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スキルマスター  作者: とわ
第二章 アクアンシズ編
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47.飛空艇


 出発の朝、俺達は宿をチェックアウトし飛空艇乗り場へと向う。


 この世界には飛空艇が存在する。このアクアンシズに訪れてから、時折、上空を飛行しているのを見かけていたのでいつかは乗ってみたいと思っていたが、


(まさか、こんなに早くに乗ることになるとはな)


 俺は大空を飛ぶ飛空艇を見上げた。





「あれだよね?」


 モモが前方の大きな建物を指差す。


 飛空艇乗り場は街から少し離れた、アクアンシズの北東の位置に建てられていた。そして、その建物は巨大な門の形となっている。左右二つの建物の間は空洞となっており、上部にはそれを連結させる建物が造られている。恐らく空洞の部分を飛空艇が通り抜けるのであろう。


「凄い豪華な造りをしているな」


「私も初めて見たよ~」


 リリーはこの世界の住人ではあるが、飛空艇に乗るのは初めてだそうだ。


「船がどんなものなのか楽しみね」


 アイラの足取りも軽やかになっている。


「乗り場がここまでの造りなら、飛空艇自体も期待ができそうだな」


 俺達は少し建物の周囲を見回りった後、中に入ることにした。





 建物内の造りも豪華だった。床には絨毯が敷かれており、柱は彫刻された石で造られている。壁にも空を飛ぶ飛空艇の絵が飾られており、天井には天使のようなものが描かれていた。


「外も凄かったけど、中も凄いね~」


 リリーがぽかんと口を開けて、上を見上げている。


「なかなか良いところね~」


 アイラもここを気に入った様子だ。


「ここに住んでみたい!」


 モモが踊るように回転しながら、無理な発言をした。


(何というか、中世の映画か何かで見るような、そんな作りだな)


 日本では決して味わうことのできない、そんな建物の内部を進むと飛空艇乗り場の改札口に辿り着いた。改札口の脇には木製のカウンターが造られており、ルネサンス風のデザインと言えば良いのか、とても気品のある造りだった。


「いらっしゃいませ。本日はどちらまでのご利用ですか?」


「エルフヘイムまでだ」


「畏まりました。それならば船は既に到着しております。チケットはお持ちでしょうか?」


「ああ」


 俺達はギルドで購入したチケットを手渡す。


「ありがとうございます。どうぞこちらをお通りください」


 カウンターの女性はとても丁寧な対応で、まるで日本の空港にいるような気分だった。伊達に大金貨10枚という金額ではないようだ。ただ、空港のように案内掲示板があるわけではないので、どのようにして乗る飛空艇を探し出せば良いのかが分からなかった。


「どの船になるんだ?」


「只今、飛空艇は1隻だけ停泊しておりますので、そちらの船になります」


「そうか。ありがとう」


 俺達はカウンターを通り抜け、通路を更に奥へと進む。





 通路にも気品のある装飾が施されていた。そして進んだ奥には日本の駅のホームの様な…、感じではなく、先程の建物と同様に柱や壁に装飾が施されており、床は木製の床板で造られている。この床はとても歩き心地が良く、少し日本の縁側を思い出したが、スケールは全くの別のものだ。


 床板の幅は凡そ60センチ程で、それが日本の新幹線乗り場のような横幅のあるホームにずらりと敷き詰められている。奥行きも広く、一体どれだけの人が一度にここを利用出来るのか、はっきり言って分からない。


 目の前に飛空艇が停泊しているが、このホームの広さから推測すると、同時に3台は停泊が可能な、それ程の広さがここにはあった。


「風が気持ち~!」


 モモが両手を広げ、風を受け止めている。


「ここも凄いね~」


「こんなところまで、こだわっているのね~」


「まさか、飛空艇のホームまで豪華な造りになっているとは思わなかったな」


 この光景は満足と同時に、ただただ感心することしかできなかった。


 俺達は余韻を残しながら、飛空艇へと近づいて行く。


 船のような形をした飛空艇も、これまた木製の味のあるものだった。船体の木の部分は程よく黒ずんでおり、年季を醸し出している。


「大きいね~」


「大きいな~」


 俺とモモは思わずチープな言葉を漏らす。


「キャッ!」


「ちょっと、下見て、下!」


 リリーとアイラが何かに驚いている。


「どうしたんだ?」


「何? 何? うわっ!」


 モモが飛空艇とホームの間を覗くと、その場から一歩たじろいだ。


 そこには飛空艇が停泊出来るように溝が掘られていたのだが、これは溝と言うよりも、寧ろ崖と呼んだ方が良いのかもしれない。見た目では何メートル掘り下げられているかが分からなかった。


「落ちたら死んじゃうかな~?」


 リリーが怖い事を言う。


「どうなんだろ?」


 続けてモモが首を傾げた。


(へ? これは悩むところなのか? 落ちたら絶対に死ぬだろ!?)


 リリーとモモに戸惑いを感じていると、


「平気なんじゃない? 私達、冒険者なんだし、落ちて死ぬような造りにはしてないでしょ?」


 アイラは何食わぬ顔をしていた。


(そ、そうなのか? 冒険者なら、崖から落ちても死なないのか? それとも、目の前のスケールの大きさが俺達を惑わしているのか? 段々、何が正しいのかが、分からなくなってきたぞ!?)


 俺は混乱し始めた。


「ねぇねぇ! 早く船に乗ろ!」


 モモが飛び跳ねながら俺達を促す。


「うん! 行こ、モモちゃん!」


 モモとリリーは近くにある階段へと向かった。


 俺は崖に戸惑いながらも、飛空艇にも戸惑っていた。


(飛空艇に乗ると言ってもこじんまりとした、せいぜい数十人程度の人が乗れるものを想像していたが…。これはそれよりも遥かに大きくて、地球で言うところの豪華客船、それぐらいの大きさはあるな…)


 俺はしばらくその場で立ち止り、固まってしまっていた。


「いつまでも眺めてないで、船に乗りましょ。きっと中も凄いわよ!」


 アイラが俺の手を引き、モモとリリーを追いかけるようにして飛空艇に乗り込むこととなった。





 今度は目の前に巨大な階段が現れる。高さはそれ程でもないが、とにかく横に広かった。飛空艇に乗り込むためにはこの階段を上るようになっている。


 俺は階段を一歩ずつ、確かめるようにして上っていく。そして上りきった先には、広大な甲板が広がっていた。


 ここには数本の柱が建てられており、その上部にはプロペラが付いている。そしてプロペラの付いていない柱もあり、それにはマストのようなものが取り付けてられていた。甲板上には大きな建物も建てられており、恐らくあそこから船内に入ることができるのであろう。


「ねぇねぇ、広いよ! 人も沢山いるし!」


 先に甲板に辿り着いたモモが俺の体を揺らす。


「ハッ!?」


(ここの迫力に飲まれていたな。なかなかに良い経験ができた)


 俺は少し我に戻った。


「意外だったな。移動だけなら他の方法の方が良い気がするが」


「飛空艇は憧れだから、皆、乗ってみたいんだよ!」


 リリーが嬉しそうな顔で俺を見つめながら、両腕を胸の前でぎゅっと握りしめた。


「そうなのか?」


「うん! 飛空艇は乗ろうと思えば乗れるけど、遠くの国に行く事なんて滅多にないから、乗る機会もないんだよ!」


(なるほど。この世界では遠くの国に旅行に行くという事はあまりしないのか。街の外はモンスターも出るし、旅行に行くということはあまり考えていないのかもしれないな)


「早く乗りましょ!」


 アイラまで、俺を急かす様になってしまった。


 俺は3人に引っ張られるようにして、飛空艇の内部に入る入り口を探すことになった。


 いくつか入り口らしき扉が見えるが、何処から入れば良いのかが分からなかった。なので、乗務員と思われる人のところへ向かうことにした。


「おはよう。初めてなんだが、部屋はどうやって探せば良いんだ?」


「おはようございます。ようこそおいで下さいました。部屋は甲板にある扉を通った奥に御座います。中に入りますと案内掲示板が御座いますので、そちらをご利用下さい。チケットに部屋の番号が記されておりますので、そちらもご確認下さい」


「わかった。ありがとう」


「いえいえ、どう致しまして」


 ということで、俺達は扉の中へと進むことにした。





 中に入ると通路が真っ直ぐに伸びていた。船体と同様に、内部も木製の造りだ。床は絨毯が敷かれており、壁にはニッチに花瓶に挿した花が飾られている。幅は4人で並んで歩いて丁度いっぱいといった感じだ。


 とりあえず、通路を進んでみることにした。そして通路が終わると、目の前には大きなラウンジが広がる。


「何かここも凄いねわ~」


 ラウンジは一段下がった造りとなっており、その場所もとても広く、ぱっと見では数えきれない程のテーブルとソファー置いてある。カウンター席も設けてあるので、ここでは酒などの飲食も行えるのであろう。


「広くて迷いそうだな」


「標識みたいなのがあるよ。番号も書いてある」


 モモが指を差しながら俺の腕を引っ張る。


「行ってみるか」


 この広いラウンジを囲むように周囲には通路が設けられていた。そして、通路の途中にいくつか扉が取り付けられている。

 

 俺達は戸惑いながらも、標識で番号を確認しながら扉を探す。


 扉を見つけて中へと進むと、先程、ラウンジに向かった時と同じような通路に出た。ただ、ここの通路は左右に分かれており、上下に向かう階段なども見られる。


「どこに行けば良いんだろ?」


「ん~…」


 モモの呟きに俺も唸った。


「ルーティ、手、手」


 アイラがアホな子のような発言をする。


「手、手って、俺は犬か?」


「違うわよ! 手に持っているチケットを見て!」


 俺は呆れながらもチケットを確認する。すると、チケットが薄っすらと光っていた。


「なんだこれ?」


 チケットをよく見ると、半透明の矢印が出ていることに気が付いた。


「おお!?」


 思わず声が漏れる。


「面白いな」


「矢印みたいだね」


「ひょっとして、これに従って行けば良いのかな?」


 モモとリリーが俺のチケットをツンツンと突く。


「きっとそうよ。他には案内も無いんだし、それに従ってみましょ」


「アイラでも役に立つんだな」


「一言余計よ」


『ゴス!』


 俺はアイラから腹にエルボーを食らった。


 ということで、俺達はチケットの表示している矢印の方向へと向かって歩き始める。


 通路を進み階段を下り、そしてようやく、部屋の扉の前まで辿り着くことができた。


「ここか?」


「開けて良いかしら?」


 アイラは私が見つけたのよ、と言わんばかりのどや顔で、扉のノブに手を掛ける。


(アイラはこういうところは子供っぽいよな)


 ご機嫌そうだったので、少し微笑ましく思った。


「良いぞ」


「開けるわ」


『カチャ』


 そこには今まで泊まっていた宿の部屋の、5倍はありそうな広い部屋があった。


「4人部屋、広ーい!」


「やったよモモちゃん! 部屋が広いよ!」


 モモとリリーの目が輝いた。今まで、ず~~~と、狭い安宿だったので、かなり嬉しいのであろう。


「これで一人だったら、寂しかったと思うわよ」


「そうだな。別けなくて正解だったな」


 アイラの皮肉のこもった言葉だったが、ここは素直に認めることにした。


 今回はせっかくなので皆で一つの部屋を予約していた。その理由は、3人部屋よりも4人部屋の方が広くて豪華だと思ったからだ。これは貧乏人の浅知恵というやつだ…、ちょっと違うか?


「あれ何?」


 俺達は部屋の広さに感動をしていたが、アイラだけは中の物が気になったようだ。


 アイラ暮らしていた神界は白くて何もない場所だったため、こういった物は珍しく感じるのであろう。部屋には多くの小物などが飾ってあり、それに興味を示していた。


 俺達はしばらく部屋の中を物色することにした。





 部屋の中はテーブルとソファーが中央に置いてある。そして奥にもう一つ部屋があり、ベッドが設けられているのでここが寝室にあたるようだ。床は絨毯が一面に敷き詰められており、壁には空の描かれた風景画が飾られている。壁のニッチのような棚には、恐らくこの飛空艇なのであろう。木製の模型も飾られていた。


「冷蔵庫があるよ~」


 モモが飲み物を運んできた。テーブルにはお菓子も用意されていたので、俺達はそれらを食べながら少し落ち着くことにした。


「帰還のスクロールで行かなくて良かったな」


「本当ね~。これなら何度でも利用したいわ」


 俺とアイラはソファーに深々と腰を下ろした。


「このお菓子、美味しい!」


「甘いものがいっぱいあるよ!」


 モモとリリーはお菓子に夢中になっている。


(この環境に慣れたら、冒険ができなくなりそうだな…)


 少しそんなことを思ったが、今はこの船旅を楽しむことにした。





3章スタートです。

☆を付けていただけると嬉しいです。

ブックマーク登録もして頂きたいです。

やる気が出るのでよろしくお願いします!


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