55.小競り合い
テーブルに肘を突き、横を向いているロンドに話をする。
「俺に、何の用なんだ?」
「ギルドで募集の話を聞いた」
俺は鳩から豆鉄砲を食らった。
(ギルド!? ギルドと言えば、やっぱりあの話しかないよな?)
念のため別の可能性も考えて、慎重に口を開く。
「パーティーの事か?」
「ああ」
俺は下を向いて、必死に今の表情を維持する。何故なら、思わず顔がにやけそうになったからだ。
(おおっと! パーティーの希望者だったのか! いきなり「おい」って言われたから、何かもめごとかと思ったぞ)
とりあえず安堵したので、ゆっくりと顔を上げて話の続きをする。勿論、表情は崩さない。
「なんだ。そういう事か」
「ああ」
要件の話を済ませたはずのロンドだったが、何故かまだ横を向いたままだった。
(それにしても、緊張してるのか? やけに口数が少ないが…)
ロンドの表情を確認しようと試みるが、横を向いているのでよく分からなかった。
(仲間が増えることは嬉しいが、これじゃあパーティーとしてやっていけるのか? まあ、即新メンバーになるわけじゃないから、それは後で考えても良いが…)
不安は残ったが万が一の時は断れば良いので、様子を見ながら話を進めることにする。
「うちのパーティーに入りたいと?」
「ああ」
「弓は使えるのか?」
「ああ」
「それなら良いぞ」
「ああ…、あ? いいとは?」
「パーティーに入ってくれ」
ロンドはテーブルに両手を突く。そして、
「い、良いのか!? まだ何も、話をしてないぞ!?」
慌てたような表情で身を乗り出した。
(お、初めて表情が現れたな。それに意外とノリも良いし、リアクションも大きい。これなら、内のパーティーでもやっていけそうだな)
俺は心の中でにやりと笑い、更に安堵する。
「内容は聞いてるよな?」
「あ、ああ…」
淡々と話を進めると、ロンドは身を引くようにして椅子に座り直した。
「それと、俺達はこの街に留まらないが、それでも良いんだな?」
「構わない」
(この街を出る事にも問題はなさそうだな。だが…、何か隠し事でもあるのか?)
ロンドは、こちらがパーティーに迎い入れると告げた時、驚きはしたがあまり嬉しそうな表情は見せなかった。
するとここで、ウエイトレスがテーブルに訪れて、飲み物を置いていく。
「ごゆっくりどうぞ~」
俺達は出されたハーブティを飲むことにする。それはバラの香りのする美味しいお茶だった。
しばらくハーブティを楽しんだが、先程の事は聞いておかなければならないと思い、ロンドに尋ねる。
「無口な性格なのか? それとも、何か問題があるのか?」
「いや…」
少し間が空く。
(やっぱり、何かありそうだな…)
俺が困った表情を見せると、ロンドは口を開いた。
「俺は、パーティー経験が、あまり無くてな…」
俺は意表を突かれ、目を丸くする。
「なんだ、そんな事か。それは良いよ。やっていけば、慣れることだし」
この辺りの事は俺は問題だとは思わなかった。何故なら、パーティーでの連携が上手くいかないということは、どんなパーティーでも起こることだ。寧ろ、前のパーティーはこうだったから俺達のやり方は間違っていると言って、以前のパーティーと常に比較し、考え方を変えることができないタイプの方が困ることが多かった。
「それと…」
「ん? まだあるのか?」
俺はハーブティを一口飲む。
「槍を使う」
(背中の槍は伊達ではなかった!)
槍使いのエルフはこの世界ではどうなのか分からなかったが、個人的には好きだった。
「それに、攻撃魔法があまり使えない」
俺は思わず目を丸くしてしまう。
「エルフなのにか?」
ロンドは少し不機嫌そうな顔をする。
エルフは、この世界では例外なく魔法が強いと言われていた。どうやら種族的に知力が高いという話だった。
「魔法が苦手でも、別に良いぞ。弓が苦手と言われると少し困るが…」
弓使いを探していたので、弓が苦手と言われた場合は、流石に考え直さなければならない。
「弓は大丈夫だ。問題ない」
ここは自信を持って答えてきた。
(弓は大丈夫か。良かった。あと、槍の方も気になるが…)
俺は槍にわざとらしく視線を送る。が、ここで俺は何かの視線を感じた。ロンドもそれに気付いた様子で表情が硬くなる。
「店を出るか?」
「その方が、良さそうだな」
俺達はハーブティを飲み干して、店を離れることにした。
◇
「心当たりはないか?」
俺は先頭に立ち、大通りの人混みをかき分けながらロンドに問うた。すると、
「…ないことはない」
遅れて返事が返ってきた。そしてロンドも俺に問い掛ける。
「そっちにはないのか?」
「…ないと思う」
俺も遅れて返事を返す。
ふと、思い出したのだ。エルフはあまり人族を快く思っていないという事を。
この街で何か目立つことを行ってはいないので俺に心当たりはないのだが、相手からしてみれば俺がここに居るだけで気に入らない、そう思う輩もいるかもしれない。そう思ったので、俺の返事も曖昧なものになってしまった。そしてロンドが口を開く。
「どうする?」
「相手の強さが分からないからな~」
強さや人数が分かれば対処の方法も思い付くのだが、今はそれが分からなかった。だが、
「恐らく、俺の知ってる奴らだ。さっき顔を確認した」
意外にも、ロンドが相手の情報を持っていた。
「強いのか?」
「俺と同じぐらいだ。レベル20前後といったところだが、4、5人は居ると思う」
「どんな奴らなんだ?」
「若いエルフ達を仕切ろうとして、何かと周りに絡んでくる」
ロンドはそう話をすると、苦渋な顔を見せた。
「ふっ…。俺はソロだからな。目を付けられていたのかもしれない…」
(この世界の、チンピラみたいなものか…)
俺は少し、怒りが込み上げた。
(さて、困ったな。このままギルドに逃げ込めば、今回は何もされずに終わるだろうが、この手の奴らはたぶんしつこいからな。この後、何日も目を付けられるようになると面倒だし、4、5人ならやれないこともないか…)
俺はロンドの顔を見る。
「一人ぐらいは任せられるか?」
「や、やりあうっていうのか!? こっちは二人だぞ!?」
ロンドは驚愕の顔をした。
「まあ、任せとけ。で、大丈夫そうか?」
「一人ぐらいならな…」
「よし。それなら人の居ない、細い路地は近くにあるか?」
「細い路地か…。それならこの先を曲がったところにある」
「そこへ案内してくれ」
俺はロンドの後を追いながら、こめかみを押さえて意識を集中させる。
「何をしてるんだ?」
「ん? それは後でのお楽しみだ」
俺達は不敵に笑って見せた。
路地に辿り着いたので、俺達は連中を待ち受ける。すると、4人のエルフの男が姿を現した。
「よう、ロンド。な~に人間とつるんでんだ~?」
肩を揺らしながらこちらに近づいて来る。そして、せっかくのエルフの美形な顔が歪んでいた。
(醜いな。あれならボコボコにしても良いだろう)
幸いと言えば良いのか、連中の中には女性のエルフは居なかった。そして俺は一歩足を踏み出す。
「何の用だ?」
「見せしめだ。人間とつるむとこうなるってな!」
『ガン!』
そいつは近くにあった木箱を蹴り飛ばした。こういう連中は音でこちらを威嚇してくる事がある。だが、そういう奴らは大抵弱い。
(大丈夫そうだな。だが、やり過ぎないようにしよう)
俺は自分の性格を知っている。だからこそ、そこだけは注意した。
俺も肩を揺らしながら前に出る。そして、相手が弓を持っていたのでここぞとばかりにこれを言う。
「ああん! 撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ! お前らそれを分かってやってんだろうな!!!」
俺はスッキリした。何故なら、人生でこんなセリフを言う機会は絶対と言って良い程に訪れないと思ったからだ。だが、俺が反撃をしたせいか、相手が一歩下がってしまう。
(あ、今のは失敗したか? ここで逃げられると困る…)
俺は表情はそのままに、何か良い手がないかを考える。すると、
「なんだ人族のくせに。やんのかコラ。てめーのレベルは17じゃねぇか。俺達は20だぞ。勝てると思ってんのか!」
相手は逃げずに向きになってくれた。
(これは…、レベルを教えてくれるとはありがたい。それに、俺の細かなステータスは確認しなかったようだな。まだまだ詰めが甘い)
俺のレベルは17だが、アドバンテージを含めると実質はレベル23相当だ。ステータスでは俺の方が奴らよりも上になる。そしてここでロンドの言葉を思い出した。
(そういえば、目の前に居るのは4人だが、5人目は居るのか?)
俺は小声でスキルを使う。
【サーチ】
(やっぱり居たか)
俺達の左後方の屋根の上に、一人隠れているようだった。
相手は武器を構える。4人とも弓で攻撃をしてくる様子だ。
そして俺も剣を抜く。が、その抜いた剣をそのまま地面に突き刺す。
「なんだてめー! 降参かー」
にやけた顔で奥のエルフが口を開いた。
「剣でやったらおまえらが死ぬからな。こっちでやるんだよ」
そう言いながら、俺は剣の鞘を抜いた。
これを見て連中は顔を真っ赤にする。相当頭にきている様子だった。
(エルフも、ああなってはお終いだな…)
ロンドも弓を構えている。いつ戦闘が始まってもおかしくない状況だった。
(弓は面倒だ。先手は取らせてもらおう)
俺は先に仕掛けることにした。
(モモ)
頭の中でモモを呼んだ。すると、
「とう!」
屋根の向こう側から、モモが飛び出した。そしてそのまま、屋根上に潜んでいたエルフを地面へと蹴り落とす。
「ぐわっ!」
叫び声と共に落ちたエルフは、見事に顔面から地面に着地した。
(…生きてるよな?)
「な!?」
正面のエルフ達は怒りながら驚愕の顔を作る。
(醜い顔が更に醜くなったな。もう見るに耐えかねる)
俺は腰に挟んでおいたスクロールを使う。
【ウォーター】
水球が一人のエルフに直撃し、後ろへと吹き飛ばされた。
スクロールは魔法を使用する時のような溜めが一切必要ないので、相手の不意を衝くのには便利なアイテムだった。錬金術でずっと作り続けてきた甲斐があったというものだ。
「てめー!」
残りの3人が慌ててこちらに矢を放とうとするが、俺はその3人に向かって走り出す。そして矢が放たれた瞬間に、スキルを使用する。
【ソードダンス】
放たれた3本の矢は一瞬で地面に叩き落される。そして更に、そのままの連撃で3人のエルフをタコ殴りにした。
ソードダンスは剣術スキルの一つで、剣を使用した高速の連撃で相手の攻撃をはじきながら、更にそのまま相手をも斬りつける。決してレベル17の冒険者が使えるようなものではなく、剣の達人、そう呼ばれる者達が使用するようなスキルだった。
だが、俺にはスキルマスターのスキルがある。あらゆるスキルを使いこなすことができるので、これが可能だった。
3人のエルフは見るも無残な姿となり、意識の残っている一人に俺は剣を向ける。
「終りだ」
俺は止めの一撃を食らわせて、この男を倒した。
初めにウォーターボールで吹き飛ばしたエルフにも、ロンドの放った矢が足に突き刺さっており、戦意も消失している。
こうして、この事件はこれで一件落着となった。
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