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スキルマスター  作者: とわ
第二章 アクアンシズ編
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48.飛び立ちとリリーと馬車


『間もなく、エルフヘイム行きの飛空艇が出発します。初めてのご利用の方は、是非、甲板まで足をお運びください』


 船内に出発のアナウンスが流れた。


「何、今の?」


「アナウンスみたいだったけど…」


「初めての方は甲板にって、どういうことだ?」


 モモがきょろきょろと上の方を見回し、リリーと俺は顔を見合わせた。


「甲板に行ってみる?」


 アイラがお菓子を食べながら皆に尋ねた。


「そうだな。せっかくだし、何か面白いものが見られるかもしれないしな」


 俺達はこの部屋をすっかり気に入ってしまい、腰が重たくなっていたのだが、お菓子をポケットに入れることで身を軽くし、一度甲板に上がることにした。





 甲板を訪れると、柱の上部に取り付けられているプロペラが、ゆっくりと回り始めた。


「ふわ~。あんな大きなものが動き出したよー」


「凄いね!」


 モモは口を開けたまま上を眺めている。そして、リリーはその手を掴みながら喜んだ。


「何か足元がふわふわしない?」


 アイラが建物の壁に手を付いた。


「動き始めたからじゃないか? 上に上がってるぞ」


 景色が少しずつ横を流れながら、視線が徐々に高くなっていく。どうやら、俺達が建物から看板に出たタイミングで船が動き出したようだ。


 そして飛空艇はゆったりとした動き出しであったが、それも束の間、あっという間に町が小さくなっていく。助走をつけて飛び立つという訳ではなかったので、いきなりの出来事に俺達は少し戸惑いを覚える。


 飛空艇は飛行機のように小さな窓から外を覗くというわけではなく、360℃の視界が確保されているので、自信がまるで鳥にでもなったかのような、そんな錯覚にも捉われた。


 この後、飛空艇がある程度の高度まで達すると、今度は船体の両側面から何かが伸び出してきた。


『コトン、コトン、コトン』


 歯車なのか、船内で何かが動く音がする。そして、先程の伸び出してきたものが広がりきると、それは飛空艇の翼となった。


「カッコ良いー!」


「翼が生えたよ!」


 モモとリリーは翼の横まで駆け寄り、飛び跳ねながら大はしゃぎをしている。


「こんな仕掛けになっていたのね~」


 アイラは俺の隣で、乱れる髪を押さえている。


 しかし、飛空艇の動きはこれだけには収まらなかった。


 今度は船の前方から透明のマストのようなものが、甲板の上部覆うような形で伸び出してきた。そして、甲板の3分の1程を覆うとその位置で停止した。


「景色が見えるように透明にしてあるのね~。しっかりと考えられているわ」


 アイラは驚嘆していた。


「でも、あれは何に使うのかしら?」


「風を受けるって感じじゃないよな…?」


 船は帆を張り風を受けて進むので、そんなイメージをしたのだが、形状からしてそのような物には見えなかった。


 そして次の瞬間、甲板を吹き抜けていた風が穏やかなものに変わった。


「あら? 風が止んだわよ」


「あのマストのせいか? それに、何かキラキラしてないか?」


 透明なマストを見ると、日の光とは別に粉のようなものが光っているように見える。俺達は飛空艇について何も調べてこなかったので、この船の仕組みは全く分からなかった。


 飛空艇は今までの動きは下準備だと言わんばかりにスピードを上げる。木造の飛空艇なのでそれ程速度は出ないかと思いきや、ここから一気に高速で進み始めた。


「はやーい! もう他の街が見えるよ!」


「本当だ! 凄いね~! 人がまるでごみの様だよ~」


 俺とアイラは苦笑いをした。モモ達に近づくと、リリーが言ってはならないことを口走っていた。やはり、リリーの腹の中は真っ黒だった。





 飛空艇は離陸こそゆっくりではあったが、今は高速で飛空を続けている。そして、俺達は甲板の上に立っているのだが、風の影響を殆ど受けておらず普通に会話もできた。


「風も気にならないし、これは凄いな」


「きっと、魔法で制御しているのね」


 俺とアイラは甲板の手摺りにもたれかかる。


「見て見て! 空が近いよ!」


「うん! 雲が奇麗~」


 モモは飛び跳ねながら指を差し、リリーと二人で空を見上げた。


(初めのアナウンスは、これを見せるためのものだったんだな。確かに、飛空艇に乗るのなら、この光景は見逃がせないな)


 俺達はしばらくの間、甲板からの景色を楽しむことにした。



 ◇



「凄かったね~」


「もう一回、見てみたいね~」


 モモとリリーは部屋のソファーに腰を下ろす。


「帰りも乗る予定だから、多分見られるさ」


「この世界もなかなかやるわね~」


 俺とアイラも向かいのソファーに腰を下ろし、お菓子を摘まむ。


「それじゃあ、これからの予定だけど、良いか?」


「うん。エルフの国に行って買い物をするんでしょ?」


「それと、仲間探しだね!」


 リリーとモモもお菓子に手を伸ばす。


「ああ。装備はアクアンシズで買っても良かったんだが、エルフヘルムの方が魔法系の装備は良い物があるかもしれないからな」


 エルフヘイムはエルフ族が造った街だ。エルフは弓と魔法を得意とする種族なので、魔法系の装備はあちらを見てから買うことに決めていた。


 それと、この間のゴールド・ダンジョン3層でのドロップ品なのだが…、良かったというべきか。ボーンリングを2つと、スケルトンメイル一式を手に入れることができた。


 ボーンリングは、俺とモモで一つずつ装備することにして、スケルトンメイルはモモが装備することになった。ちなみに、スケルトンメイルはまだ使っていない。リリーと一緒に新しい装備に着替えるそうだ。


「新しい人は、また女の子にするの?」


 モモがさらっと、またと言う。


「またとは何だ。人聞きの悪い事を言うんじゃない」


「え~。だって女の子ばかりじゃない」


「それはたまたまだ。偶然女性が集まっただけで、俺が勧誘した訳じゃない!」


「「「ひどーい!」」」


 3人のハモった返事が返ってきた。本当に狙って誘っていた訳ではないのでここはしっかりと言っておいた。


「私の…、裸を見たくせに…」


「私も…、お嫁にいけない体に…」


 アイラとリリーが泣いている。勿論ウソ泣きだ。


(はあ~。アイラはともかく、リリーまで悪ふざけをするようになってしまった…。次に誘う人は慎重に選ばないと、今後手が付けられなくなるかもしれない…)


 俺は頭痛がしたので頭を押さえていると、モモが話を続けた。


「でも、どんな人を誘うの?」


「エルフって言えば、やっぱり弓なのかな~?」


 リリーのお菓子を食べる手は止まっていなかったが、今日は口から物をこぼしていない。上手く手で押さえていた。


「そうだな~。弓を使える人を探したいかな」


「そういえば、遠距離からの攻撃ができるのって、リリーしかいないわね」


 アイラが素っ頓狂な事を話す。


「いやいや、アイラも遠距離で攻撃をしても良いんだぞ?」


 アイラは両手を股の間に挟んで、何故かもじもじとし始めた。


「なんか私、最近前に出るのが楽しなっちゃって…。魔法のレベルもまだあんまり上がっていないし…」


 恥じらいを見せるアイラは珍しかった。


(アイラは殴りヒーラーを目指すのか? リリーを守るといった点では頼もしいが、魔法のレベルは上げておいて欲しいな)


 ゲームでもヒーラー兼壁役の人を見たことがあったが、あれは恐らく、そうとう練習を積み重ねたのであろう。アイラもそれを目指すと言うなら、相当な苦労をすることになるだろう。


「殴るのは良いが魔法のレベル上げも忘れないでくれよ。それに、後衛がリリーだけになると負担も大きくなるからな」


「わかってるわよ~」


 微妙な顔をしながら横を向てしまったが、アイラも理解はしているようだった。


「アイラのこともあるし、遠距離攻撃が魔法だけだと少し心配だな。今回は弓を使って遠距離攻撃ができる人を探すか?」


「「良いよ~」」


「わかったわ」


 モモとリリーは片手を上げて、アイラは片手をお菓子に伸ばした。


「あー、あと、無理してまで誘うつもりはないから、仲間が増えなくても文句を言うなよ」


 俺は一度話をまとめて、この後は自由行動とした。せっかくの飛空艇なのに、部屋に閉じこもっていてはもったいないからだ。


 まだ話は残っていたが、移動で飛空艇には3日間乗ることになっているので、続きは今度することにした。



 ◇◇



 俺は船内が気になったので、飛空艇の中の散策に向かった。


 ダンジョンの探索も良いがこういった知らない建物、今は飛空艇だが、こういったものの中を探索するのは結構好きだった。だが、壺を割って中身の確認をしたりはしない。流石にそれは器物破損で捕まってしまう。


 ふらふらと歩いているのだが行ってみたい方向には、関係者以外立ち入り禁止、という看板が立てられていた。

 

(動力部なんか見られたら面白そうだったのにな…)


 流石に警備もしっかりとしており奥へ進むことはできず、特に珍しいものも発見することができなかった。俺は腹が減ったので一旦部屋に戻ることにした。





 部屋には皆がまだ居たので、俺達は昼食に行くことにした。


 先程のラウンジの近くに食事用の席も用意されていた。食べた後はラウンジに寄っていってね、という造りだ。


 俺達は席に座り料理を待つ。


「何が出るんだろうね~?」


 食事は何かを注文するという形式ではなく、その時の旬のものが出てくる、いわゆるお任せコースのようなものだった。これだけ豪華な船だと、少し期待してしまう。


 そして待つこと数分、料理が順番に運ばれてきた。そして、本日のメニューはこんな感じだった。


1, オードブル      : 前菜の盛り合わせ

2, スープ        : コンソメスープ

3, ポワソン       : 魚介類を使った料理

4, ソルベ        : シャーベット

5, ヴィアンド      : 肉を使ったメイン料理

6, デセール       : 旬の果物を使ったデザート

7, カフェ・ブティフール : コーヒーと焼菓子


「きれー」


「宝石みたい」


「おいしそうね~」


 モモとリリーが目を輝かせ、アイラは頬を押さえた。が、


(俺には合わないな…。どうもこういう、チマチマと少量ずつ食べるのは好きじゃないんだよな…。それに、量が絶対足りない。これなら3人前は欲しいな…)


 俺としては少し残念ではあったが、


(皆は喜んでいるし、まあ良いだろう。………後で何か食べよう)



 ◇◇◇



 夜になり、俺は甲板で足の着いた座椅子のようなものに座り、ワインを片手に足を延ばしながら景色を楽しんでいた。甲板でもちょっとした飲食のサービスが受けられるようになっている。


(異世界に来て、こんなゆっくりと景色を眺められるとは、思ってなかったな~)


 異世界はもっと殺伐としており、おどろおどろしいものを想像していたので、飛空艇でまったりと景色を楽しむなどとは想像もしていなかった。そして、ここから眺める景色もまた素晴らしいものだった。


 月明かりに照らされた山脈はその全体を見渡すことができ、雲もその明かりに照らて厚い部分と薄い部分に作られた影が、幻想を織りなしている。そして地上には、大きな湖がキラキラと光り輝いていた。


(ここに海があれば、もっと良かったかもしれないな~)


 軽くワインを飲みながらそんなことを考えていると、リリーがこちらに歩いて来た。


「奇麗だね~」


「そうだな~。こんな景色、見たことがないよ」


 リリーは髪をとかしながら俺の隣に立つ。風呂上りなのか何か良い香りがする。


「私も初めてだよ。こんな景色は」


 俺達は遠くを見つめながら、少し沈黙をした。


「何か考え事?」


 リリーは遠くを見つめながら、まるで俺の心を見透かしたかのような声で尋ねてきた。そして俺はそんなリリーを見て、少しドキッとした。


「まあな~…」


(まだ皆には伝えてないが、多分、今考えていることの一番の問題となるのはリリーだ。この際だし話してみるか)


 俺は景色を見ながら話をする。


「馬車が欲しくてな」


「馬車?」


 リリーが少し驚いた表情でこちらに振り向いた。


「ああ。馬車の旅をしたい」


 リリーはまた景色を眺め始め、少し沈黙をした後に口を開く。


「良いんじゃない?」


 俺は迷いのないリリーの言葉に驚いた。


「反対はしないのか?」


「私は良いよ」


「ダンジョンに籠っていた方がレベルも上がるし、金も貯まるぞ?」


「私はレベルやお金が目的じゃないから。それにお金だったら冒険者じゃなくても良いからね」


「そっか」


「そうだよ~」


「じゃあ、馬車の旅でもリリーは付いて来てくれるのか?」


「一緒に行くよ~」


 振り返るリリーの、月明かりに照らされた微笑みはとても美しかった。


(普段は可愛いという感じだが、少しイメージが変わったな)


 この後、俺はモモとアイラにも話をし、馬車の旅を今後の計画に取り入れることとなった。





☆を付けていただけると嬉しいです。

ブックマーク登録もして頂きたいです。

やる気が出るのでよろしくお願いします!


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