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スキルマスター  作者: とわ
第二章 アクアンシズ編
135/191

39.反動とランクアップ


「やったー! お兄ちゃん!」


「やったね!」


「やったわね!」


 皆も無事だったようで、こちらへと駆け寄って来る。


 一方、俺俺の方は…。


(やっぱり、こうなったか…)


 その時、モモが俺に飛び着いた。


「痛い!」


 思わず大声を出てしまう。モモは慌てて俺から離れた。


 スキルの攻撃力に俺の体がついてこれなかったのであろう。今の一撃で腕の骨が折れてしまっていた。


 だが、たかが腕の1本ぐらい! と、ここで強がる必要はない。何といってもこの世界には回復魔法のヒールがあるのだ。


「ど、どうしたの? お兄ちゃん?」


 モモが珍しくアワアワし始める。


「ああ、腕が折れたらしい」


「ええ!? 大丈夫? すぐに治すからね!」


【ヒール】


 モモが俺の腕の治療を始めた。


「私も手伝うわ」


【ヒール】


 すぐにアイラもモモを手伝い、俺の腕へと魔法を掛ける。光が俺の腕を包み込み、それは暖かく心までもが安らぐようだった。


「あ、あれ? 難しいわね?」


「違うよ。こうすれば良いんだよ?」


 などと聞こえてくるが…。


(あ、あれ? 大丈夫だよな? 俺の腕は治るんだよな?)


 俺の心に不安が過った…。


 回復を受けている間に、倒した銀の精霊がダンジョンのモンスターと同じように霧となって消えていくのが見えた。地上なのに何故そうなったのかは詳しくは分からないが、銀の精霊がダンジョンのモンスターと同じように、自然発生するモンスターだったからであろう。


「結構、難しいんだね」


「良い経験になったわ」


 モモとアイラが満足といった顔をしている。


(俺は実験台かよ…)


 数回、ヒールを掛けてもらうと俺の腕は元通りに動かせるようになった。そして、腕の状態を確認しながら先程のスキルについて話をすることにした。


「さっきのスキルの事は、秘密にしておいてくれ」


「どうして? 何か体からぶわっと出てて、凄くかっこよかったよ?」


 モモが両手を広げて、先程の光景を表現しようとしている。


(何が出ていたんだろう…)


 俺は空想を膨らませた。


「あのスキルは、普通の剣士が使うものじゃないらしいんだ」


「そうなの?」


 モモが首を傾げる。


「ああ、前にダン達と一緒になったろ。あの時、チャージのスキルは格闘家のスキルって言ってたんだ。それに重ね掛けもこの世界で誰でも使えるものなのか、まだ分かってないんだよ」


「ふ~ん、それじゃあさっきのあれは、スキルマスターのおかげかもしれないってことかしら?」


 アイラが腕を組みながら、顎に手を当てて首を捻る。


「そうなんだ~。まだ謎があるスキルなんだね!」


「面白そう! 他にどんなことができるの!?」


 モモとリリーは瞳を輝かせ、俺に顔を近づける。


(俺は実験台ではないんだが…)


 俺もスキルマスターについては、まだ全てを理解した訳ではなかった。他にも色々と試していることはあるのだが、一応は何でもできそうなスキル、そんな感じだった。


 そして今回は相手が1匹だったので良かったが、複数の場合には、使う度に腕の骨が折れるようなスキルの使い方はできない。3回のチャージでこの様だ。調子に乗って「20倍だ!」などと行った日には、布団が吹っ飛ぶかの如く、俺の腕も吹っ飛んでしまうだろう。





 話も終らせ、俺達はドロップ品を確かめることにした。


 銀の精霊が消えた場所には魔石と水晶、それと大きな金属の塊が落ちていた。そう、銀の塊だ。それもかなりの大きさだった。


「「「「おおー!」」」」


 俺達は手放しで喜んだ。


(あれだけ苦労をして倒したんだ。これで何も出ていなかったら悲しすぎる)


「これでやっと贅沢ができるわ」


「甘い物いーっぱい食べたーい!」


「部屋も少し、広くなると良いな~」


 皆が大いなる希望を抱く。だが、


(でも、銀だからな…。期待し過ぎずにいこう)


 この後、まだ少し銅鉱石が不足していたので、俺達はそれを集め直してから洞窟を去ることにした。





 外に出ると夕日が眩しかった。


 このまま帰還のスクロールを使いアクアンシズへ戻っても良かったのだが、グルニー達に何も言わずに去るのもあれだろうということで、もう一泊、ここに留まることにした。


 そしてその夜。俺達はこの鉱山にある居酒屋に訪れた。グルニーは毎晩そこで飲んでいるということだったので、お礼を告げるためだ。


 グルニーを見つけたので俺達は声を掛ける。


「こんばんは」


「おおー、お前達か。まあ座れ」


 グルニーの周りの人達が席を譲ってくれたので、俺達はそこに座ることにする。


「今回はありがとう」


「ん? 俺は何もしてないさ。ガハハハ!」


 グルニーの声の大きさは相変わらずだった。


「でも、銀の精霊が出るなんて、思ってもいなかったよ」


「何だお前ら、銀の精霊に会ったのか? それは運が良かったな~!」


 グルニーは俺の肩にポンと手を置いて、エールを飲み干す。


「そうなのか?」


「鉄や銅の塊なんぞ金にならんだろ~。ガハハハ!」


(運が良かったのか。きつかったが倒して正解だったというところか)


「初めての鉱山はどうだった?」


 グルニーは楽し気に俺達の顔を見回す。


「奇麗だったね!」


「うん、すっごく奇麗だった!」


「神秘的な場所だったわね~」


 モモ達もこの言葉をきっかけに、テーブルの料理を摘まみ始める。柄にもなく遠慮をした様子だったので、俺は少しほっとした。


「洞窟があんなに広いなんて、思わなかったよ」


「あの程度の洞窟なら、そこら中にあるぞ~」


 グルニーはちょいちょいと手招きをして、店員にエールの御代わりをする。


「そうなのか。もっと大きな洞窟だと、どこがあるんだ?」


「そうだな~。ミスリル鉱山やオリハルコンの採れる洞窟はここよりもっと広いぞ」


 顎髭を撫でながら、思い出すように話しをしている。


(この世界ではあの程度の洞窟は、大したことがないってことか)


 俺はエールを一口飲み、話を続ける。


「それはどこにあるんだ?」


「この辺りには無いな。もっと山の奥に行かないとな。ガハハハ!」


(山の奥か~…。ミスリルにオリハルコン、それは気になるな!)


「冒険者なら海底神殿に行くと良いぞ!」


 グルニーは御代わりを受け取りながら、摘まみを食べる。


「海底神殿? そんなものもあるのか? そこにはもっと良い物があるのか?」


「物はよく分からねぇが、絶景だぞ。一度は行ってみると良い。お宝も眠っているっていう噂もあるしな」


「グルニーは行ったことがあるのか?」


「ああ、だがすぐに戻ってきたがな」


「どうしてだ?」


「見物に行っただけだからな」


「見物…? ただ、絶景を見に行っただけってことか?」


「ああ、そうだ」


 グルニーは喉が渇いているのか、エールを一気に半分ほど飲み干す。


(絶景を見に行っただけか…。まあ、それも有りだよな…)


 海底神殿の事を詳しく知りたかったが、この様子だと、中のことをあまり覚えていなさそうだったので、その事は尋ねるのを止めることにした。


「そこにはどうやって行くんだ?」


「泳いで行くに決まってるだろ。ガハハハ!」


 グルニーはあまり説明が上手くないようだった。


(今一つ要領が掴めないが…、海底神殿か! それは是非、行ってみたいな!)


 この後も色々と話を聞いたのだが、この世界にはまだまだいくつもの洞窟があるということだった。


(それにしても、ドワーフは酒が強いな。工夫というのもあるだろうが、このペースについて行くのは無理だな)


 少し飲み疲れたので、俺達は最後に挨拶だけ済ませて宿に戻ることにする。


「俺達は明日、帰ることにするよ」


「おう、またいつでも遊びに来い! ガハハハ!」


 グルニーは大きく手を上げた。


(ここにはまた、遊びに来ても良いな)


 ザクデロ鉱山は、そんな風に思える場所だった。



 ◇



 翌日。


 俺達は帰還のスクロールを使ってアクアンシズに戻った。そしてその足で、アクセサリー商店を訪れる。


「いらっしゃいませ~。あら、あなた達、もう帰ってきたの?」


「ああ、鉱石が集まったんで帰還のスクロールで帰ってきたよ」


「そう。じゃあ早速、見せてもらおうかしら」


「ああ」


 俺は借りていたマジックバッグを渡す。店主はすぐにその中を確認し始めた。


「良いわ。これだけあれば十分よ」


「そうか、良かった。それならこのクエストの依頼書に完了のサインをもらえるか?」


 俺が依頼書を渡すと、店主は素早くサインをする。


「メリアって言うのか?」


「ええ。そういえば名前を言っていなかったわね。私はメリア。今後も宜しくね」


 メリアはスカートを両手で摘まんで、軽く膝を落とすようにして自己紹介をする。俺はメリアのような振る舞いはできないので、普通に返事を返す。


「こちらこそよろしくだ。それと、ちょっと見てもらいたい物があるんだが、鉱石を出したいんだが少し大きくてな。どこか出せる場所はあるか?」


「鉱石? それなら外で見てみるわ。付いて来て」


 メリアは表に向かったので、俺達もその後を追う。


「ここなら良いわよ」


 メリアが向かった先は、店の隣の搬入用の通路のような場所だった。


「出すぞ」


【ストレージ】


 ストレージはとても便利な魔法だった。大きな物を収納する際はそれに触れて魔法を使い、取り出す際には取り出したい物をイメージして魔法を使う。たったそれだけのことで物の出し入れが可能だった。


『ドスン!』


「へぇ~。これは凄いわね」


 メリアは少し驚いた顔をする。


「銀の精霊を倒したの?」


「ああ、たまたま出くわしてな」


「ふ~ん。あんまり強そうには見えなかったけど、あなた達、なかなかやるわね」


 俺達よりも背の低いメリアが、値踏みをするようにこちらを見ている。


(ドワーフだから、ちびっこだな)


 俺はグルニー達を思い出した。メリアは女性のドワーフだからなのか、髭は蓄えていない。


「これを買い取ってもらうことはできるか?」


「勿論よ! 銀なら使い道も沢山あるから、大歓迎よ!」


 メリアは袖をまくり上げ、鑑定を使いながら何やら調べ始めた。


(買取は問題ないみたいだな。あとはこの値段か…)


「うん。うん。品質も問題ないわね」


 メリアは2度頷いた。どうやら調べ終えたようだ。そして次に顔をしかめて、


「これだけの量なら…、大金貨3枚でどうかしら?」


 俺達の顔色を窺ってきた。


(大金貨3枚か…。この銀の塊の相場が分からないんだよな…。さて、どうしたものか?)


「少し相談させてくれ」


 俺達は時間をもらい、皆で相談をすることにした。


 そして相談をした結果、今回はこの店を信用することにした。モモ達は金額に対して少し残念そうな顔を残したが、俺達がいくら考えてもこの相場は分からない。スチールメイルの金額を考えれば大金貨3枚は妥当なところではないか、ということで話はまとまった。


「それでお願いするよ」


「やったー! 良かったわ♪」


 メリアは飛び跳ねた。


(…少しぐらいは交渉をした方が良かったか?)


 メリアの顔はにんまりとして、商人の顔になっていた。





 この後、俺達はギルドへ向かいクエストの報告を済ませると、冒険者ランクはEへと昇格を果たした。待望のランクアップではあったが、それでもまだEランクだ。新人から足が一歩前に出た程度なので、これからもクエストはこなしていかなければならない。


 報酬を受け取り俺達はギルドを後にする。


(次に何をやるかは、また皆と相談だな)


 残りの時間は装備を修理に出してから、ゆっくりと過ごすことにした。そして、無事にランクも上がったということで、俺達は2、3日、休みを取ることにした。




☆を付けていただけると嬉しいです。

ブックマーク登録もして頂きたいです。

やる気が出るのでよろしくお願いします!

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