58.強化魔法
「次はもう一つのやり方を試すか?」
俺は皆に話し掛けた。
「良いわよ」
「「「了解!」」」
モモとリリー、そしてシルフィーが何故か敬礼をしている。
(可愛いが、これから更に扱いが難しくなりそうだな…)
「了解だ。その方がやり易いと思う」
ロンドも先程の表情から変わり明るくなったので、俺達は次のトレントを探すことにした。
数分で次のトレントと遭遇したので、俺達は各自の配置に着く。
俺はそれを確認した後、手を上げてロンドに合図を送る。ロンドはそれを確認すると、今回は魔法を放った。
【ウィーク】
ウィークの魔法がトレントに直撃すると、ぴくっと反応を示してからロンドの方へと振り向いた。
俺はすかさずスキルを使う。
【タウント】
トレントはロンドの方へ向かおうとしていたが、立ち止まって向きを変え、俺の方へと近づいて来た。そして戦闘は始まった。
俺は今まで通り、トレントの攻撃を躱して反撃をする。
『ザン!』
(これは!?)
俺の手応えは今まで以上のものであった。そして再びロンドの声が聞こえる。
【パワーショット】
今までよりも一段階速い矢が飛んでくる。そして、その矢がトレントの腕に突き刺さると、
『バン!』
弾けるような大きな音と共に、腕を貫通した。
(かなりの威力だ。俺のチャージドスラッシュよりも強いかもしれない)
俺はその威力に驚きながらもトレントの次の攻撃に備えていると、トレントは大きく穴の開いた腕をそのまま振ってきた。
(痛みを感じ無いのか?)
そう思った次の瞬間。
『メキメキメキ』
音を立てながらトレントの腕が折れてしまった。自分の腕を振る力に耐えきれなかったようだ。
すかさず、俺はスキルを使う。
【チャージドスラッシュ】
『ザシュ!』
トレントの腕を半分ほど切り裂いた。
今まではチャージのスキルと合わせて使って、漸く腕を半分ほど切り裂くことができる程度だったのだが、今はチャージドスラッシュのみでも、同じように腕を半分ほど切り裂くことができた。
モモも両手のレイピアでスキルを使って腕を仕掛ける。
【トリプルスラッシュ】
『ザン! ザン! ザン! ザン! ザン! ザン!』
やはりこちらも、今まで以上の切れ味を見せている。左右からの6連撃でトレントの腕の1本を切り落とす事に成功した。
更に、追い打ちにと言わんばかりに、リリーとアイラの魔法も放たれる。
【ファイアボール】
【サイクロン】
リリーの魔法はトレントの腕を半分以上焼き尽くす。が、アイラの魔法はトレントの葉っぱや木の実を少し落としただけだった。どうやらサイクロンはあまり効かないようで、相性の悪さが出てしまっている。
アイラは少し渋い表情を見せたが、この後、トレントは問題なく倒すことができた。
戦闘が終わって皆がトレントのところに集まってきたので、俺はロンドに声を掛ける。
「おつかれ」
「ああ」
「あれが弱体魔法か?」
「そうだ」
「便利なものだな」
「ああ。だが効果時間がある」
「効果時間は1分程度だったか?」
「そうだ。魔法のレベルや種類によっても変わる。だからそこは気を付けてくれ」
「わかった」
ロンドが戦闘の初めに使ったウィークという魔法は弱体魔法と呼ばれるもので、相手の防御力を下げる魔法だ。実はこのロンドというエルフは攻撃魔法が苦手というだけで、他の魔法については話は別だった。得意な魔法は、強化や弱体といった見方をサポートする魔法が得意だったのだ。
ちなみに、ステータス表示では、弱体魔法も含めて強化魔法と表示されるそうだ。
「トレントの腕を貫通させた攻撃は、弓のスキルか?」
「ああ。パワーショットというスキルだ」
「パワーショットか。遠距離攻撃であの威力はちょっと羨ましいな」
そんな感じでロンドとスキルについて話を続けていると、アイラがしょんぼりとした感じになっていた。
「どうした?」
「私の出番が無いわ」
アイラは下を向いている。
「相性が悪かったんだ。仕方ないだろ。何なら、前に出て一緒に戦うか?」
「嫌よ! 切り傷だらけになるじゃない」
ぷいっと顔を横へ逸らした。
「それなら、この際だから、何か新しい魔法でも練習したらどうだ?」
「…そうね。何か考えるわ」
アイラは腕を組みながら、顎に手を当てて何やらブツブツと呟き始めた。
アイラの魔法のレベルは決して低い訳では無い。適正レベルと言っても良いであろう。だが、今回のトレント戦ではあまり活躍できないでいる。
(この世界の魔法は強いが、相性が色々影響しそうだな。今後は今まで以上に、気を付けておかないといけないかもな…。まあ、今回はロンドの魔石を狙った時の戦い方と、通常の戦い方、両方を確かめることができたから十分だが)
この後も、俺達はロンドとの連携を確認しながら、馬車造りに必要な材料を集めるためにトレントを狩り続けた。
そして3日後。
俺達は必要な材料が揃ったので一度ギルドへ赴き、クエストの完了報告をする。材料自体はすぐに集まったのだが、ロンドとの連携を強化するために3日間、時間を掛けた。そして、
「ルーティさん」
ギルドのカウンターの奥から呼び止められた。そちらを振り向くと、以前、エルフに絡まれた時に対応をしていた衛兵の一人がこちらに歩いて来た。
「この間の件、詳細が決まったのでお話ししたいのですが、今、お時間は宜しいでしょうか?」
不意に言われたので少し戸惑ったが、
「別に良いんじゃない。この後は特にやる事もないし」
アイラが横に並び俺の顔を見上げた。そして、周りに居るモモ達も頷いている。皆の予定も大丈夫そうだったので俺は衛兵に返事を返す。
「別に良いぞ。どうすれば良いんだ?」
「良かった。こちらにどうぞ」
案内をしてくれるようなので、俺達はそれについて行くことにした。
個室に案内をされ、しばらく待っていると、
『コン、コン』
ドアをノックをする音が聞こえた。
「はい」
俺が返事をするとドアが開き、二人のエルフの女性が部屋の中に入ってきた。
「皆さん初めまして。私はここのギルド長を務める、サララと申します」
1人の女性はギルド長だった。エルフは皆、線の細い体つきをしているのかと思っていたが、この女性はそうではなかった。ドレスの上からでもはっきりと分かる程の、出るところがしっかりと出ている体系の美人だ。それと隣の女性は付き人のような装いだった。
「初めまして、ルーティです」
俺はギルド長が出てくるとは思っていなかったので、言葉に詰まった。すると、サララが話を続けた。
「この度は大変申し訳ない事をしてしまいました」
サララは頭を下げた。
(これは、意外だったな)
初めはここでもエルフの人族嫌いのせいで一悶着起こるのかと身構えていたが、ここまで丁寧な態度を取ってくるなら大丈夫かと少し安堵した。
俺はあの後の出来事を尋ねることにした。
「いえ、あなたに謝られても仕方がないので。それで、あいつらの処分はどうなったんだ?」
「彼らにはこの地からは離れた場所の復興作業をさせることになりました」
「復興作業?」
「はい。3年前の魔王討伐の際に各地でも被害が出ましたので、その復興作業です」
(3年も前の話なのに、まだ復興作業をやってるのか。予想以上にひどいものだったんだな)
「そうか。この街から離れた場所なら安心だ」
「そう言っていただいて幸いです。それから、こちらは今回の件のお詫びとお礼になります」
サララがそう話をすると、隣の女性が1つの革袋を俺達の前に差し出した。
(お詫びとお礼か。ギルドでもあの連中に手を焼いていたみたいだから、そういう事になるのか)
「中身を確認してください」
俺は革袋を手に取り中身を確認する。そこには白金貨1枚が入っていた。
「こんなに。良いのか?」
「はい」
「額が大きすぎると思うんだが」
俺がそう伝えると、サララは少し遠い目をして窓の外を眺めた。
「今回の件は随分前から問題になっていたことなのです。3年前の魔王討伐以来、この国も他種族との交流が生まれました。ですが、それを未だに快く思わない人も多いのです。ですので、今回の件は穏便に済ませて頂ければと」
「口止め料ってことか?」
「言葉は悪いですが、そのように捉えて頂いて構いません」
サララは振り返りながら優しそうに微笑んだ。
(美人のこういう顔は、少し怖いな。ましてや相手はギルドマスターだ。何を考えているか分からない)
俺は手に取った革袋を見つめながら少し考えた。
(今回の件、詳しい事情は分からないが、大きな騒ぎにはしてほしくないという事か。だからわざわざギルド長が出てきての謝罪と、この金額という事か。俺はこれで構わないが、皆はどうなんだろう?)
皆の顔を確認するが、特に問題はなさそうだった。
「わかった。この件はこれで終わりという事で構わないよ」
「そうですか。ありがとうございます。また何かあれば気軽にギルドに相談をしてください」
話が終わったので、俺達は軽く会釈をして部屋を出ることにした。
「奇麗な人だったね」
「スタイルが凄く良かった」
「エルフのギルドマスターって女の人だったんだな」
「やったわね。臨時収入よ!」
この件については、ロンドが一番気にしているのかと思っていたが、今は特にそんな様子は見られず、無言のままだった。
(ロンドの本性もそのうち分かるだろう。アイラが金を喜んでるが、この金の使い道はもう決めたんだよな…。皆にどう説得するか、それが問題だな)
俺達は臨時収入が入ったので、今晩は豪華な食事へと出掛けることにした。
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