん。アイラみたいに私も前で戦えるようになる!」
リリーはガッツポーズを見せた。
(それはちょっとやめてほしい、とは言えないか…。いざとなったら止めに入ろう)
「いつボスと戦うの?」
「とりあえず4層を突破してからだ。それと別に急いでるわけじゃないから、今はボス戦の事はやるということだけ覚えておいてくれ」
「「「「「わかった(わ)」」」」」
ボス戦の話を終えたところで俺達は食事を再開した。
食事をとりながら、話題は魔法の話になった。
「最近、魔法のレベルの上がり方が遅くなってないか?」
俺は何となく皆に尋ねた。
「確かに。初めの頃よりはだいぶ遅くなってきたと思うわ」
「最近なかなか上がらないよね~」
「どうしてなんだろ?」
アイラが腕を組みテーブルの何かを見つめる。リリーとモモも顔を見合わせた。
俺達が悩んでいると、ロンドが話を始める。
「スキルが20を超えたからだろ。20を超えると初級の魔法では、なかなかレベルが上がりにくくなるからな」
「そうなのか?」
「ああ。今はまだどんな魔法を使ってもレベルは上がるだろうが、魔法のレベルが上がるにつれて、低レベルの魔法ではレベルは上がらなくなるぞ」
「そ、そうなの?」
アイラが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてロンドに尋ねると、ロンドは静かに頷いた。
(なるほどな。基礎を覚えた後も、ずっと同じ基礎の練習をしていては上に行けない。そんなところか。これだと、これからは寝る前に低レベルの魔法を使ってレベルを上げていく、なんてことはできなくなるのか…)
「何かレベルの上がる良い方法はないのか?」
俺はゲームの様に楽ができないかロンドに尋ねた。
「そんなものは聞いたことがないな。それに、そんなものがあったら皆やってるだろ」
(そりゃそうだよな。ゲームなら課金をして時間を金で買うなんてことができるが、流石に異世界でも今はこの世界が現実だ。現実をゲームの様に楽してどうにかする、なんてことはできないか)
そして、この話題はこの後も続いたが、魔法だけでなく、レベルや物理系のスキルなどもこの影響を受けるという話だった。なので、スキルについてはなるべく適正レベルのものを使うようにする、という事で話はまとまった。
余談だが、この後シルフィーが酔った勢いでロンドの恥ずかしい話などを暴露して、俺達は大いに盛り上がり、夕飯を楽しむことができた。
◇
二日明け、俺達は再びゴールド・ダンジョンの4層に訪れた。
今回は武器屋のおやじから聞いた、クラウダ―の狩りをすることにした。サンダーストーンを防具に取り付けたので、それの実験も兼ねてである。
「やっぱり、俺がやるんだよな…?」
「当然でしょ」
アイラが胸を張った。
サンダーストーンを取り付けたとはいえ、実際にどの程度の魔法防御力が上がっているかを確かめるには、一度攻撃を受けている俺がもう一度攻撃を食らうしかなかった。
「じゃあ、やってみるぞ」
皆からの関心と疑いの視線を受けながら、俺はクラウダ―との戦闘を始める。
(まずは、魔法攻撃を受けないといけないからな。剣で突いて見てみるか)
俺はふわふわと浮いているクラウダ―に近づいて、剣で攻撃をそっと突き刺す。
『サク』
その手応えはカステラにフォークを突き刺したような、刺さったのか刺さっていないのか分からない手応えだった。だが、ファイア水晶のおかげでダメージは与えることができたようだ。クラウダ―は怒ったのか、体をフルフルと震わせる。
(魔法が来るな。痛くないことを祈ろう…)
しばらくクラウダ―を観察していると、サンダーの魔法が放たれる。
『バチン!』
一瞬、俺の体はビクンとした。が、痛みはそれ程でもなかった。
(なるほどな。これなら一瞬しびれはするが、すぐに反撃はできるな)
俺は体の硬直時間を確かめながらスキルを発動する。
【トリプルスラッシュ】
クラウダ―は4つに切り裂かれた。そして、ふわりと地面に落下して霧となって消滅した。
戦闘が終わり、皆が駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「一瞬しびれたが、痛みで動けないなんてことはなかったよ」
俺の話を聞いて皆が安堵した。だが、アイラだけは少しつまらなそう顔をする。
「アイラも試してみるか?」
「やってみようかしら?」
「倒すのはファイア水晶が付いているから、スライムと同じような感じで倒せるぞ」
「そう。わかったわ」
次はアイラがクラウダ―と戦うことになった。
アイラも俺と同じように、一度攻撃を与え、その後クラウダ―の反撃の魔法攻撃を受けてから止めを刺したのだが、あっさりと戦闘は終わってしまった。
「この程度なら平気ね。私でも問題なく倒せるわ」
「じゃ、次はサンダーストーンを外してやってみないとな!」
「えーーー。ちょっと。なんでそうなるのよ?」
「俺もやったんだから、アイラもどの程度違うのかを知りたいだろ? それに、女神なんだから、雷ぐらいは平気なんじゃないのか?」
俺は冗談半分でアイラを挑発してみた。
(多少は日ごろの仕返しをしても良いだろう。それに、女神だからといって雷に強いなんていうことはないだろうし、こんな安い挑発にはアイラは乗らないよな)
と思っていたのだが…。
「そ、そうね。私は女神なんだから。雷の一つや二つ平気よね?」
何か、自分に問い掛けるようにしてそう呟いた。
「冗談だよ。女神だからって雷が効かないなんてことはないだろ?」
「いえ。あるかもしれないわ!」
「え、まじか!?」
俺は一歩後ずさる。
「雷、効かないの!?」
「凄ーい」
「アイラ、ファイト!」
「女神は凄いんだな。それは見てみたい」
モモとリリーが両手を胸の前で合わせ、シルフィーとロンドが声援を送った。
「女神の力、見せてあげるわ!」
女神というスキルに、何か心当たりがあるのかもしれないと思い、俺達はアイラを見送ることにした。
先程と同じように戦闘は始まる。
アイラが一撃攻撃を与え、クラウダ―の反撃を待つ。すると、クラウダ―は体をフルフルと震わせて魔力を溜め始めた。そしてアイラ目掛けて雷魔法が放たれる。
『バチン!』
………
『バタン!』
………
『プスプス…』
………
「「「「「アイラーーー!」」」」」
アイラが倒れてしまった。
俺達は急いでアイラに回復魔法を掛け、クラウダ―を倒した。
俺がアイラを抱き抱えると、
「わ、私、燃え尽きたわ… ボハッ」
アイラは最後にそう言い残し、口から何かを吐き出しながらぐったりとした。
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