56.ロンドとシルフィー
「とぅ!」
モモが屋根から飛び降り、俺の横に並び立つ。
「ありがとな」
俺はモモの頭を撫です。するとモモは嬉しそうな顔をしながら俺に抱き着いく。そして路地の奥からリリーとアイラも姿を現した。
「ど、どういうことだ?」
ロンドが少し困惑している。
「小競り合いになると思ったからな。あらかじめ、皆を呼んでおいたんだ。紹介するよ。俺のパーティーメンバーだ」
こうなるであろうと予想していたので、俺は移動中にモモと頭の中で連絡を取り皆に指示を出していた。
「お兄ちゃん、この人は?」
「さっき武器屋で一緒になってな。ギルドでパーティーの募集を見てくれた人で、ロンドって言う」
「それじゃあ、この子は?」
(ん? この子???)
俺は首を傾げる。
(どういう意味だ? ここにはロンドしかいないが…)
ロンドの方へ振り向く。すると、眼前に顔があった。
「うわぁぁぁ」
思わず、驚き退く。
「な、何だ!?」
「クスクス」
呆気に取られていると、その子が小さく笑った。
(こ、この声! 聞いたことがあるぞ!)
俺はその声を知っていた。
目の前には小さな女の子が空を飛んでいる。そして背中には何かが動いていた。
「こんにちは。ぼくはシルフィー。ルーティのことをずっと見てたよ。やっぱり強いね」
(こ、これは!?)
目を見開きながら開いた口が塞がらなかったが、何とか声を吐き出す。
「妖精か!?」
「あったりー!」
(妖精が居た!)
俺はとても感動した。
この世界に訪れてから妖精の絵を度々見かけていたので、いつかは探してみたいと思っていたのだが、それが今、目の前に居る。そして嬉しさと興味と謎など、様々な感情で固まってしまってしまい、何を話せば良いのか分からなくなってしまった。
(か、かなり驚いたが、何でこんなところに居るんだ?)
俺が目を離せないでいると、
「こら」
ロンドが右手の甲で軽くシルフィーを横に避けた。
「あ~ん。ぼくがルーティと話をしてるんだよ~」
「困ってるだろ。少しあっちに行っててくれ」
「むーーー。フンだ!」
シルフィーはひらひらと飛びながら、俺達から離れていった。
俺は目の前で起きていることが現実とは思えなかったが、何とか頭を働かせて冷静さを取り戻す。
「お前が連れてるのか?」
「ああ。何故か、付いて来てしまってな…」
(付いて来てとは何だ? そもそも妖精とはどういった存在なんだ?)
俺は首を傾げるばかりであった。
気になることは山程あったが、まずは今回の事件の決着をつけることにする。
「とりあえず、こいつらをどうする?」
俺が倒れているエルフ達に視線を合わせると、ロンドが静かに口を開く。
「ギルドに報告しよう。それが一番良い」
俺は確認のために皆に視線を送るが、頷きが帰って来るだけだった。
「わかった。それなら、とりあえずそうしよう」
この街の事は詳しくないので、俺達はロンドの言葉に従うことにした。
俺達がギルドに向かおうと足を向けたその時、ギルドの職員らしき人物が数人駆け寄ってくる。
(あれはギルドの服だよな。誰かが通報したか?)
俺達は向かって来る人物達をこの場で待った。そしてその人物達は俺達に話し掛けてくる。
「何があった?」
「あんたらは、ギルドの職員か?」
「そうだ。通報を受けてここに来た」
俺は予想が当たり、体の力を抜く。
「こいつらに絡まれただけだよ」
「そうか…」
この職員はしゃがんで倒れているエルフ達の顔を確認する。まあ、腫れあがっており、あまり見れたものではないのだが。
「災難だったな。君達は大丈夫なのか?」
立ち上がりながら職員は、俺の主張をあっさりと認めた。
(このエルフは人族の俺の言葉を信じるんだな)
俺の顔は珍しいものでも見たかのようなものとなるが、続けて話をする。
「こいつらは何なんだ?」
「こいつらはな、最近揉め事を頻繁に起こしていた奴らなんだ。指導はしていたんだがな…。言う事を聞かなくて…」
(常習的にこういうことをやっていたのか。それで俺達はたまたま運悪く絡まれただけってことか)
人族だけを狙ったものではないと分かり、とりあえずは一安心した。
「今回の件はギルドで責任を持って処理をするから、すまなかったな」
「良いさ。まあ、これ以上の揉め事は勘弁してほしいがな。それで、こいつらをどうするんだ?」
「こいつらのことは一度にギルド帰って、話し合うことになるな。後からそちらにも連絡がいくと思うから、その時は協力を頼む」
ギルドの職員達は俺達に対して頭を下げた。
(今回の件で俺達にできることは…、特に何もないか。あとは連絡を待つだけだな)
この後、俺達は軽く事情を聞かれたが数分で解散となり、絡んできたエルフ達はギルドへと連行された。
(さて、次は何から手を付けたものか…)
こちらも色々あったので俺達は一旦この場を離れ、落ち着いて話のできる場所へと移動することにした。
◇
店に入る気分でもなかったので、小さめの広場のようなところで腰を下ろして休むことにする。
「今回はすまなかったな」
ロンドが俺の前に立ち、軽く頭を下げた。
「ロンドのせいじゃないだろ。人族の俺が気に入らなくて絡んできた可能性もあるしな」
今回の事件は、たまたま道端でチンピラに絡まれた。その程度の出来事だ。
俺はそんなことよりも他に気になることが山程あったので、まずは一つずつ順番に話を進めることにする。
「皆、聞いてくれ。さっきも話をしたけど、もう一度紹介をするよ。こいつはパーティーの募集を受けてくれたロンドだ」
「よろしくー!」
「よ、よろしくお願いします」
モモは手を上げリリーは頭を下げたが、アイラは立ち上がって戸惑いを見せる。
「ちょっとー、いきなり過ぎない?」
「まあ待て。順番に話をしてくから。今回は俺も色々あり過ぎて少し混乱してるんだ」
俺が困った表情を見せると、アイラはベンチに座り直す。
「それなら…、仕方ないわね。まあ良いわ。よろしくね。ロンドさん」
「こちらこそよろしく頼む」
ロンドはもう一度、皆の前で軽く頭を下げた。
「一応、仮の入隊ってことで良いか? お互い気が変わるかもしれないからな」
「ああ。それで構わない」
皆もロンドと一緒に頷く。
(まずは1つ、問題解決だな。次は…)
俺は頭の中を整理しながら話を続ける。
「今回の事件の事は一旦保留にしよう。ギルドから連絡が来るみたいだし、その後で考える事にしよう」
「わかったわ」
「はーい」
「良いよ」
「ああ」
アイラを皮切りにモモ達が順番に返事を返した。俺は普段より一つ多い返事に少し戸惑う。
(人が増えると大変だな…。え~と、次は…)
「シルフィーは居るか?」
「はーい♪」
ロンドの陰に隠れていたシルフィーが、嬉しそうな顔をしてふわふわと空中に現れる。よく見ると白いワンピースのような服を着ていた。そして背中には透明な虫の羽のようなものが生えている。
「シルフィーもこのパーティーに参加するってことで良いのか?」
「はーい。参加しまーす♪」
シルフィーは手を上げた。
「おい!」
ロンドが何か言いたそうだったが、俺は話を続ける。
「皆はどう思う?」
「妖精ってどうなのかしら?」
「「かわいいー!」」
アイラは腕を組みながら顎に手を当てて首を捻る。モモとリリーはシルフィーに近づき、目を輝かせた。
(やっぱり、疑問に思うのはアイラだけか…)
モモはともかく、最近はリリーの性格も何となく分かってきた。普段はおどおどしているが、自分の欲求に対しては貪欲な性格、そんな感じがした。
俺は皆の反応を何となく予想していたので、この事にはあまり驚かない。そしてロンドが先程、何か言いたそうだったので、一応、確認する。
「ロンドはこれで良いか?」
「連れて行っても良いのか?」
「別に問題はないさ。もし問題が見つかったら、仮パーティー中に言うよ」
「わかった」
「「「やったー!」」」
モモとリリーとシルフィー、3人の歓声がハモる。
(これはもう、2人を正式にパーティーメンバーにするってことで決まりじゃないのか?)
俺はロンドの顔を見る。すると、すまなさそうな顔をしていた。
(さて、次は何だったか…。ロンドとシルフィーのことはこれで置いておいて…。あ、そうだ!)
ここで漸く、肝心な事を思い出し、皆に尋ねる。元々はこちらの話を皆にする予定だったのだ。
「あとは、馬車をどうする?」
「馬車?」
モモがシルフィー達と遊ぶのを止め、こちらを覗く。
「ああ。馬車を特注で造ってくれるところがあったんだ。それで、材料を集めないといけないんだが…」
リリーが首を傾げる。
「この街で馬車を買うの?」
「買いたいな~と…」
先程までの賑やかな雰囲気が何故か納まった。
(な、何か、皆の視線が少し冷たいような…。何故だ? 皆、飛空艇で良いと言ってたのに…)
これは稀に起こる現象だ。本当に欲しい物を買いたいと相手に伝え、その場では良いよと返事を貰うが、いざ、買いに向かおうとすると、本当に買うの!? と反対をされるパターンだ。
これぞ正しく、女心と秋の空!
(困ったな…)
俺がこの場をどう切り抜けようかと考えていると、
「トレントを倒すのか?」
空気を読んだのか、ロンドが俺に助け舟を出した。
(流石ロンドだ! 男心は男にしか分からない!)
「ああ。今までもトレント狩りはしてたんだけどな。集めた材料はクエストで納品したから残ってないんだ」
「トレントの材料を集めるの? あんなの運べないし、それに保管もできないわよ」
アイラが両手を広げて、呆れたような顔をする。
「その事は、トレントのクエストを受けた時に借りられるマジックバッグを使おうと思う。それと、材料は馬車を造ってくれるところで保管してもらえるんだ。トレントの材料だけ何とかなれば、後は何とかできると思うのだが…」
「はあ~。詳しい事はわからないけど、考えがあるのね…。良いわ。後で話を聞かせてもらうわね」
アイラ達は揃えて首を縦に振る。
(そう言えば、材料の話はまだ話をしてなかったな。色々と一度に起きたから、俺もまだ少し混乱してるな…。後でもう一度、皆に詳しく説明しよう)
何とか生き延びた俺は、話を続ける。
「それとロンド。俺達は馬車で世界を回ることにしてるが、それでも良いのか?」
「ギルドで話は聞いている。問題はない」
(そう言えば、ギルドで話をしたんだった。それを聞いて俺達のパーティーを選んだんだからこれは大丈夫か…)
俺は少し頭を冷やすために、大きく背伸びをする。すると、シルフィーが眼前に現れる。
「ぼくは? ぼくは?」
(ち、近い。近くて見辛い…)
俺はシルフィーを手で押して、寄り目を治す。
「シルフィーも大丈夫か?」
「大丈夫ー♪」
シルフィーは嬉しそうにして、空中で一回転する。
(元気だな~。俺はこのノリに付いて行けるのか? どうせならこの世界に来る時に、心も若返らせてもらえば良かったな…)
遂、そんなことを考えてしまったが、大まかな話はこれで終わった。
この後、ロンドの戦闘スタイルなどを確認して、明後日、皆で一度狩りに向かおうという話になった。
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