84.新・連携魔法と諦めない心
ゴブリンアーチャーは鈍感なようで、俺達が騒がしくしていたにも拘らずに未だその場で眠たそうに欠伸をしながら佇んでいる。俺とモモは奴に向けて腕を伸ばし、魔力を高める。
「行くぞ!」
俺は小声ながらも、気合を乗せて合図を送った。タイミングなどの微調整は、モモが行う。そして、
【ウォーターカッター】
【ウィンドカッター】
先行して俺が魔法を放ち、即座にモモが続いた。水と風の刃が並走しながら混じり合い、まるで最初から一つだったかの様になる。
「ギャッ?」
『ズバン!』
振り向き首を傾げて声を漏らした奴は、低音と共に縦に真っ二つに切り裂かれて直ちに消滅した。
「すっごーい!」
「な、何、今の!?」
目を丸くさせたリリーは口元を押さえ、一歩踏み出したアイラは前のめりとなり驚嘆の声を上げた。俺はモモと見つめ合い、
「「イェーイ!」」
『パン!』
2人で勝ち鬨を上げてハイタッチを決めた。
「今のは、前の世界の知識を何かに利用できないかって、試してた時に思い付いたんだ。俺達が居た世界だと水でダイヤモンドを削るから、それと似たようなことが魔法でもできるんじゃないかってな。少し前から、モモと練習してたんだよ」
俺が簡単に説明するとリリーは首を傾げたが、アイラはなるほどと頷いた。
先程のウォーターカッターは水魔法の、ウィンドカッターは風魔法のレベルが12から使用できる。どちらも相手を切り裂く魔法だが、単発ではあれほどの威力は出ない。そこで利用したものが、連携魔法だ。
連携魔法は以前から使用しているが、ギルドの本で調べたところこの組み合わせは存在しなかった。しかし、その威力は申し分なく、現段階でこれなために将来はダイヤモンドすらスパスパと切れる可能性がある。これをこの世界で思い付かないと言うことは、物理の知識に関しては元の世界の方が優れているのかもしれない。
但し、この連携魔法というものには重大な欠点がある。それは、通常の魔法を使用する以上に手間が掛かるということだ。それを解決する手段がないわけではないが、今の俺達ではまだそれは行えなかった。
このあと、連戦とおかしな出来事で疲弊した俺達…、いや俺は、休憩を提案した。そのため、一度道沿いまで引き返すことにした。すると、俺達と同程度の装備を身に付けた冒険者達が、この地点を通り過ぎて奥に進んでいる。
「皆、奥に行くんだね」
「この辺は出入り口の近くだからか、ゴブリンが少なそうだしな」
俺の横に並んだリリーが、その光景を見ながら話をした。俺はそのまま返事を戻したが後方からは、
「ねえねえ、モモちゃん。私にも、さっきのあれを教えてよ」
「うん、いいよ。あれはね、お兄ちゃんと一つになるの」
「ええっ! も、モモちゃん…。もう合体しちゃったの!?」
「ん? 合体って何?」
「えっ、えっ、ええっ!?」
(墓穴を掘ったな。ざまあみろ)
アイラとモモの微妙に卑猥な会話が届いていた。俺は巻き込まれないために振り向かずに聞いていたが、どうやら無垢なモモがそれに気付かずに尋ねてアイラが返事に戸惑っているようだ。俺はほくそ笑み、隣のリリーは俯き加減で頬を真っ赤に染め上げていた。
アイラ達の会話が終わり休憩も済ませたところで、俺達は再び狩りを再開する。範囲を広げて索敵すると、三匹セットの奴らを見つける。ノーマルなタイプが二匹と、アーチャーが一匹だ。危険なアーチャーは初手に遠距離から魔法で倒し、残りの二匹に対しては俺が先行して注意を引き付け、その間に死角からモモ達が総攻撃を仕掛けて倒す。このように戦闘を行いながら、アイラのレベル上げは順調に進むことになった。
ちなみに、今回もドロップ品はそこそこ出ているが、それらは大した物ではなく壊れかけの武器や防具など、これは使えるのか? と思う物が殆どだ。それでも小遣いにはなるため、ストレージの空に仕舞えるだけ回収することにした。
こうして狩りを続けていると、夕日が眩しく見え始める。そのため、俺達は街に戻ることにし、道沿いに引き返して集合した。ここで、練習も兼ねて帰還のスクロールの使用することにする。帰還のスクロールは、使用者の中心から一定の範囲内のパーティーメンバーに効果を及ぼす。
他の冒険者達も、恐らく街に戻るのであろう。道沿いにまばらだが、集合し始めている。そんな中、俺はストレージからそれを取り出して準備を済ませた。
「忘れ物はないか?」
「「「大丈夫!」」」
念のために俺が尋ねると、瞳を輝かせている3人は大きく声を上げた。そのため、周囲からの視線がこちらに集まる。しかし、3人はそれを気にせず、これからの事態が楽しみといった様子だ。俺は皆の確認が取れたため、
(ついでに、あれの練習もしとくか)
そう考えて手にしたスクロールを手前に軽く放り投げ、続けて片腕を前に伸ばした。持ちながら使用するよりも、この方が何かと都合が良いためだ。そして、
【帰還:】
『ヒュルルン』
【アッ!】
「「「「「「「「「「ああっ!」」」」」」」」」」
【クアンシズ!!!】
スクロールを発動させるために俺が詠唱を始めたその時、爽やかなつむじ風が俺達を包み込みスクロールと共に上空に舞い上がった。俺の中途半端な言葉に続き、周囲の冒険者達が声を上げた。慌てた俺は上空に腕を突き伸ばしながら、残りを即座に詠唱した。しかし、それは共に舞い上がらず、その発動は不発に終わる。
「やるな、兄ちゃん達!」
「奇跡を起こしたか」
「そんな偶然、滅多に起きないんだぜ!」
「「「クスクスクス」」」
俺が悔しがる中、周囲から誹謗中傷が届いた。だがしかし、
(あれは、小金貨五枚だぞ! 風に飛ばされてたまるか!!)
【スキルマスター!!!】
そんなことよりもこのことの方が一大事だと判断した俺は諦めず、周囲の声を無視してスキルを発動させた。その効果で瞬時に魔力を自在に操り、
【ウィンドカッター!!!】
続けて再びスクロールに向けて腕を伸ばし、魔法を使用した。マスタークラスまで高められたそれはそよ風になり、スクロールを優しく包み込む。
(良し! 上手くいきそうだ!)
手応えを感じた俺はそのまま風を自在に操り、ひらひらとスクロールを手元に戻した。
「「「「「「「「「「おおおー!」」」」」」」」」」
『『『『『『『『『『パチパチパチ』』』』』』』』』』
「やるな、兄ちゃん達!」
「神が降臨したか」
「見直したぜ! ヒューヒュー!」
「「「偶然よ~」」」
周囲から歓声と共に喝采が沸き起こり、様々な感想も届いた。調子に乗った俺はその期待に応えるべく、
「やーやーやー! どうも、どうも!」
一歩前に出て手を振りながら声を上げた。
「あはっ。私達も手を振ろ!」
「モモちゃん…。は、恥ずかしいよ~」
「ありがとー!」
背後のモモもリリーに声を掛けながら2人で手を繋ぎ、前に出てその手を上に上げて左右に振る。頬を赤く染めたリリーはもじもじと呟いたが、モモはもう片方の手も上げて俺と同様に声を上げた。
「いいぞ、いいぞー!」
「もう一回、やってくれー!」
(もう一回か…。あんまりやるとスキルがバレそうだが…。ここは、応えないわけにはいかないよな!)
周囲のアンコールに対して、危険よりも場の空気を重視した俺は決意を固めたが次の瞬間、
『ドム!』
「グフッ」
脇腹に激痛が走り思わず声が漏れ出た。無言で俺の隣に立ったアイラが、そこにエルボーしたためだ。
「痛いだろ! 何すんだ!」
「恥ずかしいから早くして!」
鎧の凹んだ俺が怒ってそう伝えると、俯きながら耳まで真っ赤に染め上げているアイラは小声ながらも語気を強めてこちらに命令した。
(う~ん。アイラはノリが悪いな…。だが、いい機会だ。これを利用して、少し鍛えてみるか?)
俺は周囲を見渡しながら思考を巡らせ、再びアイラに視線を戻した。俯き加減のアイラは、上目遣いで鋭く目を光らせている。
(やばい。本気で怒ってるな…)
そう考えた俺は今回は大人しく諦め、スクロールを両手でしっかり掴みながら、
【帰還:アクアンシズ】
詠唱した。すると、俺達の体は光に包まれて視界を真っ白に奪われた次の瞬間、目の前の景色がアクアンシズのダンジョン前広場に変わっていた。
「う~ん。帰ってこれた~」
「リリー達も無事か?」
「う、うん!」
「…」
「でも、面白かったね!」
「ちょっと、恥ずかしかったけど…」
「…」
モモが、気持ち良さそうに背伸びを行いながら第一声を上げた。それを確認した俺は残りの2人に尋ね、俯いているリリーは言葉を詰まらせながらも顔を上げて笑顔で返事を戻した。未だに耳まで赤いアイラは、俯いたまま無言で体を小刻みに震わせている。そして、モモとリリーは楽し気に会話を始めたが、それでもアイラは無言のままだった。
(特に、問題は無いみたいだな。今回は投げるのを失敗したが、あの方がやっぱり色々と便利だよな。これからあれを使う時には、どんどん練習していこう!)
未来に希望を抱いた俺は、このあと二度とやるなとアイラにしつこく叱られて未来と希望を同時に奪われた。しかし、その程度では諦めない俺だった。
未来に希望を抱いた俺は、このあと二度とやるなとアイラにしつこく叱られ、
「ギャン!」
犬の悲鳴のような叫び声を上げて未来と希望を同時に奪われた。しかし、その程度では諦めない俺だった。
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