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スキルマスター  作者: とわ
第三章 エルフヘイム編

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57.パーティー名と神風


 翌日。


 昨日は様々な出来事が立て続けに起きたので、今日はゆっくりしようと言う話になり、ロンド達と一緒に昼食を取ることにしていた。そして俺達が待ち合わせの店に向かうと、ロンド達は既にその店に訪れていた。


「待たせたか?」


「いや、さっき来たばかりだ」


 俺とロンドが言葉を交わしている間に、モモ達もシルフィーと会話を始める。そして俺達は店の中へ入り、皆で同じ席に座った。


 各自の注文を済ませた後、料理が運ばれてくる間に、俺は皆に昨日の馬車の続きの話をして、ある程度の理解を得ることができた。


 話しの内容としては、これから問題が起こるかもしれないが考えているだけでは先に進まないと言うことで、とりあえずは馬車を手に入れてから様子を見るということになった。


(馬車は俺の我儘みたいなものだったからな。皆には悪かったが、これで俺の夢の一つが叶う!)


 運ばれてくる料理を見ながらほくそ笑んでいると、アイラが俺に唐突に声を掛ける。


「ロンド達も仲間になるんだから、そろそろ決めてよね」


 俺は首を傾げる。


「何のことだ?」


「やっぱり、覚えていなかったわね」


 モモとリリーがうんうんと頷きながらこちらに注目し、ロンドとシルフィーは顔を見合わせる。そして俺は更に首を傾げた。


(一体何の事だ? 何か約束でもしてたか?)


 モモとリリーがあまりにも真剣な顔付きで俺を見ているので上を見上げて心当たりを探るが、思い当たる節は出てこなかった。するとアイラが溜息をつく。


「はあ~。もう~、パーティの名前よ」


 アイラは片手にフォーク持ちながら、それを俺に向けて上下に揺らしている。そして俺は思い出した。


(あ、そうだった。そう言えば、メンバーが揃うまでに決めておくって言ったっけ…)


 俺は時々アイラ達から、パーティー名は決めないのと責められていたのだが、良い案が思い浮かばなかったので保留にしていた。だが、


「名前は考えてあるよ。言うのを忘れてただけさ」


 伊達に考えていたわけではなかった。ただ、あまりパーティー名を名乗る機会が訪れなかったので、皆に話をしていないだけだった。


 俺の言葉にアイラ達3人は目を丸くし、ロンド達は興味深そうな顔をする。


「え、考えてたの?」


「何も考えてないって、思ってたよ~」


「私は、お兄ちゃんを信じてたよ!」


 アイラとリリーが驚いたような失礼な態度を取り、モモは両手でガッツポーズを見せた。


(流石モモだ。俺のことをちゃんと理解してる)


 俺は隣に座っているモモの頭を優しく撫でた。


「それなら早く教えて欲しかったわ」


「私も、もっと早く教えて欲しかったな~」


 アイラとリリーは少し不満気な態度を見せる。そして他の皆は未だにこちらに注目している。


「お兄ちゃん。それで、何て名前にしたの!?」


 モモはにじり寄り、輝かせた瞳で俺を見つめる。


「あ~…」


 俺は口を開けたまま止まる。名前を考えていたとはいえ、やはり口に出すのは少し恥ずかしかったからだ。


「笑わないから、言いなさいよ~」


「「「うんうん」」」


 アイラの言葉にリリーとロンド、そしてシルフィーが2回頷き、モモが更に俺ににじり寄った。


(ハ、ハードルが高いな…。だが、ここはもう言うしかないよな…)


 俺は勇気を振り絞って名前を口にする。


「シーク・ザ・ハートだ」


 一同、動きを止めた。そして俺は素早く皆から視線を外す。


(ぐっ…、心が痛い。なんだこの間は…?)


 俺はそこから微動だにできなかった。そして、只々、皆の次の言葉を待つのみだった。すると、


「まあ、良いんじゃない」


 アイラが口を開いた。その様子から、恐らく名前の意味も理解をしたのであろう。だが、


「シーク・ザ・ハートってどういう意味」


 モモの言葉に他の皆は同調し、首を捻る。だがこれは俺の想定内だった。何故ならばこの言葉は英語だったからだ。なので、モモの問いに答える。


「意味は探求心だよ」


「探求心?」


「何かを探すってこと?」


 モモとリリーがお互いの顔を見合わせたので、俺はもう少し詳しく説明する。


「ちょっと違うかな。探しながら知ったとこを理解したいっていう気持ちだよ」


 二人はキョトンとした顔をする。そして、


「へ~」


「そういう意味なんだ~」


 何とか理解をしてくれた様子だった。そしてアイラが俺の説明に付け加えをする。


「向上心みたいなものよね」


「そうだな。それに似てるな」


 流石は元女神といったところだ。アイラは言葉をよく理解している。そしてロンドも口を開いた。


「なるほどな。これから世界を旅をするから、それに掛けたってことか」


「まあな。俺達は世界の異変を調べるのが一応の目的だからな。異変が何なのかを理解することも大事だと思ってな」


 この名前を決めた理由にはこの意味も含まれるが、もう少し他の意味や思いも込めてある。だが、物事や言葉の意味を真に理解するためには、それ相応の時期が必要となる。今はまだ、皆にはその時期が訪れていないと判断したので、ここは敢えてそれらは伝えないことにした。


「何か難しそ~」


 シルフィーが眉間にしわを寄せながら、テーブルの上にパタリと倒れた。


「まあ、常に勉強していくってことだよ。成長が止まったら人生もつまらないだろ?」


「そうね。ぼーとしてたら、すぐに老けちゃうわ」


「そうだな。すぐには老けたくはないな」


 アイラとロンドはすました顔をしている。ロンドも若いながらにそれなりの経験を積んできているようだ。


「わかったよ。探求心だね!」


「うん。探求心!」


「探求心♪」


 一方のモモとリリーも更に理解を深めてくれた様子で、ひょこっと起き上がったシルフィーと一緒にやる気を出している。だが、


(困ったな。話が少しずれたな…)


 一同、分かってはいるとは思ったが、一応、修正を入れておく。


「いや、シーク・ザ・ハートだからな」


「「「「「あ!」」」」」


 すまし顔だったアイラとロンドも大きく口を開けて、うっかりといった顔を作る。


(まあ、こんなもんだろう…。名前は反対されなかったんだし、これで良しとしよう)


 こうして、ず~と保留にしていた俺達のパーティー名が、漸く決まることになった。



 ◇



 そして翌日。


 早朝にギルドでロンド達と合流しパーティー登録を済ませた後、そのままトレントの住む森へと出発する。


「今日は任せるからな」


「ああ。上手くいくと良いが、あまり期待はしないでくれ」


 ロンドのレベルは23だった。ソロだったのでトレントとはあまり戦わないようにしていたそうだが、やれば倒せるという話だ。


 俺達はこの森に詳しいロンド達を先頭にして森の中を進み、狩場に辿り着いたので、各自、戦闘の準備をする。そして俺は動くものを見つけた。


「あそこに居るな」


 皆は俺の視線の先を追い、それを確認した。そして俺はロンドに声を掛ける。


「俺達はいつも通りで良いんだな?」


「ああ。それに合わせるようにする。だが少し待ってくれ」


 ロンドは辺りを見回し始める。そして近くの2本の木を見比べると、その間を交互に蹴りながら上へと登って行った。ロンドは身長が180センチ以上あるが、それは実に身軽なものだった。


「よし! 俺達も行くぞ!」


 ついつい俺の足にも力が入る。そしてトレント戦が始まった。





 俺達はここしばらくトレント狩りを行っていたので、戦闘には余裕が生まれ始めている。そしてリリーとアイラは木の陰に隠れながら、魔法を使う時にだけ姿を現すようになっていた。


 一方、肝心の近接戦を行うの俺とモモの方だが。


 トレントは腕を振った後のその方向に追加の範囲攻撃を行う。そして大抵の腕の振り方は横に大きく振るというものだった。なので、俺はその腕の下を潜り、モモは上下両方向へ状況に応じて回避を行い、腕を振り切った先には回らないようにした。


 この事で、追撃の範囲攻撃をあまり受けなくなり、接近して戦い続けることができるようになった。


『ブウォーン、ブウォーン』


 轟音を上げながら、俺の頭上をトレントの腕が通り過ぎる。初めはこの腕の振りに足がすくみそうになったが、今は慣れたものだった。そして丁寧に攻撃を躱しながらトレントの腕にダメージを与えていると、一本の矢が飛んでくる。


『スコン!』


 心地よい音が周囲に鳴り響く。そして、その矢はトレントの胸に突き刺さった。


 トレントは身震いをするように体を震わせる。その後、見る見るうちに枝の葉が枯れ落ち、幹の部分も枯れ木の様に変わり果てる。これはロンドの放った矢がトレントの胸の部分にある魔石を打ち砕き、一撃で仕留めた証拠だった。


「やるー!」


「一発だったな」


 俺とモモは思わずトレントを二度見していた。そして後ろを振り向くと、ロンドの周りをシルフィーが喜びながら飛び回っていた。


(先に話は聞いてたが、まさか一撃とはな。何か、今までの俺達の苦労が何だったのか、考させられるな…)


 弓を扱うエルフ達はこのようにして、トレントの魔石を狙うことで倒していると話は聞いていた。数人でパーティーを組み、距離を取って様々な角度から一斉に魔石を狙うことで、怪我も負わずに簡単にトレントを倒すことができる。ギルドでトレントを倒すなら弓の方が良いと言われていたのは、このためだった。


 この後、俺達は休憩を挟まずに、引き続きトレントの散策を行う。


 今までは1匹倒しては傷を癒すために休憩を挟んでいたが、ロンドが一撃で仕留めてくれたため休むことなく先へ進むことができた。


 ロンド達は木から降りてきて一緒に地上を歩く。この場所のモンスターは勿論トレントのみではない。大小、大きさは違うが、木の精霊も多く存在している。


 木の精霊に対しては、ロンドは槍で戦闘を行っている。魔石を狙っての鋭い一撃。慣れているのか、次々と木の精霊達を倒していく。


 そして2匹目のトレントに遭遇した。





 1匹目の時と同じようにして戦闘が始まり俺とモモが接近戦を挑んでいると、ロンドの放った矢がトレントに向かって飛来する。


『スコン!』


 その矢は前回と同じように、心地よい音を立ててトレントの胸に突き刺さるが、今回はトレントの動きは止まらなかった。


 続けて、ロンドは二射三射と矢を放つ。


『スコン!』


『スコン!』


 矢は胸に突き刺さるが、トレントを仕留めることはできなかった。


 この後、俺達は普段通りの戦い方に切り替えて、トレントを倒すことに成功する。





「すまない」


 戦闘が終わりロンドは木から降りてきて横を向いたまま話をする。顔がはっきりとは見えなかったが、俺達にはロンドの申し訳ないといった感情が伝わって来た。


「気にすることはないさ。こうなるってことも先に聞いてたからな」


 ロンドの攻撃は魔石を直接狙うものだ。魔石に命中すれば一撃で相手を仕留めるられるが、そうでなければ今回のように倒すことはできない。


 元々、複数人の弓の使い手でパーティーを組み、見えない魔石を射る戦法だ。ロンド1人では確率が低くなり、矢が魔石に当たらなくなるのは当然のことだった。


 今は落ち込むロンドをシルフィーが慰めているが、ロンドの強みはこれだけではない。


(仲が良いんだな。どういう関係なんだろう?)


 ロンド達を見ながらふと気になったが、先程の戦闘で皆が少し怪我をしていたので、そちらを優先することにする。





「皆、一度、怪我を治そう」


 俺は指示を出しながら、とあることを思い付く。


「なあ、回復魔法も連携ってできるのか?」


 皆の視線が俺に集まる。


「それは、できるでしょ?」


 返事を返したのはモモだったが、首を傾げている。


「それなら、サイクロンとヒールを合わせれば範囲回復魔法とかになるのか?」


「どうなのかしら? やってみる?」


 アイラも首を傾げたが、何となくできるような顔をしている。


 俺達は怪我を負っているが、それはかすり傷程度のものだった。毎回一人ずつ傷の治療を行っていては手間も掛かるし、魔力もあまり無駄にしたくない。







 俺達は怪我を負っているが、それはかすり傷程度のものだった。毎回一人ずつ傷の治療を行っていては手間も掛かるし、魔力もあまり無駄にしたくない。


「丁度良いから、一度試してみてくれないか? 上手くいけばその方がモモ達も助かるだろ?」


「そうね。良いわ。一度試してみましょ」


「うん」


 アイラとモモは打ち合わせを始めた。そしてそれはすぐに終わり、2人は少し離れた位置から俺達に声を掛ける。


「じゃあ、いくよ~」


「おう」


 俺はモモ達に返事を返した。そして、モモとアイラは魔法を唱える。


【ヒール】


【サイクロン】


 モモがヒールを放ち、俺達の頭上に光の玉が届く。そしてそれに向かって、アイラがサイクロンを放った。そして2つの魔法が混ざり合い、弾けて拡散する。


『ヒューーーン』


 辺りの空気が舞い上がる。それは心地の良い風だった。俺達の周りを包み込むようにして風が通り抜け、キラキラと輝く光の粒が俺達の傷を癒していく。自然の森の中でその光景は幻想的なものとなった。


「奇麗だ」


「「いや~ん!」」


 その声は、ほぼ同時だった。今はリリーのスカートがめくれ、シルフィーのワンピースもめくれ上がっている。そして、リリーは赤色でシルフィーは白色のパンツだった。


 皆の視線が何故か俺に集まる。


(やばい。なんか変な感じになった…)


 モモとアイラが二人に駆け寄り謝り始めた。これはサイクロンの風が強過ぎたのだ。


(俺は悪くない! アイラのせいだ。だが、グッジョブだ! 良いものが見られたのでこの魔法を神風の術と名付けよう!)


 そんなことを考えていると、シルフィーの蹴りが飛んできた。そして、


「ぼく、もうお嫁にいけない」


 そう言って泣きまねをしながら、俺の目の前をふよふよと飛んでいる。


(それにしても、シルフィーもパンツを履くんだな。妖精はてっきり、パンツを履かないものかと思ってた)


 そんなことを考えながら、しばらくはシルフィーとじゃれあう事になった。


 ちなみに、後で聞いた話なのだが、何故シルフィーが俺に蹴りを入れたかというと、モモが「お兄ちゃんがいやらしい事を考えてる」と告げ口をしたからだった。


 俺はシルフィーまで心が読めるのかと少し焦る思いをしたが、その心配は必要なかったようだ。




☆を付けていただけると嬉しいです。

ブックマーク登録もして頂きたいです。

やる気が出るのでよろしくお願いします!


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