41.リリーのスキルとトラップ
休日の2日目は朝からモモ達が出掛けたので、宿でのんびりすることができた。
最近は錬金術でアイテムを作ったり魔法を練習したりと、常に何かを行っていたので、たまには敢えて何も行わない一日にした。そしてベッドでごろごろと寝転がっているとリリーが戻ってきた。
「ん? 一人で戻ってきたのか?」
「うん。二人とは一緒じゃなかったんだよ」
リリーは何か忘れ物なのか、すすっと奥の部屋へと向かった。
(別々で出掛けてたのか。丁度話がしたいと思っていたから都合が良いな)
俺が奥の部屋を覗き込むと、リリーは何やらごそごそとしていた。
「リリー、もし良ければスキルのことを教えてくれないか?」
リリーはキョトンとした顔でこちらに振り向いた。
「別に良いよ~」
そしてまた、ごそごそとし始めた。
スキルについては他人に気軽に話をして良いものではないので、断られたらどうしようかと以前から悩んでいたのだが、特に何とも思っていない様子だった。
「リリーの得意なスキルは、火魔法と闇魔法か?」
「土魔法も得意だよ~」
俺は少し目が丸くなった。
(これは知らなかったな。土魔法を使う機会がなかったから気付かなかったのか)
「そうなのか。土魔法は何が使えるんだ?」
俺の声にリリーは手を止めて、魔法を思い出すかのように上を見上げた。
「ん~。サンドストームとストーンショット…、あとストーンウォールかな~」
「それはどんな魔法なんだ?」
「ええっと~、サンドストームは砂を巻き上げる魔法で目潰しなんかに使えて、ストーンショットは尖った石の塊を飛ばすの。ストーンウォールは岩の壁を作れるよ」
(なるほど。目潰しはブラインで頼んでいたから土魔法の出番がなかったのか。ストーンショットやストーンウォールは使い方によっては便利な魔法だし、聞いておいて良かったな)
この後、他にもステータスなどの話も聞いたが、リリーは俺達の中で1番レベルが高いのだが、前衛としての能力は低かった。典型的な魔法使い、といった感じだ。
(そうなると、アイラをもっと硬くした方が良さそうだな…。それにしても、魔法は育った環境や性格に寄ると言われているが、火と土と闇魔法が得意なのか…。となると、リリーは意外とあれだったりするのか?)
俺はリリーの顔をじっと見つめる。リリーはニコニコとしながら首を傾げた。
「リリーは意外と腹黒だったりするのか?」
突如、リリーの顔は真っ赤に染まった。そしてそのまま俯いてしまう。
(冗談で言ったつもりだったが、当たったのか…)
リリーはもじもじとしながら体を揺らし、しばらく沈黙を続けていたが、俯いたまま俺を見上げた。
「いじわる…」
俺はリリーのその仕草の可愛らしさと、腹黒さを知ったせいで何と答えて良いのかが分からず、次の言葉に詰まった。するとリリーは隣に置いてあるカバンを手にして、
「出掛けてくるね」
少し頬を赤らめたまま部屋を出ていった。
(腹黒いリリーは、何処に向かったんだろう?)
少し気になったが、俺も気分転換のために出掛けることにした。
◇
(冒険者と言えばトラップだよな!)
俺は少しテンションを上げながらギルドへと向かう。
トラップは仕掛ける側でも良いのだが、今回は解除の方法を習得したいと思い、ギルドで話を聞くことにした。
トラップについては少し前の話だが、アイラからこう言われていた。
「いろんなところを回って探索するなら、トラップの解除は自分で覚えなきゃダメよ」
「仲間じゃダメなのか?」
「モモちゃんなら良いかもしれないけど、リリーはパーティーを抜けるかもしれないでしょ。それに、私だってずっと一緒にいられるかわからないし、大事なスキルは自分でも使えるようにしておいた方が良いわよ」
という事だった。
俺は女神に言われたから各地を調べて回っている、というよりも、自分が世界を見てみたいから各地を回っている、という考えだ。それに、モモも帰る場所があるという訳ではないので二人でどこで何をしようと勝手なのだが、パーティーメンバーはそうではない。
リリーは世界を色々と見て回りたいという事で付いて来てくれてはいるが、何かの事情があれば別れる可能性はある。そうなった時に困らないように、必要なスキルは全て自分で覚えなければならない。
大変ではあるがこれは仕方のない事だった。直ぐには全てを覚えられないが、少しずつでもやっていくしかなかった。
ギルドに到着したので、俺はカウンターの女性に声を掛ける。
「こんにちは」
「こんにちは。今日はどうされましたか?」
「トラップについて知りたいんだが、どうすれば良いんだ?」
「わかりました。少々お待ちください」
女性はそう言い残して奥へと下がった。そしてその代わりに冒険者の様な姿をした女性が奥から現れた。身軽そうな装備を身に付けており、ぱっと見、斥候をやっていそうな、そんな感じだった。
「トラップについて知りたいって言うのはおまえか?」
「ああ」
「ふ~ん、まあ良い。付いてきな」
女性は左へと進みカウンターの外へ出たので、俺はその後を付いて行く。どうやらギルドの奥に向かっているようだ。そして辿り着いた先は訓練場のような広い場所だった。
「ここでやるぞ! まずはこの道具で、あの箱を開けてみろ!」
女性はぶっきらぼうに言い放ち、指を差しながら道具を俺の方へと放り投げる。そして指を差した先には、鍵穴の付いた宝箱が地面に置いてあった。
「いきなりやるのか?」
「そうだ。今日は、素質があるかどうかを見る」
(なるほどな。適正検査みたいなものか)
俺は受け取った道具を確認する。
(この道具はピッキングツールだよな)
道具は金属製の先の尖った物や曲がった物などが束となっている。そして勿論、こんな道具を俺は使ったことがない。
(泥棒の経験は流石にないからな。鍵の中の構造ぐらいは分かるが…、そんなに上手くいくのか?)
俺は渋々、宝箱へと近づく。
(アマのダンジョンで宝箱を開けたことはあるが、あそこのはトラップが無いと聞いていたからそのまま開けたけど、今回は違うからな………。効果があるかは分からんが、試しにスキルを使ってみるか)
俺は宝箱に対してスキルを発動させる。
【鑑定】
ー------
宝箱
ー------
宝箱が薄っすらと青く光っている。
(ん~、ゲームだとトラップが無いという事だが、そういう事で良いのか?)
今の現象が何を示すのかが分からなかったので、今度は別のスキルを発動させる。
【見破る】
今度は宝箱のもろそうな部分が光って見えた。
(木製の宝箱だから、多分あそこを切ったりすれば開けられそうだが…。切ったらまずいよな?)
俺が女性の顔色を窺うと、にやにやとしていた。
(これは違うのか? ん~~~、考えても仕方がないか。とりあえずはピッキングツールを使ってみよう。仮にトラップがあったとしても死にはしないだろう)
何を行えば正しいのかが分からなかったので、とりあえず宝箱に近づいてピッキングツールを鍵穴に差し込んでみる。すると、コツコツと手応えを感じた。
(あれが上に上がるのは分かるが、全体が全く分からんぞ…)
しばらくの間そんな感じで、鍵の中をイメージしながら全体の把握に努めた。すると突然、頭の中に何かのイメージが浮かび上がり、俺はたじろいだ。
(うおっ! びっくりした! これは…、鍵の中の構造だよな? そうすると…、こうか?)
鍵の構造に合わせてピッキングツールを使用すると、
『カチャ』
鍵の開く音がした。俺はそのまま宝箱を開ける。
「これで良いか?」
後ろを振り向くと女性の顔は驚いていた。
「おまえやるな~。良い泥棒になれるぞ!」
女性は顎を摩った後、グッドのサインを指で作った。
(別に泥棒になりたい訳ではないんだが…)
「良いだろう! 見込みはありそうだ。これからは色々と教えてやるよ。まずは俺のことはクレアと呼びな」
こうして、俺はこのクレアからトラップについて教わることになった。
◇◇
3日目。
今日まで休みにしていたのだが、クエストぐらいは確認しておこうということで皆でギルドに訪れた。冒険者ランクもEとなり受けられるクエストも増えたので、選ぶのに少し迷うようになった。
クエストボードでクエストを確認していると、アイラが何かのクエストを見つけた。
「これなんてどうかしら? ヘビの毒袋集めなんだけど」
指を差しているアイラを見て、俺は前回の出来事を思い出した。
「また、アナコンダに食べられるぞ?」
「平気よ。それにもう、うかつに近づかないから」
フンっといった感じで横を向いた態度からして、この間のアナコンダに食べられたことは、トラウマにはなっていないようだ。
「それで良いなら良いぞ。どの道、まだ2層を回り切っていないからな。モモ達もあれで良いか?」
「「良いよー」」
二人も賛成ということで、俺達はそのクエストを受けることにした。
依頼の紙を剥がして受付でクエストの内容の確認する。
「こちらですね。錬金術ギルドからの依頼で、依頼内容はヘビの毒袋を集められるだけ集てくるというものです。期限はないようですが、こちらで宜しかったですか?」
「ああ、大丈夫だ」
俺達はクエストの手続きを済ませてギルドを後にした。
今回のクエストには期限がない。これは俺達にとって都合が良かった。何故なら、そろそろ3層を目指そうと考えていたからだ。
3層は2層を順調に進んで4日掛かるという話だった。今回のクエストの完了報告はその後で行えば良いので、こういったクエストは助かった。
俺達は街を散歩しながら明日の準備を行う。装備の修理も終わっていたので今からでも出発できたのだが、急ぐ必要もないため明日の朝から出発することにした。なので、残りの時間は皆で市場を回ったりと、街をぶらぶらすることにした。
(休める時に休むのも冒険者として必要な事と、誰かが言ってたしな)
こうして3日目は明日の準備だけを行い、ゆっくりと過ごすこととなった。
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