63.属性効果
街に戻った俺達は急いで宿に向かい、荷物を降ろしてそのまま銭湯へ訪れた。4層が寒かったので少し体が冷えてしまったからだ。そして夜も遅かったので、この日はそのまま休むことにした。
そして翌日。
今日は先に用事を済ませようということで、朝食を済ませた後、皆でギルドに訪れた。
カウンターに訪れるとソフィアが居た。前に色々とお世話になり、面識のある人物だったので俺達はそちらに向かった。
「こんにちは。また換金を頼む」
俺は魔石の入った袋をカウンターの上に置く。今回は水晶を集めているので、そちらは売らずに残しておた。
「こんにちは。お久しぶりです、ルーティさん。少し待ってくださいね」
ソフィアは魔石の目利きを始めた。
「それと、ゴールド・ダンジョンの4層を進む前にギルドに寄るように言われていたんだが、それはここで良いか?」
「はい。ここで合っていますよ」
ソフィアは作業を進めながら返事を返す。
(ここは待つか)
俺達はしばらくここで待機する。
「お待たせしました。こちらが今回の報酬です」
俺は金を受け取った。
「それと、4層の件ですね」
ソフィアはおもむろに席を離れて、奥の方から何やら運んできた。
「よいしょ。これです」
そこにはいくつかの水晶が、箱に並べられていた。
「これは?」
「魔法属性の効果が付いている水晶です」
「魔法属性の効果? 装備に付けると属性付くというやつか?」
「はい。4層では物理攻撃が効かないのモンスターが出るので、そのモンスター用に水晶が必要になります。なので、初めて行く人にはギルドに寄ってもらうようにしてるんですよ」
(物理攻撃が効かないモンスターか。それは初めてだな。レベルが上がってくると何かと必要になるものだな)
箱に入れられた水晶には値札が付いている。流石に無料というわけではないようだ。
「奇麗~」
「宝石みたいね」
「飴玉みたい!」
モモとアイラが箱を覗き込み、シルフィーが箱の上に着地した。
水晶には色が付いており、赤、青、緑、茶色が並んでいた。これは属性を現す色だ。赤なら火、青は水、緑は風、茶は土だ。属性はこの他にも光や闇などもあるが、ここにはその水晶はなかった。
「お勧めは火属性の水晶です。火を弱点とするモンスターは多く居るので、普段の戦闘でもお役に立ちますよ」
(なるほど。火属性はこの間のトレントやキノコにも有効だ。それに生物は基本的には火に弱いはずだ。さてどうするか。全部火属性のものでも良い気はするが…)
「ちょっと相談させてくれ」
俺は皆で相談することにした。
「どうする?」
「火属性ので良いじゃない?」
「私も良いと思うよ」
皆、火属性で良いような感じだった。
(特に何もないか…。ちょっと待てよ。俺達のパーティーで火属性の攻撃ができるのはリリーしかいない。他に火属性が使えそうなのは…)
「俺達の中で、火属性の魔法が得意な奴はいるか?」
「「「「「…」」」」」
リリーしかいなかった。
(これはちょっとまずいか? 火に弱いモンスターが多いのに、火魔法があまり使えないパーティーというのは、後々、困るような気がする…)
俺が考えを巡らせていると、モモが話し掛けてきた。
「お兄ちゃんが、やるしかないね」
とても良い笑顔だった。モモの中に女豹を見た気がした。
「わかった。火魔法は俺がやるよ」
誰も得意でないのなら仕方がないので、俺は火魔法のレベルを上げることにした。
「その話は一旦置いておいて、水晶は火属性のもので良いか?」
「「「良いよー」」」
「俺もそれで構わない」
シルフィーの返事がないが、今は水晶を持ち上げようと奮闘している。
再び、俺はカウンターへと向き直る。
「火属性の水晶を5個くれ」
「5個ですね。小金貨25枚になります」
俺はソフィアに金を手渡した。
「それと、取り付け方は武器屋で確認してください。私ですと専門外なので。あと…、くものモンスターが出るので気を付けてくださいね」
「わかった。ありがとう」
用事を済ませた俺達はカウンターを離れた。
水晶の金額は1個、小金貨5枚だったので、高くもなく、安くもないといった感じだ。それと、取り付けについては武器屋でという事なので、俺達はこのまま武器屋に向かうことにした。
武器屋に着いた俺達は、そのまま中に入る。
「こんにちはー」
「らっしゃい!」
奥からボイドの大きな声が聞こえた。
「なんだルーティじゃねぇか。久しぶりだな」
「おやじも元気そうだな」
「あたぼうよ」
おやじは二の腕の筋肉を見せつけた。
「それで、こんな時間にどうした?」
「水晶の取り付けを頼みたくてな」
「何の水晶だ?」
「これだ」
俺はギルドで先程購入したばかりの水晶を取り出す。
「属性用の水晶か。これなら簡単だ。すぐにできるぜ。取り付ける物の方も出してくれ」
俺達はそれぞれの武器をカウンターに置いた。
「この水晶なら、自分で付けられるようにしておいた方が良いぞ」
「そうなのか?」
「ああ。ルーティ達はゴールド・ダンジョンの4層へ行くのか?」
「そうだ」
「ほう~。ちったー強くなったんだな」
「どういう意味だ?」
俺は少しむっとした。
「いや~。ルーティ達はあまりレベル上げに興味がなさそうだったからな。悪い意味で言ったんじゃねぇよ」
(なるほど。確かに、普通の冒険者ならダンジョンに籠って、さっさとレベル上げをするだろうからな。まあ、俺はマイペースでやる方だし、それに、目的が違うからな)
俺の脳裏に微かに女神が浮かび上がった。
(女神の事を忘れていたが、本当に連絡がないな。一体、何をやっているんだろう?)
気にはなった今はやることがあるので、これ以上は考えることを止めた。
「取り付けはすぐに覚えられるのか?」
「ああ。簡単だ。ここにこうやってはめ込むだけだ」
『カチッ』
水晶を武器のくぼみの部分にはめると、音と共に固定された。
「こんなに簡単で良いのか?」
「売っている水晶は加工済みだからな。市販の物に取り付けるのは簡単なもんさ。ただ、高価な物はそれなりの奴に頼んだ方が良い。割れる事があるからよ」
俺は加工という言葉が気になった。
「加工はどうすれば良いんだ?」
「それはスキルを使ってやるのさ。取り付けるのと加工は別だ」
「要するに、加工済みの属性の水晶を何種類か持っておいて、その都度、付け替らえれるようにしておいた方が良いという事か?」
「そういう事だ。水晶一つで攻撃力が上がるんだからよ。手間でもやる価値はあるぞ」
(なるほどな。トレント戦でも感じたが、やはりこの世界では属性は無視できないもののようだ。付け替えながら戦うのは少し面倒だが、あまり軽視できるものでもなさそうだ)
「わかった。ありがとう」
俺達はせっかくなので、この場で水晶の取り付け方を教えてもらった。簡単だったので皆もすぐに覚える事ができた。そして、なんと鍛冶レベル1を習得した。
(久しぶりの新しいスキルだな。鍛冶スキルを今後使うかは分からないが、良かったということにしておこう)
こうして、俺達はギルドでの用事を済ませた。その後、必要な物の買い出しなどを行い、この2日後、ゴールド・ダンジョンの4層へ向かうことにした。
◇
出発の朝、俺達はいつも通りにゴールド・ダンジョン前の広場に訪れ、テレポート屋に頼んで4層まで送ってもらう。
魔法の光が俺達の体を包み込み、テレポートの魔法が発動した。
『ヒューン』
爽やかな風が俺達の間を駆け抜けた。
「眩しい!」
モモが手で日差しを遮る。
「空気が美味しい~」
「気持ち良いわ」
リリーとアイラが両手を左右に広げた。
「良い景色だな」
「広ーい!」
ロンドは遠くを眺め、シルフィーは空を飛び回った。
辺りを見渡すと、山の頂上が下の方に見えた。そして白い雲が風に流されている。気温は暑くもなく寒くもなく、丁度良い感じだった。空気も澄んでいて、清々しい風が俺達を包んでいる。
「良いところだな。ここで暮らしたくなる」
4層は山頂から高原が続くような地形だった。
実は俺は高原が大好きだ。高原と言えばスキーという人が多いかもしれないが、俺は冬の高原ではなく、初夏ぐらいの高原が好きだった。パラグライダーで空を飛んだのが懐かしい。
「お兄ちゃん行くよ」
感慨に浸っているとモモが俺を呼んだ。高原好きな俺としてはここを動きたくなかったのだが、そういう訳にはいかなかった。
俺達はキャンプ場に少し立ち寄ってから、狩りに向かうことにした。
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